昨年秋に、イギリスのタイムズが発行している高等教育情報誌「Times Higher Education(THE)」で世界の大学ランキング2025が発表された。日本のトップ大学である東京大学は28位。
上位には、どんな学校があるのか。世界の大学事情に詳しい4人に話を聞いた。
※本稿は、『プレジデントFamily2025春号』の一部を再編集したものです。
■西海岸の大学もアイビーリーグに負けないほど優秀
(前編からつづく)
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東海岸の話がつづいたが、西海岸だって負けていない。
カリフォルニア州シリコンバレーの近くにあるスタンフォード大学が6位にランクイン。
「世界的なIT企業が多いシリコンバレーのそばにあり、インターンシップが盛んです。そこで培ったコネクションを駆使して就職を狙う学生もいます。起業家精神を持った学生が多い一方、医学や芸術など、幅広い進路に強い印象ですね」(入谷さん)
有名な起業家では、ChatGPTで知られるOpenAI創業者のサム・アルトマン(中退)、エヌビディア創業者のジェンスン・フアンもスタンフォードで学んだ。
同じく西海岸からはカリフォルニア工科大学(カルテック)が7位にランクイン。生物学、化学・化学工学、技術・応用科学、地学・惑星科学など6部門を中心として構成されている。
「カルテックは、MIT以上に理系に特化した大学で、理系にどハマりした学生には最高の学びやです。学部生が約1000人に対し、教員数が300人なので非常に密な指導が行われます。
私が指導していた中では、毎年、東大合格者を多数輩出する中高一貫校でずっと成績が1位だった数学オタクの生徒が入学しました。その彼ですら、カルテックは世界中の超理系が集まる本当に特殊な大学だから……と入学前は、『自分がやっていけるかどうか不安だ』と話していました。結果オーライで、すごく校風に合っていたようです」(入谷さん)
斉藤さんは理系に強い二つの大学を比較して「例えるなら、MITは理系の総合デパートで、どの分野もおしなべて強い。一方のカルテックはセンスのいいセレクトショップ。小規模ながら、重要な分野でも非常に高品質の研究教育を行う大学と言えます」と語る。
また、カリフォルニア州には、19世紀に創立されたカリフォルニア大学(UC)という10の州立大学群がある。その筆頭であるUCバークレー校が8位にランクインした。
「経済、物理、社会学、コンピュータサイエンスなど、文理問わず、幅広い分野が学べる環境。州立なので、私立大より学費は安いです」(篠塚さん)
ただし、学生数がとても多いため、カルテックのような密な授業は期待しづらい側面がある。「自分から教授にグイグイ質問するような積極性が必要でしょう」と入谷さん。
そして10位はアイビーリーグのひとつ、イェール大学。
「コネチカット州にあり、ロースクールが長年全米トップです。
政治や国際関係を学んで外交官を目指す学生も多い一方で、芸術系にも強く、音楽院は世界的に有名です」(篠塚さん)
上智大学を卒業後にイェールの大学院へ進学し、イェールでの経験が人生に与えた影響は大きいと語る斉藤さんは「教員用の食堂がなく、教授も学生と同じ食堂でランチをとっていました。教授と学生との距離が非常に近く、教授同士が雑談のように高度な内容を議論しているのを学生が日常的に聞けるような環境です。ランチを食べながら卒論の相談をする学生も少なくありません」と学生目線での魅力を語る。卒業したら終わり、ではなく同窓会のつながりも強固だそうだ。
アメリカのトップ大学も、イギリス同様、教授の指導は手厚い。論文をひとつ仕上げる際も、下書きから見て丁寧にフィードバックをくれるという。
また、アメリカの多くの大学では、2学期連続で平均成績がCを下回る場合、退学になる可能性があるようだ。国内大と比べると大学の対応が厳しいように感じる。
■複数の専攻が可能でパーティーや課外活動も盛ん
東大卒業後にスタンフォード大学の大学院で過ごした星さんは、当時の学生ライフを振り返り「勉学だけでなく、スポーツなどの課外活動やパーティー文化も盛んな印象。アメリカは国土が広いので、都市部を除いてキャンパス内の寮に住む学生が多く、学内では毎週末パーティーが繰り広げられます。イギリスのおしゃれなパブ的な雰囲気のパーティーとは違って、ホームパーティーのような気軽な飲み会という雰囲気。世界中から集まった多様な人が、学部を超えて交流できるのが、このパーティー文化のよいところです」とアメリカ大ならではの開放的な雰囲気と魅力を語ってくれた。

