子どもに勉強させようと、つい口を出してしまう親は多い。家庭教育コンサルタントの岩田かおりさんは「親が事細かに管理したり、お世話をしすぎたりすると、子どもは勉強から心が離れていく。
私自身、3人の子育てをする中で、あえて放任することが効果的だと気が付いた」という――。(第1回/全2回)
※本稿は、岩田かおり『自分から学べる子になる 戦略的ほったらかし教育』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■7000人以上の母親が漏らした「不安」
「宿題しなさい!」「なんで、何回言ってもわかんないの?」、そんな言葉を子どもに繰り返していないでしょうか。
私がお話を聞いてきた7000人以上のお母さんたちは、「もう注意することに疲れた」「こんな子育てでいいのか不安」と口々におっしゃっていました。
でも、子どもを叱ったり心配したりすることは愛情の裏返し。
親が本当に求めていることは、子どもが自分の力で幸せに生きていけるようになることではないでしょうか。
そして、本来であれば、勉強だってその幸せに生きるための道具の一つにすぎないのです。
それなのに、いつの間にか「他の子と比べてできていないのではないか」「勉強に遅れてしまったら大変」という思いが強くなり、「ちゃんとやりなさい」「正しく書きなさい」といった注意を連発するようになります。
■子どもを「勉強嫌い」にする親の特徴
このようなあせりや不安を抱えたまま子どもの勉強に関わっていくと、次のような2つのスタイルに陥ってしまいます。
①司令官スタイル……子どもを監視して、事細かに管理するタイプです。自分の想定する範囲内のみで行動させようと統制します。何から何まで指示を出すことが多く、もし子どもが失敗しようものなら、「言われた通りにやらないからダメなのよ」といった注意をします。

②メイドスタイル……献身的に子どものお世話をしすぎてしまうタイプです。子どもの言動や顔色を見て、機嫌が悪くなったり不都合が生じたりしないように、先回りしてあらゆることを整えようとします。
そして、この2つの合わせ技タイプとして、指示をして、機嫌をとって、なんとかして机にかじりつかせて勉強をさせようとする親も存在します。
残念ながらこうした傾向があると、子どもは知識を詰め込む勉強だけでなく、自身の興味関心から自発的に探究する学びからも心が離れていきます。
戦略的ほったらかし教育は、一歩引いて、一人の人間として子どもを見守るスタイルです。その結果、子ども自身で決めたり考えたり行動したりする力が育まれます。
子どもが変容していく様子に、たくましさを感じるでしょう。
きっと、親が本当に求めていた子どもの姿が、そこにあるはずです。
■10割ではなく、4~7割でOK
戦略的ほったらかし教育メソッド①四七思考
子どもにとっての重要事項は、今が楽しいかどうかです。
だから、大人同士で話すのと同じような説明を子どもにしても、なかなか通じません。たとえば、大人は逆算思考が強いので、「来年になって困るから、今のうちに勉強をしておきなさい。なぜなら~」といった説明をする傾向があります。
しかし、子どもは今ここ思考なので、こうした説明にはピンときません。
けれども、たくさんのお母さんたちの話を聞いていると、「子どもにちゃんと説明をしなくちゃ」「わかってくれないのは説明が足りないのかも」と思っている人がとても多くいます。
たしかに、子どもを一人の人間として尊重して説明をする姿勢はとても大切です。でも、何から何まで100%説明する必要はありません。多くの親は、「十割思考」で説明しすぎたり完璧を求めすぎたりして、しんどくなっています。
そこで、戦略的ほったらかし教育で大事にしているのが「四七思考」です。
親が一生懸命説明しても、子どもはどうしてもイメージできないことがあります。そのため、あえて説明しないことも重要だと考えています。説明は4~7割でOK。残りは説明せずに子ども自身で考える余白にしておくのです。
お父さんお母さん自身も意味を説明されればされるほど複雑でややこしくなり、やりたくなくなるといった経験はないでしょうか?
子どもが理解していないからといって、何回も何回も繰り返し説明していると煙たがられます。
だから、「四七思考」は一つの基準として重視しています。

