海外で安全に過ごすために気を付けるべきことはなにか。世界中を旅するYouTuberの森翔吾さんは「これまで数々の危険な目に遭ってきたが、まずは『危険な地域には立ち寄らない』こと。
※本稿は、森翔吾『すべては「旅」からはじまった 世界を回って辿り着いた豊かなローコストライフ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ドバイの意外な弱点
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイといえば、世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」をはじめとする高層ビルが立ち並び、世界の富裕層が集まることで知られている。なぜ、富裕層が集まるのかというと、世界有数の「タックスヘイブン(所得税や法人税などが限りなくゼロに近い地域)」だから。
とはいえ、1971年に独立するまでは砂漠地帯だったので、歴史を感じられる建造物はまったくない。人工島に建築されたリゾートがあるだけなので、自然もない、街に面白みがない。これが、ドバイの弱点だ。
しかも3~10月は暑く、真夏は体感温度が50度を超えて湿度も高いので、冷房が効いた室内にいるしかない。そんなわけで僕は、ドバイに行くとホテルで缶詰になって仕事をしているか、現地のアラブ人に混じってカフェで仕事をすることが多くなる。
■街歩きが楽しめないドバイ
結婚する前は彼女がドバイで仕事をしていたので、僕は年に4、5回はドバイに行き、一カ月ほどステイしていた。そこで思ったのが、「散歩は大事!」ということだ。
旅の楽しみは、落ち着けるカフェを見つけてゆっくりお茶を飲んだり仕事をして過ごすとか、何の目的もなく街を散策して写真を撮ったり、沈んでいく夕陽を眺めながら変わりゆく景色を楽しむ、なんてところにあるのだと思っていた。
街歩きが楽しめないドバイで将来暮らせるだろうか? う~ん、難しい。当時、ドバイで暮らしていた僕の彼女も、「ドバイは何もやることがないので、1年のうち300日はジムに通っている」と言っていた。
本当にそう思っている人が多いらしく、フィットネスジムは大盛況。ニューヨーク同様、マッチョな筋肉自慢がたくさん通っている。
■ただし日本以上に治安が良く、料理も美味しい
そんなドバイだが、料理は何を食べても美味しい。レバノン料理、トルコ料理、シリア料理、ヨルダン料理、イラン料理、サウジアラビア料理など、微妙にスパイスの使い方が違う美味しい料理がたくさんある。
なかでも、レバノン料理がかなり洗練されていて、マグロのたたきを思わせる「羊の生肉」や「ケバブ」などは、日本人の口にも合うと思う。もう一つドバイの良さを挙げるなら、レストランもホテルもビーチも、綺麗に掃除されていてゴミがほとんどないことと、日本以上に治安が良いことだ。
ただし、ドバイは格差社会。
出稼ぎ労働者でも、出世しやすいのは白人(ロシア、ウクライナを含む)と言われており、お金がないから、生活が苦しいからといって、薬物犯罪や暴力犯罪を犯したら、即刻国外退去。二度とドバイに入国できないというルールがある。だから、犯罪が少ない。なかなか合理的な考え方だ。
■出稼ぎ労働者の過酷な労働環境
2024年の年末、僕たち家族が住むロシアのカザンが、無人機による攻撃を受けた。火災や停電が起こり、外出が危険な状態になったため、ドバイのホテルに緊急避難した。2週間ほどの滞在だったが、そのときに利用したタクシーのドライバーも、出稼ぎに来ているパキスタン人だった。
一日12時間、週6日働いて、給料はようやく1000ドル、日本円で15万円程度。基本給は5万円程度の歩合制なので、走り続けなければ給料は上がらない。畳ほどの部屋に2段ベッドが16個というぎゅうぎゅう詰めの部屋で寝泊まりし、家賃3万円。食費に2万円。
それでも、「パキスタンには仕事がないから、ドバイで仕事ができるのはありがたい」と彼は言っていた。
