老後を健康に過ごすには、どうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「中高年の多くは栄養が足りていない。
免疫力が落ちれば、一気に老化が進んでしまうだろう。ヨボヨボな老人にならないために、ぜひ毎日飲んでほしい飲み物がある」という――。(第1回)
※本稿は、和田秀樹『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■中高年はたんぱく質と脂質が不足している
高齢者専門の精神科医の私から見て、中高年の多くは圧倒的に栄養が不足しています。それには2つの理由があって、1つは年齢とともに消化力が落ちて食事量が減ること。もう1つは「健康のために」「病気になりにくいから」と、「これは食べる」「これは食べない」という偏食です。こうした食習慣が招いてしまうのが低栄養。そして、これがどれだけ中高年にとって危険なことか……。
特に中高年以降に不足しがちな栄養素は、たんぱく質と脂質。多くの人にとって、たんぱく質が多く含まれる肉などが消化に負担がかかるため摂取量が減り、野菜などを中心にした食生活にシフトする傾向にあるようです。
たんぱく質は筋肉をつくる大切な栄養なので、不足すると足腰が真っ先に弱くなります。そして、ここから畳みかけるように老化が始まります。
歩くのがしんどくなって外出や人に会う機会、会話が減って認知機能が落ちる、内臓も弱くなる、肌も衰えるなどヨボヨボまっしぐらです。
■高齢者がヨボヨボになるのは理由がある
脂質については、コレステロール値を気にして摂取量を抑えることを意識する人が増えます。しかし、コレステロール値が低く基準値に近ければ近いほうが安心というのは大きな勘違い。コレステロール値は高齢になれば基準値より高いくらいが病気になりにくいのですから。
また、コレステロールは免疫細胞の材料であるにもかかわらず、避けてしまうことで免疫機能を低下させてしまいます。すると、感染症や病気のリスクが高まり、イキイキから遠ざかってしまうのです。
こうした低栄養や免疫機能の低下に加えて、ボケること、病気や死ぬことなど、高齢になると健康が失われていくことに過剰な恐怖心を抱き、病院通いが始まって薬が増えていくことも、ヨボヨボを加速している場合があります。
薬は病気を治すためのものだから悪いわけではないけれど、薬頼みは副作用の危険性もあるので考えものです。例えば、骨粗しょう症の薬に頼りすぎて胃腸障害を起こす、認知症の薬で失禁症になる。それに気づかず、胃腸や失禁症を改善する薬を出してしまう医者もいます。薬ループにはまり、薬漬けから抜けられません。
このように、高齢者にはヨボヨボになる理由がそろっているのです。

■元気で長生きの秘訣は「栄養状態をよくすること」
そしてもうひとつ、高齢者の不健康に拍車をかけたのは、新型コロナウイルスが蔓延していた時期に、「外出は控えて」と家の中に閉じ込めたことです。日本の医療はこれで大丈夫なのか、と疑問でなりません。
2020年4月に緊急事態宣言が発令され、移動や人と話す自由が大きく制限されました。特に高齢者に対しては、感染しないことを最優先として、家の中に閉じ込めようとしたのです。その結果、足腰が弱り、ひとり暮らしの方は会話をする機会が減りました。また、大切な家族と会えない、最後かもしれない旅行もできず、人生の娯楽を奪われたことでヨボヨボになった高齢者が増えたのです。
その後はアルコール消毒やマスクの着用が推奨され、日常的にウイルスや細菌に接する機会が激減。免疫系が十分に訓練されず、免疫機能の低下につながったのだと思います。
医療は病気を治すためのもので、治療や薬でしんどい症状を改善します。しかし、人を元気にするのは医療ではなく、栄養や免疫、そして娯楽なのです。元気で長生きするのに必要なのは、病気にならないように薬を飲む、粗食や偏食にするその前に、栄養状態をよくして免疫機能を上げて楽しく過ごすことなのです。
■プロテインでは補えない
栄養状態がよければ、年齢よりも若々しく見えるはずです。
野菜に重きをおくのではなく、不足しがちなたんぱく質をしっかりとれていれば、肌や髪は若々しく、血管や筋肉も強くて老けづらい。血管が丈夫なら脳出血などにもなりにくい。さらに、筋肉があれば颯爽と歩けて加齢に伴う筋肉の減少や筋力の低下(サルコペニア)の防止や、脳の活性化にもつながり認知症のリスクも下がります。
無意味に嫌ったコレステロールをしっかりとれば、免疫機能が高まって病気のリスクは減るし、女性ホルモンや男性ホルモンが活性化して意欲にあふれ、人付き合いを大切にするようになります。漠然と健康への不安を抱えるより、栄養状態を底上げするほうが、イキイキと健康長寿を全うするためには建設的なのです。
しかし、高齢になると食が細くなるのも事実。「肉は苦手なので、プロテインや豆腐でもいいですか?」と聞かれることがあります。結論から言うと「NO」。
プロテインは確かにたんぱく質の摂取量を確保できますが、それ以外の栄養素はあまり期待できません。豆腐も良質なたんぱく質ではありますが、高齢者に大切な免疫やホルモンの材料となるコレステロールがとれません。
■「牛乳」がよい理由
こういうときに便利なのが「牛乳」です。牛乳には次のようなよさがあります。

