年齢を重ねても元気な人の共通点は何か。医師の和田秀樹さんは「プロスキーヤーで冒険家の三浦雄一郎さんは、70代の半ばに大怪我で筋肉が落ちてホルモン療法をはじめると、“朝勃ち”が起きて、元気も湧いてきたそうだ。
※本稿は、和田秀樹『熟年からの性』(アートデイズ)の一部を再編集したものです。
■ホルモンを補充すれば男性も女性も元気になって若返る
日本人は、年をとれば意欲がなくなり、性欲も筋力も落ちていくのは老化現象だから防ぎようがないと思い込んでいる人が多いようです。
年をとってくると、そのように思い込んでしまうのは、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、じつは不足しているホルモンを足してやるだけで元気になって若返る可能性が高いのです。元気になって若返ると、脳の老化も筋肉の老化も遅れますから、こんないいことはありません。
「まさか!」と思う人がいるかもしれませんが、本当の話です。
医者はこのことをもっと教えてあげないといけないと、私は思っています。
女性が年をとって、50歳前後で閉経するとして、少なくともあと30年以上は生き続けるわけですし、男性にしても最近は50代でセックスを卒業する人が多いようですが、男性も女性も熟年から性的なことに対して積極的にならないことには、意欲も減退して認知症やうつ病にもなりかねません。
「積極的に快楽を求めよう」という意識になるためには、減ってきたホルモンを足してあげることです。
意欲を高めるためには男性ホルモン(テストステロン)を補充するといいと思います。
前にも申しましたように、テストステロンは一般的に「男性ホルモン」とも呼ばれていますが、女性の体内でも生成されているものなのです。
女性の体の中では主に卵巣と副腎から作られていて、性的な欲望や性的な興奮を促し、性的衝動を高める役割を果たしています。
■欧米では男性も女性も3割から5割の人がホルモンを補充
女性の中には高齢になるとセックスを嫌う人もいますが、パーセントでいくと日本の60代の男性は70%くらい、女性は30%くらいがセックスしたいと思っているというデータがあります。
ですが、ここがまたややこしくて、男性の70%というのはセックスをしたいのだけれど、勃たなくなってできない、したいけれど身体能力的にできないというのが実状のようです。
やはりセックスができなくなると男性でなくなるような気持になるので、できるかぎり「できるようになる」方向にもっていったほうがいいと思います。
そのためにも、まずは意欲を高めていく必要があります。
これに対して、3割から5割の人がホルモンの補充によって若さを保っている欧米人は、日本人とは比べものにならないくらいセックスが大事で、夫婦のどちらかがセックスができなくなると離婚の原因になるほどです。
そういう事情もあって欧米ではバイアグラ(ED治療薬)がめちゃくちゃ売れました。
それで薬品会社が、日本でもすごく売れるだろうと期待して、異常な早さで厚生省(現・厚生労働省)に認可させ、しかも保険収載されなくていいからといって発売に踏み切ったのですが、期待に反して、一般向けのものは全然売れなくて、歌舞伎町とか限られたところで売られているような状態になっています。
要するに、日本ではよそで遊ぶために買う人はいても、奥さんとセックスをするためにバイアグラを使う人がほとんどいないということでしょう。
■性的に元気である人は年をとってからも元気
加齢とともにどうしても男性ホルモンが少なくなるのですが、男性ホルモンが不足すると、気力が落ち、人との付き合いがうっとうしくなってきます。
それだけでなく、人間そのものへの興味を失っていきます。
さらに、記憶力が低下し、筋肉が落ちて脂肪がつくので健康にも影響します。
また、頭を使わなかったり、体を使わなかったりするので要介護にも認知症にもなるリスクが高まります。
結局、性的能力を維持して元気に生きるためには、男性ホルモンのテストステロンを十分保っていることが非常に大切なポイントになるということです。
性的な刺激が男性ホルモンを増やしてくれるのに、日本人はなぜかそういうものを忌み嫌う傾向があります。
日本の医者は「男は年をとったら元気がなくなるのが当たり前」という発想しかなくて、テストステロンの重要性を説明しません。
そのことが、高齢者が性的なものへ関心をもつのは恥ずかしいことだという偏見を広めてしまったように思います。
熟年からの男性を元気にするという意味では、テストステロンを補う治療をもっと普及させるべきだと思います。
私は、高齢の男性こそホルモンを補充することをおすすめします。元気でいられるし、筋肉も落ちにくくなるからです。
性的に元気である人は年をとってからも元気です。