語学留学していたフィリピンでも、同じような話を聞いた。あれからもう10年近く経つというのに、出稼ぎ労働者たちの生活は依然として厳しい。彼らの努力と苦労が報われることを祈るばかりだ。妻も出稼ぎ経験者だったからこそ、強くそう感じる。
■最高のタコスを求めて命がけで危険地区へ
メキシコでは、僕が世界中で一番好きな食べ物・タコスを追いかけて、かなりヤバい目に遭ったことがある。メキシコシティに到着した日からタコスを求めて食べ歩いていた僕は、Googleマップで、5点満点中4.7と、かなり評価が高い店を見つけた。「古典的な牛の腹(内臓系)のタコスがある」と紹介されている。
ぜひとも食べたいと思ったが、問題があった。レストランがある場所が、メキシコで最も危ないと言われている「テピート地区」だったのだ。
テピート地区とは、
・週に何回もバスジャックが起こる。
・銃やドラッグが買えるブラックマーケットがある。
・メキシコ最大のコピー品マーケットがある。
・写真を撮影すると、観光客とみなされ目をつけられる。
という場所であるらしく、宿泊先の人や地元の人に様子を聞いても、「危ない、用事がない限り行きたくない」と、同じような答えが返ってくるだけだった。
しかし、無類のタコス好きが、本場にまでやって来て、内臓系の古典的なタコスが食べられると聞いて、「行かない」選択はない。調べてみると宿泊先から15分ほどだったので、カメラは持たず、最小限のお金とスマホだけを持って行ってみることにした。
食べたい気持ちを抑えられずに宿泊先を出たのは、夕方の5時。これから暗くなる時間だったことは、大きな選択ミスだった。
■ドラッグの売人グループに肩を組まれる
テピート地区に近づくにつれ、白人やアジア人などの観光客はまったく見かけなくなった。地区の入口には警察官が立っていたが、それほど危険な雰囲気はなかった。「行こう」と腹を決め、大通りを渡ってマーケットに入った。入口から3分ほどで目的のタコス店に到着したが、残念なことに、ちょうど閉店したところだった。
マーケットの他の店も次々に閉店し、明るさと賑わいが波のように引いた。引き返すか迷ったが、好奇心もあり、直進した。この選択が、本当に間違いだった。3分ほど歩くと明らかに雰囲気が変わり、僕の前にはいかつい男が立っていた。
「ヘイ、ブラザー! ウィード、クラック、コーク、ヘロ、メス?」
明らかにドラッグの売人だった。まるで映画だ!
ちなみに、ウィード=大麻、クラック・コーク=コカイン、ヘロ=ヘロイン、メス=覚醒剤の隠語である。3メートル間隔で立っている売人のグループからジロジロ見られ、声をかけられ、腕をつかまれ、肩を組まれ、絡まれた。
さすがに「このままだとヤバイ!」と感じて引き返そうとしたそのとき、売人が「ガンズ?」と笑いながら聞いてきた。
■危険な地域には立ち寄らないのが賢明
噂通り銃も売っているのかと思い、背筋が寒くなった。テピート地区と安全な地区を分ける大通りを渡り切った後も、つけられていないか心配で周囲を見回した。普通の人たちしかいないと確認できたときに、初めてホッとした。
インドやフィリピンなど、アジアのスラム街などでもスリに目をつけられたことがある。
世界遺産もあるメキシコシティの観光地エリアは、観光客も多いため、警備も厳重で大勢の警察官や軍人が立っている。だからといって、メキシコを安全な国だと思ってはいけない。危険な地域には立ち寄らないのが賢明だ。
と言いながら、僕はテピート地区で命拾いした翌日の昼過ぎ、例のタコスの店に行ってきた。昼間は安全な店だった。そして本当に、美味しいタコスだった。
■トルコのぼったくりバーに連れて行かれる
トルコで、宿泊先に帰るために夜の歓楽街を歩いていたら、日本語で話しかけられて、ぼったくりバーに連れて行かれたことがあった。声をかけてきた客引きの若い男性は(たぶん)クルド人で、日本語がメチャクチャうまかった。
ヒルトンホテルのカードキーを見せながら、
「飲みに行こうよ、僕はこのホテルに泊まっているんだ」
「酔っ払ったら、一緒に泊まればいいよ」
「人生は一度きりだから、遊ぼうよ」
「人生一度きりだから、今日は飲もうよ」