■親自身も「完璧」を目指さなくていい
そもそも最近の子育ての論調として、“マジすぎること”が、気になっています。「子どもと向き合う」「子どものために」という視点はとても大切。
しかし、あえて放っておくことで子どもが勝手に習得したり突破したりと、自分で成長することは大いにあります。すべてを説明してわからせようとするよりも、わからないながらもやってみることが大事なこともあるでしょう。
また「四七思考」は、親自身に対する考え方でもあります。「○○をしよう」と思ったことが、必ずしも100%できなくても問題ありません。4~7割できていれば十分だと考えるようにしてください。
たとえば、子どもの自主性を高めるために「宿題はやったの?」と親が口出しをしないと決めたとします。しかし、つい注意してしまった場合でも自分を責めすぎず、目標の4~7割が達成できていればOKと捉えましょう。
完璧を求めてしまうと、自分に対してダメ出しを続けることになり、精神的に疲れ果ててしまいます。その結果、日常生活が回らなくなる可能性もあります。
「四七思考」とは、理想を持ちながらも少しでも達成できた自分を認めることで、無理をせずに子育てを続けられるようにする考え方なのです。

■親の「楽しい!」に子どもは食いつく
戦略的ほったらかし教育メソッド②親の影響力を活用
あるとき、末の娘がスイカを食べながら「このスイカって、おかしな味がしない?」と言い出したことがありました。
「そう?」と夫が言って、ひと口食べて「めちゃくちゃおいしいじゃん!」と伝えると、子どもはそのままパクパクと食べ進めました。
子どもにとって親の一言は絶大な影響力があります。
多くの場合、親が「おいしい!」と言えばおいしいと感じますし、「楽しい!」と言うと楽しくなります。絶対的に信頼している人が言うのだから、子どもは「そうなんだな」と納得するのです。
戦略的ほったらかし教育では、この子どもの特性を利用していきます。
親から子へ「どうして必要か」「どれだけあなたのためになるのか」をこんこんと説明するよりも、「うわっ、これ楽しい~!」と言いながら、子どもの興味関心を喚起したほうがずっと子どもの食いつきがよくなるのです。
小学校受験塾では小さい頃から手先を使う体験をしているかを検査するために、蝶々結びができるかをチェックすることがあります。一方、我が家ではそういったトレーニングの場を設ける代わりに、お風呂のバーにひもを付けて、湯船につかりながら、蝶々結びに夢中になっているふりをした私の姿を子どもたちに見せていました。
幼児教室で「しなければならないもの」として子どもが取り組むのと、お風呂の中でお母さんである私が楽しそうに蝶々結びをしているのとでは、子どもの関心の寄せ方がまったく違いました。
しかも、子どもが興味を持っているときのほうが習得スピードも圧倒的に早い! 戦略的ほったらかし教育は、親子間における影響を最大限に生かした考え方でもあるのです。
■細かすぎるリーダーは当然、嫌われる
戦略的ほったらかし教育メソッド③自立心にゆだねる
マネジメントには「マイクロマネジメント」と「マクロマネジメント」があります。

家庭教育の本でマネジメントの話?
そう思うかもしれませんが、仕事も家庭もチームで運営することは共通。そして親は、家庭というチームのリーダーです。
細かなチェックや厳しい管理をするマイクロマネジメントをすると、マネジメントのつもりが次第にコントロールになっていきます。それを続けていくと、気づけば思いのままに子どもを操りたいという思考が強くなってしまいます。
もし職場の上司があなたを事細かにコントロールしてこようとしたら、どう感じますか?
私だったらわずらわしいし、話も聞きたくなくなります。
それは子どもも同じです。
■朝、起きられるかどうかは子ども任せに
マイクロマネジメントの背景には、「こういうことができるようになってほしい」「心配でつい口を出してしまう」という気持ちがあるでしょう。
しかし、子ども自身の意思はお構いなしに「あれをしなさい」「これをしなさい」と指示をすると、子どもは話を聞いたふりをするだけです。行動の改善にはつながりません。
突然ですが、皆さんは毎朝お子さんを起こしていますか?
「え?起こさないで遅刻したらどうするの?」