例えば、艶福家としても知られている渋沢栄一にしても、稀代の性豪だったといわれる伊藤博文にしても、年をとってからも元気でした。田中角栄だって脳梗塞にさえならなかったらずっと元気だったと思います。
■2週間に1度の注射を続けていたら、高校生のような“朝勃ち”
男性ホルモンが十分ある人は、肉を食べて適度な運動をすれば、年をとっていても筋肉がつきます。
ところが、男性ホルモンが少ない人は、男性ホルモンの十分ある人と比べて、同じだけ肉を食べて、同じだけ運動しても筋肉がつかないのです。
このことひとつとってみても、ホルモンの力はすごいですよね。
「どうも男性ホルモンが不足しているような気がする」と思っている人は、ものは試しで、この機会に補ってみてはどうでしょう。
男性ホルモンを補充して筋肉の回復をはかったよい例として、プロスキーヤーで冒険家の三浦雄一郎さんがいます。
三浦さんは70代の半ばにスキー場でジャンプに失敗して、左大腿(だいたい)骨頸部や骨盤など5カ所を骨折し、医師からは「治っても車いす生活」といわれたそうです。
治療や懸命なリハビリでなんとか回復しましたが、筋肉がゴソッと落ちたのでホルモン療法をはじめました。
三浦さんが言うには、「2週間に1度の注射を続けていたら、高校生のような“朝勃ち”が起きて、元気も湧いてきた」そうです。
そして、ご存じのように世界最高齢、80歳にしてエベレスト登頂に成功しました。
エベレストのベースキャンプでも、チームドクターにテストステロン注射を続けてもらっていたそうです。
■「男性ホルモン」は「元気ホルモン」に変えるべきだ
三浦さんに男性ホルモン補充療法(HRT=Hormone Replacement Therapy)を行ったのは、札幌医科大学名誉教授の熊本悦明先生でした。
先生は男性ホルモンを日本に導入した人ですが、92歳で亡くなる直前まで現役医師を続けられていました。
また、先生は「男性ホルモン」という名称がよくないので「元気ホルモン」に変えるべきだと主張していました。
私も賛成です。
元気ホルモンという意味では、年をとっても男性ホルモンの数値をある程度維持している人は要介護状態に陥りにくいのです。
この機会に、ぜひ、ご自身の男性ホルモンの数値を計ってみてください。
ただ、先ほども申しましたように、日本がそういう健康寿命を延ばす施策を考えているかといえば全く逆で、むしろ高齢者を痛めつけ、ますます弱くさせるようなことばかりしています。
意識的に男性ホルモンの分泌を上げて元気を出さないといけない高齢者に対して、元気を奪うことばかりやっているのです。
■若返りのためには「まむしドリンク」より男性ホルモン補充
私のクリニックでも、調べてみると男性ホルモンが足りない人がいっぱいいました。
その人たちにはおおむね注射で補充するのですが、みんな目に見えて元気になるし、頭もシャキッとしてきます。
ある患者さんなんか75歳くらいになるのに、「先生、久しぶりに朝勃ちしたんですよ。ついでに性欲も高まってきたので10年ぶりに風俗に行きました」というメールをくれました。
その人は、じつは奥さんがだいぶ前に認知症になられたために、セックスライフから遠ざかり、ずっとまじめに介護してきた人なのです。だから風俗くらい許してもいいんじゃないかと、私は個人的には思っています。
いずれにしても、男性ホルモンを補充すると、そのくらい元気になるということです。
だから、若返りのためには「まむしドリンク」なんか飲むよりも男性ホルモンのほうが、ずっといいと思います。
ところで、ホルモンの補充は「いつ頃からはじめたらよいか」という質問を受けることがありますが、時期については特に決まりがないので、性欲が弱ったなと感じたらはじめるとよいと思います。
そして、いつまでも“現役”でいたいと思うかぎり続けるとよいのではないでしょうか。
現役というのはなにもセックスの現役というだけではありません。仕事もその他もろもろのことも現役という意味ですから、そう思っている間は続けたらいいと思います。
うちのクリニックではアンチエイジングや内科などがメインですが、いちばんリピーターが多いのが、このホルモン補充療法です。
■うつ病と男性ホルモンの関連性
うつ病になると男性ホルモンも減るので、慢性的な疲労感や倦怠感が続き、日常的な活動さえも負担に感じることが多くなります。特に50代、60代のうつ病の人というのは、男性更年期とうつ病の区別がつきにくいのです。
長い間、うつ病だと思われていた更年期障害のはらたいらさんが、最終的に男性ホルモンを足したら急に元気になったという話は有名です。
うつ病になると性欲も低下し、セックスに消極的になってしまいます。
