男女の関係を良好にするコミュニケーションは何か。セックスさえしていれば自分たちは円満だというのは思い込みだという。
■セックスをするとお互いをわかったつもりになる
カップルが抱える悩みの中でも、セックスレスに関する悩みは、近年とても増えています。
セックスの問題は、体の問題というだけでなく、二人の関係の問題であり、突き詰めればコミュニケーションの問題です。
コミュニケーションがうまくいっていないことが、結果としてセックスレスという形になっていることが少なくありません。
かつては、男女がお互いのことをよく知った先にセックスがあり、それは相手との心理的親密さと比例するものでもありました。
ところが、現在では男女の親密さと、セックスは別のものであることも少なくありません。
近頃では、相手のことをよく知らないにもかかわらずセックス、ということも珍しくないようです。かつてのように、少しずつ知り合い、徐々に親密になっていくという感覚はあまりなく、いきなり垣根を飛び越える感じです。
そうすると、お互いのことをよく理解しているわけでもないのに、セックスをして、なんとなくお互いのことを「わかっているようなつもり」になってしまいます。
セックスは、単に性欲だけの問題ではなく、日頃のストレスや悩みの程度、二人が共有できる時間と空間、結婚に対する価値観、自尊心、子どもの頃の親との関係や、両親の夫婦関係など、さまざまなことが複雑に絡み合っています。
■「セックスさえしていれば円満」は大間違い
どんなカップルであっても長い期間、同じパートナーとセックスをしていると、当然マンネリ化する可能性はあります。
そのときに、セックス以外のコミュニケーションで親密さが確認できると、頻度や回数は減ったとしても「セックスレス」ということにはなりにくいし、なったとしても回復は早いでしょう。
本当のコミュニケーションはとれていないのに、セックスさえしていれば自分たちは円満だと誤解しているカップルもいます。
ケンカのあとにはセックスをしてなんとなく仲直りし、肝心なことは話し合わないまま先送りにしてしまう。
つき合っているときにはそれでなんとかなっていたとしても、結婚後は、話し合って決めなければいけないこと、避けることができないことが山ほどあります。
それらをうまく解決できないと、パートナーに対する不満がつのり、セックスも回避したくなったりします。
「セックス」はあくまでも親密な関係の上に成り立つコミュニケーションのひとつの手段であり、“目的”ではないのです。
セックスに関する悩みが増えたときこそ、コミュニケーションの改善をはかることが、根本的な問題解決につながります。
■セックスについて話し合えていますか?
「セックスの頻度」ということがテレビや雑誌などでもしばしば取り上げられ、それがセックスに対する誤解を生んでいるということもあります。
ほかのカップルと自分たちを比較しても解決そのものにはつながらないでしょう。「頻度」を比べることに意味がないのと同じように、セックスの意味は人それぞれ、カップルによってもそれぞれです。
それが二人のあいだで一致し、納得できていれば頻度が少なくても問題とは認識されません。
ですが、二人の間でセックスに託す思いの“ずれ”について話し合えないと、どちらか一方だけが悩みを抱え込むといった問題が起こります。
たとえば、セックスレスについて、こんなふうに悩んでいる女性も少なくないのではないでしょうか。
「近頃、全然セックスがなくなっちゃったけど、どうしてかな……。私が女性として魅力がなくなって、飽きちゃったのかな。それとも浮気でもしているのかしら。でも、そんなことはっきり聞けないし、どうしよう。もう、このままずっとセックスがないままなのかしら……」
この女性が抱えている一番大きな問題は、セックスの頻度が減ったことでも、本人の魅力に関することでもなく、「面と向かって自分が悩んでいることを相談できない」こと。
■自分に魅力がないのか、飽きたのか、浮気しているのか
もしかしたら、パートナーは単に疲れていてセックスをする気になれないだけなのかもしれません。なのに「自分に魅力がないのか、飽きたのか、浮気しているのか」と、考えてもわからないことばかり気にしてしまっています。
カウンセリングに訪れて、ようやくセックスレスの問題について話し合うようになったカップルもいます。「お互いに真剣な話をすることを避けていたこと」に初めて気づいたのです。
お互いの考えていることを伝え合ったところ、
「そうか、もう彼は私に興味がないのかと不安だったけれど、本当にただ疲れているだけだったのね。仕事の状況も初めてちゃんと話してくれて、やっとどれだけ大変かを理解することができました」
「そうか、自分は単に疲れているからセックスしなかっただけだけど、女性のほうは、自分を女として愛してくれていないと悩んでしまうんですね。仕事のことも、よけいな心配をさせたくないと思って黙っていたけど、むしろ話したほうがいいんですね」
