■実はAmazonプライムよりも上位、シェア2位のU-NEXT
Netflixが最大シェアを誇る定額制動画配信(SVOD)サービスは、コロナ禍からの市場規模の拡大が落ち着き、各サービスの熾烈なシェア争いのフェーズに入っている。
その市場シェアは、各サービスによる会員数の公式発表がないなか、調査会社の各種データによって誤差はあるものの、概ねTOP5は共通する。配信メジャーと呼ばれるNetflix、U-NEXT、Amazonプライムビデオ、ディズニープラス、Huluが、日本市場でしのぎを削っている。
そんななか、唯一の国産サービスであるU-NEXTが健闘している。調査会社GEM Partnersの「2024年の定額制動画配信市場推計」によると、最大シェアのNetflixが3年連続で前年比シェア減となるなか、次ぐシェアを占めるU-NEXTは、2022年にAmazonプライムビデオを抜いて2位になり、23年も前年比2.4%増、24年は同2.7%増。市場の伸びが鈍化した24年は、前年比1%以上伸長した唯一のサービスとなった(図表1)。
定額制動画配信市場は、世界規模ではすでにシュリンクに向かっており、日本も天井が近くなっているとされるなか、U-NEXTは契約数を伸ばし続けている。その理由とは?
■有線放送のU-SENが始め、2021年に米HBO Maxと提携
U-NEXTは、外資系企業が運営するグローバルプラットフォームによる寡占状態の国内市場TOP5のなかで、日本企業が運営する唯一のサービス。もともとは店舗で流すBGMを提供する有線放送(ケーブルラジオ)のUSEN(現U-NEXT)が、2005年にスタートした無料の映像配信サービス「GyaO(ギャオ)」が前身になる。同サービスから2007年に枝分かれした有料版のテレビ接続向け配信サービス「Gyao NEXT」が、2009年にU-NEXTに改称された。
そんなU-NEXTには、ほかのグローバルプラットフォームとは異なるサービスの特徴がある。
もともと映画会社や制作会社の系列を横断する国内コンテンツを幅広く取りそろえていたなか、米メジャーメディアグループの一角であるワーナーブラザース・ディスカバリーが運営するHBO Max(2024年よりMaxへ移行)との2021年の独占パートナーシップ契約により、洋画や海外ドラマの新作を含めた海外コンテンツの拡充を図る。これにより、NetflixやAmazonプライムビデオと比較して遜色のないラインナップとなっていた。
■55%還元ポイントを東宝シネマズなどの映画鑑賞券に
加えて、国内コンテンツをさらに増強した。テレビ局はそれぞれ系列ごとの独自配信サービスを運営しているが、そのひとつであるParaviを2023年に統合。TBSとテレビ東京のドラマやバラエティなど1万コンテンツ以上が加わり、新作と旧作を含めて保有コンテンツ数の他サービスとの差を広げた。
もうひとつ独自の特徴となるのが、映像配信だけでなく、漫画や雑誌、書籍など約118万冊(※)が読めること。これこそ、他サービスとの差別化となるU-NEXTの強みであり、とくにサブカル層などのエンターテインメント・コアファンからの満足度が高い(漫画77万冊、書籍34万冊、ライトノベル7万冊、雑誌200誌以上。無料と有料がある。漫画の無料は1万5000冊以上、15万話以上)。
一方、月額会費で見ると、TOP5のなかでU-NEXTは飛び抜けて高額だ。しかし、その55%ほどとなる1200円相当のポイントが毎月付加され、映画館チケットへの交換やサービス内のさまざまな有料コンテンツを楽しめる。
■月額会費は高額だがお得感があるU-NEXTのサービス
ファミリーには、配信で母親が映画やドラマ、父親がスポーツやバラエティを楽しみ、子どもは漫画やアニメの無料および有料コンテンツをポイントで視聴するといった利用が可能になる。また、邦画やアニメファンは、気に入った映画を配信またはポイントのチケット交換で映画館で鑑賞したあと、その原作漫画から、テレビアニメ、過去のシリーズ映画まで、サービス内の膨大なカタログ(旧作ラインナップ)のなかから、関連作品を掘り下げて楽しむことができる。
ファミリーやエンターテインメント好きにとっては、会費は高くてもしっかりと“元”を取れる、お得感のあるサービスなのだ。同層のサービス満足度は高く、継続率の高いロイヤルカスタマーが多いことがうかがえる。
〈配信メジャーTOP5の月額会費(会費の高い順)〉
U-NEXT:2189円
ディズニープラス:1140円(スタンダード)、1520円(プレミアム)
Hulu:1026円
Netflix:890円(広告なしスタンダード:1590円)
Amazonプライム・ビデオ:600円(広告なし:990円)
※2025年5月現在、税込み
■「ファンダム」を取り込むコンテンツ戦略で会員規模を拡大
