※本稿は山村聡『糖尿病専門ドクターが検証! 血糖値を下げる食事法について、実際に試してみた』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■蒸留酒のハイボールvs.醸造酒の日本酒、血糖値が上がるのは?
蒸留酒と醸造酒では、どちらが血糖値を引き上げるのでしょうか。
「醸造酒」は穀類や果実などを発酵させてつくるお酒、「蒸留酒」はその醸造酒を蒸留して造ったお酒になります。
醸造酒には、ビール、ワイン、日本酒などがあり、蒸留酒には、ウイスキー、焼酎、ブランデーなどがあります。
ハイボールと日本酒で検証してみました。なお、ハイボールは、ウイスキーを炭酸水で割ったカクテルの一種。蒸留酒の代表として登場です。
まずは、ハイボールです。
初期値が101mg/dLで、その後の血糖が上がることはほとんどなく、血糖値はほぼ横ばいという結果になりました。
一方、醸造酒の代表の日本酒は、初期値が107mg/dLで、飲むと血糖値がスルスルと上昇し、ピークは162mg/dLになりました。上昇幅は55mg/dLです。
ご存じのかたも多いでしょうが、蒸留酒は製造の際、蒸留というプロセスを経ているため、できあがったアルコール中には糖質が一切入っていません。
■蒸留酒には糖質がほぼないのでハイボールの圧勝だが…
一方、日本酒は米からできており、炭水化物(=糖質)を含むため、グラフ(図表1)を見ていただけばわかるように、血糖値を上昇させてしまいます。ハイボールか、日本酒かという対決であれば、血糖値の上昇に関しては、ハイボールの圧勝ということになります。
なお、みなさんの中には、醸造酒が血糖値を大きく上げてしまうようなイメージをお持ちのかたも多いでしょう。
しかし、実際のところは、醸造酒に含まれる糖質量は、ほかの糖質量多めの食品に比べると、それほど多くありません。このため、醸造酒を飲むと多少血糖値が上昇するものの、思ったほど大きくは上がらないのです。
■日本酒でも少しならOK、むしろ「おつまみ」に注意
今回の実験では、空腹時に日本酒を飲んだこと、飲んだ日本酒がおいしく、多量に飲んでしまったため、キュッと血糖値が上がってしまっていますが、それでも上昇幅はそれほど大きいものではありませんでした。そうした点から、醸造酒の場合も1~2杯飲む程度なら、血糖値のことはそれほど気にしなくてもよいでしょう。
それよりも、お酒の場合、とくに注意しなければならないのは、お酒と一緒に食べるおつまみなど。お酒自体よりも、一緒に食べているおつまみによって、大幅な血糖値の上昇が引き起こされてしまうケースがずっと多いのです。
そこで、おつまみを炭水化物の多い食材ではなく、刺身や野菜などに置き換えてみましょう。糖質が少ない枝豆もおすすめです。
また、日本酒好きのかたは、最初から日本酒を飲まないように心がけてみてください。まずは、ハイボールや甘くない焼酎などから始めるのがいいですね。
加えて、ベジファースト、ナッツファーストなどで、先に野菜やナッツ類などを食べておくと、そのあと日本酒を飲んでも、血糖値が上がりにくくなります。
■シュワっと爽快なビールvs.レモンサワーでは?
続いても、お酒対決です。ビールvs.レモンサワーでは、どちらが血糖値を上げてしまうのでしょうか。
レモンサワーを自分で作る場合は、焼酎にレモン果汁とレモンを加え、炭酸水を注いで混ぜればできあがりです。
焼酎は蒸留酒であるため、含まれている糖質はゼロ。これに対して、ビールは醸造酒ですから、ある程度糖質を含みます。
と考えると、レモンサワーよりも、ビールのほうが血糖値が上がりそうなものですが、ここでのポイントは、検証ではレモンサワーに市販品の缶入りレモンサワー(350ml)を使用した点です。
実際の検証結果を見てみましょう(図表2)。
まずは、ビールです。
初期値は、82mg/dLで、飲むとジワジワと上昇し、40分後にピークの111mg/dLを記録しました。その上昇幅は29mg/dLです。
続いて、レモンサワー。
初期値は95mg/dL。40分後がピークで139mg/dLまで達しました。ビールに比べると、血糖値は急上昇したといってよいでしょう。上昇幅は44mg/dLとなっています。ひょっとすると、意外に思ったかたもいらっしゃるかもしれません。
醸造酒は、糖質ゼロの蒸留酒と比べて、糖質を含むため血糖値が上がりやすいイメージがありますが、前項の日本酒のところでもお話しした通り、それほど血糖値は上がらないのです。
■麦の醸造酒であるビールだが、それほど血糖値は上がらない
それは、そもそもお酒に含まれる糖質量が多くないためです。今回のビール(500ml)に含まれる糖質量は13gですから、含有量はかなり少なめといってよく、ですから、血糖値も多少上がったかな? という程度にとどまっています。
これに対して、レモンサワーの場合、初期値の95mg/dLから40mg/dL以上、およそ1食分に相当するくらいの血糖値が上昇しています。
糖質ゼロの焼酎なのに、なぜ、これだけ血糖値が上昇してしまうかといえば、その原因は、レモンサワーに含まれる果糖ブドウ糖液糖ということになります。
果糖ブドウ糖液糖は、トウモロコシやじゃがいも、さつまいもなどを原料とした甘味料の一種です。サワーなどの酒類や、ジュースやコーラなどの清涼飲料水、菓子類などに甘味料として使われています。果糖ブドウ糖液糖は、吸収が非常にスムーズな糖質であり、血糖値を急上昇させてしまうのです。
果糖ブドウ糖液糖を含んだレモンサワーは、むしろ甘いジュースと考えたほうがいいのですね。ほかに梅酒などもあげられます。果実酒を作る過程で氷砂糖が入っているので、血糖値をかなり上げてしまうおそれがあります。また、黒ビールやクラフトビールの中には糖質量が多いものもあり、注意が必要です。
このように、お酒によってほとんど血糖値を上げないものもあれば、レモンサワーのように上げてしまうものもあります。とくに甘みの強いお酒に関しては、内容量をよく確認してから選ぶことをおすすめします。
■赤ワインと白ワインでは、血糖値に違いが出るか?
