ヨボヨボな老人にならないためには、どうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「老化を防止したいなら牛乳を飲むといい。
※本稿は、和田秀樹『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■牛乳は「コレステロール値が高い」と嫌われている
【その1 コレステロール値を下げたほうが良いという考えはガンのリスクを高める】
血糖値、血圧、コレステロール値。どの数値も年を重ねれば重ねるほど高くなりがちですが、できれば低く抑えたほうがいいと思っていませんか?
そして数値を気にするあまりに、あれも食べないほうがいい、好きだけど少しだけにする……と自分の体のためだと思って、我慢している人も多いのではないでしょうか。でも我慢を続ける人生は果たして本当に正しいといえるのか。またその人生は充実しているといえるのでしょうか。
特に、生活習慣病や心・脳血管系の病気のリスクが心配で、コレステロール値の検査結果に一喜一憂している人がかなり多くいる印象を受けます。動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞など、病名が並んだだけでも嫌な感じですよね。
コレステロール値を上げる食品は? と聞かれてイメージするのは脂身の多い肉や乳製品という人も多いでしょう。こうした理由から、牛乳はコレステロール値が高いものとして嫌われるのです。
■食事で“値”は増えない
しかし結論からいうと、コレステロールは食事では増えません。コレステロールが多く含まれている食品を食べると、一定量までは「コレステロール値」は確かに上がります(図表1参照)。
しかし実際は、コレステロールのおよそ8割が体内でつくられ、残りの2割だけが食物を摂取することでつくられます。ですから、コレステロールの多い食事をしても、少ない食事をしても、血中のコレステロール値はさほど大きな差が出ないのです。
つまり、肉や乳製品を食べるとコレステロール値が上がるから食べられないというのは、無駄な心配なのです。コレステロール値が上がるのは食事よりも、むしろ運動不足や喫煙、アルコールといったほかの要因が大きいということを知っていただきたいと思います。
■“害悪説”は覆されている
ではなぜこんなにもコレステロールは嫌われているのかというと、かつて「コレステロール害悪説」が広まったからです。
1948年にアメリカで始まったフラミンガム研究によると、アメリカでは心筋梗塞で亡くなる人が最も多いことがわかりました。それを減らすためにさまざまな研究が行われたのですが、心筋梗塞にはコレステロールが深く関係しているという調査結果が導き出されました。当時はアメリカの医学は最前線でしたから誰もが信じ、「コレステロールは悪いものだ」という考え方が浸透したのです。
ところが1993年に発表された追跡調査によると、60歳まではコレステロール値が高いほど死亡率が高いのですが、60歳を過ぎると死亡率が下がり、さらにコレステロール値が下がると、がんのリスクが高まるという結果が出たのです。
牛乳を飲むとコレステロール値が上がる、コレステロール値は低いほうがいいという理由で牛乳を飲まないのはもったいない。むしろ中高年にとって必要なたんぱく質やカルシウムが豊富な牛乳を飲まないことのほうがデメリットが大きいのです
■値が低いと死亡率が高くなる
さらに、コレステロール値が高いほうが死亡率が低いという事実もあります。
牛乳を嫌う人の中には、コレステロール値が上がることを心配している人が結構多くいます。肉を多く食べるアメリカでは、コレステロール値が高いと急性心筋梗塞のリスクが高まるといわれているからです。しかし、これは食生活の違う日本人にもあてはまるのでしょうか。答えは「あてはまりません」。
かつて日本応用老年学会理事長を務めた医学博士・柴田博教授の行った調査で、コレステロール値が低いと死亡率がグンと高くなることがわかっています(図表2参照)。対象となったのは、総コレステロール値が220mg以上でシンバスタチンという薬を投与された35~70歳の男性と、閉経した女性です。
■「コレステロール値を下げるな」
注目すべきは、血中コレステロール値が180mg/dL未満のグループは死亡率が高いことです。200~279mg/dLの3つの群の死亡率においてはほぼ同じですが、199mg以下になると高まり、180mg以下では一気に高まるのです。
ちなみに現代の医療では総コレステロールの基準値は144~199mg/dL、要注意値は200~259mg/dL、異常値は260mg/dLとされています。
