キャリアアップを目指すうえで、どのような資格を取ったらいいのか。NIコンサルティング代表の長尾一洋さんは「日本企業の99.7%、働く人の7割が中小企業である。
だからこそ学歴に自信がない人や、勉強に力を入れてこなかった人こそ、経営コンサルティング分野における唯一の国家資格、中小企業診断士を取るべきだ」という――。
※本稿は、長尾一洋『中小企業診断士になって「年収1億」稼ぐ方法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■経営コンサル分野における唯一の国家資格
中小企業診断士は、経営コンサルティング分野における唯一の国家資格です。中小企業診断士資格の参考書や通信教育、学校などの謳い文句には必ずと言っていいほどこの言葉が書かれています。
確かに、その表現は間違ってはいないのですが、実際のところ、この資格がなければ業務ができないという独占業務はなく、むしろ検定に近い性格があると考えた方が良いでしょう。
資格:特定の業務を行うために必須とされる要件を有していることを証明するもの

検定:ある分野において一定の知識や能力があることを認定するもの
どちらも、第三者が知識や能力を評価して認定する点では似ています。しかし、検定はその分野の能力があることを示すだけなのに対し、資格には資格保有者でなければ有償で業務を行えないという制限がついています。
中小企業診断士は、「業務独占」資格ではなく「名称独占」資格と言われます。つまり、資格がなければ中小企業診断士と名乗ってはいけません。資格を取得すれば、「中小企業診断士の○○です」と名乗ることができ、名刺にもその資格を記載できます。一方、「英検2級の○○です」や「漢字検定1級の○○です」と名乗る人はいません。
■5年ごとに資格の更新義務がある
このように、中小企業診断士は検定とは異なるのですが、一般的な資格のイメージとも違うのが実態です。

また、経営コンサルティング分野における唯一の国家資格と言っても、そもそも経営コンサルタントと名乗ることに特に資格が必要ないので、中小企業診断士と名乗らず「経営コンサルタントです」と名乗れば何の問題もないという、なんとも悩ましい話になってしまうわけです。
私はすでに述べたように、中小企業診断士は資格よりも検定に近いものだと考えています。つまり、独占業務を求めず、検定効果を最大限に活用すればいいのです。世の中には経営コンサルタントだけでなく、○○コンサルタントと名乗る人が多く存在します。ちょっと人にアドバイスをするような仕事だと「○○コンサルタント」と名称をつけたりします。
しかし、中小企業診断士は違います。きちんと試験に合格して経済産業大臣に認定、登録され、さらに毎年研修を受けて、5年ごとに資格の更新が義務付けられる厳格な制度があります。
■資格がなくても実力がある人もいるが
私は40年近く経営コンサルティング業界で仕事をしていますから、中小企業診断士の資格もないのに経営コンサルタントと名乗る人を何人も見てきました。
「中小企業診断士は取らないのですか?」と聞くと、だいたい「取ろうと思えば取れるけど、なくても問題ないからね」と言い訳をされるのです。もちろん、資格がなくても十分な実力がある人もいますが、中には試験を受けても合格できない人も結構います。
実際、私自身、そのような自称経営コンサルタントを社員として採用した経験があります。中途採用の際、独立して経営コンサルタントをしていた人や他の経営コンサルティング会社出身の人が応募してきますが、その時点で独立した事業を成り立たせるだけの実力があるのか、疑問に感じることもしばしばでした。
即戦力を期待して採用したものの、実力に疑問符が付くケースも多々ありました。
■コンサル経験者でも「受けた方がいい」理由
私の会社では中小企業診断士の資格取得を積極的に奨励しており、コンサル経験者にも試験を受けるよう促しています。「今さら中小企業診断士なんて」と抵抗する人もいますが、中には観念して受験する人もいます。案の定、落ちたりするのです。
話はそれますが、詐欺事件の犯人として自称経営コンサルタントがよく挙げられる一方、中小企業診断士は国の試験に合格し、一定の知識と能力を証明できる資格です。合格すれば、全員が一律に優秀だというわけではありませんが、医師、弁護士、税理士、公認会計士などと同様に、有資格者の中にも優劣があるのは当然です。
つまり、中小企業診断士に合格すれば、「食えるか食えないか」といった議論に終始するのではなく、企業経営に関する一定の知識を持っていることを証明する一種の免許証として、その能力検定機能を有効活用すれば良いのです。
私の会社では、中小企業診断士資格を、経営コンサルティングにおける教育機能、能力検定機能、知識量可視化機能として活用しています。
弊社には専任の社員教育部署はありませんが、経営コンサルティングを事業とする以上、社員には十分な経営知識を身につけさせる必要があります。そこで、中小企業診断士という国家資格を活用して、外部の資格学校や通信教育、参考書などにより、社内の教育機能を補完しています。
■社員の能力をより厳正に判断できる
全国の主要都市には資格学校があり、時代の変化に合わせてコンテンツの改訂も行っているため、社内で一から教育プログラムやテキスト、講師を用意する手間やコストを大幅に削減できます。また、社員が通学や通信教育を受ける際には、その費用の一部を補助する制度も整えています。

