新築マンションが高騰し、中古マンションを買う人が増えている。不動産コンサルタントの後藤一仁さんは「物件を選ぶときはちゃんとした判断基準を持っていたほうがいい。
面積の計算方法、築年数による違いなども把握しておきたい」という――。
※本稿は後藤一仁『中古マンション これからの買い方・売り方 絶対に損したくない人のための最強バイブル』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■「購入のものさし」を決めておくと、失敗を避けられる
マンションは「購入の目的」を明確にしておくと失敗しづらいといえます。
物件探しをしているうちに最新設備を備えている物件を見て舞い上がったり、不動産会社の営業トークを聞いたりして「なるほど」と、右へ左に考え方がぶれて結果的に「購入の目的」と違う物件を買ってしまう……。こうした後悔をしないように、「何のために購入するのか」を明確にしておきましょう。これはマンション購入で成功するかどうかの大きな分かれ目の一つです。
ポータルサイトなどで物件をいろいろ見ながら現実を学んだら、自分の希望や気持ちを整理しましょう。家族がいるなら家族とも意見をすり合わせ、希望条件・判断基準を一致させておきましょう。
これから実際に物件探しをスタートさせ、よい物件が出てきたときに短い時間で判断しすぐに行動できるように「購入のものさし(判断基準)」をつくって、リスト化しておきます。
何と何を満たしたら購入するのかなど、自分や家族の心のなかに描いた希望を書き出し、本当に大事な希望を厳選し、言葉で確認できるようにしておくのです。
■資産価値に関わる「住むエリア」と立地条件、建物はあとで
資産価値を意識したマンション選びでは、「立地」がきわめて重要で、資産価値を大きく左右します。
購入希望エリアは必ず最初に決めるようにしましょう。

自分たちの好みの建物(広さや設備・仕様、居住性など)を探すことを重視して、広範囲で探すのはやめましょう。自分たちの利用価値の他に、資産性や安全性も考慮して、まず最初に「立地」を決めて、そのエリア内もしくは近接エリアにある物件を探すのが基本です。
「立地が先、建物があと」と覚えておいてください。
エリアについては、まずは「○○線の△△駅~□□駅の間」と、「○○線の△△駅」および「○△線の△○駅」くらいのところから始めてもいいかもしれません。その際には、「街力」や「駅力」などを意識しながら選ぶのがおすすめです。
市区にこだわりのある人は、「○○線の△△駅の□□市区内、できればどこどこの○丁目~×丁目」などと区切って、徐々にエリアを広げていくとよいです。エリアが広すぎるのはいけませんが、狭くしすぎると「欲しいと思う物件が全然出てこない」という結果になりがちで、家を探すモチベーションを保つことが難しくなってしまうかもしれません。
ノーマークだったもの(場所)のなかにも目を惹(ひ)くものが混ざっている可能性もあります。
休日などに散歩がてら候補の街へ実際に行ってみることをおすすめします。
■専有面積は「50平米以上」、「壁芯面積」かどうかをチェック
ポータルサイトに表示されている専有面積は、ほとんどの物件が「壁芯(へきしん/かべしん)面積」です。
不動産情報サイト「スーモ」の場合、専有面積は40平米、50平米、60平米と10平米きざみで表示(アットホームは5平米きざみ)されます。壁芯面積で登録され表示されている場合、「内法(うちのり)面積(公簿面積)」ではないため「50平米~」だからといって、住宅ローン減税などの税制優遇が使える物件とは限らないので注意が必要です。