“人生一度きり”と何十回、聞いただろうか。怪しい人間が“人生一度きり”とは言わないだろうと思ったし、たとえ騙されてぼったくりにあって支払ったとしても、数百ドルくらいのものだろうと店に入り、席についた。そして、店の中から出てきたウクライナ人女性たちも交ざり一緒に飲んだ結果……、
請求書は「3000ドル」(約45万円)になっていた。
■真っ黒な高級車に乗せられ、ATMへ連行
これは大変なことになったと、僕は素早く、彼らに気づかれないように、アメックス以外のクレジットカードをパンツの中に隠した。
「トルコやヨーロッパの街ではアメックスのカードはほとんど使えない。観光客が一枚もクレカを持っていないのは怪しいと思われる。アメックスはキャッシングできないようにしてあるから、何とかなる」
酔っ払っていたが、危険を察知して、一瞬正気に戻ったのかもしれない。使えるクレカ、キャッシュカードをパンツに隠したのは賢明だった。アメックスのクレカで支払いができないとわかると、奥から真っ黒なスーツを着た男たちが出てきた。真っ黒な高級車に乗せられ、歓楽街のATMに連れて行かれた。
明らかにマフィアだった。ATMの外には、見張り役が立っていた。黒スーツの男が「ここでキャッシングをして金を払え」と言う。僕が「キャッシングはゼロにしてあるから、無理だ」と言いながら、ATMにカードを入れて弾かれる。
それを何度か繰り返した。アメックスカードが使えないとわかると、ボディチェックをされ、財布の中にほかのカードがないか調べられた。
やがて黒スーツの男が、「3000ドルを、お前ら二人で払え!」と凄んだ。客引きの男もビビったふりをしていたが、所詮、彼らはグルだ。1500ドル(約22万円)で済むならここで解放されたいと支払ってしまう人もいるのだろう。ぼったくられるのは腹が立つが、無理をすれば払えるし、キャッシングの上限にも引っかからない絶妙な金額設定だと思った。
■「警察」と言わなかったことが身を守った
そのとき、財布に入っていたのは、わずか100ドルだけだった。そこで、僕はこう言った。
「財布には100ドルしかない。日本大使館でお金を借りられると思うから、連れて行ってくれ」
「警察」と言ったら厄介なことになるかもしれないと思い、咄嗟に「日本大使館」という言葉を選んでいた。この選択も、的確だった。もちろん、大使館の世話になる気はサラサラなかったが……。
結果的に、黒スーツの男は「その100ドルを出せ」と言い、僕の手から奪い取って、あごであっちいけのジェスチャーを送ってきた。すっかり酔いは醒めていたので、宿泊先まで歩いた。心臓がバクバクしていた。
この経験をして以来、怪しい地域に行くときは、100ドル程度の現金とキャッシング数万円までに設定したクレカを別々に持って出かけるのがいいと思うようになった。その前に、海外に行くときの大前提として、守ったほうがいいことがある。
「流暢な日本語を話して近づいてくる人には注意すること」である。
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森 翔吾(もり・しょうご)
YouTuber
30歳目前でサラリーマン生活に終止符を打ち、“どこでも生きていける”ための個人事業をスタート。旅先で出会ったロシア人の妻と家庭をつくり、現在は世界を旅しながら2児を育てる暮らし。2020年1月に開設したYouTubeチャンネル【森翔吾】は登録者数19.7万人を突破(2025年5月時点)。
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(YouTuber 森 翔吾)
そして『流暢な日本語を話して近づいてくる人には注意する』べきである」という――。
※本稿は、森翔吾『すべては「旅」からはじまった 世界を回って辿り着いた豊かなローコストライフ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ドバイの意外な弱点