その結果、社員が経営コンサルタントとして必要な力を身につけたかどうかは中小企業診断士の試験という厳正な能力検定で判断できます。多くの経営コンサルティング会社では、社内独自の基準で、「ジュニアコンサルタント」や「シニアコンサルタント」といった社内資格を与えることがありますが、これらは企業内部でのお手盛りになりがちです。
実力が多少不足していても、早く上位のポジションに認定し、クライアントに送り込んだ方が、単価が上がるという面もあるのです。一方、国家資格である中小企業診断士は、一次試験、二次試験に合格し、実務補習を経て登録されるため、内部でのごまかしはできません。
実際に合格すれば、弊社では合格祝い金として100万円が支給されます(ただし、退職によるコストの無駄を防ぐため、毎年25万円ずつ、4年間の分割払い)。
■クライアントからの信頼もアップ
これにより、教育費を抑えながらも、厳正な能力検定が実現され、非常に合理的な制度だといえます。
さらに、社員は名刺に「中小企業診断士」と表記できます。これにより、クライアントに対して「この社員は、経営コンサルティングに必要な知識を持っており、国が認めた資格を保有している」というメッセージを発信できるのです。
人の頭の中にどれだけの知識があるかは目に見えませんが、この国家資格の表記が知識量の可視化、すなわち信頼の証として機能します。こうした取り組みにより、弊社は中小企業診断士の持つ能力検定機能を有効に活用し、質の高い経営コンサルタントの育成とクライアントからの信頼獲得に努めています。
■学歴に自信がないなら受けるべき
これから中小企業診断士にチャレンジしようと考えている方における、この資格の価値について考えてみましょう。
学歴は必ずしもその人の実力を示すものではありませんが、実際、経営コンサルタントとして仕事をする際には、プロフィールに学歴を記載することもあります。
その他の職種でも、学歴が就職先やキャリアに影響を与えることは否定できません。ですが、学歴だけで「負け」が決まってしまうのは避けたいと思っています。
そんな中、学歴に自信がないと感じる人や、これまで勉強に力を入れてこなかった人にこそ、中小企業診断士資格はおすすめです。この資格は、きちんと勉強して知識を身につければ、いつでもその実力を証明できる「能力検定」としての効果があります。つまり、教科書に書いてあることを覚えてアウトプットできる能力があれば、その証明ができる最適な国家資格なのです。
■99.7%の日本企業から重宝される
特に、企業経営や起業に興味があるなら、中小企業診断士一択です。何しろ経営コンサルティング分野で唯一の国家資格ですから。
また、この資格は法的根拠に基づき、日本の中小企業支援や中小企業を元気にすることを目的とした資格です。日本企業の99.7%、働く人の7割が中小企業であり、こうした企業のお役に立ちたいという気概が必要です。
もし、小中高での勉強に力を入れなかったり、大学受験も適当に済ませた結果、今の仕事が中途半端だと感じているのであれば、一念発起してぜひ中小企業診断士にチャレンジしてみてください。
国家資格としての信頼が、あなたの実力をしっかりと裏付けてくれるはずです。

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長尾 一洋(ながお・かずひろ)

NIコンサルティング代表

1965年、広島市生まれ。
1991年、NIコンサルティングを設立。『孫子』の講座やセミナー講師を多数務める。『必勝の営業術55のポイント』(中央経済社)、『小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法 経営戦略』(明日香出版社)、『まんがで身につく孫子の兵法』(あさ出版)、『営業の見える化』(KADOKAWA)など著書多数。

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(NIコンサルティング代表 長尾 一洋)
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