そんなふうにお互い理解し合い、歩み寄ることができました。
■パートナーの愛情を一瞬で冷ます「禁句」
パートナーの心を決定的に傷つけてしまうような「禁句」。
これは、つい口がすべってしまったり、そこまで相手が傷つくとは思わずに言っていることが多いのですが、言われたほうはなかなか忘れられないものです。
とくに近頃の相談の中で多いのは、「彼女の言葉によって男としてのプライドを傷つけられた」というもの。
一般的に、女性は何か傷つくことを言われると敏感に反応し、「ひどい」「傷つけられた」と主張します。
それに比べて男性は、「自分がこんなふうにショックを受けた」「その言葉によってこんなつらい思いをしている」ということをパートナーに伝えることが苦手です。
「そんなことを言われたくらいで、いちいち傷つくなんて男らしくない」と自制心がはたらいて我慢してしまったり、傷ついている自覚がないまま、無意識のうちにパートナーに対する不満をどんどんため込んでいくということも。
だからこそ、言ってしまった女性も気づかないことが多いのです。
気づいたときには手遅れ……ということにならないために、「言ってはいけない言葉」を次にまとめておきます。
■女性は拒否されたり関心を持たれていないと傷つく
◇男性に言ってはいけない言葉
男性は、“パフォーマンスに関わること”に対する言葉に傷つくといわれます。
つまり、収入や地位、セックスに関する評価、何かができる・できない、という能力など。そういうものに関して責められたり、人と比較されたりすると「男としてのプライド」が保てず、傷つき、怒りを感じ、それを言った相手に対し、不信感を抱きます。
「こんな安月給じゃあ幸せな生活なんてできないよ」
「昔の彼のセックスのほうがよかった」
「あなたと結婚したのは失敗だったかも」
これはどれもかなりきつい言葉です。
◇女性に言ってはいけない言葉
一方、女性の場合はパフォーマンスに関することよりも、自分と相手とのつながりが感じられないこと、拒否されたり関心を持たれていないと感じることに傷つきます。
パートナーが、自分の立場に立って共感的に話を聴いてくれないという不満を多くの女性は持つものです。
「そんなこと自分で考えろよ」
「グチグチ言ってたってしょうがないんだから、結局どうしたいわけ?」
などと言われると突き放されたような気持ちになります。
毎日の服装や食事の工夫などちょっとした変化に対して、コメントや言葉がないことも、深く傷つくことにつながります。
これらは、女性にとって「存在を認められていないこと」と同じになり、自尊心が傷つけられるのです。
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平木 典子(ひらき・のりこ)
臨床心理士、家族心理士
1936年生まれ。津田塾大学英文学学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニング(自分も相手も大切にしながら行う自己表現)の第一人者。立教大学カウンセラー、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授を歴任。1995年、IPI統合的心理療法研究所を創設。主な著書に、『図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術』『図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術』(PHP研究所)、『アサーション入門』(講談社)ほか、多数。
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野末 武義(のずえ・たけよし)
明治学院大学心理学部心理学科教授
家族心理士、臨床心理士、公認心理師。1964年生まれ。立教大学文学部心理学科卒業。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了(教育学修士)。医療法人社団草思会錦糸町クボタクリニック、立教大学池袋学生相談所、国立精神・神経センター精神保健研究所などを経て、現職。IPI統合的心理療法研究所所長。主な著書に『夫婦・カップルのためのアサーション』(金子書房)、『家族心理学 家族システムの発達と臨床的援助 第2版』(共著、有斐閣ブックス)、『マインドフル・カップル』(監訳、金剛出版)などがある。
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(臨床心理士、家族心理士 平木 典子、明治学院大学心理学部心理学科教授 野末 武義)
