健康維持やアンチエイジングの代表格に「断食ダイエット」が挙げられるが、18時間や16時間など諸説ある。断食に適切な時間帯はあるのか。
食事スタイルを変えたことで結果的に15kg減量したというジャーナリストの笹井恵里子さんが解説する――。
■20年前は今より15kgも太っていた
私は46歳で身長165cm、体重52kg。この20年、体重の変化はほぼなく、血糖値や中性脂肪、コレステロールなど血液検査の数値はすべて正常値だ。しかし、20代前半は体重67kgで肥満に悩んでいた。
今は人から「顔が小さい」「痩せていていいなあ」とよく言われるものの、もちろんあの頃はそんな言葉をかけられたことはない。二重あごだったし、ジッパーが閉まらないのでタイトスカートを履けなかった。当然、痩せたいと思っていた。だが、どうすればいいかわからなかった。
当時食事量は少なく、大抵は一日一食。しかも若いから基礎代謝量は高かったはず。つまり46歳の今よりも、摂取カロリーは少なく消費エネルギーは多かったのに、太っていたのである。
それではなぜ痩せられたのか。
それは「12時間以内に3食を摂る」という「12時間断食」に食事スタイルを変えたからだと私は考えている。
■なぜ「16時間断食」は太りやすいのか
太っていた頃の私の食事スタイルは、近年流行りの「16時間断食」に近い。16時間断食とは1日(24時間)のうち「8時間以内に食事を済ませる」というもの。雑誌『プレジデント』(2025年5月16日号)でも特集記事『「16時間断食」のすごい効果』として紹介されていた。
20歳の頃は、夜中に飲み食いをして、翌日の日中は一切食べない、というのがほとんどだった。このため、基本的にはほぼ毎日、自然と16時間断食になっていた。けれども、太っていたのだ。
「それは体内時計(昼夜に合わせて体温やホルモン分泌など体内環境を変化させる機能の総称)のリズムを無視しているからです」と、早稲田大学名誉教授の柴田重信氏(東京科学大学特別研究員、愛国学園短期大学特任教授)は言う。
「体がエネルギーを使おうとするときに食べなかったり、体が脂肪をためこもうとするときに食べたりすれば、ダイエット効果が得られないのは当然のこと。16時間だけでなく14時間、12時間など、食べる量ではなく時間帯を減らす『プチ断食』(食事時間制限法)はカロリー制限よりも、肥満やメタボを防ぐ効果が高いといわれ、世界中でブームになりました。
2016年に大隅良典氏が解明した細胞の健康を維持するオートファジーという体のシステムも、絶食によって活発になります。ですがいずれのプチ断食も、体内時計のリズムに合った方法で行ってこそ、最大の効果が得られるのです」
■オートファジーは健康リスクを招くことも
オートファジーとは、細胞が栄養環境が悪化したときなどに自ら一部を分解する働きのこと。
オートはギリシャ語で「自分」、ファジーが「食べる」の意であることから日本語では「自食作用」ともいわれている。筋肉のタンパク質や脂肪組織の脂肪を分解して回収するという細胞のリサイクルシステム――つまりオートファジーによって細胞が生まれ変わるというのだから、すごい。
ちなみに体内時計のリズムに合った食べ方や習慣を明らかにする学問を「時間栄養学」といい、柴田氏はその第一人者である。
「細胞の再構成というと聞こえはいいですが、結局“壊す”方向なわけですから、どこかで合成のスイッチを入れなければ壊れ続けてしまいます。絶食時間が長くなりオートファジーが過剰になると、特に高齢者では筋肉が減少するサルコペニアのリスクが高まるなど、健康を害することがわかってきました。ですから絶食時間が長ければいいというわけではありません。
また体内時計のリセット効果を高めるには、絶食→朝食の流れがベストなのです。英語で朝食のことをbreakfastといいますが、これは夜の長い断食時間(fast)を終える(break)行為ということを意味します。起床して光を浴び、2時間以内に食事をする(朝食を摂る)ことで体内時計がしっかりとリセットされ、エネルギーを燃やす準備を整えます。絶食の後に昼食や夕食がきてしまうと、体内時計のリセット効果が弱く、食事後の血糖値も下がりにくいのです」
■絶食(断食)→朝食なら両方のメリットが得られる
朝食を摂らないで昼から夜にかけて食べると、体内時計はエネルギーをためこもうとするため、食べたものは燃やされず、脂肪としてため込まれやすくなるという。実際に、さまざまなプチ断食を解析した報告では、「昼から夜(11~20時以内)を主体としたグループ」は「食べる時間が朝を中心(6~15時)としたグループ」と比べてダイエット効果が弱いことがわかっている。
「断食の時間帯」と「体内時計」という二つの観点があって、ややこしい。

