※本稿は、奥田昌子『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■レストランで選ぶべきは「味噌汁」か「スープ」か
なんとも、もったいない話です。レストランに行って、ご飯と味噌汁ではなくパンとスープを選ぶとは。味噌の原料である大豆に含まれる、β(ベータ)-コングリシニンという蛋白質をみすみす摂取できなくなるからです。
味噌だけでなく、豆腐や納豆、揚げ、厚揚げ、がんもどき、おからに豆乳、醤油から、さっと塩ゆでした枝豆まで、スーパーに行けば、大豆と、大豆から作る大豆製品がところ狭しと並んでいます。大豆にはさまざまな健康効果があると昔からいわれてきました。これを確かめるべく、医学的な研究が多数進められているなかに、2023年に公表された論文があります。
脂質の分解と合成は肝臓で行われています。そのため、人の肝臓の細胞をシャーレに入れて、β-コングリシニンと他の大豆蛋白質を、濃度を変えて反応させました。すると、β-コングリシニンの割合が高いほど、肝臓に含まれる中性脂肪が大幅に減り、その効果は、中性脂肪が基準値を超える、高中性脂肪血症に対して病院で処方される薬に匹敵するほどでした。
体についた脂肪は中性脂肪が集まってできているため、中性脂肪の数値が下がれば脂肪がつきにくくなります。
■中性脂肪をみるみる落とす
これとは別に、ラットを4つのグループに分けて、大豆の粉、豆乳、豆腐、凍り豆腐をそれぞれ乾燥させたものを3週間食べさせた実験があります。それぞれの餌に含まれる、もとの大豆の量は同じでした。凍り豆腐は豆腐を凍らせてから乾かして作る保存食で、水で戻して使います。高野豆腐が有名ですね。
すると、肝臓の中の中性脂肪の濃度がもっとも大きく下がったのは豆腐グループで、次いで、凍り豆腐グループ、豆乳グループ、大豆の粉グループの順でした。この実験では血液中のコレステロール濃度の低下も認められ、やはり効果がもっとも高かったのが豆腐グループでした。
β-コングリシニンは、大豆に含まれる植物性蛋白質の約20パーセントを占めていて、β-コングリシニンを1日5グラム摂取すると、中性脂肪の数値が改善し、内臓脂肪が減少すると報告されています。これは、聞き逃せませんね。しかしながら、これだけのβ-コングリシニンを摂取しようと思うと、豆腐を毎日2丁半くらい食べなければいけない計算になります。
■「味噌汁は塩分が多い」は本当か
豆腐2丁半⁉ そんなに毎日食べられないよと思った皆さん。ご心配なく。
じつは、ここで紹介した効果は、β-コングリシニンそのものの作用ではなく、β-コングリシニンがアディポネクチンという善玉物質を増やすことで起きてくると考えられています。ですから、β-コングリシニンは5グラムに届かなくてもよいので、できるだけ多く摂取するよう心がければ十分でしょう。
味噌汁と聞くと、反射的に塩分が多いと考える人がいますが、落ち着いて数字を見てください。味噌汁1杯に含まれる塩分は1.2グラム前後です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」は、18歳以上の男性は塩分摂取量を1日7.5グラム未満に、女性は6.5グラム未満にするよう、すすめているため、1.2グラムであれば神経質になる必要はないといえます。
現在の日本人の1人1日あたりの塩分摂取量は、戦後で最も多かった1956年と比べて60パーセント程度まで減っています。味噌汁で血圧が上がるというのは昔の話。減塩を心がけるに越したことはないものの、血圧が心配なら、体を動かし、飲酒を控え、肥満を解消することが大切です。
また、野菜と海藻には血圧を下げるカリウムという成分が多いので、味噌汁に海藻や緑黄色野菜、根菜、キノコなどをたっぷり入れれば、GI値も下がって一石二鳥です。
コーンスープやミネストローネは、涼しい顔をしてカップ1杯に塩分がおよそ1.4グラム、2.2グラム入っています。味噌汁ばかり目のかたきにされているのが不憫でなりません。ダイエットを考えるなら、レストランでは断然ご飯と味噌汁を選びましょう。
■ダイエットに食物繊維は欠かせない
善玉物質アディポネクチンを増やして太りにくい体にしてくれるのは、大豆蛋白質のβ-コングリシニンだけではありません。それが、海藻やキノコに多い食物繊維です。そもそも低カロリー、低GIで、独特の香りやうまみ、食感があり、しかも安価。ダイエットしたいなら、食べない手はないでしょう。
食物繊維は穀物や芋、野菜にも豊富で、水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維があるのはご存じですね。不溶性食物繊維は水分を吸収して胃腸の中でふくれるので、少量でも満腹感が得られます。食欲がおのずと抑制され、食べすぎ防止に役立つわけです。一方の水溶性食物繊維も、別の形でダイエットを助けます。有効な腸内細菌の餌になるのです。