女性のばあいは膣が濡れにくく、「性交痛」が発生しやすくなります。
うつ病の人の血液検査をすると、男性ホルモンが減っていることが多いので、そうしたときに男性ホルモンを足してやると元気になります。
年をとってきて、だんだんセックスができなくなってくると、男としての自信がなくなりやすくなり、うつになりやすいのです。
「セックスをすると、うつ病が治りますか?」と聞かれることがありますが、「う~ん、それはちょっと……」と返事に窮してしまいます。
ただ、うつ病で男性ホルモンが減っている人に男性ホルモンを足してやると、病気そのものは完全にはよくなりませんが、たいがい元気になるし、意欲が出たりします。
それでセックスができたりすると、少しは快楽を感じるようになるので、うつも改善することがあります。
■老人性うつ病が「年のせいだろう」と見過ごされる現実
うつ病について少しお話しますと、高齢になるとうつ病になるリスクが上がっていきます。でも、老人性のうつ病は社会ではさほど問題視されていません。それは、なかなか気づかれにくいこともひとつの原因のように感じています。
高齢者のやる気が低下しても、周囲が「年のせいだろう」と考えて、深刻に捉えないケースも多いようです。
また、物忘れや日常の行動がおっくうになっている様子を認知症と誤診され、誰にも気づかれないままうつ病が進行してしまうケースもあります。
実際に、私が診療している患者さんの6~7割は認知症、残りの3割程度がうつ病です。
認知症は「多幸症」といわれることもあるように、中期以降になると本人自身がものごとを明るく受け入れていく傾向があります。
いっぽう、うつ病は悲観的になり、本人にとってつらい病気です。
正直なところ、医師である私自身が最もなりたくないと思う病気がうつ病です。
うつ病は体のだるさや食欲不振、なにかを食べても味を感じないといった症状が続きます。
さらには、人に迷惑ばかりかけているという罪悪感にさいなまれ、孤独になります。
しっかり治すか認知症にでもならない限り、いつまでも辛さを抱えながら生きていかなければならないのです。
闘病中に喪失体験が重なり、最悪の場合、自ら命を絶ってしまうこともあります。
----------
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
----------
(精神科医 和田 秀樹)
三浦さんに男性ホルモン補充療法を行った札幌医科大学名誉教授の熊本悦明先生は、『男性ホルモン』という名称がよくないので『元気ホルモン』に変えるべきだと主張している」という――。
※本稿は、和田秀樹『熟年からの性』(アートデイズ)の一部を再編集したものです。
■ホルモンを補充すれば男性も女性も元気になって若返る
日本人は、年をとれば意欲がなくなり、性欲も筋力も落ちていくのは老化現象だから防ぎようがないと思い込んでいる人が多いようです。
年をとってくると、そのように思い込んでしまうのは、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、じつは不足しているホルモンを足してやるだけで元気になって若返る可能性が高いのです。元気になって若返ると、脳の老化も筋肉の老化も遅れますから、こんないいことはありません。
「まさか!」と思う人がいるかもしれませんが、本当の話です。
医者はこのことをもっと教えてあげないといけないと、私は思っています。
女性が年をとって、50歳前後で閉経するとして、少なくともあと30年以上は生き続けるわけですし、男性にしても最近は50代でセックスを卒業する人が多いようですが、男性も女性も熟年から性的なことに対して積極的にならないことには、意欲も減退して認知症やうつ病にもなりかねません。
「積極的に快楽を求めよう」という意識になるためには、減ってきたホルモンを足してあげることです。
意欲を高めるためには男性ホルモン(テストステロン)を補充するといいと思います。
前にも申しましたように、テストステロンは一般的に「男性ホルモン」とも呼ばれていますが、女性の体内でも生成されているものなのです。
女性の体の中では主に卵巣と副腎から作られていて、性的な欲望や性的な興奮を促し、性的衝動を高める役割を果たしています。
■欧米では男性も女性も3割から5割の人がホルモンを補充
女性の中には高齢になるとセックスを嫌う人もいますが、パーセントでいくと日本の60代の男性は70%くらい、女性は30%くらいがセックスしたいと思っているというデータがあります。
ですが、ここがまたややこしくて、男性の70%というのはセックスをしたいのだけれど、勃たなくなってできない、したいけれど身体能力的にできないというのが実状のようです。
