※本稿は山村聡『糖尿病専門ドクターが検証! 血糖値を下げる食事法について、実際に試してみた』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「ベジファースト」+「カーボラスト」はたしかに効果あり
食べ順といったとき、みなさんの頭にパッと思い浮かぶのは、「ベジファースト」でしょう。
そもそも、ベジファースト流行の発端となった最初の研究は、「食事の10分前に野菜を食べた場合と、主食(ごはん)を先に食べて10分後にほかの食事を食べた場合とで比較すると、野菜を先に食べたほうが血糖値の上がり方がゆるやかになることがわかった」といったものでした。この論文がきっかけとなって、世間では、「先に野菜を食べると、何か身体にいいらしい」とか、「ダイエットもできる」とか、「糖尿病にいい」とか、いろいろなことがいわれ始めました。
ベジファーストが一般的に大流行して、広く使われるようになったおかげで、現在では、食べ順の工夫というと、もっぱらベジファースト一辺倒になってしまつています。
しかし、食べ順の工夫は、とくにベジファーストでなくともよいとお考えください。
最も肝心なのは、血糖値を上昇させてしまう炭水化物(=糖質)を摂取するのを、できるだけ食事中の後ろに回すこと。
「カーボラスト」という言葉も使われています(図表1)。
■「カーボラスト」「三角食べ」、食べ方の順番で血糖値を比較
つまり、炭水化物(カーボ)を最後(ラスト)に食ベようということですね。
アメリカ・ニューヨークのウェイル・コーネル医科大学のカーボラストに関する研究を紹介しましょう。この研究では、3つの食事パターンを比べています。
・パターン1(カーボファースト):パンとオレンジジュースを食べ、10分後に鶏肉とサラダを食べる
・パターン2(カーボラスト):鶏肉とサラダを食べ、10分後にパンとオレンジジュースを食べる
・パターン3(三角食べ):鶏肉と野菜サラダ、パン、オレンジジュースをそれぞれ半分ずつ食べる。
図表2のグラフのように、この3者を比較したところ、炭水化物を最後に食べるパターン2(カーボラスト)では、血糖値の変動が非常にゆるやかで、急上昇も抑制されていると報告されています。たしかに、グラフのようにカーボラストがいちばん穏やかな変動になっています。
■野菜サラダでなくても、ナッツやゆで卵を先に食べてもいい
和食のコース料理のように考えるといいですね。コース料理は、前菜があって、肉や魚のメインがきて、最後はごはん(主食)、デザートとなります。ちゃんとカーボラストになっているのです。中華のコース料理でも、最後がごはん、ですね。伝統的な食べ方は、理に適っているといってもよいでしょう。
こうしたわけで、すすめられるのは、ベジファーストばかりではなく、カーボラスト。つまり、ナッツを食事前に食べておくナッツファーストや、たんぱく質(プロテイン)を先に食べておく、たんぱく質(プロテイン)ファーストもありということなのです。
ただ、一般的にいって、食事の10分前にサラダだけ先に食べて、じっと10分待ってから食事を食べ始めるというのは、あまり現実的ではないかもしれません。そうした点では、ナッツやゆで卵などのほうが「○○ファースト」として行うときには使い勝手がいいでしょう。
カーボラストを実践していくためには、無理なく続けられることが肝心です。なので、自分の嗜好に合ったもの、あるいは、そのときの状況に合ったものを選んでいくのがいいでしょう。
■「ベジファースト」は主食の直前がいいのか、15分前か?
ベジファーストは、すっかり多くのかたに知られるようになった食事法ですが、現在では、ベジファーストが一人歩きしているような印象もあります。
ベジファーストをただのダイエット法のように思い込んでいたり、「何か身体にいいらしい」といったふうに漠然と理解している人も多いようです。
ここでは、本来の意味に立ち返って、ベジファーストを行うと、実際に血糖値の上がり方によい影響を及ぼすかどうか、調べてみました。
検証は、2つの方法で行いました。
①野菜サラダを直前に食べ、すぐコンビニおにぎりを食べる
②まず野菜サラダを食べ、15分待ってから、コンビニおにぎりを食べる(本来のベジファーストに準じた食べ方)
野菜サラダは「ツナ&コーンサラダ」を採用。含まれる炭水化物量は6.6g(糖質4.0g)。ドレッシングに炭水化物5.1gを含みます。
コンビニおにぎりは「ツナマヨ」2個。炭水化物量は75.6g(糖質73.4g)です。
■血糖値の上げ幅や下がり方に大きな差はなかった
初期値が93mg/dL、ピーク値が175mg/dL(50分)、その上昇幅が82mg/dLとなっています。
次に、②の結果。初期値が106mg/dL、ピーク値が185mg/dL(50分)、上昇幅が79mg/dLでした。
すでに、コンビニおにぎりに2個については検証を行い、その検証例も第1回の記事で紹介しています。そのときのデータが、初期値が83mg/dL、ピーク値178mg/dL、上昇幅は95mg/dLです。
コンビニおにぎりを単体で食べたときは、まず、上昇幅で比べると、サラダと一緒に食べた場合より、コンビニおにぎり単体のほうが、10前後高くなっています。
野菜サラダを食べることによって、血糖値の上昇が、やはり、ある程度抑制されたということになるでしょう。
また、その上昇の度合いについても、15分前に食べた場合よりも直前にサラダを食べた場合のほうが、ピークまで急上昇しているようです。15分前にサラダを食べておくと、上昇の勢いが少しゆっくりになったように見えますね。
■サラダを先に食べたら、おにぎりをたくさん食べていい?
