中学受験生の夏休みは忙しい。勉強量で潰れないためにはどうすればいいのか。
プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんは「宿題は必ず取捨選択をしよう。6年生の場合は、オプション講座を受講しないという選択が功をなすケースが多い」という――。
■夏期講習に起きている変化
もうすぐ夏休みがやってくる。小学生の子供たちにとっては「遊び三昧の日々!」……というのは、かつての話。今や首都圏では5人に1人が中学受験をする時代。夏休みは塾通いで終わってしまう子も少なくない。
夏休みになると、各塾では夏期講習が実施される。夏期講習の対策については、これまでいろいろなところで伝えてきたが、数年前から変化が出てきている。首都圏の大手中学受験塾といえば、SAPIX、四谷大塚、早稲田アカデミー、日能研の四大塾が挙がるが、以前は予習型のSAPIX、復習型の日能研、予習・復習の折衷型の四谷大塚と早稲田アカデミーというように、3つに分類されていた。
予習型というのは、夏期講習の間も次々と新しい単元を学習し、9月以降も先へ先へとどんどん進む塾。復習型というのは、夏期講習中はこれまでに習った単元の復習に徹し、新しい単元は扱わない塾。折衷型は復習を中心に行いながら、一部新しい単元にも触れる塾。
ただし、新しい単元は9月の授業でもう一度学習をする。
そして、私は「予習型のSAPIXは参加必須だが、復習型と折衷型の3塾については、4・5年生は参加の取捨選択をしたほうがいい」と言い続けてきた。すでに基礎ができている子なら、その期間は一部の苦手単元や理科社会の学習に充てたほうが効果は高いからだ。
■四谷大塚と早稲田アカデミーが「予習型」に近づいている
ところが、4年前に四谷大塚と早稲田アカデミーのメインテキストである「予習シリーズ」が大改訂をしてから、その内容が極端に難化し、進度も速くなった。そのため、もはや四谷大塚と早稲田アカデミーは折衷型の塾とは言い難くなってきているのだ。現時点でも復習分野はあるものの、新しい単元が多く含まれていて、しかも夏期講習中に習ったものは9月以降に復習せず、そのまま先へ進むという予習型のSAPIXに近い進度になってきているのだ。
新しい単元の学習をしつつ、それまでの復習もしなければならない。そのため、以前よりも学習量が大幅に増え、ハードな内容に変わっている。以前のイメージのままでいくと、大混乱に陥るので注意が必要だ。「受講しない」という選択肢はほぼないと思っておいたほうがいいだろう。
また、すべてを全力で頑張らせようとすると、子供がもたなくなる。事前にカリキュラムを見ておき、「今日はこの教科を重点的に頑張ろう」「算数のこの単元は重要単元だから、ここはしっかり時間をとって復習しよう」など、カリキュラムに応じて勉強量を増やしたり減らしたりとメリハリをつけることをすすめる。
小4の算数では「小数と分数」、小5の算数では「比」が全員にとっての重要単元になる。大事なのはここで、できるだけ苦手単元を作らないことだ。
■6年生は「目の前の一問に集中する姿勢」が大事
6年生になると、どの塾でもアウトプットの練習がスタートするので、よほど基礎ができていない子を除き、受講することをすすめる。6年生の夏期講習は、演習と解説という構成になる。10~15分の間に、2~3問を解くように課され、その後に講師による解説が行われる。
しかし、制限時間内にすべての問題が解き終わる子は少ない。そこで、まずどの問題を解くか取捨選択し、選んだ問題は「絶対に正解させてみるぞ!」という強い気持ちを持って、目の前の一問に集中することだ。ここでなんとなく問題に向かい、できなかったら後で先生の解説を聞けばいいや、と思ってはいけない。
6年生の夏期講習は入試本番のリハーサルだと思って取り組む。問題を取捨選択する力、解ける問題またはなんとか解けそうな問題は必ず正解し、得点力を上げていくというやり方。これらは、入試に勝つために必要なスキルであり、その練習をしていると思ってやってみる。実際はまだ解けない問題の方が多いかもしれないが、その姿勢とマインドを忘れないことだ。
受け身の姿勢で解説を聞くだけでは意味がないということをぜひ知っておいてほしい。
■お盆後のオプション講座は「受けない選択」が賢明
夏期講習が終わると、6年生はお盆の数日間だけ、束の間の休みを挟み、それ以降はまた各塾で4~5日程度のオプション講座が用意されている。ただ、このオプション講座については、受講しないという選択が功をなすケースが多い。