整理すると、古くなった細胞を新しく生まれ変わらせるオートファジーを活性化させるためなど、1日の中で「絶食時間(断食)」はある程度あったほうがダイエットにも健康にも良いことがわかっている。一方で、体内時計を整えることが心身の健康やパフォーマンスにも非常に重要なのだ。そして人間の体内時計は平均して24時間よりも少し長い周期でリズムを刻んでいるため、放っておくとずれやすい。毎日時計の針を24時間に合わせる調節(リセット)が必要で、それは光(主に太陽光)と食事(朝食)によって行われる。だから絶食→朝食の流れなら、両方のメリットを得られるというわけだ。
■断食は一体、何時間がベストなのか
それでは断食は一体、何時間行うことがベストなのだろうか?
柴田氏は「最適な長さは12時間」と説明する。
「かつては16時間よりももっと厳しい、『18時間断食』がありました。1日のうちで6時間だけ食べてOKというものです。でもこれはものすごく脱落者が出ますし、血糖値の観点から考えても、あまりに絶食時間が長いと反動で血糖値が高くなるという危ない面がある。次に16時間断食も気をつけなければ同様のリスクがあります。社会生活を送るうえでも困難でしょう」
アメリカで行われた14時間断食を柴田氏が紹介してくれた。言い換えると最初の食事から最後の食事までを10時間以内に終わらせるということ。

「この実験に参加した人は、体重が100kg前後、しかもメタボの人たちです。3カ月続けてもらったところ体重、BMI、腹囲のいずれも低下し、高血圧も解消、LDLコレステロール値なども低下しました。参加者に守ってもらったルールは食事管理アプリを活用し、10時間以内に食事を摂っているか報告してもらうことだけ。ほとんどの参加者は食べる時間帯が8~20時までの間に収まっているので、体内時計に合ったリズムだったのでしょう。
同様の実験をメタボではない肥満気味の人がやってみたところ、やはり体重の低下がみられました。14時間断食は、食べるタイミングを間違わなければ肥満やメタボ改善に有効ということです」
■朝7時に食べたら午後7時までに食べ終える
13時間断食でも、同じような報告がある。この場合も、8~19時に食べるほうが良い傾向にあるという。
「しかし、11時間断食を調べた研究では朝を中心にした時間帯で食べても、効果がみられないようです。そこで私たちは、効果がみられなかった11時間の絶食時間を1時間延ばし、12時間断食の効果について研究をしました。すると、体重の低下やBMIの改善でいい結果が得られ、13時間断食と近い効果が認められたのです。だからまずは毎日12時間絶食を設けることを目指し、もう少しダイエットをしたいと思ったら、13時間や14時間の断食をすればいいのではないでしょうか」(柴田氏)
12時間断食の場合、朝7時に朝食を摂るなら、午後7時までに食べ終えればいいのでわかりやすい。また社会生活を送るうえでも継続しやすい点がメリットだ。