やはりセックスができなくなると男性でなくなるような気持になるので、できるかぎり「できるようになる」方向にもっていったほうがいいと思います。
そのためにも、まずは意欲を高めていく必要があります。
これに対して、3割から5割の人がホルモンの補充によって若さを保っている欧米人は、日本人とは比べものにならないくらいセックスが大事で、夫婦のどちらかがセックスができなくなると離婚の原因になるほどです。
そういう事情もあって欧米ではバイアグラ(ED治療薬)がめちゃくちゃ売れました。
それで薬品会社が、日本でもすごく売れるだろうと期待して、異常な早さで厚生省(現・厚生労働省)に認可させ、しかも保険収載されなくていいからといって発売に踏み切ったのですが、期待に反して、一般向けのものは全然売れなくて、歌舞伎町とか限られたところで売られているような状態になっています。
要するに、日本ではよそで遊ぶために買う人はいても、奥さんとセックスをするためにバイアグラを使う人がほとんどいないということでしょう。
■性的に元気である人は年をとってからも元気
加齢とともにどうしても男性ホルモンが少なくなるのですが、男性ホルモンが不足すると、気力が落ち、人との付き合いがうっとうしくなってきます。
それだけでなく、人間そのものへの興味を失っていきます。
さらに、記憶力が低下し、筋肉が落ちて脂肪がつくので健康にも影響します。
また、頭を使わなかったり、体を使わなかったりするので要介護にも認知症にもなるリスクが高まります。
結局、性的能力を維持して元気に生きるためには、男性ホルモンのテストステロンを十分保っていることが非常に大切なポイントになるということです。
性的な刺激が男性ホルモンを増やしてくれるのに、日本人はなぜかそういうものを忌み嫌う傾向があります。
日本の医者は「男は年をとったら元気がなくなるのが当たり前」という発想しかなくて、テストステロンの重要性を説明しません。
そのことが、高齢者が性的なものへ関心をもつのは恥ずかしいことだという偏見を広めてしまったように思います。
熟年からの男性を元気にするという意味では、テストステロンを補う治療をもっと普及させるべきだと思います。
私は、高齢の男性こそホルモンを補充することをおすすめします。元気でいられるし、筋肉も落ちにくくなるからです。
性的に元気である人は年をとってからも元気です。
例えば、艶福家としても知られている渋沢栄一にしても、稀代の性豪だったといわれる伊藤博文にしても、年をとってからも元気でした。田中角栄だって脳梗塞にさえならなかったらずっと元気だったと思います。
■2週間に1度の注射を続けていたら、高校生のような“朝勃ち”
男性ホルモンが十分ある人は、肉を食べて適度な運動をすれば、年をとっていても筋肉がつきます。
ところが、男性ホルモンが少ない人は、男性ホルモンの十分ある人と比べて、同じだけ肉を食べて、同じだけ運動しても筋肉がつかないのです。
このことひとつとってみても、ホルモンの力はすごいですよね。
「どうも男性ホルモンが不足しているような気がする」と思っている人は、ものは試しで、この機会に補ってみてはどうでしょう。
男性ホルモンを補充して筋肉の回復をはかったよい例として、プロスキーヤーで冒険家の三浦雄一郎さんがいます。
三浦さんは70代の半ばにスキー場でジャンプに失敗して、左大腿(だいたい)骨頸部や骨盤など5カ所を骨折し、医師からは「治っても車いす生活」といわれたそうです。
治療や懸命なリハビリでなんとか回復しましたが、筋肉がゴソッと落ちたのでホルモン療法をはじめました。
三浦さんが言うには、「2週間に1度の注射を続けていたら、高校生のような“朝勃ち”が起きて、元気も湧いてきた」そうです。
そして、ご存じのように世界最高齢、80歳にしてエベレスト登頂に成功しました。
エベレストのベースキャンプでも、チームドクターにテストステロン注射を続けてもらっていたそうです。
■「男性ホルモン」は「元気ホルモン」に変えるべきだ
三浦さんに男性ホルモン補充療法(HRT=Hormone Replacement Therapy)を行ったのは、札幌医科大学名誉教授の熊本悦明先生でした。
先生は男性ホルモンを日本に導入した人ですが、92歳で亡くなる直前まで現役医師を続けられていました。
また、先生は「男性ホルモン」という名称がよくないので「元気ホルモン」に変えるべきだと主張していました。
私も賛成です。
元気ホルモンという意味では、年をとっても男性ホルモンの数値をある程度維持している人は要介護状態に陥りにくいのです。
この機会に、ぜひ、ご自身の男性ホルモンの数値を計ってみてください。
