※本稿は、森翔吾『すべては「旅」からはじまった 世界を回って辿り着いた豊かなローコストライフ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■孤独な時間を作って「自分の心」を見つめる
30代に入ってから、僕は「自分探しの旅」を続けてきた。輸入販売のための仕入れも行うが、一つの場所に半月から1カ月ほどステイしながら、日々数時間、仕事をするのが自分のスタイルになった。
「何で自分探しなんかしているんだ? 時間の無駄だよ」
「海外でもっと仕入れ先を探せば、儲かるじゃないか?」
いろいろなことを言う人がいる。確かに、「自分探しの旅」など無駄なことかもしれない。でも、無駄な時間こそ、僕は宝物だと思っている。毎日が同じことの繰り返しで、将来の暮らしの保証さえままならないサラリーマン生活を29歳で辞めたとき、「自分はどんな暮らしをして、どんな人生を送りたいのか」、真剣に考えなければいけないと思った。
自由の身になったのだから、やりたいことに挑戦してみようと英語を学び直して起業をし、仕事は何とか軌道に乗せたが、「自分はどんな暮らしをして、どんな人生を送りたいのか」は、つかめないままだった。
なぜなら、自分のことがわかっていなかったからだ。仕事に追われ、周囲の人に気を配り、なるべく問題を起こさないように日常を過ごしているうちに「自分の考え」や「自分が求めていたこと」すら、思い出せなくなっていた。
仕事で海外に行くことが増えていたこともあり、いつもと違う場所、いつもと違う人々の中に身を置き、孤独な時間を作って、「本来の自分、新しい自分を探す旅」をしてみようと決めた。
■観光ゼロの旅へ
サラリーマン時代も、海外に行くことはあった。ニューヨークや香港、台湾など、エネルギッシュな街で非現実と開放感を味わった。でもそれは、ただの観光だ。「ここも、あそこも!」と欲張って観光をし、もともと疲れやすい体質の僕はすぐに眠くなり、旅先で感じたことを深く考える余裕がなくなるのが常だった。
そこで、旅のスタイルを変えた。「観光をしない」ことにしたのだ。ニューヨークへ行ってもダウンタウンやマンハッタンには足を向けず、ホテルがあるブルックリン周辺だけで過ごすと決め、朝はゆっくり起きてホテル近くに見つけたお気に入りのカフェへ行き、読書をし、ときどき仕事をする。眠くなったら、部屋に戻って昼寝をし、夕方には2時間ほどイーストリバー沿いを散歩する。
そんな毎日を旅先で過ごしながら、「この国で、この街で暮らすのはどうだろう? 移住できるだろうか?」と考える。そして、言葉もろくに通じず、友だちや知り合いもいない異国の地で、孤独な時間を作って自分の心の声を聞くのだ。テーマは3つ。
・やりたいこと
・なりたい自分
・欲しいもの
スマホやPCから離れ、ペンと紙だけを持ってひたすら思いついたことを書き続け、少し頭を冷やしてから優先順位をつけていくと、次第に自分が求めていたものが見えてくるようになる。ときには、デジタルデトックスしてみることが必要だ。
■自分が求めていたものとは
一番初めに見つけた「自分が求めていたもの」は、意外な言葉だった。
「人に伝える」
なぜ、その言葉が頭から離れなかったのかというと……、それまで、本当の自分を隠して生きてきたからだ。ダサい自分、カッコ悪い自分、自分の本心さえもすべて隠し、本当の自分を誰にも伝えていなかった。
でも、それをさらけ出すことができれば、ダサい自分がバレることを恐れる必要もなくなる。自分の「弱点」が少しは減ると思えた。
・幼稚園でいじめられたこと。
・幼少期はオネショ少年。
・20代後半まで吃音に悩んでいた過去。
・疲れやすい体質で、実は引きこもり願望があること。
・辛いことがあると、毎日「死にたい」と思っていた時期があったこと。
今はもう会っていない小中学校時代の旧友にこの話をしたら、きっと目を丸くしてびっくりするだろう。ごく親しい友人にこの話をしたら、彼も、今まで心に抱えていた「苦悩」や「過去の辛い体験」を話してくれた。30歳を過ぎた男同士、大号泣だった。
■自分を出していいことに気づく
素直に自分を出せばいい。「自分探しの旅」をして、最初に気づいたのがそのことだった。なぜ素直になれなかったのかというと、それまでの自分は他人の意見を自分の意見だと思い込み、みんなが理想としているものを、自分の理想にすり替えて「他人軸」で物事を考えていたからだ。
「フェラーリに乗りたい」「タワーマンションに住みたい」「海外で暮らしたい」と言う人がいる。もちろん本当に好きで、本気でそれを目標としているなら構わない。けれども、「成功者がフェラーリに乗っているから、タワマンに住んでいるから」という理由でそれを目標にしているのだとしたら、虚しいことだ。