U-NEXTの契約数の伸長の背景には、こうした特徴を武器にしたエンターテインメントファンへのアプローチによる会員獲得と同時に、ジャンルやコンテンツごとのファンダムをまるっと取り込む規模の拡大が、手法としてある。
後者のもっとも特徴的な動きが、前述のParavi統合だ。TBS、テレ東などの制作作品をそろえ、テレビドラマのコアファン層であり、約80万人と見られていた同会員を一気に取り込んだ。これにより、U-NEXT会員数は400万人ほどまで膨らみ、NetflixやAmazonプライムビデオとならぶ国内トップグループの一角となるポジションを確立した。
■三笘薫選手などが活躍するプレミアリーグの独占配信権を獲得
その翌年には、日本にも熱狂的なファンが多い世界最高峰のプロサッカーリーグ「プレミアリーグ(イングランド1部)」との7年間の全試合の独占配信権を獲得した(「ラ・リーガ(スペイン1部)」を含む)。同リーグには、三笘薫選手(ブライトン)や遠藤航選手(リヴァプール)、久保建英選手(レアル・ソシエダ)、浅野拓磨選手(マジョルカ)など日本人スター選手が活躍することで、ライト層のファンも増えている。2024年のU-NEXT会員数の伸びには、サッカーファンダムを囲い込んだことが大きく影響していることだろう。
そして今年はゴルフを強化。これまでに『マスターズ』と『全英オープン』を独占配信してきたが、新たに『全米オープン』『全米プロ選手権』の独占配信権を獲得し、男子ゴルフの海外メジャー4大会を独占配信することになった。女子ツアーでも『全米女子オープン』『全英女子オープン』『欧州女子ツアー』のほか、国内では『JLPGAツアー』『JLPGAステップ・アップ・ツアー』『クオリファイング・トーナメント・ファイナルステージ』などを独占配信する。
U-NEXTの堤天心社長によると、ゴルフファンは他ジャンルコンテンツの視聴割合が高いデータがあるという。ゴルフコア層の取り込みは、会員規模の上乗せとともに、ジャンルを超えるエンゲージメントの活性化が見込まれる。
それ以前にも、男子テニス世界ツアー「ATP Tour」のほか、国内コンテンツではRIZINやUFCなどの格闘技、プロ野球・横浜DeNAベイスターズ主催公式戦、バスケットボールB1リーグ全試合を独占配信し、それぞれジャンルごとのコアファンを囲い込んでいる。
こうしたスポーツを含めたオールジャンルの独占配信コンテンツの増強によるコア層の積み上げは、その幅広さでグローバルプラットフォームと一線を画する動きになっている。日本人の多様で細かなニーズをすくい上げて全体の規模を底上げする、国内産サービスのU-NEXTならではの戦略と言えるだろう。
■国内外の人気スポーツを配信し、他ジャンルとのシナジーも
ちなみにU-NEXTは、コロナ禍以降にスポーツのデジタル化が進むなか、他サービスに先駆けて同分野のコンテンツ取得に先行投資してきた。しかし、ここ最近で、AmazonプライムビデオやNetflixもグローバルにおいて「エンタメ×スポーツ」のサービス設計を強化している。この1~2年でさらに大きな動きになると見られ、今後、スポーツをめぐる市場競争はさらに激化していくことが予想される。
スポーツ専門のグローバルプラットフォーム・DAZNとの違いは、DAZNがあらゆるスポーツジャンルを網羅してラインナップするのに対して、U-NEXTやNetflix、Amazonプライムビデオなど総合エンターテインメントプラットフォームは、スポーツファンだけでなく一般層にも人気のある競技や社会的関心事となるスポーツイベントなど、シーズンやイベント、試合ごとなどショットで独占配信権を獲得していること(U-NEXTが独占配信権を獲得している「プレミアリーグ」などはDAZNでの日本国内の配信はない)。
■メジャー唯一の国内サービスであるU-NEXTの課題
一方、U-NEXTには、グローバルプラットフォームと比較した際のユーザーにとってのデメリットもある。
まず月額会費が高いこと。邦画やアニメなどエンターテインメント好きのコア層であれば、充実したラインナップからひとつの作品を幅広くも深くも掘り下げて楽しめるお得感があるが、話題の新作を楽しみたい若い世代をはじめとした一般層のライトなエンタメファンにとっては、敷居が高いだろう。U-NEXTはTOP5のなかで唯一、31日間の無料体験期間を設けているが(2025年5月現在)、高額な会費設定は一定のハードルになっていることがうかがえる。
そして、UI(ユーザーインターフェース)。サービスの使いやすさや見やすさといった利便性では、Netflixの評価が市場で頭ひとつ抜け出している。その部分のU-NEXTの評判は、世界中のデータからブラッシュアップを重ねるグローバルプラットフォームに劣っている。
加えて、もっとも大きなマイナスポイントになるのは、世の中的な話題になるオリジナルコンテンツが、現状は少ないことだ。
■Netflixには『新幹線大爆破』『地面師たち』のような独自作品が
