幸せな結婚に必要なことは何か。「もっといい人がいるのでは」と過度の依存心と無力感があると、結婚相手を決めることができない要因になるという。
臨床心理士の平木典子さん、明治学院大学心理学部心理学科教授の野末武義さんの共著『大切な人とうまくいく「アサーション」』(三笠書房)より紹介しよう――。
■「結婚に至るまでの間に相手を見定める」は大間違い
恋愛時代を経て、結婚を考えるとき――。
悩みすぎて一歩も前に進めなくなってしまうのは考えものですが、そのときこそ「考えておくべきこと、大切にするべきこと」があります。
そこをおろそかにしてしまうと、せっかく結婚しても、その後の二人の生活にマイナスの影響が出てしまうことも少なくありません。
恋愛も結婚も、相手あってのもの。
「この人は私を幸せにしてくれるだろうか?」

「専業主婦になりたい。この人で大丈夫?」

「将来は自分の実家の近くに住みたい。子育てするなら年収だってこれくらい必要。本当に結婚してもいい?」
と、さまざまなことを考えると思います。
このとき、多くの人が陥りがちな落とし穴は、“相手”にばかり焦点を当ててしまうこと。
結婚後、ケンカが絶えないカップルにも共通することですが、“相手が自分に何を与えてくれるか”“相手がどうなのか”といったことに目を奪われていると、思い通りにならないことが起こったときに、ストレスをいっそう強く感じます。
基本は、“自分はどうなのか”ということです。

恋愛が始まったときから、結婚に至るまでの間に、一番やってほしいことは、実は相手を見定めることではなく“自分を知ること”なのです。
■不安や焦りの要因は相手に焦点を当てすぎている
「なぜ専業主婦になりたいんだろう。家庭を守りたいから? ラクだと思うから?」

「私は結婚相手とどういう関係を築きたいんだろう」

「どんな人生を送っていきたいんだろう」

「パートナーがもしリストラにあったら、私には何ができるだろう」
と考えて、相手に向いていた意識を自分に引き戻すと、自分が本当は何を求めているのか、大切にしているのかが見えてくるでしょう。
もしかしたら、今はまだ結婚するよりも、仕事をもっとがんばりたいことがわかるかもしれません。
あるいは、「幸せにしてもらうこと」ばかり考えていて、幸せな夫婦になるための自分の責任については考えていなかったことに気づくかもしれません。
そうすると結婚を焦る気持ちがなくなり、もう一度結婚について考え直す余裕が出てくることも。
また、「この人は私と結婚する気があるの? ないの?」と悶々とするよりも、相手と話し合ったり、今、一緒にいるパートナーとの関係を深めるためにエネルギーを使うことができるかもしれません。
不安にとりつかれたり、わけもなく焦るときは、「相手」に焦点を当てすぎている証拠。“私”に立ち戻りましょう。自分の気持ちや価値観が確かめられ、自ら前に進めるでしょう。
■「ほかにいい人がいるのでは」と思ってしまうなら
心の中に“もっともっと……”という気持ちが棲みついたら。
長年つき合っているパートナーがいる人や、今現在のパートナーとの結婚生活を考えている人は、
「私が結婚するべき相手は、この人じゃないのかな。
もっといい人がいるんじゃないだろうか?」
そんなふうに思ってしまうこともあるでしょう。
この「もっといい人がいるのでは」という思いはなかなかやっかいです。
そんなぼんやり漠然としたイメージや希望が強いと、なかなか結婚を決められないまま、同じような別れをくり返してしまうことも少なくありません。
自分では「平凡でもいいから、幸せな家庭を築きたい」と思っているつもりなのに、友達から「あなたって理想が高すぎるのよ」と言われるようなタイプです。
こうした人の心の中を見てみると、自己愛が強すぎる人、もしくは逆に自分に自信がない人、または、その両方を同時に持っていて「自分に自信はないけれど、自分を大事にしすぎている人」もいます。
自己愛が強く、自己評価が高すぎる人は、「この人は私につり合わない。もっといい人がいるのでは」と思いがちです。
■幸せになるまでの道筋の半分は、自分の力でなんとかできる
一方、自信がなくて自己評価が低い人は、相手に求める気持ちが強いために「もっと安心できるいい人がいるのでは」と考えます。
自分が小さく、力のある人に守られたいと思い、より確実に自分を引き上げてくれる人、頼りになる人を求めてしまうわけです。
いずれのタイプにしても、その根底には「誰かに幸せにしてもらいたい」という強い思いがあり、結婚相手を決めることができない要因になるのです。
「結婚してから続く長い生活が、相手しだいで天国にも地獄にもなる」と考えると、誰だって怖くて結婚相手は選べません。
そこには、過度の依存心と無力感があるのです。