みんなが「カッコイイ」と思う理想像を目標にしても、自分が本当に望んでいることではないので、モチベーションは上がらない。目標設定が間違っているのに、結果を出せない自分に嫌気がさし、うつ状態になり、死にたいと思う。僕自身もそんな悪循環がずっと続いていた。
■他人に人生の主導権を握らせない
2017年の5月、深夜2時にニューヨークのイーストリバー沿いを散歩しながら、僕は、中島美嘉の「僕が死のうと思ったのは」を聴いていた。孤独な時間の中でひたすらリピートして、100回以上聴いていた。
500万円の在庫を持ち逃げされた当時、実はビジネス用に借りた借金が一千万円以上あった。人生のどん底だったと思う。死のうと思っているときは、生き直そうと思っているときだ。暗闇を抜ければ、きっと光がある。そう思いながらニューヨークだけでなく、メキシコでもずっと聴いていた。
人生は一度きり。生きるとしたら、他人や情報に植え付けられた夢や妄想ではなく、自分軸で人生を生きて、自分の心と対話して、人生の真の目標を見つけて楽しみたいと思っている。
■「人間関係リセット症候群」だった
「自分探しの旅」を始める少し前、僕は人間関係について悩んでいた。会社も辞めたことだし、不遜な言い方だが、何となく付き合っている人間関係なら整理したほうがいいと思うようになり、悩んだ末にバッサリ整理した。
それから2年が経った頃だった。
「エッ! 少し前の自分じゃないか」と思った。リセットが癖になると人間関係がうまく築けなくなるというが、人生、リセットが必要なときもあると思う。ちなみにどんな人がなりやすいのかというと……。
①人に合わせるタイプ
②完璧主義者
③人目を気にする性格
などだそうで、確かに①と③は自分に当てはまっていた。
「人に合わせるタイプ」
サラリーマン時代、「いい人そう」なイメージが定着していた僕は、「頼まれごと」が多かった。僕自身は、自分にできることがあれば力になりたいと思うタイプだが、頼めば何でもやってくれると認識すると、ガンガン頼みごとをしてきて感謝など微塵もない人には、不快な思いをさせられることが度々あった。
「人目を気にする性格」
僕は幼稚園のときにいじめられた経験から、人前で話すのが苦手になり、20代後半まで吃音に悩んでいた。だから、人目をすごく気にしていたし、誰にも本音を話せなかった。本音を話せなかったということは、本当の友だちがいなかったということだ。そう納得し、僕は、サラリーマン時代までの人間関係をリセットした。
■リセットしたからこそ、今の人間関係がある
リセットしたことで、一時的に学生時代からの友人はゼロになり、親姉弟以外に仲がいい人間はいなくなった。それはそれで寂しかったが、その後の人間関係は、すべて本音で話しながら作り上げてきたものだ。
昔の自分だったら考えられないが、心から信頼できる親友や仕事関係の人、コンサルティングをしているクライアントさんたちと一緒に海外旅行を楽しみ、将来について本音で語り合うことができるようになった。
なかでも心強い存在が、起業したときからお世話になっている税理士さんだ。彼とは年も近く僕が駆け出しの頃は彼もまだ新人で、お互いに苦労をしていた。やがて二人とも成長し、大きな仕事ができるようになり、喜びを分かち合い、今がある。ビジネスだけでなく、プライベートの深いことまで共感でき、話し合える。本当にかけがえのない存在だと思う。
■「人間関係リセット=悪」ではない
もう一人の心強い存在は、ロシア人の妻。ロシアは本音の国。日本のように本音と建前があるわけではなく、みんなストレートに本音で話すことが多い。昔に比べたら本音を話しているつもりでも、まだまだ妻からは、「それを話さないで結婚生活がうまくいくわけがないでしょう!」と、言われることが多い。
愛想笑いをして、人に合わせて、自分の気持ちを隠して生きても、本当に意味がある人生は手に入らない。自分の心の声を聞いて、自分の本音をぶつけていくことで、相手も本音を返してくれる。
30代のうちに何のストレスもない、豊かな人間関係を築けたことは、これからの人生をより豊かにしてくれるベースになると思っている。自分探しをするなら、人間関係も一度は見直してみるべきだと思う。
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森 翔吾(もり・しょうご)
YouTuber
30歳目前でサラリーマン生活に終止符を打ち、“どこでも生きていける”ための個人事業をスタート。旅先で出会ったロシア人の妻と家庭をつくり、現在は世界を旅しながら2児を育てる暮らし。2020年1月に開設したYouTubeチャンネル【森翔吾】は登録者数19.7万人を突破(2025年5月時点)。
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(YouTuber 森 翔吾)