■雇用保険への“勘違い”や“思い込み”
夫の給料だけでは生活に不安があるので働きに出るというパート主婦が増えています。中には、夫の扶養枠から出ないように労働時間を調整しながら働く女性もいるでしょう。
そうしたパート主婦の中には、自身が「正社員」ではないという理由から、「辞めても失業保険は出ない」「パートだから有給休暇なんてない」と思い込んでいる人は意外と多いようです。パートでも失業手当を受給できたり有給休暇を取ることは可能です。「パートだから……」と思い込んでいる人は、まずは雇用保険とは何かを理解しておくといいでしょう。
雇用保険とは、年収にかかわらない労働者全体のための制度で、労働者が失業した際などに救済をするための保険です。また、雇用保険に「扶養」という概念はありません。雇用主には、会社の業種や事業規模にかかわらず、一定の条件に当てはまる従業員が一人でもいるならば、本人の意思とは関係なく雇用保険への加入が定められ、労働保険料の納付、雇用保険法の規定による各種の届出など法律で義務付けられています。
雇用保険に加入する(被保険者になる)条件は、「週20時間以上の所定労働時間があり、雇用期間に定めのない人や31日以上の雇用期間が見込める者」と決められていますから、週20時間働き、31日以上継続して雇用されている(昼間部の学生以外)人は、すべて加入対象者となります。週20時間以上働いても、勤務先との契約期間が30日以内の短期の人は対象になりません。
まずは、雇用保険加入の最大のメリットの1つ、失業手当(保険)から見てみましょう。
■「扶養範囲内」と「雇用保険加入」は別もの
実は、扶養の範囲内で働くことと、雇用保険の加入は別問題です。「夫の扶養だし、パートだから仕事を辞めても失業手当は出ないよね」と思っている人は、ご自分の働いている条件をぜひ確認してください。
週20時間以上働いていて、引き続き31日以上雇われることがはっきりしているなどの一定条件を満たせば、主婦であろうが、学生(昼間部以外)であろうが、雇用保険に加入しなくてはいけないことになっていますから、今の会社を辞めて新しい仕事を探す時には、失業手当をもらいながら転職先を探すことができます。雇用保険に加入していると、失業した場合や収入が減った時には、給付を受けることができるので、加入するメリットは大きいのではないでしょうか。
複数の勤務先でパートを掛け持ちして働いている人は、所定労働時間は合算されません。加入の有無は1つの勤務先での労働条件で判断されますから、各勤務先で週20時間以下であれば、雇用保険には加入できません。もし、雇用保険に加入したくない場合は、複数で掛け持ちパートをして、いずれの仕事も週20時間以下に抑えることが必要です。
自分が雇用保険に加入しているかどうかについては、毎月の給与明細を確認して保険料が天引きされているか、また、直接働いている事業所に問い合わせるといいですが、ハローワークなどで調べることもできます。
■パート従業員の失業手当はいくらもらえるか
失業手当は、雇用保険の加入者であること、さらに離職の日以前2年間に12カ月以上雇用保険に入っていて、(特定受給資格者などは離職の日以前1年6カ月以上)働く意思と能力があればもらえます。
ただし、同じ働き方をしていても学生(昼間部)や顧問など対象にならない人もいます。
失業手当は、自分の都合で退職した場合と、会社の都合で辞めた場合では、もらえるまでの待機時間やもらえる額が違います。
会社都合で辞めざるを得ない場合には、ハローワークで求職を申し込んで7日間の待機期間後、給付対象となります。自己都合で辞めた人は、これにさらに1カ月の待機期間が追加されます(2025年4月より)。
自分の理由で辞めた場合は、保険に入っていた期間が1年以上10年未満だと90日支給され、10年以上20年未満だと120日、20年以上だと150日支給されます。
失業手当の支給額は、給料が平均して月額15万円程度の場合は、月額11万円程度。月額20万円程度の場合は、月額13万5000円程度(離職時の年齢が60歳以上65歳未満の方は月額13万円程度)。平均して月額30万円程度の場合支給額は月額16万5000円程度(離職時の年齢が60歳以上65歳未満の方は月額13万5000円程度)となります。およその計算式は、(離職前6カ月の給与の総支給額の合計÷180)×給付率で出ます。なお、給付率は、離職時の年齢、賃金により、45%~80%になります。
たとえば、ファミレスで4年働いていて自己都合で辞めた場合、時給1200円で1日5時間、週4日働いていたら給付日数は90日なので、次の仕事がみつかるまでですが最大23万400円を受け取ることができます。同じく自己都合で勤続12年、時給1500円で1日4時間、週5日間働いていたら日数は120日なので、最大38万4000円を受け取れます。
詳しくは、最寄りのハローワークで聞いてみてください。
■パートでも雇用保険に加入なら有給休暇を取得できる
次に有給休暇を見てみましょう。
有給休暇の取得は労働者の権利であり、雇用主はそれを拒否することはできないと定められています。もちろん、これは雇用保険の加入が義務づけられているパート従業員に対しても同じです。パートでも、(1)雇い入れの日から6カ月経過していること、(2)その期間の全労働日の8割以上出勤した、という2つの条件を満たしていれば、10日の有給休暇を取ることができます。また、勤めている期間が長くなるほど、使える有給休暇は図表3のように増えていきます。
また、図表4のように、働く日数が少ないパートでも、一定の条件を満たせば有給休暇は取れます。
労働基準法では、年間10日以上有給休暇が取れる人に対して、雇い主は最低でも年間5日は有給休暇を取らせることが義務付けられています。これに違反すると労働基準法第39条7項で、30万円以下の罰金が適用される可能性があります。
これを知らない雇用主も多くいるので、10日以上の有給休暇が取得できる対象であるなら、雇用主に罰金が課されないように、教えてあげたほうがいいかもしれません。もし雇用主が「パート従業員は対象ではない」と主張するのであれば、ハローワーク(※)に相談してみるといいでしょう。
※雇用保険や雇用に関する相談は、労働基準監督署ではなく「ハローワーク」が管轄です。
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荻原 博子(おぎわら・ひろこ)
経済ジャーナリスト
1954年、長野県生まれ。
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(経済ジャーナリスト 荻原 博子)