2例では、ともにピークを過ぎたのち、血糖値がすぐにスッと下がっています。その後の変化で、グラフ上では横ばいが続いているように見える部分があります(図表3)。
つまり、ここでは、「二峰性の変動」が起きているのです。この二峰性の変動に関して、15分前にサラダを食べていたほうが直前にサラダを食べた場合よりも、横ばい時間が若干短いように見えます。15分前のほうが先にスツと落ちています。こうした点からも、ベジファーストが血糖値のピークを下げることに貢献していると見てとることができるでしょう。
いうまでもありませんが、二峰性の変動が起きているということは、おにぎり2個というのは、1食で摂取する炭水化物量として多すぎることを示しています。サラダを先に食べたからといって、おにぎりをたくさん食べていいということにはならないので、その点もお忘れなく。
■あまり知られていない「ナッツファースト」の実験結果
先ほど言及したナッツファーストは、ベジファーストと同じくらい有効なのでしょうか。そうめん(2束くらい、炭水化物51.6g)だけを食べた場合と、ナッツを15分前に食べ、それからそうめんを食べた場合とで検証してみました(図表4)。
そうめんのみの場合、初期値が94mg/dL、ピークが185mg/dL(100分)。上昇幅は91。
ナッツを15分前に食べてから、そうめんを食べた場合、初期値が102mg/dL、ピーク値は169mg/dL、(90分)。
そうめんも炭水化物なので、血糖値をかなり上げてしまうことになりますが、上昇の度合いは比較的ゆっくりでピークも遅めです。その理由は、そうめんは、あまり噛まずに飲み込むため消化に時間がかかるからと考えられます。
ナッツのほうは、さらに上昇度合いがゆっくりとなり、ピーク値も下がっています。その上昇幅の差が24mg/dLもありました。たしかに、ナッツファーストでも、血糖値の上昇が明らかに抑えられたことが示されました。ナッツファーストは、血糖値の上昇抑制にしっかり役立ちそうです。
■「プロテインファースト」は意外な結果になった
食事の15分前にプロテインをとってから、カップ焼きそばを食べると、血糖値の上昇が抑えられるかどうか、検証してみました(図表5)。
プロテイン(たんぱく質15.0g、炭水化物10.6g)を飲んでから、カップ焼きそば(炭水化物64.9g)を食べます。
初期値は112mg/dL。食後、血糖値は急上昇し、ピークが167mg/dL(50分)。上昇幅は55mg/dLとなりました。
以前、同じカップ焼きそば単体で検証したことがあります。そのデータは、初期値が102mg/dL、ピークが209mg/dL、上昇幅が107mg/dLでした。
想定していた以上にプロテインがいい仕事をしている、といっていいのではないでしょうか。上昇幅が50以上減っています。食前にたんぱく質を食べておくと、その後の食事の血糖値上昇をベジファースト同様に下げてくれそうですね。
ベジファースト、ナッツファースト、プロテイン(たんぱく質)ファーストはそれぞれ効果ありでした。炭水化物を食事の終わりに持ってくるカーボラストなら、どのパターンでもよさそうです。そうなれば食事の選択の幅も広がりますね。
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山村 聡(やまむら・そう)
糖尿病内科医
九州大学医学部卒業後、研修医を経て昭和大学糖尿病内科に入局。糖尿病をはじめとする生活習慣病、内分泌疾患の診療に従事する。その後、フリーランスの内科医となり、2018年にYouTubeで「やさしい内科医のY’s TV」を開設。現在は8万人のチャンネル登録者を獲得する(2025年2月現在)。2024年には、やさしい内科クリニックを開業する。
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(糖尿病内科医 山村 聡)