■受験校との相性は重要である
受験は人生の一大事である。どういった学校に合格するかで、その後の人生が決まってくるからである。
重要なのはどの学校を選ぶかで、目安になるのは偏差値になる。自分の偏差値に見合った学校を選ぶのが、今の基本のやり方だろうが、意外に重要なのは子どもと学校との「相性」である。
私は二度結婚し、それぞれ娘がいるが、二人目の娘が高校を受験したときのことである。都立日比谷高校が娘の第一希望で、他に国際基督教大学(ICU)と別の有名私立大学の付属校を受験した。偏差値としてはその付属校が一番低い。
日比谷高校には無事合格し、ICUにも受かった。ところが、付属校には落ちている。意外な結果だったが、本人に聞いてみると、その学校の“過去問”が苦手だったという。
そこに学校との相性が示されている。受験問題には、それぞれの学校の個性が表れる。
■東大合格のための「文章術」
たとえば、東大と京大といえば、国立の最難関校だが、受験問題は相当に違う。しかも、ずっと形式が変わっていない。京大の国語だと、問題はオーソドックスで、どれだけの読解力があるかが試される。
それに対して、東大の問題は、大学の側が正解はないと公言しているように、読解力とともに柔軟な表現力が求められる。その分、どう勉強していいか、戸惑う受験生もいることだろう。
簡単に言えば、出だしから主張がはっきりした回答を書く必要がある。予備校や参考書の模範解答は、文章をただつなぎ合わせた無難なものが多く、それを見るたびに、これでは合格はおぼつかないと、卒業生である私などは思う。
日比谷高校に合格した娘は、東大を受験することになったのだが、その時、コロナ禍で時間に余裕があったせいもあり、こうした東大に合格するための「文章術」については自宅で教えた。これはなかなか高校では習えないことで、英語の文章問題にも役立つので、これにはかなり力を入れた。
採点するのは東大の先生たちであり、彼らは研究者だ。研究者がどういう文章を書くのか、そのモデルになるような本も何冊か読ませた。
■受験も「二兎を追う者は一兎をも得ず」
もちろん、どの家でも親が家庭教師になれるわけではない。そのときには、第一志望の大学の現役の学生を家庭教師に雇えばいい。予備校に通わせ、授業を受けるよりも、そのほうがはるかに効率的である。
基本、受験勉強は第一志望の学校の対策に絞るべきだ。学校によって、試験問題の傾向は大きく違うので、対策も異なる。まさに「二兎を追う者は一兎をも得ず」のたとえの通りだ。
たとえば、早稲田の政経学部は2021年度から、数学を必須とするなど、試験の内容を大きく変えた。数学が得意な受験生にはいいが、不得意な文系の受験生にはそれが壁になった。その点で、東大の文系を狙う受験生に、併願しやすい場合と、しにくい場合が生まれた。
私など、東大の当時の二次試験で数学は一問だけ算数で解いたくらいで、25点以下だったはずだ。そんな数学が必ずしも得意ではない東大文系をめざす受験生には、早稲田の政経のために勉強するのは時間の無駄だし、受かるはずもない。
■キャンパス訪問や卒業生で相性チェック
その学校との相性を見極めるためには、やはり実際にその学校を訪れてみることだ。
一つは学園祭がその機会になる。学園祭を運営するのは、その学校の学生や生徒になるわけだから、それでどういう学校なのかがわかる。
もう一つはオープンキャンパスで、特にそこで行われる模擬授業は貴重な機会になる。
大学の先生の場合、研究に力を入れていて、それが得意だという人もいるが、一方で、授業が得意で、むしろそちらに力を注いでいる人たちもいる。
オープンキャンパスで模擬授業を積極的に行うのは後者の先生たちになり、その学校のエース級が登場することは珍しくない。その分、模擬授業は面白いはずだ。
「こんな先生に習いたい」。そんな先生を見出すことができたとしたら、学校との相性はいいに決まっている。
親であるなら、自分の周囲を見回してみればいい。
早稲田と慶應は私学の最難関校になるわけだが、卒業生を見ていると、違いは大きい。早稲田の卒業生は、大学でろくな教育を受けた経験がないと必ず言い放つ。その分、組織に縛られない自由さ、奔放さがある。
それに対して、慶應の場合には、これは私が研究したことのある同窓会の三田会が強力なところに示されているように、組織の中で円滑に活動することを得意としている。
■考慮すべき意外なポイントの一つ
大学に入る前から、その人物にそうした違いがあるのか、それとも大学での教育の結果なのか、そこは判断が難しいところである。
ただ、中高一貫校の場合、真面目な生徒が開成に行き、より個性的な生徒が麻布に行くらしい。それは、東大に入った二つの学校の卒業生の親にも言えることである。
なぜそれを私が知ったかと言えば、無事に東大に入った娘がアメリカンフットボール部に所属し、トレーナーをしていたからである。東大合格の発表は、一緒にネットで見たが、信じられないと、わざわざ高校に出かけて、先生に確認してもらっていた。
そのアメフト部で、開成ママと麻布ママに接した。
周囲に子どもが目指している学校の卒業生がいないこともある。それは、親子が今生きている世界と、その学校の入学者と卒業生が作る世界との間に距離があることを意味しており、それは相性にも影響する。これは絶対ではないが、考慮すべきポイントの一つである。相性の悪い学校に進むと、居心地は悪いし、下手をすると卒業できなかったりする。
■生成AIに「お勧めの学校は?」
最近では、学校との相性をはかる道具として生成AIが使えるようになってきた。これがかなり役に立つ。月々3000円程度の有料版がお勧めだが、そこに子どもがどういった性格で、勉強に対する取り組み方はどうかを入力してみると、学校名まで挙げてくれる。
ちなみに、私の孫の男の子は、最近中高一貫校を受験した。勉強はでき、実際、小6の夏休みは親が驚くほど勉強したのだが、それ以降、塾には通っても、家ではまったく勉強しなくなった。
とにかく「遊びたい」の一点張りで、その結果、第一志望にも第二志望にも受からなかった。
生成AIは、間違った情報を出してくることもあるが、今ではそこが改善された。何しろ何度聞いても、親切に答えてくれる。子どもと一緒に生成AIに受験相談をしてみるのも、今風の受験対策である。
大切なのは、親が子どもの特徴をしっかりおさえることだ。その点については、塾や予備校任せにはできない。本人の性格と学校との相性、親子で探っていくべきはそのことである。
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島田 裕巳(しまだ・ひろみ)
宗教学者、作家
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。
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(宗教学者、作家 島田 裕巳)