■アジア圏は中国とシンガポールが奮闘
アジア圏では、中国の清華大学が12位、同じく中国の北京大学が13位、シンガポールのシンガポール国立大学が17位と、以前はアジア圏のトップであった東京大学(28位)を大きく引き離してトップ20にランクイン。存在感を増している。
以前から英語圏で行われていた優秀な教授の引き抜きが激化し、近年は、中国やシンガポールの大学も、そこに潤沢な予算をかけている。そのうえ大学側が、教授が国際的な学会誌に英語論文を出すことを推奨し、大学の知名度アップを目指しているようだ。
■膨大な学費や生活費がかかるので奨学金やローンを有効活用
では、いざ海外大へ進むとなった場合、子供1人につき学費や生活費はいくらくらいかかるのか。参考までに、2025年度からの東大の授業料年額は64万2960円だ。
「海外大の学費はおしなべて高いですが、なかでもアメリカの大学は特に高いですね。例えば、イェール大では学費と寮費が合わせて年間8万ドル(約1200万円)を超えます。つまり4年で約5000万円以上かかりますが、返還不要の奨学金などもあり、定価でそのまま払う生徒だけではありません。所得水準に合わせて、または、両親が非大卒家庭である場合に大学から給付される奨学金などもあります。優秀な生徒は、柳井正財団などから十分な金額の給付型の奨学金制度を受けられます。ほかにJASSO(日本学生支援機構)と教育ローンなど、さまざまな手段を組み合わせて、複合的に学費を捻出する生徒も少なくありません」(斉藤さん)
「日本から海外大に進む子の7~8割は、奨学金などの財政支援を利用している印象です」(篠塚さん)
ただ、海外大を出て外資企業に就職した場合にもらえるグローバル賃金の初任給は1000万円超であることも珍しくないため「投資と捉えて全額出すと語っていた家庭も過去にはあった」(入谷さん)そうだ。

「英米に限らなければ別の選択肢もあります。例えば、オランダのアムステルダム大学の場合、海外の学生は学費が約40万円~180万円程と比較的安いです」(篠塚さん)
そこに生活費がプラスにかかるというわけだ。
■海外大を目指すなら子供時代に何が必要?
最後に、海外への留学や海外大への進学を子供に目指してほしいと思う親へのアドバイスを聞いた。
「年に一度でもいいから、親子で海外へ行ってほしいなと思います。旅の合間に海外大にも足を伸ばせるといいでしょう。子供は行った場所に興味を持ちやすいので。海外に行ったことがないとなると、海外大を目指すのはハードルが高いと感じるでしょうが、行けば『海外ってこんなにパッと行けるんだ』と感じ、当たり前の選択肢のひとつになっていくはずです」(星さん)
「目的意識、キャリア意識を早いうちから持つことが非常に大事。僕の場合は何歳でこうなっていたい、というライフチャートを紙に書いていて、海外の大学院に行く目標から逆算して上智大に入ったという経緯があります」(斉藤さん)
「海外トップ大学が重視するのはユニークな人材であり、その鍵となるのが課外活動です。中高時代に一定期間、子供が何かに熱中して取り組むことが求められます。ぜひ、時間のある小学生時代にいろんなことに取り組む中で、子供自身がやりたいことを見つけ、何かを好きになる経験をしてほしい。それが結果的に、個性や主体性を育む基盤となるでしょう」(入谷さん、篠塚さん)
今回話を聞いたすべての方が、海外での学びが今の自分の土台になっていると笑顔で答えてくれたのが印象的だった。高校から海外大を目指すにしろ、国内大を卒業後に海外の大学院を目指すにしろ、海外大ならではの魅力に出合うきっかけに本記事がなればと思う。

【コラム】イギリス大とアメリカ大の大きな違い
イギリスの大学は、基本的には3年制(スコットランドのみ4年制)で、高校のうちに教養課程を学び、大学では志望した専門分野を究めていくことになる。そのため、基本的には入学した後に専攻を変えることはできないところが多い。アメリカの大学は日本と同じ4年制で、1~2年生で教養課程を学び、その後に、専門課程に進んでいく。
「イギリスと比べると、数学と音楽というふうに畑違いの分野を複数専攻できる大学が多いです。いろいろな分野を学びたい学生におすすめですね」(篠塚さん)
また、どちらの大学も、入学時にエッセイを書くことが求められる点は同じだが、試験の点数とエッセイの内容の両方を加味して選考を行うイギリスに対して、アメリカの大学は、エッセイの内容こそが合否の鍵を握る。
「自分はどういう人間か、大学に自分はどうマッチするかなどを、明確に具体的に書くこと。これはきちんと自己分析できていないと書けません。ガリ勉タイプより、優秀かつ“ストリートスマート”=生きていく知恵にたけている子が受かる印象です」(星さん)
さらにGPA(高校の成績評価値)、推薦書、スポーツ・ボランティア・課外活動の証明書、TOEFLやIELTSなどの英語外部試験のスコアなども必要になるという。
「学部へ入学するのはかなりの狭き門になるので、専攻によっては比較的学費を抑えられて、合格率も上がる大学院からの入学を目指すのもよい作戦かと思います」(星さん)

(プレジデントFamily編集部)
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