健康的に痩せるためには、何を食べればいいのか。内科医の奥田昌子さんは「健康によいものがダイエットにもよいとは限らない。
アーモンドやナッツ、牛乳は意外とカロリーが高いので気を付けたほうがいい」という――(第2回/全3回)
※本稿は、奥田昌子『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
■ナッツはおにぎり1個と同じカロリー
頑張ってダイエットをしている人から、「おやつはナッツがいいんですよね?」と聞かれることがよくあります。これは、お答えが難しいですね。なぜナッツ? 「糖質が少ないし、体にいい成分がいろいろ入ってるって、書いてありました」。
アーモンドやクルミに多いn-3系脂肪酸には、中性脂肪を減らす働きがあるため、動脈硬化を防いで心臓病の発症率を下げる可能性があります。こういう話を聞いて、ナッツの袋を仕事机に常備して、ポリポリ食べている人もいるようです。
ダイエットにしぼって考えても、硬くて歯ごたえのあるナッツはしっかり噛まないと飲み込めないため、満腹中枢が働きやすいといえます。ただし、食べれば食べるほど痩せるわけではありません。食べすぎたら当然太ります。ナッツは脂質が多く、カロリーが高いからです。
雑誌やインターネットが推奨している、「手のひらに軽く1杯のナッツ」は約25グラムですから、計算すると、これだけの量で、マカダミアナッツは188キロカロリー、クルミは178キロカロリーあります。大きめのおにぎり1個くらいです。
「ナッツは食欲を抑えてくれる」という記事をみかけることがありますが、正確にいうなら、「カロリーが高くてお腹がふくれるから、食欲が落ち着く」というところでしょう。
■「健康によいもの=ダイエットにもよい」ではない
n-3系脂肪酸が入っていることについても、少々過大評価されています。魚のn-3系脂肪酸がEPAとDHAであるのに対して、アーモンドやクルミのn-3系脂肪酸はエゴマ油、亜麻仁油と同じ、α(アルファ)-リノレン酸です。
α-リノレン酸はEPAやDHAに変化することで効果を発揮しますが、その変化率は高くありません。男性は10パーセント未満ですし、女性も10~20パーセント程度です。そうであるなら、サバの煮つけをスーパーで買って帰るほうが確実です。食物繊維は他の食品からとればよいですし。
それでもナッツを食べるなら、ピーナッツとアーモンドでしょうか。どちらも、マカダミアナッツやクルミよりカロリーが15パーセントくらい低く、逆に食物繊維が1.5倍程度多いからです。ピスタチオも悪くはありません。
健康によいものはダイエットにもよいはず、と思ってしまう人がよくいます。でも、当然ながら、健康によい成分が入っていることと、太るかどうかは別問題です。
ナッツの健康効果に目を奪われていると、あっというまにカロリーオーバーしてしまいます。おやつ、デザートの摂取カロリーは、1日あたりで200キロカロリー程度に抑えましょう。食べすぎたと思ったら夕食のカロリーを減らすなどして、すぐに挽回するのが大切です。
■おすすめは甘栗
おやつに食べるのは、脂質と、できれば糖質もあまり含まないもの、そして食物繊維の多いものがよいですね。カリカリ、コリコリと噛みごたえがあれば言うことありません。
総合的に考えると、ナッツより甘栗のほうがダイエット向きだと思います。なんといっても、先にあげたピーナッツ、アーモンドと比較しても、カロリーはわずか約3分の1。脂質が少ないからです。それでいて食物繊維は4分の3くらいあります。ほのかな甘みもいいですね。甘栗なんてお菓子みたいなものだと思う人がいるかもしれませんが、あの甘みは、栗のデンプンが変化したものです。
天津甘栗は、栗を細かい小石でじっくり焼いて作ります。
このとき、栗に含まれる酵素の力で栗のデンプンが糖に分解され、甘味が引き出されるのです。最終的に体に入る糖質の量は同じです。砂糖や蜜を加えて焼くこともありますが、これは、栗の殻に強さを与えて、破裂しないようにするためとのこと。生の栗も、収穫してから0℃で1カ月ほど貯蔵すると、デンプンの分解が進んで甘みが3倍強くなるそうです。
■牛乳はダイエットに有効か
インターネットで検索すると、牛乳有益説と牛乳有害説が正反対の主張を繰り広げているのをみかけます。いわく、「牛乳は質のよい蛋白質とカルシウム、ビタミンAが豊富で、体に必要なアミノ酸をすべて含んでいる。完全栄養食に近い」「いや、牛乳をたくさん飲む国ほど骨粗鬆症が多い。乳糖やカゼインの不耐症で消化不良や腸内環境の悪化を招くし、アレルギーや前立腺がん、乳がんになりやすい」と、極端です。
牛乳の長所と短所を述べあって、議論がすれ違っている印象ですが、ちょっと解説すると、乳糖不耐症の人は、牛乳に含まれる乳糖を十分に分解できず、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしたり、お腹をこわしたりします。ここには人種差がかかわっていて、日本人を含む大部分のアジア人とアフリカ系の人、そして欧州系でも地中海沿岸地域の出身者は、7~9割が乳糖不耐症とされています。一方、北欧や西欧出身者は、約9割が問題なく乳糖を消化できます。