夏期講習中は毎日の宿題(講習で学習したもの)に加え、夏休み中に取り組まなければいけない課題(SAPIXなら過去問題集など)もたくさんある。優先すべきは講習中の宿題だが、それだけでも多いので、夏休みの課題まで手が出ないことが多い。また、夏期講習中はとにかく毎日をこなすことだけで精一杯となり、じっくり復習をしたり、まとめたりする時間がない。そのため、知識や解法が曖昧なままという状態が続く。
この状態のまま夏休み明けのテストを受けると、この夏あんなに頑張って勉強したのに、成績が下がるという残念な結果をもたらすことになる。だからこそ、ここで「オプション講座は受けない」という選択をして、夏期講習の復習の時間に充てることをすすめる。
■理科・社会を勉強する時間も確保してほしい
また、夏期講習中は算数の勉強がどうしても優先的になりがちで、暗記科目と言われる理科・社会の勉強は後回しになる。しかし、6年生はこの先ますます忙しくなり、これらの暗記に時間が取れなくなる。また、理科・社会は暗記でなんとか乗り越えられると思われているが、近年の中学入試では単に名称や年号を答えるだけの一問一答形式の問題はほとんど見当たらない。
なぜそうなるのか、なぜそうなったのかといった現象や原因などの因果関係を聞かれる問題が増え、ただ丸暗記するのでは立ちゆかなくなっている。
だからこそ、きちんと頭の中を整理する時間が必要なのだ。テキストをパラパラと見るだけでなく、例えば社会なら名称は漢字で書けるようにしておく、歴史は流れをつかむために年表にしておく、といったように「書いて覚える」作業の時間を一日30分でもいいから確保してほしい。
みんなが受講するのに、うちの子だけ受けさせないというのは勇気のいる選択かもしれない。しかし、この数日をどのように過ごすかによって、その後の伸びが変わってくる。
■「◯△×」仕分けで勉強量を調整する
6年生の夏休みは、大人の私から見ても、非常にハードだ。先ほど、夏期講習中は講習の宿題を優先してやるべきとお伝えしたが、これをすべてやろうとしたらパンクする。アタフタ学習が習慣化し、ミスを連発する状態だ。宿題は必ず、取捨選択をしよう。
私がよくすすめているのは「○△×」仕分けだ。授業中に十分理解できているものには○、あと少し頑張ればできそうなものには△、まったくお手上げというものには×印をつけておき、家ではあと少し頑張ればできそうな△の問題だけをやる。子供だけで判断するのが難しそうなら、親が手伝ってあげるといい。
親でも判断が難しければ、塾の先生にアドバイスをもらおう。大事なのは、勉強量で子供を潰さないことだ。
受験の天王山と言われる夏休み。塾でも、「この夏が勝負だぞ」と散々言われるに違いない。だが、その言葉を聞いて、「よし、やるぞ!」と気持ちを奮い立たせられる子はそうそういない。4年生から塾通いが始まり、学年が上がるにつれ徐々に自由が利かなくなり、「今までだったら遊べたのになぁ~。でも、今年の夏はぜんぜん遊べないのか……」とむしろがっかりしているのが、普通の小学生だ。それでも受験という大きな目標のために頑張らなければいけないことは、みんな頭では分かっている。でも、それは「勉強をやらないとお母さんに怒られるから」といった義務感が大半を占めている。
■「頑張れ!」よりも「毎日頑張っているね」
だからこそ、日々頑張って机に向かっている子供には、励ましの言葉が必要なのだ。大人からすれば、「受験生なのだから、勉強するのが当たり前」かもしれないが、子供からしたら、遊びたいのを我慢して、一生懸命頑張っているのだ。この状態は決して、「当たり前」ではない。
今すでに頑張っている子供に「頑張れ!」とさらに発破をかけるのではなく、「毎日頑張っているね」と子供の頑張りを認め、労ってあげてほしい。そして少しでも成長が見えたら、そこをいっぱい誉めてあげよう。
夏休みが終わると、いよいよ6年生は過去問対策がスタートし、入試本番までのカウントダウンが始まる。途中で燃え尽きないためにも、適切な勉強のやり方を身に付けることが大切だ。入試に戦略があるように、受験勉強にも効果的なやり方があることをぜひ知っておいてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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