「相手から幸せにしてもらおう」ということは、自分が幸せになれるかどうかのすべての責任を、相手に負わせてしまっているということ。
一見ラクそうですが、実は相手に翻弄されることにつながり、不安や不満を持ちやすい考え方なのです。
「結婚生活がうまくいくかどうか、責任の半分は自分にある」と考えると、幸せになるまでの道筋の半分は、自分の力でなんとかできることになります。
こう考えると、実は相手に100%ゆだねてしまうよりも、心が軽くなります。
■“あなたよりもいい人”もたくさんいるかもしれない
「責任」というのは、責められたり押しつけられたりするものではなく、「自ら自分の分担を引き受ける」ということだからです。
結婚相手に迷ったとき、「この人で本当にいいの?」と思ったときは、「どんな結婚生活になるかは半分は自分しだい」と考えると不安や焦りに支配されずにすみます。
最後につけ加えるなら、
「確かにこの世には“今の相手よりもいい人”はたくさんいるかもしれない。それと同じく、相手にとっても“あなたよりもいい人”はたくさんいるかもしれない」
ということ。身もフタもないと思われるかもしれませんが、これが真実。
相手の物足りないところばかりが目につくときは、自分自身を見失っているときなのです。
「私にはこんなダメなところもあるけれど、私は私なりにできることもある」というように、自分を振り返り、自分を客観的に見るようにしてください。
そうすると、自然と相手のいいところ、悪いところがどちらも平等に見えてきて、冷静な判断をすることができるでしょう。


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平木 典子(ひらき・のりこ)

臨床心理士、家族心理士

1936年生まれ。津田塾大学英文学学科卒業後、ミネソタ大学大学院に留学し、カウンセリング心理学を専攻(教育心理学修士)。帰国後、カウンセラーとして活躍する一方、後進の指導にあたる。日本におけるアサーション・トレーニング(自分も相手も大切にしながら行う自己表現)の第一人者。立教大学カウンセラー、日本女子大学教授、跡見学園女子大学教授を歴任。1995年、IPI統合的心理療法研究所を創設。主な著書に、『図解 相手の気持ちをきちんと〈聞く〉技術』『図解 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術』(PHP研究所)、『アサーション入門』(講談社)ほか、多数。

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野末 武義(のずえ・たけよし)

明治学院大学心理学部心理学科教授

家族心理士、臨床心理士、公認心理師。1964年生まれ。立教大学文学部心理学科卒業。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了(教育学修士)。医療法人社団草思会錦糸町クボタクリニック、立教大学池袋学生相談所、国立精神・神経センター精神保健研究所などを経て、現職。
IPI統合的心理療法研究所所長。主な著書に『夫婦・カップルのためのアサーション』(金子書房)、『家族心理学 家族システムの発達と臨床的援助 第2版』(共著、有斐閣ブックス)、『マインドフル・カップル』(監訳、金剛出版)などがある。

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(臨床心理士、家族心理士 平木 典子、明治学院大学心理学部心理学科教授 野末 武義)
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