お酒対決の第三弾です。さっそく、検証結果を見てみましょう(図表3)。
赤ワインの初期値は94mg/dL、その後、血糖値が大きく上昇することはなく、ほぼ横ばいで推移しました。白ワインの初期値は98mg/dL。白ワインも、赤ワインと同様、血糖値が急上昇するようなことはなく、ピークなしのほぼ横ばいでした。
赤も、白も、ほとんど重なるような変動グラフとなっています。赤も白も同じ醸造酒ですが、血糖値の上昇はほぼ起こっていません。その理由は各ワインに含まれる糖質が少ないから。赤ワインが1.9g、白ワインが2.6g。この程度の糖質量だと、血糖値の上昇が引き起こされないのです。
なお、シャンパンやデザートワインなど糖質を多めに含んだ、甘めのワインなどになると、多少、血糖値が上がりやすくなるものもあります。
いずれにしても、醸造酒、蒸留酒の種別に関係なく、含まれている糖質量が少ないアルコールは血糖値を大きく変動させません。先にも触れた通り、一緒に食べるおつまみなどによって血糖値が変動しますので、アルコールと一緒に何を食べるかが重要ということになります。
■「お酒を飲むと血糖値は下がりやすくなる」のはなぜか?
さて、みなさん、赤ワインと白ワインの血糖値の変動のグラフを見て、何かお気づきなったことはないでしょうか。
実は、お酒を飲むと血糖値は下がりやすくなるのです。このことには肝臓が密接に関与しています。われわれの血糖値は、肝臓によってコントロールされています。
血液中の糖は、食べ物から吸収された糖分と、肝臓から供給される糖を加えたもので成り立っています。血中の糖が不足すると、肝臓にグリコーゲンとして蓄えられていた糖が血液中に放出され、足りない分を補います。
ところが、お酒を飲むと、お酒は身体にとって毒物なので、肝臓はお酒を解毒するのに忙しくなります。すると、肝臓から血液中への糖の供給が疎(おろそ)かになり、その結果として、血液中の糖が不足し、血糖値が下がることになるのです。こうして血糖値の低下が起こると、身体はそれをエネルギー不足と受け止めます。身体が飢餓状態に陥っているわけですから、とたんに空腹を感じるようになるのです。
■お酒と一緒に何をどれだけ食べるかのほうが問題
たくさんお酒を飲んだあと、締めのラーメンやスイーツを食べたくなるのには、こうした理由があります。飲みすぎによって生じた低血糖を解消しようという、文字通り身体の生理的な欲求なので、なかなか締めのラーメンをガマンできないのですね。いいかえれば、締めのラーメン、締めのスイーツが欲しくなるのは、あなたが飲みすぎているという証拠。締めのラーメンを避けるには、飲みすぎないことです。
あるいは、体重が増えるおそれがありますが、酒席の後半で少し糖質をとっておくと(少量のデザートを食べるなど)、締めのラーメンに行かなくてすむかもしれません。
お酒を飲むと、血糖値が上がらないと聞いて喜んでいるあなた、結果として酒量が上がれば、肝臓の負担が増え、肥満や脂肪肝になりやすくなりますから、身体に悪いことのほうが多いのです。そのへんを忘れないでくださいね。
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山村 聡(やまむら・そう)
糖尿病内科医
九州大学医学部卒業後、研修医を経て昭和大学糖尿病内科に入局。糖尿病をはじめとする生活習慣病、内分泌疾患の診療に従事する。その後、フリーランスの内科医となり、2018年にYouTubeで「やさしい内科医のY’s TV」を開設。現在は8万人のチャンネル登録者を獲得する(2025年2月現在)。2024年には、やさしい内科クリニックを開業する。
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(糖尿病内科医 山村 聡)