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイといえば、世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」をはじめとする高層ビルが立ち並び、世界の富裕層が集まることで知られている。なぜ、富裕層が集まるのかというと、世界有数の「タックスヘイブン(所得税や法人税などが限りなくゼロに近い地域)」だから。
とはいえ、1971年に独立するまでは砂漠地帯だったので、歴史を感じられる建造物はまったくない。人工島に建築されたリゾートがあるだけなので、自然もない、街に面白みがない。これが、ドバイの弱点だ。
しかも3~10月は暑く、真夏は体感温度が50度を超えて湿度も高いので、冷房が効いた室内にいるしかない。そんなわけで僕は、ドバイに行くとホテルで缶詰になって仕事をしているか、現地のアラブ人に混じってカフェで仕事をすることが多くなる。
■街歩きが楽しめないドバイ
結婚する前は彼女がドバイで仕事をしていたので、僕は年に4、5回はドバイに行き、一カ月ほどステイしていた。そこで思ったのが、「散歩は大事!」ということだ。
旅の楽しみは、落ち着けるカフェを見つけてゆっくりお茶を飲んだり仕事をして過ごすとか、何の目的もなく街を散策して写真を撮ったり、沈んでいく夕陽を眺めながら変わりゆく景色を楽しむ、なんてところにあるのだと思っていた。
ところがドバイは、どこを見ても同じような風景なので街歩きが楽しめない。そもそも、この国は車社会だ。散歩ができない=ストレスになるということを、僕は初めて実感した。
街歩きが楽しめないドバイで将来暮らせるだろうか? う~ん、難しい。当時、ドバイで暮らしていた僕の彼女も、「ドバイは何もやることがないので、1年のうち300日はジムに通っている」と言っていた。
本当にそう思っている人が多いらしく、フィットネスジムは大盛況。ニューヨーク同様、マッチョな筋肉自慢がたくさん通っている。
■ただし日本以上に治安が良く、料理も美味しい
そんなドバイだが、料理は何を食べても美味しい。レバノン料理、トルコ料理、シリア料理、ヨルダン料理、イラン料理、サウジアラビア料理など、微妙にスパイスの使い方が違う美味しい料理がたくさんある。
なかでも、レバノン料理がかなり洗練されていて、マグロのたたきを思わせる「羊の生肉」や「ケバブ」などは、日本人の口にも合うと思う。もう一つドバイの良さを挙げるなら、レストランもホテルもビーチも、綺麗に掃除されていてゴミがほとんどないことと、日本以上に治安が良いことだ。
ただし、ドバイは格差社会。
ドバイの人口の10%程度を占める現地で生まれた大金持ちや白人富裕層は南側に住み、人口の90%を占めるインド、パキスタン、フィリピン、エジプト、アフリカなどからの出稼ぎ労働者は北側に住んでいる。
出稼ぎ労働者でも、出世しやすいのは白人(ロシア、ウクライナを含む)と言われており、お金がないから、生活が苦しいからといって、薬物犯罪や暴力犯罪を犯したら、即刻国外退去。二度とドバイに入国できないというルールがある。だから、犯罪が少ない。なかなか合理的な考え方だ。
■出稼ぎ労働者の過酷な労働環境
2024年の年末、僕たち家族が住むロシアのカザンが、無人機による攻撃を受けた。火災や停電が起こり、外出が危険な状態になったため、ドバイのホテルに緊急避難した。2週間ほどの滞在だったが、そのときに利用したタクシーのドライバーも、出稼ぎに来ているパキスタン人だった。
一日12時間、週6日働いて、給料はようやく1000ドル、日本円で15万円程度。基本給は5万円程度の歩合制なので、走り続けなければ給料は上がらない。畳ほどの部屋に2段ベッドが16個というぎゅうぎゅう詰めの部屋で寝泊まりし、家賃3万円。食費に2万円。
残りの10万円は、本国の家族をサポートするために仕送りをしている。
それでも、「パキスタンには仕事がないから、ドバイで仕事ができるのはありがたい」と彼は言っていた。
