タスク管理が上手い人は何をしているか。人材育成コンサルタントの北宏志さんは「すべての業務には期限があるため、それを適切に指示することも上司の大切な役目だ。
ただし業務を期限通りに“やる”のは、時に正解ではないこともある」という――。
※本稿は、北宏志『教え方の一流、二流、三流』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■タスク管理の専用フォーマットに必要な項目はこれ
仕事の見える化

三流は、とりあえず書いてもらい、

二流は、期限まで把握し、

一流は、どうする?
社会人に欠かせないスキルの1つがタスク管理、つまりやるべきことの見える化です。
上司として、特に同じチームで業務をする部下には、タスク管理をしてもらう必要があります。
まず何が手元にあるのかをはっきりさせるため、メモや付箋に書かせるという方法があります。しかし、これだけではやるべきことを“いつ”やるのかが分かりません。
タスク管理で重要なのは、やることとその期限を明確にしておくことです。
人によっては、エクセルなどのツールを使い、部下にToDoリストをつくってもらっている場合があります。これは更新もしやすく、ベターな管理方法かもしれません。
しかし、それだけでは、期限の早いものからやることになってしまったり、一つひとつのタスクの粒度が見えづらかったりと、まだまだ改善の余地がありそうです。
そこで上司がやるべきこととして推奨したいのが、タスク管理をしやすい専用のフォーマットを用意すること。これはエクセルのテンプレートでも構いませんし、無料のスケジュール管理ツールなどでもいいでしょう。

フォーマットに入れる項目は、やるべきことと期限に加え、そのタスクにかかる想定時間、そして重要度と緊急度のスコアです。
■個々のタスクは「重要度と緊急度」をはっきりとさせておく
やるべきことのなかには、メールの返信をするとか電話をかけるといった数分で済むようなものもあれば、提案書をつくるとか、新たなサービスのアイデアをブラッシュアップするといった数日、もしくはもっと長い時間を必要とするものもあります。
それらをすべて“1つのタスク”として管理するのでは、あまりにも乱暴ですよね。
一つひとつのタスクの粒度を明確にすることで、期限までにかけるべき、あるいはかけられる時間が見えてきます。
もう1つ、重要度と緊急度のスコアも重要な指標です。
例えば、同じメールの返信でも、届いたメールにYES/NOを返すだけのものと、こちらのミスで大きなトラブルになっている案件への謝罪のメールでは、重要度も緊急度も大きく違ってきます。
このように、一つひとつの重要度と緊急度をはっきりとしておくことで、重要なタスクの見逃しを防ぎ、適切な優先順位に基づいて、業務を進めることが可能になります。
最後にもう1つ。このようにしてまとめたフォーマットを、部下に日々携帯させることも重要です。
いつどこでも確認ができてこそのタスク管理。この習慣をつけた部下はやがて一人立ちした際にも、しっかりとタスクの優先順位をつけられる社会人になっていることでしょう。
Mastery of Teaching

一流は、

「やるべきこと」「期限」「想定時間」「重要度×緊急度」をまとめてもらう

携帯することで、部下は自然と優先順位がつけられるように
■「タスクは期限通りに」の落とし穴
期限の決め方

三流は、「なるはや」でやらせ、

二流は、期限通りにやらせ、

一流は、どうする?
すべての業務には期限があります。
それを適切に指示することも上司の大切な役目です。
では、期限はどのように決めるべきなのでしょうか。
何だって「なるはや」で終わらせるのが一番でしょう。しかし、すべてが「なるはや」では、本来あるはずの優先順位も無茶苦茶になります。
部下の業務量を踏まえて、一つひとつの業務に期限を決めるのは、当然のことと言えるでしょう。
「タスクは期限通りに」という管理も、間違いではありませんが、これではまだベストとは言えません。
以前、こんな話を聞きました。
部下に翌週の月曜に提出するよう指示を出したら、本当に月曜日に提出してきたと、ある部署の上席が激怒していたというのです。
期限通りなのですから、なぜ怒る必要があるのか、と思うかもしれません。
よくよく話を聞いてみると、その方は月曜日を完成形の最終提出日と認識しており、前週の水曜くらいには、一度部下から上司に提出し、何度かやり取りをするものだと思っていたというのです。
これは、完全なコミュニケーションミスであり、上席の頭のなかで描いていたスケジュールを部下に的確に指示できていなかった例です。
業務を期限通りに“やる”のは、時に正解ではないのです。

■提出後のすり合わせも含めて期限である
本来、業務は期限通りに“完了する”必要があります。
部下から上司へ完了報告や何かしらの提出をしたとしても、それが“一発OK”となる可能性が低いのであれば、期限通りではダメなのです。
そして、これは部下の問題ではなく、上司の指示に問題があります。
期限を決める際は、業務を期限内に完了させることを念頭に置き、提出後のすり合わせも踏まえた期限を示すのが一流のやり方です。
その1つの目安は、期限の「1営業日前の正午」までを締め切りとすること。このスケジュール感であれば、前日の午後、やり直しをする時間が持てます。
ポイントは、先ほどの例にもあるように、きちんと上司の意図を部下に伝える必要があることです。
部下が「期限はこの日なのに、なぜいつも前日に出せというんだ……」とストレスを感じないためにも、「会話のキャッチボールができる時間の確保」という意図を伝えてください。
業務は“完了”してこそのものだという認識のすり合わせを行うことを、忘れないようにしましょう。
Mastery of Teaching

一流は、期限の「1営業日前の正午」を締め切りにする

すり合わせの時間を事前に確保する
■速さと丁寧さの妥協点は、指示する前に話し合っておく
スピードの指示

三流は、丁寧過ぎて遅く、

二流は、雑で速く、

一流は、どうする?
業務を管理するには、時間の把握も必要です。
時に、丁寧さを追求するあまり、とても長い時間をかけて業務を進めてしまう部下がいます。
このような場合に、上司もそれに賛同し、丁寧さを求めすぎては、スムーズに進みません。