ただ、先ほども申しましたように、日本がそういう健康寿命を延ばす施策を考えているかといえば全く逆で、むしろ高齢者を痛めつけ、ますます弱くさせるようなことばかりしています。
意識的に男性ホルモンの分泌を上げて元気を出さないといけない高齢者に対して、元気を奪うことばかりやっているのです。
■若返りのためには「まむしドリンク」より男性ホルモン補充
私のクリニックでも、調べてみると男性ホルモンが足りない人がいっぱいいました。
その人たちにはおおむね注射で補充するのですが、みんな目に見えて元気になるし、頭もシャキッとしてきます。
ある患者さんなんか75歳くらいになるのに、「先生、久しぶりに朝勃ちしたんですよ。ついでに性欲も高まってきたので10年ぶりに風俗に行きました」というメールをくれました。
その人は、じつは奥さんがだいぶ前に認知症になられたために、セックスライフから遠ざかり、ずっとまじめに介護してきた人なのです。だから風俗くらい許してもいいんじゃないかと、私は個人的には思っています。
いずれにしても、男性ホルモンを補充すると、そのくらい元気になるということです。
だから、若返りのためには「まむしドリンク」なんか飲むよりも男性ホルモンのほうが、ずっといいと思います。
ところで、ホルモンの補充は「いつ頃からはじめたらよいか」という質問を受けることがありますが、時期については特に決まりがないので、性欲が弱ったなと感じたらはじめるとよいと思います。
そして、いつまでも“現役”でいたいと思うかぎり続けるとよいのではないでしょうか。
現役というのはなにもセックスの現役というだけではありません。仕事もその他もろもろのことも現役という意味ですから、そう思っている間は続けたらいいと思います。
うちのクリニックではアンチエイジングや内科などがメインですが、いちばんリピーターが多いのが、このホルモン補充療法です。
■うつ病と男性ホルモンの関連性
うつ病になると男性ホルモンも減るので、慢性的な疲労感や倦怠感が続き、日常的な活動さえも負担に感じることが多くなります。特に50代、60代のうつ病の人というのは、男性更年期とうつ病の区別がつきにくいのです。
長い間、うつ病だと思われていた更年期障害のはらたいらさんが、最終的に男性ホルモンを足したら急に元気になったという話は有名です。
うつ病になると性欲も低下し、セックスに消極的になってしまいます。
女性のばあいは膣が濡れにくく、「性交痛」が発生しやすくなります。
うつ病の人の血液検査をすると、男性ホルモンが減っていることが多いので、そうしたときに男性ホルモンを足してやると元気になります。
年をとってきて、だんだんセックスができなくなってくると、男としての自信がなくなりやすくなり、うつになりやすいのです。
「セックスをすると、うつ病が治りますか?」と聞かれることがありますが、「う~ん、それはちょっと……」と返事に窮してしまいます。
ただ、うつ病で男性ホルモンが減っている人に男性ホルモンを足してやると、病気そのものは完全にはよくなりませんが、たいがい元気になるし、意欲が出たりします。
それでセックスができたりすると、少しは快楽を感じるようになるので、うつも改善することがあります。
■老人性うつ病が「年のせいだろう」と見過ごされる現実
うつ病について少しお話しますと、高齢になるとうつ病になるリスクが上がっていきます。でも、老人性のうつ病は社会ではさほど問題視されていません。それは、なかなか気づかれにくいこともひとつの原因のように感じています。
高齢者のやる気が低下しても、周囲が「年のせいだろう」と考えて、深刻に捉えないケースも多いようです。
また、物忘れや日常の行動がおっくうになっている様子を認知症と誤診され、誰にも気づかれないままうつ病が進行してしまうケースもあります。
実際に、私が診療している患者さんの6~7割は認知症、残りの3割程度がうつ病です。
認知症は「多幸症」といわれることもあるように、中期以降になると本人自身がものごとを明るく受け入れていく傾向があります。
いっぽう、うつ病は悲観的になり、本人にとってつらい病気です。
正直なところ、医師である私自身が最もなりたくないと思う病気がうつ病です。
うつ病は体のだるさや食欲不振、なにかを食べても味を感じないといった症状が続きます。
さらには、人に迷惑ばかりかけているという罪悪感にさいなまれ、孤独になります。
しっかり治すか認知症にでもならない限り、いつまでも辛さを抱えながら生きていかなければならないのです。
闘病中に喪失体験が重なり、最悪の場合、自ら命を絶ってしまうこともあります。
----------
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
----------
(精神科医 和田 秀樹)
編集部おすすめ