人の腸には、さまざまな種類の腸内細菌が合わせて100兆個もすんでいます。以前は、腸内細菌は腸を流れてくる食物の残りを食べて、ひっそり生きていると考えられていました。しかし、実際は、人が消化できない食物を特殊な酵素で分解して多種多様な物質を作り出し、人の体の機能を調整しているのです。
■肥満した人と痩せた人の違い
近年、肥満した人の腸には肥満を招く腸内細菌が多く、痩せた人の腸は脂肪をつきにくくする腸内細菌の割合が高いことが判明しています。
肥満と関連する菌は食物から栄養を取り出す力が強いため、この菌が多いと栄養やエネルギーを多く摂取することになります。
一方、痩せと関連する菌は、水溶性食物繊維を餌にして、脂肪の燃焼を高める短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)という物質を作ります。短鎖脂肪酸は交感神経を刺激してエネルギー消費を高め、内臓脂肪が中性脂肪を取り込んで大きくなるのを防いでいます。
だから、この菌がたくさんいると脂肪がつきにくくなるのですが、肥満していた人が痩せると、なんと、痩せと関連する菌の比率が自然に高まります。痩せれば痩せるほど痩せる、よい循環ができるわけです。
「痩せる菌」を移植できたら、どんなにいいだろう、ですって? 残念ながら、それは不可能です。実験室や工場で育てた菌を口からとっても、もとからすんでいる腸内細菌との競争に負けて、早ければ2日、遅くても1週間で追い出されてしまうからです。
■ミニサラダでは物足りない
腸内細菌で痩せたいなら、水溶性食物繊維を摂取して、痩せと関連する菌を元気にすることを考えましょう。少量で満腹感が得られる不溶性食物繊維の摂取もお忘れなく。
食物繊維が大切と聞くと、外食の際に、レタスやキャベツのミニサラダをつける人がよくいます。
種や皮を除いた、食べられる部分のことを可食部といいます。可食部100グラムあたりで食物繊維の量を比較すると、ちょっと意外な野菜が上位に並びます。ゴボウ5.7グラムはわかるとして、図表1からわかるように、ブロッコリー5.1グラム、オクラ5.0グラム、続いて、枝豆、菜の花、カボチャという顔ぶれです。これは不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を合わせた量です。
そして、海藻の代表、昆布は8.7グラム、キノコの代表、椎茸は5.5グラムです。海藻やキノコを乾燥させて食物繊維量を算出することがありますが、ここに書いたのは、生もしくは水で戻して、調理するばかりになった食品の食物繊維量です。
■ほぼ日本人だけにある特徴
対照的に、キャベツやレタスは食物繊維がとても少なく、100グラムあたりで、それぞれ1.8グラム、1.1グラムしか入っていません。さわやかなグリーンで食物繊維たっぷりのイメージとは裏腹に、ほとんど戦力にならないといえます。いえ、それどころか、「一応、野菜も食べたから、いっか」と、脂っこい料理を食べる言い訳にしてしまったら、太るばかりでしょう。
海藻とキノコの強みは、野菜と比べて簡単に食事に取り入れられることです。
そして、キノコは電子レンジで加熱するだけで食べられますし、冷凍もできる優れもの。日本のキノコは質がよく、日本産の干し椎茸は、東アジアはもちろん、中東や北米にも輸出され、高級品として人気があるそうです。海藻やキノコを使ったおかずは、冷めてもおいしく食べられるものが多いため、作りおきしてもいいですね。
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奥田 昌子(おくだ・まさこ)
内科医
京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関でのべ30万人以上の診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。航空会社産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。著書に『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)、『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)など。
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(内科医 奥田 昌子)