確かに、280mg/dLの群は心筋梗塞の死亡率が上がりますが、この群は先天性のリスクである「家族性高脂血症」を持つ人が多く含まれているため、この人たちを除くと「コレステロール値が高いのはダメ」という考え方は、とても危険なのです。
私は常々言っています。「コレステロール値を下げるな」と。コレステロール値が高くなると思われて悪とされ嫌われている牛乳や肉は、むしろ飲んだり食べたりしたほうがいいのです。
■お腹がゴロゴロする人は「ヨーグルト」がいい
【その2 牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするから乳製品全般がだめなわけではない】
牛乳を飲むと「おなかがゴロゴロする」「トイレに行きたくなるから、電車や車に乗れない」という人が一定数います。これは「乳糖不耐症」といって、牛乳を飲むと消化不良でおなかの不快感を覚えたり、腹痛やおなかのハリ、下痢になることもあります。
乳糖不耐症の人は、牛乳に含まれる乳糖がうまく分解・吸収ができず、結果、これらの症状を引き起こすといわれています。糖の一種である乳糖は小腸で分解されて体に吸収されるのですが、分解されるときに必要なラクターゼという酵素が不足していることがその原因とされています。
また、ラクターゼは乳幼児には非常に高い活性があります。というのも、乳児は母乳や乳製品が主な栄養源であるため、乳糖を分解するために必要だからです。しかし、成長につれて固形の食品を主にとるようになると、多くの人がラクターゼの活性が低下します。
そこで、乳糖不耐症の人にはヨーグルトをおすすめします。
■乳製品は老化を防止する
ヨーグルトは牛乳を発酵させる過程で、乳酸菌によって乳糖を部分的に分解して乳酸に変換。そのためヨーグルトには乳糖が少なく、牛乳にはない酸味があります。こうした理由から牛乳よりもヨーグルトのほうが、おなかがゴロゴロしづらいのです。発酵の進んだチーズも乳糖が少ないといわれています。
おなかがゴロゴロするという不快感があるのにもかかわらず、栄養豊富だから牛乳を飲んだほうがいいとは言いません。
ただ、乳糖の少ない腸の調子を整えるヨーグルトや、たんぱく質やカルシウムが豊富なチーズといった乳製品も食べないというのはもったいない。なぜなら乳製品は中高年にとっては老化防止にはとても有効なのです。
■「女性の骨粗鬆症」の予防にも有効
【その3 乳製品が骨粗しょう症を助長するという研究結果を鵜呑みにしてはいけない】
牛乳にはカルシウムが豊富に含まれていて強い骨にしてくれる、多くの人が小中学校の給食の際に、先生にそう教えてもらっていたのではないでしょうか。しかし、「牛乳を飲むと骨粗しょう症になる」という驚愕の研究結果が存在します。
この衝撃の論文は1986年、ハーバード大学のマーク・ヘグステッド教授が「カルシウムと骨粗しょう症(Calcium and osteoporosis)」という題名で発表しました(Hegsted DM. Calcium and osteoporosis. J Nutr.1986 Nov;116(11):2316-9. PMID: 3794834)。
これに疑問を覚えたのは私だけでしょうか。例えば、女性は閉経とともに女性ホルモンが減少します。二種類ある女性ホルモンのうち、エストロゲンは骨の形成や維持に深く関わっているため、減ることで骨がスカスカで脆(もろ)くなっていくのが「骨粗しょう症」。女性は中高年になったら骨折に気をつけなさいと言われるのは、こうした体の変化があるからです。
骨折しないために大切なのは、骨の材料になるカルシウムだけでなく、骨を支える筋肉の材料になるたんぱく質、女性ホルモンの材料であるコレステロールをとること。これが最もシンプルで納得のいく骨粗しょう症の予防方法なのです。これらの栄養素を含む牛乳は、中高年の、特に女性の骨粗しょう症の予防には有効だと私は考えます。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
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(精神科医 和田 秀樹)
一方で、コレステロール値を気にして飲まない人がいるが、その考え方自体にリスクがある」という――。(第2回)
※本稿は、和田秀樹『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■牛乳は「コレステロール値が高い」と嫌われている
【その1 コレステロール値を下げたほうが良いという考えはガンのリスクを高める】
血糖値、血圧、コレステロール値。どの数値も年を重ねれば重ねるほど高くなりがちですが、できれば低く抑えたほうがいいと思っていませんか?