そして、牛乳の蛋白質であるカゼインは、牛乳アレルギーの最大の原因物質です。
加熱しても、牛乳を発酵させてヨーグルトにしても安心できません。消化が悪く、腸に炎症を発生させることもあります。
議論の続きは後回しにして、ダイエットに関していうと、牛乳とはどのくらいの距離感でつき合うのが正解なのでしょうか。
■200ミリリットルでバナナ1本分
「牛乳をやめたら痩せた」と言う人がいます。牛乳はカロリーと脂質が意外に多く、生乳を加熱殺菌しただけの無調整牛乳は脂質が3.0パーセント以上を占めており、生乳から乳脂肪分の一部をのぞいた低脂肪牛乳にも0.5~1.5パーセント含まれています。
その結果、コップ1杯にあたる200ミリリットルで、それぞれ126キロカロリー、87キロカロリーになり、これはバナナ1本半、同じくバナナ1本と同じくらいです。単純に計算すると、無調整牛乳を毎日コップ1杯飲めば、1年で6.4キログラム太ります。
「バナナを毎日1本半食べてください」と言われたら、太りそうだと警戒する人も、「牛乳を毎朝コップ1杯飲んでください」なら、健康が約束されたように感じてしまうのではないでしょうか。無脂肪牛乳でも、無調整牛乳の半分程度のカロリーがあります。さらに、牛乳は、体内で悪玉コレステロール(LDL)の合成を高める飽和脂肪酸の割合が高いのも問題です。
■骨の強さを決めるのはカルシウムだけではない
牛乳の糖質はというと、ほぼすべてが乳糖で、無調整か、低脂肪か、無脂肪かを問わず、コップ1杯に約10グラム含まれています。ショ糖、すなわち砂糖の甘さを100とすると、乳糖は40。
牛乳のほのかな甘味の正体です。
乳糖はブドウ糖と比べて、血糖値がゆっくり上がります。そのため、牛乳のGI値は27と低いうえに、日本人に多い乳糖不耐症の人は乳糖の一部しか吸収できません。乳糖にはブドウ糖と比べて、体内で脂肪に変わりやすいという欠点があるものの、以上のことから、牛乳の糖質で太る心配は、あまりしなくてよいでしょう。
乳脂肪は気になるけれど、日本人はカルシウム不足だと言うし、牛乳は栄養のバランスがいいらしいから、飲まないわけにはいかないという声をよく耳にします。ですが、それは思い込みかもしれません。
骨の強さを決めるのは、カルシウムの摂取量だけではないのです。脚の付け根の骨が折れると、寝たきりの大きな原因になりますが、1日あたりで日本より2~3倍多くカルシウムを摂取している欧米諸国は、この部分の骨折率が日本の2~4倍にのぼります。
まだ研究の途中ながら、その背景には、日本人を含むアジア人は遺伝的に骨が強いうえに、脚の付け根の骨の構造が欧州系の人と違うことがあるようです。
■牛乳よりオーツミルクのほうがいい
そして、牛乳の栄養素はすべて、他の食品から摂取できます。たとえば、海藻と緑黄色野菜、大豆や小魚のなかには、グラムあたりのカルシウム量が牛乳より多いものがたくさんあります。カルシウムの吸収率では牛乳に軍配が上がりますが、結果的に吸収できる量は大差ありません。
また、とくに小魚には、カルシウムの吸収を助けるビタミンDも豊富です。
栄養不足が深刻だった昭和20~30年代とは異なり、現代の日本では、むしろ栄養のとりすぎが問題になっています。牛乳にはそれなりにカロリーがあり、脂質、とくに飽和脂肪酸を含んでいます。また、遺伝的に体に合わない人が少なくないことを考えると、コーヒー、紅茶と同じく、嗜好品に位置づけるのが賢明でしょう。
ダイエットを考えるなら、できる範囲で、低脂肪牛乳、無調整豆乳、オーツ麦から作るオーツミルクに置き換えてください。いずれも、カロリーは無調整牛乳の70~80パーセントです。調製豆乳は無調整牛乳に近いため、無調整の豆乳がおすすめです。無調整豆乳とオーツミルクには、飽和脂肪酸がほとんど入っていません。図表1にまとめました。
豆乳は牛乳より体内への吸収速度が低く、腹持ちがよいのが特徴です。無調整豆乳は、コップ1杯のカルシウム量が30ミリグラムと少ないのですが、大豆と大豆製品に含まれるイソフラボンという成分は、骨からのカルシウムの流出を抑えます。この点、オーツミルクは非常に優秀で、コップ1杯に無調整牛乳を上回る量のカルシウムが入っています。

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奥田 昌子(おくだ・まさこ)

内科医

京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関でのべ30万人以上の診察/診療にあたる。海外医学文献と医学書の翻訳もおこなってきた。航空会社産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。著書に『これをやめれば痩せられる』(東洋経済新報社)、『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)など。

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(内科医 奥田 昌子)
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