Netflixは『新幹線大爆破』や『地面師たち』『極悪女王』などオリジナル作品で話題性の高いヒット作を継続的に生み出している。Amazonプライムビデオは、野球WBCや井上尚弥選手、那須川天心選手のプロボクシング世界タイトルマッチなどで社会的関心を集める。ディズニープラスは、ディズニースタジオのメジャー作品のほか、オリジナル韓国ドラマを量産しコアファンに支持されつつ、Snow Manのオリジナルバラエティ『旅するSnow Man』や柳楽優弥主演の『ガンニバル』など日本オリジナルタイトルの話題性も高い。
それに対してU-NEXTは、スポーツをはじめ音楽ライブなどの独占コンテンツは、グローバルプラットフォームのローカルプロダクションに引けを取らないラインナップを有している反面、オリジナルのドラマや映画では大きく後れを取っている。そここそが、世の中の話題になりやすいのに、だ。
■オリジナル原作から映像化へのエコシステムが始動
U-NEXTに欠けているのは話題性であり、それは映画やドラマのオリジナルエンターテインメント・コンテンツによるところが大きい。各グローバルプラットフォームは、そこからの一般層へのアプローチと優良なコンテンツによるロイヤルカスタマー化を市場シェア拡大のためのトッププライオリティにし、その制作や宣伝へ積極的に投資する。国産サービスであるU-NEXTとの予算規模の差は歴然としている。
そこでU-NEXTが仕掛けるのが、メディアミックスによるオリジナル制作だ。TBSやテレビ東京、カンテレなどテレビ局との共同制作によるオリジナルドラマの独占や先行配信のほか、「U-NEXTオリジナル書籍」や「U-NEXT Comic」の人気作品を原作にするドラマ化に取り組んできている。
後者では、オリジナル書籍発の第1弾ドラマ『団地のふたり』が昨年NHK BSで放送されたほか、「U-NEXT Comic」発の第1弾ドラマ『五十嵐夫妻は偽装他人』が今年1月にようやく完成し、独占先行配信とテレビ放送がスタートしたばかり。
また、製作幹事を務める映画『遠い山なみの光』(9月5日劇場公開)は今年の「第78回カンヌ国際映画祭」の「ある視点部門」にノミネートされた。ようやくU-NEXTオリジナルのドラマや映画のメジャーシーンの実績が生まれつつある。
U-NEXTが注力するオリジナルIPのメディアミックスによるドラマ化は、原作からの映像化をサービス内で完結するオリジナル作品のエコシステムとなり、そこからのヒットが続けば、収益化のビジネススキームも含めてU-NEXTならではの強みとなる。それはオリジナルコンテンツによる会員数増にもつながるだろう。
U-NEXTのオリジナルIPプロジェクトは、これまでの仕掛けがいままさに表に出てきているところであり、これから本格的な波に乗ろうとしている。
■日本人向けの利便性と汎用性の高さから続伸を期待
すでにレッドオーシャンと化している定額制動画配信の日本市場だが、近い未来に本格的な淘汰の時代が訪れることは間違いない。その際に生き残るサービスには何が求められるか。
現状のシーンでは、ユーザーは2~3の複数の動画配信サービスを契約し、使い分けている各種調査結果がある。サービス側としては、継続的にそこに入れるかだ。その選択のカギになるのは、見たい作品、ジャンル、お得なプランやキャンペーン、視聴体験の満足度であり、加えて、他にない特徴的なサービスを打ち出せるかだろう。
■配信業界のサバイバルレースで生き残れるか?
各サービスがそれぞれの強みとなるジャンルのオリジナルコンテンツを中心に特徴を打ち出すなか、U-NEXTは幅広いジャンルをカバーする豊富なコンテンツ数と、映像だけでなく他メディアのサービスを楽しめる汎用性の高いプラットフォームとしての利便性が武器になる。
飛び抜けた何かはないが、すべてがまんべんなくそろった便利さと、そこから好きなコンテンツの関連作品を幅広く掘り下げる楽しさがある。そんな特性が、ユーザーが契約する複数のサービスのひとつに選ばれていることが、現状の契約数の伸びに表れている。
U-NEXTは、国産サービスらしさを強みにして、ジャンルを超えた総合エンターテインメントプラットフォームとしての位置づけを確立しつつある。オリジナル作品の強化を進めるこれからは、引き続き契約数の伸びが期待できるだろう。
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武井 保之(たけい・やすゆき)
ライター
エンターテインメントビジネス・ライター、編集者。音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスで活動中。映画、テレビ、音楽、お笑いを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを分析や考察する。
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(ライター 武井 保之)