語学留学していたフィリピンでも、同じような話を聞いた。あれからもう10年近く経つというのに、出稼ぎ労働者たちの生活は依然として厳しい。彼らの努力と苦労が報われることを祈るばかりだ。妻も出稼ぎ経験者だったからこそ、強くそう感じる。
■最高のタコスを求めて命がけで危険地区へ
メキシコでは、僕が世界中で一番好きな食べ物・タコスを追いかけて、かなりヤバい目に遭ったことがある。メキシコシティに到着した日からタコスを求めて食べ歩いていた僕は、Googleマップで、5点満点中4.7と、かなり評価が高い店を見つけた。「古典的な牛の腹(内臓系)のタコスがある」と紹介されている。
ぜひとも食べたいと思ったが、問題があった。レストランがある場所が、メキシコで最も危ないと言われている「テピート地区」だったのだ。
テピート地区とは、
・週に何回もバスジャックが起こる。
・銃やドラッグが買えるブラックマーケットがある。
・メキシコ最大のコピー品マーケットがある。
・写真を撮影すると、観光客とみなされ目をつけられる。
という場所であるらしく、宿泊先の人や地元の人に様子を聞いても、「危ない、用事がない限り行きたくない」と、同じような答えが返ってくるだけだった。
しかし、無類のタコス好きが、本場にまでやって来て、内臓系の古典的なタコスが食べられると聞いて、「行かない」選択はない。調べてみると宿泊先から15分ほどだったので、カメラは持たず、最小限のお金とスマホだけを持って行ってみることにした。
食べたい気持ちを抑えられずに宿泊先を出たのは、夕方の5時。これから暗くなる時間だったことは、大きな選択ミスだった。
■ドラッグの売人グループに肩を組まれる
テピート地区に近づくにつれ、白人やアジア人などの観光客はまったく見かけなくなった。地区の入口には警察官が立っていたが、それほど危険な雰囲気はなかった。「行こう」と腹を決め、大通りを渡ってマーケットに入った。入口から3分ほどで目的のタコス店に到着したが、残念なことに、ちょうど閉店したところだった。
マーケットの他の店も次々に閉店し、明るさと賑わいが波のように引いた。引き返すか迷ったが、好奇心もあり、直進した。この選択が、本当に間違いだった。3分ほど歩くと明らかに雰囲気が変わり、僕の前にはいかつい男が立っていた。
「ヘイ、ブラザー! ウィード、クラック、コーク、ヘロ、メス?」
明らかにドラッグの売人だった。まるで映画だ!
ちなみに、ウィード=大麻、クラック・コーク=コカイン、ヘロ=ヘロイン、メス=覚醒剤の隠語である。3メートル間隔で立っている売人のグループからジロジロ見られ、声をかけられ、腕をつかまれ、肩を組まれ、絡まれた。
さすがに「このままだとヤバイ!」と感じて引き返そうとしたそのとき、売人が「ガンズ?」と笑いながら聞いてきた。
■危険な地域には立ち寄らないのが賢明
噂通り銃も売っているのかと思い、背筋が寒くなった。テピート地区と安全な地区を分ける大通りを渡り切った後も、つけられていないか心配で周囲を見回した。普通の人たちしかいないと確認できたときに、初めてホッとした。
インドやフィリピンなど、アジアのスラム街などでもスリに目をつけられたことがある。
彼らは金品を持っている観光客を見つけると、すれ違ってから、Uターンして後をつけてくる。つけてきたら、振り向いて「わかっているよ、スリだろ」と睨みを利かせれば退散する。でも、メキシコのテピート地区は違う。パッと見ただけで、20人は売人がいた。そんな場所で大勢の売人に絡まれたら、確実に厄介なことになる。
世界遺産もあるメキシコシティの観光地エリアは、観光客も多いため、警備も厳重で大勢の警察官や軍人が立っている。だからといって、メキシコを安全な国だと思ってはいけない。危険な地域には立ち寄らないのが賢明だ。
と言いながら、僕はテピート地区で命拾いした翌日の昼過ぎ、例のタコスの店に行ってきた。昼間は安全な店だった。そして本当に、美味しいタコスだった。
■トルコのぼったくりバーに連れて行かれる
トルコで、宿泊先に帰るために夜の歓楽街を歩いていたら、日本語で話しかけられて、ぼったくりバーに連れて行かれたことがあった。声をかけてきた客引きの若い男性は(たぶん)クルド人で、日本語がメチャクチャうまかった。