「起こさなかったら、昼過ぎまで寝ていますよ!」
そんな声が聞こえてきそうです。
わが家では小学生になったら、気に入った目覚まし時計を子どもが選び、自分で起きるようにしていました。
起きられなかったら、目覚まし時計を2個、3個と増やします(笑)。
もしくは、起きられるようになるには、どういう作戦を立てればいいのかを子どもと一緒に考えていくのもいいでしょう。
子どもにゆだねていくと、そのうち夜早くベッドに入ってたっぷり寝れば、朝は気持ちよくぱっと起きられることを実感していきます。すると、翌日に行事やテストなど大切にしたいイベントがある日は、「早めに寝よう」と自分で準備をするようになりますよね。
もちろん、多少の寝坊と遅刻を経験するからこそ得られる知恵でもあるので、親としては見守る覚悟が必要です。
■自立的に生きる力を奪ってはいけない
また、休日には「お昼だから早くご飯を食べなさい」などと声をかけていないでしょうか?
ご飯を食べさせることは、親としてすべきことだと思っている保護者は多いと思いますが、子どもはお腹が空けば自分で食べます。
コントロールされることで、人間本来の生理的な欲求である「目が覚めること」「ご飯を食べること」がわからなくなってしまう可能性があります。
厳しい言い方をしますが、親が指示を出しすぎることによって、子どもの自立的に生きる力を奪ってしまうことにつながりかねないのです。
常にお腹がいっぱいだったら、腹ペコの感覚がわかりません。「お腹が減ったからご飯を食べよう」と自ら動く、当たり前の人間の感覚が失われてしまいます。
戦略的ほったらかし教育は、こういったエラーを取り除き、持って生まれた子どもの自立心を軸にしながら、学びへの関心を広げていくアプローチです。
自立心にゆだねた結果、子どもは成長の中で学び体質へと育つことができます。
■主体性とは本人が決めて実行すること
戦略的ほったらかし教育メソッド④子どもに選ばせる
私がお母さんたちのお話を聞いて実感するのは、目指している子どもの姿と日々の子育てがずれていることです。
たとえば、「主体性を持った子になってほしい」「さまざまなことに積極的に取り組む子になってほしい」、そんな願いを持っている親は多くいるでしょう。だからこそ、子どもが消極的に見えたり、物事に前向きに取り組めていなかったりすると、不安になってイライラしますよね。
でも、ちょっと待って。日々の子どもへの接し方を思い返してみてください。
子どもが主体性を育める機会を設けているでしょうか?
親が決めて、子どもが実行するという構造になっていないでしょうか?
子どもが主体的になっていくには、主体性を発揮できる環境がなければいけません。つまり、なんでもかんでも親が決めていては、子どもは自分で決めたり行動したりする経験を積むことはできないのです。
■親は「選択肢を示す」に留める
戦略的ほったらかし教育では、子どもに選択させることをとても大事にしています。
ただし、「自由に決めていいよ」とだけ言われると、大人であっても「急に言われても……」と躊躇してしまうことがありますよね。自由な決定は難易度が高いのです。
だから、子どもにはまず選択肢を提示して、選ばせることからスタートしてみましょう。
わが家では時計を見て行動できる子になってほしいと考えていたので、腕時計を買うときも「腕時計のベルトの色は赤がいい?黒がいい?」といったことから選ばせました。進学先に関しても、親が選択肢を提示はしますが基本的には子どもたちが決めました。
もちろん、親が選択肢を示す前に「ここに行きたい」と主張してくれるときは、子どもの意思を尊重しました。
「外食するならラーメンとパスタどっち?」