壁芯面積とは、「柱や壁の厚みの中心線から測られた床面積」を指します。壁や柱を2等分した部分の床面積も(壁の内側ですので床が見えているわけではありませんが)専有面積に含まれます。建築基準法で建築確認をする際は、この壁心で計算します。
ポータルサイトに限らず、販売図面やチラシなど、通常、不動産広告で表示(記載)されている面積は、この「壁芯面積」がほとんどです。
一方、内法面積(公簿面積)とは「壁で囲まれた内側だけの建物の床面積」をいいます。壁や柱の厚みは含まずに、実際の住居スペースのみで計算した面積です。不動産登記法では、この内法面積で測定することとされており、登記簿謄本に記載されている面積は、この「内法面積」です。
住宅ローン控除に必要な要件の「50平米以上」は内法面積です。
■築年数は「2001年以降完成」を判断基準の一つにする
「中古マンションを買うなら築何年くらいまでがよいでしょうか?」とよく聞かれます。
築年数はできるだけ浅く、価格が安く、立地のよい物件が見つかればよいのですが、現実的には難しいものです。立地については、新築や築浅マンションより、それより前に建てられたマンションのほうがよいことも多々あります。
たとえば「築10年以内」などにこだわり、それ以上の築年数の物件を切り捨てるという探し方では予算内では見つからないことが多くなり、結果として「立地」を犠牲にした探し方になる可能性が大きいでしょう。
資産価値が下がらない物件を選定するうえで、「利便性のよい立地」はとても重要ですので、犠牲にしてはいけません。
築年数については、その人の好み・予算や考え方もあり、この年代のものが最良だといい切れないのですが、一般的な予算の人は、まずおおむね2001年から後に完成した物件のなかから探すとよいでしょう。
購入の期限がある程度決まっていて、希望の立地では予算的にどうしても2001年以降完成が難しい場合は、徐々にこの築年数条件を緩めていく探し方をおすすめしています。
■なぜ2001年以降完成のマンションがおすすめなのか?
公益財団法人東日本不動産流通機構「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2023年)『築年帯別構成比率』」によると、「築5年以内」の新規登録物件は中古物件全体の5.6%であるのに対し、「築10年以内」になると13.3%になり、「築15年以内」になると20.2%、「築20年以内」になると30.4%、「築25年以内」になると40.8%になります。
2001年以降完成がよい5つの理由
なぜ2001年以降がよいか、理由をくわしく解説します。
理由①前年に「品確法」が施行されたから
2000年4月に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(いわゆる品確法)」が施行され、「消費者が安心して良質な住宅を取得できるように」という目的から、「瑕疵(かし)担保期間の10年義務化」および、「住宅性能表示制度」という2つの大きな流れができました。
この品確法で、柱や梁など住宅の構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分、いわゆる基本構造部分については10年間の瑕疵担保責任(修補請求権等)が新築住宅において義務づけられました。
この10年間の瑕疵担保責任の義務化は、中古住宅は対象ではなく新築住宅に対してのみなのですが、新築マンションの売主であるデベロッパーは、引き渡し後10年間、建物に何らかの瑕疵(工事の不備や欠陥など)が見つかった場合、無償で補修などをしなくてはならなくなったために、それまで以上に建物に責任を持たなければいけなくなり、結果的に住宅の基本性能が高まりました。
■耐震等級や劣化対策等級を意識した、しっかりした造りが多い
また、省エネルギー性、遮音性、構造耐力などの住宅の性能を明らかに(表示)して、事前に比較できるように住宅性能表示制度も創設され、住宅性能評価書を取得した住宅であれば客観的にきちんとその性能が達成された住宅かどうかを明確に知る手段ができました。
住宅性能表示制度においては「耐震等級」も設けられ、地震に対してどの程度まで耐えられるかを数値比較することができるようになりました。
住宅性能表示制度は任意の制度ですが、2001年以降完成物件は、2000年4月にスタートしたばかりの「住宅性能表示」制度を意識して、「耐震等級」や「劣化対策等級(構造躯体等)」などの耐震、遮音性、省エネルギーの性能などを向上させた物件が比較的多く出ている点が特徴です。この住宅性能評価書を取得している住宅の場合、地震保険を利用する際にも割引があり有利になり、住宅の性能を比較することが簡単になりました。

■2001年前後は、大手企業の社宅跡地などに建てられた場合が多い
理由②「消費者契約法」が施行された年だから
2001年4月に「消費者契約法」という法律が消費者の利益を守ることを目的として施行されました。この法律は売主が事業者で買主が消費者というマンション売買契約に対しても適用されます。
消費者契約法では、不適正な販売方法や消費者利益を不当に損なう契約事項があれば消費者が契約を取り消すことができるようになり、契約条項のうち消費者にとって不当なものはその契約条項自体が無効となるようになりました。2001年(4月)以降完成物件は、建物構造的な「性能面」だけではなく「契約面」においてもマンション購入者の保護が図られるようになったわけです。
また、2003年7月の建築基準法改正により、同年7月1日以降着工の建物に、シックハウス対策に係る法令が適用されました。規制を受ける化学物質が明確化され、特定の化学物質を添加した建築材料の使用禁止や内装仕上げに使用するホルムアルデヒドの発散建築材料の面積制限、24時間換気システムの義務付けなどが行われ、主に建材や家具などから発生する有害な化学物質が原因で起こると考えられているシックハウス症候群の予防・対策が行われています。
理由③比較的「好立地に建っている」ことが多いから
2001年以降のマンションに限ったことではありませんが、2001年前後のマンションは、大手企業の社宅やスポーツ施設の跡地などに建てられることも多かったため、現在の新築や築浅マンションより好立地に建っていることも多いです。当時、多くの企業が保有していた比較的駅から近い優良な土地が不景気の影響で、マンションデベロッパーなどに売られたため、好立地にマンションが建てられることが多くなりました。
理由④価格が手頃で良質な建物であることが多いから
2001年頃はその前から続く不景気の影響でデベロッパーが立地のよい土地をあまり高くない価格で仕入れることができていたことと、マンション建築費もまだそれほど高くなかったので、質のよい建物も多く、新築分譲時に価格があまり高く設定されていない手頃な物件が多い状況でした。

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後藤 一仁(ごとう・かずひと)

不動産コンサルタント

1989年から36年以上、常に顧客と接する第一線での不動産実務全般に携わる。大手不動産会社のハウジングアドバイザー、東証一部上場企業連結不動産会社の取締役を経て、「誰もがわかりやすく安心して不動産取引ができる世の中」をつくるために株式会社フェスタコーポレーションを立ち上げ、代表取締役に就任。首都圏を中心に不動産の購入、売却、賃貸、賃貸経営サポートなどを行う。
著書に『東京で家を買うなら』(自由国民社)、『マンションを買うなら60m2にしなさい』(ダイヤモンド社)がある。

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(不動産コンサルタント 後藤 一仁)
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