・五大栄養素が含まれていて完全栄養食に近い

・不足しがちなたんぱく質を補いやすい

・免疫細胞の材料となるコレステロールがとれる

・骨の材料であるカルシウムの吸収率が高い

・消化の負担が小さく、食欲がないときでも飲みやすい

・歯が悪くても飲める

・朝飲めばよい睡眠に導かれ、昼飲めば活動的に、夜飲めば骨が健康になる

・水分補給代わりに手軽にとれる

・コーヒー、ココア、いちごやキウイなどを入れてもおいしい

・塩と相性がよくて料理にも使える

・ヨーグルト、バター、生クリームなど、身近な乳製品でも同様の栄養がとれる

・スイーツの材料にもなるので、甘いものを食べて幸せになれる
こうした強みがあることが、私が中高年に牛乳をすすめる理由です。ぜひとも「毎日牛乳」を実践してみてください。イキイキと過ごすための第一歩になります。
■80歳以上の半数が“たんぱく質不足”
たんぱく質をとることが大切なのはどの世代も共通ですが、中高年には特に積極的に優先してとってほしい栄養素です。ところが年齢に反比例するように中高年のたんぱく質の摂取量は少なくなります。欧米でさえ、80歳以上の高齢者の半数がたんぱく質不足という調査結果が出ています。
では、なぜ年を重ねるとたんぱく質の摂取量が不足するのか? それは食事量が総体的に減るからです。なかでもたんぱく質が多く含まれる肉をあまり食べなくなる傾向があるようです。年齢とともに消化しづらく、もたれやすくなるのが理由でしょう。
では実際、たんぱく質はどれくらいとればよいのでしょうか? 1日のたんぱく質の摂取目標量の目安として、少なくとも体重1kgあたり1g以上が望ましいと私は考えています。例えば、体重60kgの人であれば60g。これはあくまでも最低限の量になります。
中高年以降はたんぱく質の吸収がうまくできなかったり、とれていても体内でうまく使えなかったりする人のなんと多いことか!
ですから、意識して多めにとることを私は強くおすすめします。高齢者なら、体重1kgあたり1.2gを目安に、60kgの人ならできれば72gを目指してほしいところです。
■「毎日牛乳」を心がけてほしい
たんぱく質の摂取量が少ないと、高齢者にはどんな健康面のリスクがあると思いますか?
みなさんがまずイメージするのは筋肉量が減ることですよね。筋肉量が減ると、歩く速度が遅くなって信号機が青から赤に変わる間に横断歩道を渡り切れない、握力が弱くなってペットボトルのふたが開けられない、階段の上り下りがしんどいなど、日常生活が不便になります。また、筋肉量が減ることで、すでにある筋肉をエネルギーとして使おうとして、もともとある筋肉を分解してしまうため、さらなる筋肉量の減少を引き起こすのです。
たんぱく質不足は、中高年以降の人にとっては健康を脅かす大きなリスクがあります。肉をたくさん食べるのはしんどいというときでも、牛乳はお手軽なお助け食品になります。胃腸が弱い人や食欲がなくても比較的飲みやすく、ラクにたんぱく質を補給できます。「毎日牛乳」を心がけ、水代わりに飲んでほしいくらいです。
■コレステロール値は高めがいい
中高年にさしかかって以降、多くの人たちからなにかと嫌われがちなコレステロール。牛乳を飲みたくないという人の中には、コレステロール嫌いな人も多くいます。それは、コレステロール値が高いと動脈硬化が進んで心筋梗塞になりやすいという思い込みからでしょう。

「コレステロール値は高めがいい」は、近年においては常識中の常識。そういった疫学データが世界中でいくつも出ています。
コレステロールは人間の細胞を包み、外部の有害なものから守る細胞膜をつくっています。コレステロールが不足すれば、細胞の再生がスムーズにいかず、内臓や筋肉、肌など瞬く間に老化が進み、病気のリスクが高まります。
また、コレステロールは免疫細胞の重要な材料。免疫細胞の一つであるNK(ナチュラルキラー)細胞は、がん細胞の元となるものを追い払う役割があります。
最近の考え方だと、極悪非道のように扱われている内臓脂肪の細胞は免疫細胞をつくり出しているといわれるようになりました。私の肌感ではありますが、内臓脂肪が多くておなかがぽっちゃりしている人のほうが免疫力は高い、そう感じています。
■牛乳は最強の飲み物である
だから「コレステロール値が高い=カロリーが高い=食べると太る」という方程式のもと、肉や乳製品は控えるのは、高齢者にとってはかえって危険なように思います。
さらには女性ホルモンや男性ホルモンも、コレステロールが材料になります。男性ホルモンが減れば性欲は衰え、意欲もなくなり、人付き合いが減って老け込んで、なれの果ては孤独な老人になってしまいます。女性ホルモンが減ってしまえば、更年期の症状が強く出たり、骨粗しょう症のリスクが高まったりします。
だからコレステロール値を下げることばかり考えた食生活は危険です。コレステロール値が高いからと、牛乳が嫌われものになっていたのは今は昔、過去の話です。
しかもコレステロールは乳製品以外でも、大切なたんぱく質源となる肉や魚、卵といった動物性の食品に多く含まれています。コレステロール以外の栄養素を考えると、豆乳やアーモンドミルク、オーツミルクやココナッツミルクといった第三のミルクもいいのですが、コレステロールに関してはこれらの第三のミルクではカバーできません。やはり「牛乳が最強」です。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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