「りんごジュースとみかんジュースどちらを買う?」

「動物園と水族館と博物館、どこに行きたい?」
などなど、日常生活は選択の連続です。
親が決めてしまえば物事はスムーズに進みますが、それでは子どもの主体性は育ちません。
小さな選択ができるようになっていれば、進路選択やキャリアの選択の際にも自ら選び取ることができるようになります。
多くのことを親が決めているとしたら、少しずつ子どもに選択権を渡していきましょう。
■学ぶ場所は「机の前」とは限らない
戦略的ほったらかし教育メソッド⑤生活の中から学ぶ
「学び=机に向かって問題を解く」ことだと思っていませんか?
親自身の勉強の思い出から、つい暗記やひたすら問題を解くことなどを学びだと考えてしまうことが多いかもしれません。
戦略的ほったらかし教育は、机に向かっている瞬間だけを学びの時間とは捉えません。学びとは、机に向かってガリガリと問題を解くものだけではないからです。
大事なことは生活の中に学びをちりばめていくこと。
本書の第2章で詳しく紹介していきますが、食事の時間もお風呂の時間も、トイレの時間だって、子どもは学んでいます。
親が生活の中に学びのきっかけをちりばめて、子どもが興味を持った瞬間に親子の会話によって記憶に残すことが何よりも重要なのです。
カードゲームで遊びながら数字に興味を持ったり、リビングの壁に地図を貼って地名について話したり……、そんな些細なことが、子どもの記憶に引っかかります。
そうすれば、学校の授業で登場したときに「あっ、これ知っている!」「お母さんと、このことについて話した!」「トイレに貼ってあるポスターに書いてあった」などと記憶がつながっていきます。
ここまでできれば、親の役割としてはもう満点。あとは、ほったらかしていても、子どもが自らの興味に合わせてどんどん学んでいきます。
■「ぼーっとする」は実は貴重な時間
また、戦略的ほったらかし教育では、生活の中で子どもの話を最後まで聞くことをとても大事にしています。
子どもの話はまとまりがなかったり、何度も同じことを言っていたり……そんなことの繰り返しです。
つい「こういうことでしょ?」「わかった、こうでしょ?」と話の途中でさえぎってしまいたくなる気持ちもわかります。
しかし、ここは我慢して、子どもの言うことを「。」がつく最後まで聞きましょう。親がきちんと聞いてくれるからこそ、子どもは話したり説明したりする意欲が湧いてきます。
他にも、子どもとの生活で気をつけてほしいのは、子どものぼーっとする時間を大事にすることです。
一見、ぼーっとしている子どもは何もしていないように見えるかもしれませんが、じつは頭の中では多様な想像を膨らませていることが多いもの。豊かな想像力や思考力を発揮している貴重な時間を、大人が邪魔しないように注意してください。
また、保育園・幼稚園・学校は、子どもにとって気を張っている社会であり、大人における職場と同じです。自宅でのんびりできなければ、大人も子どもも疲れてしまいますよね。
外の社会から戻ってきて、ほっとできる家庭であることは何よりも大事です。

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岩田 かおり(いわた・かおり)

家庭教育コンサルタント

株式会社ママプロジェクトJapan代表取締役。幼児教室勤務、そろばん教室の運営を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」という想いから、独自の教育法を開発。「子どもを学び体質に育てる」と「親を幸せ体質にする」ことを目指し、親がガミガミ言わずに勉強好きで知的な子どもを育てる作戦『戦略的ほったらかし教育』を全国へ展開中。また、3児の母親で、『戦略的ほったらかし教育』を実践した子どもたちは、中学生で起業、経団連の奨学生としてインドへ高校留学、学費全額奨学金で海外大学進学、塾なしで慶應義塾大学合格など、3人とも自分で自分の道を切り開いてきた。著書に『「天才ノート」を始めよう!』(ダイヤモンド社)がある。

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(家庭教育コンサルタント 岩田 かおり)
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