■16~25歳のZ世代は子どもの頃からスマホを使ってきた
Z世代とは2025年時点で16歳から25歳。つまり、今年度の新入社員18歳~22歳前後は、ピタリとこの世代に当てはまる。ものごころついたときから身近にスマートフォンがあり、YouTubeの動画を見ながら育ち、Nintendo SwitchやニンテンドーDSで遊び、友達や交際相手との連絡はLINEでしてきた世代で、まさにデジタルネイティブ世代といえる。
消費者研究やマーケティングを行うサイバーエージェント次世代生活研究所(以下、次世代生活研究所)は、Z世代のトレンドを分析中。研究員の松崎瑞穂さんに、Z世代がSNSでどんな投稿をしているのか、最近の動向を聞いた。
――Z世代はSNSをどんなふうに使っていますか?
【松崎瑞穂(以下、松崎)】ここ数年はTikTokがユーザー数を増やし、伸びていましたが、次にきそうなメディアは「BeReal.」(ビーリアル)。2020年にフランスで誕生したSNSで、Z世代の中でもとくに情報感度の高い女子高生・女子大生の間で爆発的に伸びています。
SNSの利用率を調べたところ、「BeReal.」はZ世代での利用率が20%を超えました(2024年)。
■まだまだ利用者数は少ないが、Z世代で人気急上昇の「BeReal.」
――「BeReal.」にはどんな特徴があるのですか? 画像投稿アプリということですが、Instagramとの違いは?
【松崎】このSNSは1日1枚の写真を友達(フォロワー)とシェアするのですが、ユニークなのは「アプリから通知がきたら、2分以内に自分と周囲の写真を撮って投稿しなければならない」というルールです。
通知は毎日異なる時間に突然くるので、あらかじめ準備しておくことはできない。2分以内なのでお化粧を直す時間も、部屋を片付ける余裕もありません。写真が撮れない状況にあるときはスキップして次の通知を待つこともできますが、自分の写真をアップしない限り、友達の写真も見られません。
さらに、ほかのSNSにはある画像加工機能が使えないので、なかなか“映(ば)える写真”にはなりません。それがこのアプリの良さ。フォロー/フォロワー関係になるのは、ありのままの自分を見せ合える親友だけ。ほかのSNSに比べてフォロワー数をメガにするなどの発展性は限られますが、そもそもZ世代は「浅くて広い」人間関係は求めていません。自分の価値観を認め、理解してくれるリアルな友達と密に繋がることができれば、それが心地いいのです。
■「加工できない」「ありのままに近い自分を見せる」が新しい
――Z世代の中で「BeReal.」が普及している理由をどう分析していますか?
【松崎】SNSのトレンドの流れは「Facebook→Twitter(X)→Instagram→BeReal.」と移り変わってきました。Facebookは、アカウントが実名のため、プライベートで繋がりたくない人から特定ができてしまうため、プライベートな空間ではなくなってしまうというデメリットがあります。逆に、Xは匿名なので、悪口も含め自由に表現できますが、炎上してしまう。そして、Instagramは、美しい写真を載せられることがメリットですが、みんながそれを競うようになって“映え疲れ”に……。1日で消える「ストーリーズ」機能の方が人気になりました。その点、BeReal.は「加工できない」「プライベートな空間でありのままに近い自分を見せることができる」というところが、新しいのです。
――「BeReal.」ではどんな写真が投稿されていますか?
【松崎】次世代生活研究所では学生研究員30名へのアンケートを行いました。
1位:間に合わせBeReal.
2位:友達多いアピ
3位:ガチ勢アピ
4位:QOL高めアピ
5位:無加工証明セルフィー
6位:24時間映えネイルアピ
7位:家族&愛犬への愛アピ
8位:体調不良アリバイ
9位:ビーリア大喜利
10位:投げBeReal.
(次世代生活研究所 学生研究員30名へのアンケートの結果)
■風邪をひいたときなどに、フォローしてくれる返信を期待
――いろいろ気になるアピールがあります。8位の「体調不良アリバイ」は、どんな写真ですか。
【松崎】体温計の温度や処方された薬など、体調が悪いと伝わる様子を撮影することです。友達との約束をキャンセルした場合や、バイトを休んだ場合などの証明手段となっています。学生研究員に聞いてみたところ、やはり「心配してほしい」という気持ちはあり、コメント欄でいろんな人から「大丈夫⁉」などの反応がくるとうれしいとのこと。体調不良で学校を休んだ時にこういった投稿をし、「課題みせるよ」や「板書送るよ」と言ってもらえることを期待しているそうです。
■勉強を頑張っている自分を、できればほめてほしい
――4位の「QOL高めアピ」は、どんな投稿のことですか?