一方で、とにかく業務を速くこなすことを求める上司もいます。
“何でもいいから速く”という方針では、一つひとつの業務のクオリティが下がり、よい結果を生み出すことは難しいでしょう。全体的に見れば、速さだけでは足りません。
「仕事の見える化」の項でもお伝えしたように、1つの業務には重要度と緊急度という指標があります。
時間の管理に置き換えると、緊急度が高い場合、速く進めることが必要なタスクだということになります。重要度が高い場合、速度よりは中身のクオリティが肝となるでしょう。
部下に業務を任せる場合、まずやることは、その業務における重要度と緊急度をすり合わせること。
上司側が求めているスピードと質はどの程度なのかを伝え、部下が考えているスピードと質との妥協点を話し合うのです。
■「すぐに」と言われて数日後に帰ってきた中国の社長
私が以前、中国で働いていた際に聞いたエピソードをご紹介します。
ある日本人が交渉のため、中国のとある工場を訪れたところ、社長は不在でした。そこで秘書に「いつお帰りになりますか」と聞いたところ、「すぐに」と言われたため、そのまま待たせてもらうことにしたそうです。
ところが待てども待てども社長は帰ってきません。
結局、数日後に社長が帰ってきたという笑い話です。
中国は土地が広く、日本人と比べ、時間の感覚がゆったりしているということを伝えるエピソードとして、しばしば耳にしました。
この話には1つの教訓があります。
それは「すぐに」の感覚が双方で大きく異なっていたということ。「すぐに」がいつなのか、きちんとすり合わせができていれば、このような話は生まれなかったでしょう。
このエピソードは少し極端ではありますが、上司が部下に業務を指示する場合も同じことが言えます。
スピードと質のすり合わせがしっかりとなされていることが重要であることはお分かりいただけたのではないでしょうか。
スピードをすり合わせる際は、上司側が求める納期などのデッドラインと、部下の過去の実績から考えられる所要時間を比べ、妥当なラインを見つける方法がいいでしょう。
質のすり合わせは、できれば過去の成果物を見せるのがよいでしょう。もしも成果物がない場合、近しい資料など、過去にOKが出ているものを見せ、参考にさせてみてください。
Mastery of Teaching

一流は、スピードと質の妥協点を話し合う

どちらか一方では成果は出せない
■部下の決めたゴールを調整するのが上司の役目
ゴール設定

三流は、部下のゴールを自分が決め、

二流は、部下に決めさせ、

一流は、どう決める?
部下を指導・教育する際、決して忘れてはいけないのが、ゴール設定です。
上司が部下に「これがゴールだ」と示すことは簡単かもしれません。
しかし、それでは主体性のない“クローン”ができるだけです。
かと言って、部下が決めた目標を100%受け入れるのも考えものです。
その目標は高過ぎないか、あるいは低すぎないか、企業が求める方向と合っているのか、その目標を達成した時、どんな人材になっているのか、なっているべきなのか。
部下が自分の物差しで決めたゴールだけでは、本来の意図に沿わない結果になってしまうこともあります。
重要なのは、部下自身にゴールを考えさせたうえで、上司が会社と部下の目線を合わせる調整役を務めることです。
部下が考えたゴールが適切な難易度なのか。短期的な目線だけでなく、中長期的な成長につながるゴールになっているか。
これらはどちらかと言えば、部下視点で考えるべき項目です。
そこに加えて、企業視点で、自社のビジョンに合っているか、チームとして向かうべき方向に即したゴールなのかといったことを示すのが、上司の重要な役割です。
■上司として「ゴール設定の際に確認するポイント」
例として、ゴール設定の際の確認事項を挙げます。
もちろん職種や業種などで大きく異なることもありますので、ご自身の状況に照らし合わせて考えてみてください。
【ゴール設定の際に確認することの例】
・部下が設定したゴールは会社の求めるゴールと一致しているか

・ゴールが達成されたかどうかを確認できる内容か

・目に見える数値での目標設定ができているか

・数値での設定が難しい場合、定性的な目標は可視化できるか

・前年や前期と比較し、成長が感じられる設定になっているか

・他のメンバーと比べ、設定が著しく高かったり、低かったりしていないか

・このゴールが達成された場合、次にどんなビジョンを描けるか

・仮にゴールが予想よりも早く達成できた場合、目標を調整できるか、あるいはさらに上を目指すことができるような設定になっているか
こうした的確な調整ができてこそ、正しいゴール設定が可能になります。
Mastery of Teaching

一流は、部下が考えた後に、目線を合わせる

さまざまな視点から、一緒に調整をする

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北 宏志(きた・こうじ)

人材育成コンサルタント

ポールスターコミュニケーションズ 代表取締役。大学卒業後、立命館大学に関係する中高一貫校で社会科教諭として勤務。その後、「ララちゃんランドセル」を製造・販売する(株)羅羅屋に転職。中国での駐在中は経営幹部として部下80名を束ね、中国国内の売上を3年間で9.7倍に拡大させ黒字化させる。
日本とアジアの架け橋となり、教育をより良くしていきたいという思いから、日本に帰国後、人材育成コンサルタントとして独立。新入・若手社員の研修を中心に全国35都道府県で1,000回以上の登壇実績を持ち、これまでの受講生は25,000名を超える。
著書に、『新しい教え方の教科書 Z 世代の部下を持ったら読む本』(ぱる出版)、『ビビリの人生が変わる逆転の仕事術』(三才ブックス)がある。

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(人材育成コンサルタント 北 宏志)
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