なぜ、大切なパートナーなのにすれ違うのか。男女では会話のチャンネルが違う点を理解しておく必要があるという。
臨床心理士の平木典子さん、明治学院大学心理学部心理学科教授の野末武義さんの共著『大切な人とうまくいく「アサーション」』(三笠書房)より紹介しよう――。
■「理解したつもり」がこんな誤解を招く
女性同士で話していると「それ、わかる、わかる!」と盛り上がるのに、パートナーと話すとなぜかすっきりしない……。
そんな経験はありませんか?
二人の仲をもっと深めるコミュニケーションをとるために、まず知っておいてほしいことがあります。それは、個人差はあるものの一般的にいって、女性と男性では相手の話の「理解の仕方」が違うところがある、ということ。
女性は比較的、筋道が整理されていない会話にも慣れています。
そのため女性同士では「こんな大変なことがあった」「こんなふうにつらかった」などと誰かが話すと、それに対して同じようなことを体験したときの記憶を同調させ、なんとなくわかった気になれるのです。
それを「理解」あるいは「共感」ととらえていることも多いでしょう。
女性同士の会話を聞いていると、こんなことがよくあります。
女性A「この間ね、会社の先輩にすっごい怒られたんだ」

女性B「え~っ、いきなり怒られたの? なんて言われたの?」

女性A「仕事が遅い! って。でもまだこの部署にきて3日目なんだよ。そんなのすぐに覚えろって言われたって無理だよね」

女性B「それむかつくね! 私もどうでもいいことで怒られたことあるよ。すごく腹立つよね!」

女性A「そうだよね! すごい腹が立ってさー」

女性B「そういう人って本当にイヤだよね!」

女性A「本当にそう! もうすごくイヤなヤツなの!」
この会話では、なんの問題の解決にもつながっていませんよね。

■男性は「自分の気持ち」が抜けがち
ですが、「先輩の怒り方が理不尽で腹が立った」「その人がイヤな人だ」ということを女性Bが「わかって」くれて、二人の間で「理解」が生まれ、女性Aは気持ちが落ち着いたようです。
これは厳密にいえば、互いの話をきちんと「聴いて」いるわけではないのですが、結果的には気持ちが通じたような気がするのでOK、となっている例。
でも、一般的に男女の間の会話では、なかなかこうはいきません。
女性「この間ね、会社の先輩にすっごい怒られたんだ」

男性「どうして?」

女性「仕事が遅い! って。でもまだこの部署にきて3日目なんだよ。そんなのすぐに覚えろって言われたって無理だよね」

男性「でも、何か仕事のやり方が悪かったんじゃないの? その人は何を根拠にそう言ってるの?」

女性「そこまで知らないけど……」

男性「そしたら、また同じ理由で怒られるかもしれないよ。ちゃんと聞いてみたほうがいいよ」

女性「なんか、先輩よりも私が悪いみたいじゃん。私は気持ちをわかってほしいだけ。アドバイスはいらないの(怒)!」
この会話で、男性はよかれと思って具体的な理由と解決方法を探ろうとしているのに、女性のほうは期待したのとは異なる反応が返ってきたので、「話したのにわかってもらえなかった」という不満につながる可能性があります。
男性には、「なんとなく、わかり合う」「不満や愚痴を言ってすっきりする」という習慣があまりなく、女性とは会話のチャンネルが違う、ということを理解しておく必要があります。
一方で、男性が女性に対して話をする際、とくに抜けがちになるのは「自分の気持ち」について話すこと。男性は自分が「考えたこと」や「観察」したことについては話しますが、あまり自分の気持ちを表現することが得意ではない人が多いもの。

■コミュニケーションを成立させる4つのルール
たとえば、次の2つの会話はかなり違った印象を受けるのではないでしょうか。
男性A「なんだか顔色が悪いよ。風邪でも引いた?」

女性「うん……ちょっと、だるいかな」

男性A「今日は早く休んだほうがいいよ。いつも夜更かしして睡眠不足なんじゃない?」

女性「うん、そうね」

男性A「それに栄養も偏ってるんじゃないの? ビタミンも足りてなかったりして」

女性「……わかったってば! 今日は早く寝るから!」
男性は見たままを伝え、よかれと思っていろいろ言っているのですが、女性のほうは少しうっとうしくなってしまったようです。
では、こちらの会話はどうでしょう?
男性B「なんだか顔色が悪いよ。風邪でも引いた?」

女性「うん……ちょっと、だるいかな」

男性B「大丈夫? 最近忙しかったもんね。疲れがたまってるんじゃない? 今日は早く休んだほうがいいよ」

女性「うん……ありがとう」

男性B「長引いちゃうと心配だからさ、温かくしてゆっくり休んだほうがいいよ」

女性「うん、ありがとう。今日は早く寝て、明日はよくなるよ!」
男性が気持ちを素直に伝えてくれたことで、女性もうれしかったようです。
2つの会話、男性の伝えたいことはどちらも「あなたが心配だ」ということ。
男性は少し恥ずかしくても、たまにはこんなふうに自分の「気持ち」をつけ加えて話をしてみるといいかもしれません。
このように、相手の様子を「観察」する、相手の状態を「想像」する、気持ちを「伝える」、話を「聴く」。
この4つをすることで、私たちのコミュニケーションは成り立っています。

■男女の違いや特徴を一人ひとりの問題として理解する
反対にいえば、どれかひとつでも欠けたり、うまくできていないと、「わかってもらえない」「何を考えているかわからない」というすれ違いにつながるわけです。
このコミュニケーションのルールについて、本書でより詳しく説明しています。
なお、本書に出てくる会話や行動の例は、わかりやすくするために男性と女性の特徴を強調して書いてあります。実際には、例とは逆に振る舞っている男女もいるでしょう。
男女の違いや特徴はあるのですが、同時に一人ひとりの問題として理解することも大切だと思って、読んでください。

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平木 典子(ひらき・のりこ)

臨床心理士、家族心理士

1936年生まれ。津田塾大学英文学学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニング(自分も相手も大切にしながら行う自己表現)の第一人者。立教大学カウンセラー、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授を歴任。1995年、IPI統合的心理療法研究所を創設。主な著書に、『図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術』『図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術』(PHP研究所)、『アサーション入門』(講談社)ほか、多数。


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野末 武義(のずえ・たけよし)

明治学院大学心理学部心理学科教授

家族心理士、臨床心理士、公認心理師。1964年生まれ。立教大学文学部心理学科卒業。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了(教育学修士)。医療法人社団草思会錦糸町クボタクリニック、立教大学池袋学生相談所、国立精神・神経センター精神保健研究所などを経て、現職。IPI統合的心理療法研究所所長。主な著書に『夫婦・カップルのためのアサーション』(金子書房)、『家族心理学 家族システムの発達と臨床的援助 第2版』(共著、有斐閣ブックス)、『マインドフル・カップル』(監訳、金剛出版)などがある。

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(臨床心理士、家族心理士 平木 典子、明治学院大学心理学部心理学科教授 野末 武義)
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