そして数値を気にするあまりに、あれも食べないほうがいい、好きだけど少しだけにする……と自分の体のためだと思って、我慢している人も多いのではないでしょうか。でも我慢を続ける人生は果たして本当に正しいといえるのか。またその人生は充実しているといえるのでしょうか。
特に、生活習慣病や心・脳血管系の病気のリスクが心配で、コレステロール値の検査結果に一喜一憂している人がかなり多くいる印象を受けます。動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞など、病名が並んだだけでも嫌な感じですよね。
コレステロール値を上げる食品は? と聞かれてイメージするのは脂身の多い肉や乳製品という人も多いでしょう。こうした理由から、牛乳はコレステロール値が高いものとして嫌われるのです。
■食事で“値”は増えない
しかし結論からいうと、コレステロールは食事では増えません。コレステロールが多く含まれている食品を食べると、一定量までは「コレステロール値」は確かに上がります(図表1参照)。
しかしそれを超えると変わらなくなります。一定量まで増えた値を「天井値」といい、それに達するとその後はまったくといっていいほど増えません。そして、コレステロール値の出元は食品に含まれると思っているかもしれません。だから「コレステロール値の高い食品を食べ過ぎると値が上がってしまう」という恐怖に怯えるのでしょう。
しかし実際は、コレステロールのおよそ8割が体内でつくられ、残りの2割だけが食物を摂取することでつくられます。ですから、コレステロールの多い食事をしても、少ない食事をしても、血中のコレステロール値はさほど大きな差が出ないのです。
つまり、肉や乳製品を食べるとコレステロール値が上がるから食べられないというのは、無駄な心配なのです。コレステロール値が上がるのは食事よりも、むしろ運動不足や喫煙、アルコールといったほかの要因が大きいということを知っていただきたいと思います。
■“害悪説”は覆されている
ではなぜこんなにもコレステロールは嫌われているのかというと、かつて「コレステロール害悪説」が広まったからです。
1948年にアメリカで始まったフラミンガム研究によると、アメリカでは心筋梗塞で亡くなる人が最も多いことがわかりました。それを減らすためにさまざまな研究が行われたのですが、心筋梗塞にはコレステロールが深く関係しているという調査結果が導き出されました。当時はアメリカの医学は最前線でしたから誰もが信じ、「コレステロールは悪いものだ」という考え方が浸透したのです。
ところが1993年に発表された追跡調査によると、60歳まではコレステロール値が高いほど死亡率が高いのですが、60歳を過ぎると死亡率が下がり、さらにコレステロール値が下がると、がんのリスクが高まるという結果が出たのです。
牛乳を飲むとコレステロール値が上がる、コレステロール値は低いほうがいいという理由で牛乳を飲まないのはもったいない。むしろ中高年にとって必要なたんぱく質やカルシウムが豊富な牛乳を飲まないことのほうがデメリットが大きいのです
■値が低いと死亡率が高くなる
さらに、コレステロール値が高いほうが死亡率が低いという事実もあります。
牛乳を嫌う人の中には、コレステロール値が上がることを心配している人が結構多くいます。肉を多く食べるアメリカでは、コレステロール値が高いと急性心筋梗塞のリスクが高まるといわれているからです。しかし、これは食生活の違う日本人にもあてはまるのでしょうか。答えは「あてはまりません」。
かつて日本応用老年学会理事長を務めた医学博士・柴田博教授の行った調査で、コレステロール値が低いと死亡率がグンと高くなることがわかっています(図表2参照)。対象となったのは、総コレステロール値が220mg以上でシンバスタチンという薬を投与された35~70歳の男性と、閉経した女性です。
■「コレステロール値を下げるな」
注目すべきは、血中コレステロール値が180mg/dL未満のグループは死亡率が高いことです。200~279mg/dLの3つの群の死亡率においてはほぼ同じですが、199mg以下になると高まり、180mg以下では一気に高まるのです。
ちなみに現代の医療では総コレステロールの基準値は144~199mg/dL、要注意値は200~259mg/dL、異常値は260mg/dLとされています。
例えばコレステロール値250mg/dLで「要注意」とされ、コレステロール降下剤を処方されます。