■やはり「3食食べる」がいちばんいい理由
柴田氏と同様に時間栄養学を研究し、2016年に日本農芸化学会奨励賞を受賞した農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の上級研究員、大池秀明氏も「12時間断食がベスト」と言う。
「絶食時間を長くするほど体重減少の効果はあるのですが、2つの観点に注意しなくてはなりません。ひとつは1日の必要栄養素が不足しているかもしれない点、もうひとつは食べたけれども、消化吸収されていないのではないかという点。食べる時間を短くしたときの体重減少の効果が、“どこに由来しているのか”というのが実は研究論文によってまちまちで、白黒ついていない状況です。
必要栄養素が不足して筋肉量が減り、体重が落ちてしまうなら、本末転倒ですよね。けれども12時間摂食、12時間断食という形なら、体内時計の観点から昼と夜のメリハリ(振幅)がつきやすく、リズムが整いやすい。必要栄養素も摂取しやすいので良いと考えられます」
そして12時間の摂食中、「3食食べる」ことを勧める。朝に1食だけ、朝と夜に2食などいろいろな方策があるが、なぜ3食がいいのか。
大池氏は「朝に1食だけにすると、寿命は延びる可能性が高い」と指摘する。ただし、トレードオフがあるという――。
■1日1食は生殖機能が落ちる可能性
「少なくとも動物実験でわかっているのは、生殖機能が落ちるのです。ですから人に置き換えて考えても、1日1食にすると長生きはできるかもしれません。
でもパフォーマンスが上がるかというと必ずしもそう言いきれません。必要カロリーや栄養素が足りないと体が省エネ型になりますから、ほかにも免疫機能が落ちるなどのデメリットが考えられます」
もちろん1食で1日の必要な栄養素がすべて摂れるのならばいい。しかし普通に考えると難しいだろう。栄養吸収の面から考えても、一回の吸収量に限界があったり、24時間経たないうちに枯渇してしまう栄養素もある。
「体内時計というのは、繰り返しのものに対して予測しながら行動するための機能なのです。たとえば食事を摂取するタイミングが規則正しく、しかも1日3回あるのであれば、その直前にエネルギーを最大限投入してパフォーマンスをあげるという働きができます。けれども次にいつエネルギーが補充されるかわからない状態であれば、あまりエネルギーを使わず、蓄え(脂質)を増やそうとなります。満遍なく栄養素を摂るという観点から3食必要だと思いますし、私自身もそうしています。朝食を多めに、夜を軽めにするという意識をもっての3食摂取ですね」(大池氏)
■「昼軽め、夜ガッツリ」の人は太りやすい
朝と夜の2食ではどうか? というと、実は昼を抜いたり間食程度にしてしまうと、「夜の血糖値が上がりやすく、肥満になりやすい」ことがわかっている。再び柴田氏の話。
「昼を抜くとどうしても夜の食事量が増えやすいのです。実際に太っている人は、朝や昼が少なめで、夜にがっつり食べる人が多いことが私たちの研究でわかっています。ブラジルで2000人を対象にした研究からも、食事が3回以下であったり、夕食のウエートが大きかったりすると肥満になりやすいと報告されています。一方で昼食が多い場合は肥満になりにくいのです」
血糖値急上昇は太る要因になる。食事後に血糖値が上がると、膵臓からインスリン(ホルモン)が分泌され、血中の糖を肝臓や筋肉に取り込み、血糖値が下がる。しかし取り込む量にも限界があるので、食事を一気にたくさん摂ると、血中にあまった糖が脂肪細胞に取り込まれて太ってしまうのだ。血糖値の急激な上昇で、血管障害にもつながりやすい。
「朝を抜く人、昼にあまり食べられない人、夜に食べすぎてしまう人と、どれも問題なのです。それぞれ、たくさんの疫学調査から証明されています。1日3食は血糖値の上昇を防ぐという意味で優れていて太りにくい。朝食から夕食までを12時間以内にして、朝食をしっかり食べる。夕食は食べすぎない。これにつきます」(柴田氏)
■どんなに忙しくても朝食はマスト
さて最後に、私が20年間、痩せたまま体型を維持できている理由を記しておこう。
実は23歳の時に出産をし、子どもが2歳になった頃から一緒に朝ごはんを食べるようになったら、みるみる痩せていった。しかし一時期は体重47kg、BMIは「17」(低体重)まで下がり、体調を崩しやすくなった。健診でも「痩せすぎ」と指摘されるようになったため、朝ごはんに加えて、昼食や夕食も少しずつ摂るようになった。すると現在の52kgに落ち着いたのだ。
出張や会食などでいつも通りの食事ができなくて体重に増減があっても、再び「朝ごはんはしっかり」(特にタンパク質を20グラム)、「12時間以内に夕食を食べ終える」を意識していると、しばらくすれば52kgに戻る。
もちろん朝食べられないという人の気持ちもわかる。食欲のコントロールには体内時計が関わり、朝は食欲が低く、夕方が最も高まるように作用するという。だが朝に少しでも口に入れることを柴田氏も大池氏も勧める。1週間程度経つと、体内時計の働きによって胃腸の働きが良くなり、食欲がわいてくるそうだ。
「12時間以内に3食を食べると“活動時間帯あたりの食事量”が多くなりますね。ですから空腹を感じにくくなります。また夕飯を早く、軽く済ませ、就寝まで3時間程度あけるとなお良いです。睡眠の質が高くなり、夜に食欲が低下することがわかっています」(大池氏)
痩せたい人も、健康維持をしたい人も、まずは朝ごはんから――。そして12時間以内に夕食を食べ終えよう。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)

ジャーナリスト

1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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