臨床心理士の平木典子さん、明治学院大学心理学部心理学科教授の野末武義さんの共著『大切な人とうまくいく「アサーション」』(三笠書房)より紹介しよう――。
■セックスをするとお互いをわかったつもりになる
カップルが抱える悩みの中でも、セックスレスに関する悩みは、近年とても増えています。
セックスの問題は、体の問題というだけでなく、二人の関係の問題であり、突き詰めればコミュニケーションの問題です。
コミュニケーションがうまくいっていないことが、結果としてセックスレスという形になっていることが少なくありません。
かつては、男女がお互いのことをよく知った先にセックスがあり、それは相手との心理的親密さと比例するものでもありました。
ところが、現在では男女の親密さと、セックスは別のものであることも少なくありません。
近頃では、相手のことをよく知らないにもかかわらずセックス、ということも珍しくないようです。かつてのように、少しずつ知り合い、徐々に親密になっていくという感覚はあまりなく、いきなり垣根を飛び越える感じです。
そうすると、お互いのことをよく理解しているわけでもないのに、セックスをして、なんとなくお互いのことを「わかっているようなつもり」になってしまいます。
セックスは、単に性欲だけの問題ではなく、日頃のストレスや悩みの程度、二人が共有できる時間と空間、結婚に対する価値観、自尊心、子どもの頃の親との関係や、両親の夫婦関係など、さまざまなことが複雑に絡み合っています。
■「セックスさえしていれば円満」は大間違い
どんなカップルであっても長い期間、同じパートナーとセックスをしていると、当然マンネリ化する可能性はあります。
そのときに、セックス以外のコミュニケーションで親密さが確認できると、頻度や回数は減ったとしても「セックスレス」ということにはなりにくいし、なったとしても回復は早いでしょう。
本当のコミュニケーションはとれていないのに、セックスさえしていれば自分たちは円満だと誤解しているカップルもいます。
ケンカのあとにはセックスをしてなんとなく仲直りし、肝心なことは話し合わないまま先送りにしてしまう。
つき合っているときにはそれでなんとかなっていたとしても、結婚後は、話し合って決めなければいけないこと、避けることができないことが山ほどあります。
それらをうまく解決できないと、パートナーに対する不満がつのり、セックスも回避したくなったりします。
「セックス」はあくまでも親密な関係の上に成り立つコミュニケーションのひとつの手段であり、“目的”ではないのです。
セックスに関する悩みが増えたときこそ、コミュニケーションの改善をはかることが、根本的な問題解決につながります。
■セックスについて話し合えていますか?
「セックスの頻度」ということがテレビや雑誌などでもしばしば取り上げられ、それがセックスに対する誤解を生んでいるということもあります。
ほかのカップルと自分たちを比較しても解決そのものにはつながらないでしょう。「頻度」を比べることに意味がないのと同じように、セックスの意味は人それぞれ、カップルによってもそれぞれです。
それが二人のあいだで一致し、納得できていれば頻度が少なくても問題とは認識されません。
ですが、二人の間でセックスに託す思いの“ずれ”について話し合えないと、どちらか一方だけが悩みを抱え込むといった問題が起こります。
たとえば、セックスレスについて、こんなふうに悩んでいる女性も少なくないのではないでしょうか。
「近頃、全然セックスがなくなっちゃったけど、どうしてかな……。私が女性として魅力がなくなって、飽きちゃったのかな。それとも浮気でもしているのかしら。でも、そんなことはっきり聞けないし、どうしよう。もう、このままずっとセックスがないままなのかしら……」
この女性が抱えている一番大きな問題は、セックスの頻度が減ったことでも、本人の魅力に関することでもなく、「面と向かって自分が悩んでいることを相談できない」こと。
■自分に魅力がないのか、飽きたのか、浮気しているのか
もしかしたら、パートナーは単に疲れていてセックスをする気になれないだけなのかもしれません。なのに「自分に魅力がないのか、飽きたのか、浮気しているのか」と、考えてもわからないことばかり気にしてしまっています。
カウンセリングに訪れて、ようやくセックスレスの問題について話し合うようになったカップルもいます。「お互いに真剣な話をすることを避けていたこと」に初めて気づいたのです。
お互いの考えていることを伝え合ったところ、
「そうか、もう彼は私に興味がないのかと不安だったけれど、本当にただ疲れているだけだったのね。仕事の状況も初めてちゃんと話してくれて、やっとどれだけ大変かを理解することができました」
「そうか、自分は単に疲れているからセックスしなかっただけだけど、女性のほうは、自分を女として愛してくれていないと悩んでしまうんですね。仕事のことも、よけいな心配をさせたくないと思って黙っていたけど、むしろ話したほうがいいんですね」