【松崎】自炊や運動、読書、勉強など「ちょっと偉いこと」をしている時に、それがわかるように撮影することです。日常的に「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」が高い行動をしていると証明し、アピールします。学生研究員によると、特にリアクションは期待されておらず、自分が他の人の投稿を見ても「へえ」という感じだとのこと(笑)。「他人の生活の質の良さを見ても興味はない。自己満足で投稿していると思う」という意見もありました。
■会社では見せないプライベートな趣味を「ガチ勢」として投稿
――3位の「ガチ勢アピ」について、どんなジャンルのアピールが投稿されていますか。またZ世代の会社員は、会社ではこういった趣味、推しなどのことを、同僚には言わないのでしょうか?
【松崎】この写真ならボイスパーカッションやループステーションを使った音楽活動、麻辣湯(マーラータン)など、自分が好きなものやハマっているもの、習慣的に打ち込んでいるものを撮影し、熱意をアピールします。
Z世代にはプライベートで趣味を積極的に楽しむ人が多いものの、とにかく周りの目を気にする傾向があります。アイドルやアーティストの推しを公言することで周囲から偏見を持たれないようにするため、大々的に公言することを避ける人はいるそうです。
だから、会社の新入社員に対しては、「こういうのが好きなの?」などとズケズケとツッコまないほうがいいですね。ただ、食の好みなど、本人の性格に直結しないように思われる趣味は公言することが多いので、話題にしやすいかもしれません。
■コミュニティが狭いので、ありのままの自分を見せられる
――2位の「友達多いアピ」、1位の「間に合わせBeReal.」はどんな投稿ですか?
【松崎】「友達多いアピ」は大人数の参加者がいるイベントの記録用として使用されることが多く、外側の広角カメラとインカメラによって参加者が集った様子を撮影し、友人の多さをアピールします。「間に合わせBeReal.」は、とにかく順番が回ってきた2分以内に投稿するため、家の天井や移動中とわかる様子などを、とりあえず写したもの。旅行やライブなど特別なイベント前に通知が届いた場合は、枚数を確保するために撮影されます。
――5位の「無加工証明セルフィー」、6位の「24時間映えネイルアピ」、7位の「家族&愛犬への愛アピ」についても教えてください。
【松崎】「無加工証明セルフィー」は自分のビジュアルがいいと感じた時に撮影されます。
「24時間映えネイルアピ」は自分の手元のみを映し、ネイルアートを撮影。ネイルアートを変えた時や、自分の顔を映したくない時に撮影されます。
また、「家族&愛犬への愛アピ」は家族やペットと一緒に過ごす様子を投稿します。例えばInstagramでは、フォロワーにあまり親しくない友人や見知らぬ人も含まれるので、「あなたの家族や愛犬なんてどうでもいいよ」と思われるのでは?と考え、遠慮してしまうような写真も、コミュニティの範囲が狭いBeReal.だからこそ安心して載せられる。そういう側面もあります。
■若者は「映え」に疲れているのに、上の世代が逆にこだわる
――9位「ビーリア大喜利」、10位「投げBeReal」は、このSNSならではの“遊び”のようですね。
【松崎】そうですね。「ビーリア大喜利」は、他の投稿に対するリアクションとして自撮り写真を送る「RealMojis機能」を使った遊びです。ひとつ前の投稿者のポーズやリアクションの真似をしたり、投稿者が提示するお題に応じるものです。「投げBeReal」は、文字どおりスマホを投げて撮影をする遊びで、写真は何が映っているか不鮮明になりがちですが、個性的に撮影したい時にやることが多いようです。
――今回の調査から見えてきたZ世代の特徴には、どんなことがありますか? 会社でZ世代に接する上の世代は、何に気を付ければいいでしょうか。
【松崎】Z世代、というよりも日本人のBeReal.の使用方法はとても特殊なんですよね。こんなにユニークな使い方をしているのは日本くらいです。海外で使用している人たちは、「間に合わせBeReal.」なんてしないで、投稿をパスしますが、日本の人はちゃんと通知が来たら間に合うように撮影するマメさがあります。
Z世代には「わざとらしい映えを狙った投稿を嫌う」傾向があるので、BeReal.に移行する人が増えてきているわけですが、その今頃になって「映え」にこだわる管理職世代(30~50代)が増えてきている感じがします。アドバイスできるとしたら、「映え」で若者とコミュニケーションを取るのはやめましょう! ということですね。「映え」が下火になり、加工に疲れて、「無加工映え」に移行している若者の心理を理解することが大事です。
----------
松崎 瑞穂(まつざき・みずほ)
サイバーエージェント次世代生活研究所、研究員
大学卒業後、外資系のマーケティング企業で、コスメブランドのデジタルマーケティング施策の設計やインフルエンサーマーケティングを担当。Z世代を主とした消費者のインサイト研究を行っている。
----------
(サイバーエージェント次世代生活研究所、研究員 松崎 瑞穂)