ヒルトンホテルのカードキーを見せながら、
「飲みに行こうよ、僕はこのホテルに泊まっているんだ」
「酔っ払ったら、一緒に泊まればいいよ」
「人生は一度きりだから、遊ぼうよ」
「人生一度きりだから、今日は飲もうよ」
“人生一度きり”と何十回、聞いただろうか。怪しい人間が“人生一度きり”とは言わないだろうと思ったし、たとえ騙されてぼったくりにあって支払ったとしても、数百ドルくらいのものだろうと店に入り、席についた。そして、店の中から出てきたウクライナ人女性たちも交ざり一緒に飲んだ結果……、
請求書は「3000ドル」(約45万円)になっていた。
■真っ黒な高級車に乗せられ、ATMへ連行
これは大変なことになったと、僕は素早く、彼らに気づかれないように、アメックス以外のクレジットカードをパンツの中に隠した。
「トルコやヨーロッパの街ではアメックスのカードはほとんど使えない。観光客が一枚もクレカを持っていないのは怪しいと思われる。アメックスはキャッシングできないようにしてあるから、何とかなる」
酔っ払っていたが、危険を察知して、一瞬正気に戻ったのかもしれない。使えるクレカ、キャッシュカードをパンツに隠したのは賢明だった。アメックスのクレカで支払いができないとわかると、奥から真っ黒なスーツを着た男たちが出てきた。真っ黒な高級車に乗せられ、歓楽街のATMに連れて行かれた。
明らかにマフィアだった。ATMの外には、見張り役が立っていた。黒スーツの男が「ここでキャッシングをして金を払え」と言う。僕が「キャッシングはゼロにしてあるから、無理だ」と言いながら、ATMにカードを入れて弾かれる。
それを何度か繰り返した。アメックスカードが使えないとわかると、ボディチェックをされ、財布の中にほかのカードがないか調べられた。
やがて黒スーツの男が、「3000ドルを、お前ら二人で払え!」と凄んだ。客引きの男もビビったふりをしていたが、所詮、彼らはグルだ。1500ドル(約22万円)で済むならここで解放されたいと支払ってしまう人もいるのだろう。ぼったくられるのは腹が立つが、無理をすれば払えるし、キャッシングの上限にも引っかからない絶妙な金額設定だと思った。
■「警察」と言わなかったことが身を守った
そのとき、財布に入っていたのは、わずか100ドルだけだった。そこで、僕はこう言った。
「財布には100ドルしかない。日本大使館でお金を借りられると思うから、連れて行ってくれ」
「警察」と言ったら厄介なことになるかもしれないと思い、咄嗟に「日本大使館」という言葉を選んでいた。この選択も、的確だった。もちろん、大使館の世話になる気はサラサラなかったが……。
結果的に、黒スーツの男は「その100ドルを出せ」と言い、僕の手から奪い取って、あごであっちいけのジェスチャーを送ってきた。すっかり酔いは醒めていたので、宿泊先まで歩いた。心臓がバクバクしていた。
この経験をして以来、怪しい地域に行くときは、100ドル程度の現金とキャッシング数万円までに設定したクレカを別々に持って出かけるのがいいと思うようになった。その前に、海外に行くときの大前提として、守ったほうがいいことがある。
「流暢な日本語を話して近づいてくる人には注意すること」である。
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森 翔吾(もり・しょうご)
YouTuber
30歳目前でサラリーマン生活に終止符を打ち、“どこでも生きていける”ための個人事業をスタート。旅先で出会ったロシア人の妻と家庭をつくり、現在は世界を旅しながら2児を育てる暮らし。2020年1月に開設したYouTubeチャンネル【森翔吾】は登録者数19.7万人を突破(2025年5月時点)。
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(YouTuber 森 翔吾)
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