そんなふうにお互い理解し合い、歩み寄ることができました。
■パートナーの愛情を一瞬で冷ます「禁句」
パートナーの心を決定的に傷つけてしまうような「禁句」。
これは、つい口がすべってしまったり、そこまで相手が傷つくとは思わずに言っていることが多いのですが、言われたほうはなかなか忘れられないものです。
とくに近頃の相談の中で多いのは、「彼女の言葉によって男としてのプライドを傷つけられた」というもの。
一般的に、女性は何か傷つくことを言われると敏感に反応し、「ひどい」「傷つけられた」と主張します。
それに比べて男性は、「自分がこんなふうにショックを受けた」「その言葉によってこんなつらい思いをしている」ということをパートナーに伝えることが苦手です。
「そんなことを言われたくらいで、いちいち傷つくなんて男らしくない」と自制心がはたらいて我慢してしまったり、傷ついている自覚がないまま、無意識のうちにパートナーに対する不満をどんどんため込んでいくということも。
だからこそ、言ってしまった女性も気づかないことが多いのです。
気づいたときには手遅れ……ということにならないために、「言ってはいけない言葉」を次にまとめておきます。
■女性は拒否されたり関心を持たれていないと傷つく
◇男性に言ってはいけない言葉
男性は、“パフォーマンスに関わること”に対する言葉に傷つくといわれます。
つまり、収入や地位、セックスに関する評価、何かができる・できない、という能力など。そういうものに関して責められたり、人と比較されたりすると「男としてのプライド」が保てず、傷つき、怒りを感じ、それを言った相手に対し、不信感を抱きます。
「こんな安月給じゃあ幸せな生活なんてできないよ」
「昔の彼のセックスのほうがよかった」
「あなたと結婚したのは失敗だったかも」
これはどれもかなりきつい言葉です。
◇女性に言ってはいけない言葉
一方、女性の場合はパフォーマンスに関することよりも、自分と相手とのつながりが感じられないこと、拒否されたり関心を持たれていないと感じることに傷つきます。
パートナーが、自分の立場に立って共感的に話を聴いてくれないという不満を多くの女性は持つものです。
「そんなこと自分で考えろよ」
「グチグチ言ってたってしょうがないんだから、結局どうしたいわけ?」
などと言われると突き放されたような気持ちになります。
毎日の服装や食事の工夫などちょっとした変化に対して、コメントや言葉がないことも、深く傷つくことにつながります。
これらは、女性にとって「存在を認められていないこと」と同じになり、自尊心が傷つけられるのです。
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平木 典子(ひらき・のりこ)
臨床心理士、家族心理士
1936年生まれ。津田塾大学英文学学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニング(自分も相手も大切にしながら行う自己表現)の第一人者。立教大学カウンセラー、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授を歴任。1995年、IPI統合的心理療法研究所を創設。主な著書に、『図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術』『図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術』(PHP研究所)、『アサーション入門』(講談社)ほか、多数。
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野末 武義(のずえ・たけよし)
明治学院大学心理学部心理学科教授
家族心理士、臨床心理士、公認心理師。1964年生まれ。立教大学文学部心理学科卒業。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了(教育学修士)。医療法人社団草思会錦糸町クボタクリニック、立教大学池袋学生相談所、国立精神・神経センター精神保健研究所などを経て、現職。IPI統合的心理療法研究所所長。主な著書に『夫婦・カップルのためのアサーション』(金子書房)、『家族心理学 家族システムの発達と臨床的援助 第2版』(共著、有斐閣ブックス)、『マインドフル・カップル』(監訳、金剛出版)などがある。
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(臨床心理士、家族心理士 平木 典子、明治学院大学心理学部心理学科教授 野末 武義)
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