確かに、280mg/dLの群は心筋梗塞の死亡率が上がりますが、この群は先天性のリスクである「家族性高脂血症」を持つ人が多く含まれているため、この人たちを除くと「コレステロール値が高いのはダメ」という考え方は、とても危険なのです。
私は常々言っています。「コレステロール値を下げるな」と。コレステロール値が高くなると思われて悪とされ嫌われている牛乳や肉は、むしろ飲んだり食べたりしたほうがいいのです。
■お腹がゴロゴロする人は「ヨーグルト」がいい
【その2 牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするから乳製品全般がだめなわけではない】
牛乳を飲むと「おなかがゴロゴロする」「トイレに行きたくなるから、電車や車に乗れない」という人が一定数います。これは「乳糖不耐症」といって、牛乳を飲むと消化不良でおなかの不快感を覚えたり、腹痛やおなかのハリ、下痢になることもあります。
乳糖不耐症の人は、牛乳に含まれる乳糖がうまく分解・吸収ができず、結果、これらの症状を引き起こすといわれています。糖の一種である乳糖は小腸で分解されて体に吸収されるのですが、分解されるときに必要なラクターゼという酵素が不足していることがその原因とされています。
また、ラクターゼは乳幼児には非常に高い活性があります。というのも、乳児は母乳や乳製品が主な栄養源であるため、乳糖を分解するために必要だからです。しかし、成長につれて固形の食品を主にとるようになると、多くの人がラクターゼの活性が低下します。
ほかにも、ラクターゼの活性の低下には遺伝的な要因もあるようです。
そこで、乳糖不耐症の人にはヨーグルトをおすすめします。
■乳製品は老化を防止する
ヨーグルトは牛乳を発酵させる過程で、乳酸菌によって乳糖を部分的に分解して乳酸に変換。そのためヨーグルトには乳糖が少なく、牛乳にはない酸味があります。こうした理由から牛乳よりもヨーグルトのほうが、おなかがゴロゴロしづらいのです。発酵の進んだチーズも乳糖が少ないといわれています。
おなかがゴロゴロするという不快感があるのにもかかわらず、栄養豊富だから牛乳を飲んだほうがいいとは言いません。
ただ、乳糖の少ない腸の調子を整えるヨーグルトや、たんぱく質やカルシウムが豊富なチーズといった乳製品も食べないというのはもったいない。なぜなら乳製品は中高年にとっては老化防止にはとても有効なのです。
■「女性の骨粗鬆症」の予防にも有効
【その3 乳製品が骨粗しょう症を助長するという研究結果を鵜呑みにしてはいけない】
牛乳にはカルシウムが豊富に含まれていて強い骨にしてくれる、多くの人が小中学校の給食の際に、先生にそう教えてもらっていたのではないでしょうか。しかし、「牛乳を飲むと骨粗しょう症になる」という驚愕の研究結果が存在します。
この衝撃の論文は1986年、ハーバード大学のマーク・ヘグステッド教授が「カルシウムと骨粗しょう症(Calcium and osteoporosis)」という題名で発表しました(Hegsted DM. Calcium and osteoporosis. J Nutr.1986 Nov;116(11):2316-9. PMID: 3794834)。
「アメリカ、ニュージーランド、スウェーデン、イスラエルなど、乳製品の摂取が多くカルシウム摂取量も多いとされる国は、シンガポールや香港といったカルシウム摂取量の少ない国に比べて太ももの骨の骨折が多い」という結果が報告されました。
これに疑問を覚えたのは私だけでしょうか。例えば、女性は閉経とともに女性ホルモンが減少します。二種類ある女性ホルモンのうち、エストロゲンは骨の形成や維持に深く関わっているため、減ることで骨がスカスカで脆(もろ)くなっていくのが「骨粗しょう症」。女性は中高年になったら骨折に気をつけなさいと言われるのは、こうした体の変化があるからです。
骨折しないために大切なのは、骨の材料になるカルシウムだけでなく、骨を支える筋肉の材料になるたんぱく質、女性ホルモンの材料であるコレステロールをとること。これが最もシンプルで納得のいく骨粗しょう症の予防方法なのです。これらの栄養素を含む牛乳は、中高年の、特に女性の骨粗しょう症の予防には有効だと私は考えます。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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