※本稿は、越川慎司『一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■口角を2cm上げて聴き、ゆっくり深くうなずく
1on1の場面で大切なのは、相手が「きちんと受け止めてもらえている」と実感できる空気をつくることです。
そこで有効なのが、「ゴールデンシルエット」と名付けられた表情のつくり方と姿勢です。口角を2cmほど上げ、やや歯が見える程度の柔らかな笑顔をキープしながら、相手の話に合わせてゆっくりと深くうなずく動作のことを指します。
口角が左右に開く「横の動き」と、うなずきで首が縦に揺れる「縦の動き」が組み合わさった状態が「黄金比」のように見えることから、「ゴールデンシルエット」と呼ばれているのです。
たとえば、メンバーが「最近、業務が多すぎてつらいんです」と打ち明けたとしましょう。あなたが目を見開いてただ驚いたり、「頑張れ」と言葉だけで押し返すと、相手は「この上司にはわかってもらえないかもしれない」と心を閉ざしてしまいます。
そこで、唇の両端をほんの少し上げて優しい笑みを見せ、うなずきを大きめに2~3回ゆっくり続けるだけで、「聞く姿勢があるんだな」「この人に話しても大丈夫そうだ」と感じてもらえるようになるのです。
■「縦と横」の組み合わせが威力を発揮する
大げさな動作に思えるかもしれませんが、口角を2cm上げるのは、自分で思う以上に「自然な笑顔」に見えます。
少し歯が見える程度に唇を開くだけで、相手には「あたたかな人」「優しい雰囲気の人」と伝わります。
人間は横方向に広がる口元を目にすると安心感を覚えやすいと言われています。
行動経済学的にも「非言語的コミュニケーション」は相手の心を動かし、信頼を醸成するうえで非常に大きな要素だとされています。
言葉だけでなく、こうした仕草の積み重ねによって、相手は「自分は大切にされている」「話をじっくり聞いてもらえている」と感じるのです。
1on1を形式だけの報告会ではなく、相互理解を深める有意義な場とするためには、こうした「横と縦」の組み合わせが大いに威力を発揮します。
■自分自身も落ち着きを取り戻しやすくなる
さらに、ゴールデンシルエットを実践すると、あなた自身も落ち着きを取り戻しやすくなります。少し口角を上げてゆったり話を聞く姿勢は、呼吸を安定させ、相手の言葉を心で受け止める余裕を生み出すからです。
あなたが急かされているような表情をしていると、相手も「早く切り上げたほうがいいのかな」と焦って本音を言わなくなるでしょう。
ゆとりある雰囲気を醸し出すことで、メンバーは安心して悩みや考えを打ち明けられるようになります。
もちろん、最初は「こんな笑顔で大丈夫かな」「うなずきがぎこちないかも」と不安になるかもしれません。
■マスクをしているときは「うなずきを深く」
しかし、「小さな実験」と思ってみてください。
鏡の前で口角を上げる練習をしてみたり、1on1の前に深呼吸をして落ち着いてからうなずくタイミングをイメージするだけで、自然な動きに近づきます。
一度や二度のトライで完璧を目指さず、何度か1on1を重ねるうちに少しずつ磨き上げていけばいいのです。
1on1でゴールデンシルエットを試した地方銀行に勤めるリーダー歴12年の支店長は、その効果について、こう話してくれました。
笑顔が苦手なので、歯が見えるように口角を2cmほど上げました。最初は、不気味だと思われてしまいました(笑)が、2週間ほど継続していたら、「今ちょっといいですか?」と声をかけられることが増えました。マスクをしているときは、うなずきを5cm程度深くしたら、行員からの改善提案が増えたのです。
覚えておいてほしいのは、ゴールデンシルエットは「大げさな笑顔」や「大きすぎるうなずき」ではないということです。
あくまでメンバーを受容する姿勢を形で表すための方法です。
あなた自身の適度なやり方を見つけ、無理のない範囲で継続してみてください。
そうすれば、1on1はただの業務連絡の場ではなく、一歩踏み込んだ、相手を理解し、信頼関係を築くための重要な時間へと変わっていくはずです。
■メンバーが笑顔になる「言葉以外」の認め方
「認め方」と聞くと、単に「すごいね」「助かったよ」と言葉でほめるイメージを思い浮かべるかもしれません。
ところが、日常のちょっとした工夫や意外性を盛り込むことで、メンバーに「え、自分がこんなに評価されているの⁉」と嬉しい驚きを提供し、一段と意欲を高めることにつなげられます。
ここでは、弊社が2017~2024年に実施した「働きがい調査」(対象17.3万名)で「満足度が上がった」と評価されたベスト3のパターンを紹介します。
あなたにもきっと、すぐに試せるものがあるはずです。
1.第三者を介した「間接承認」
「君はすごいね」と言われるともちろん嬉しくなりますが、第三者を介してほめられると、不思議と「本当に評価してくれているんだ」と強く感じるものです。
たとえば、別のチームの上長に「うちの○○が、最近本当に頼りになるんですよ。こんな功績もあって……」と伝えている場面に、本人が偶然居合わせる。
あるいは「○○さんが今回の企画をまとめてくれてすごく助かったって、他部署の人も言っていたよ」と伝える。
これにより、メンバーは「自分の知らないところでも評価されている」という安心感と誇りが芽生え、モチベーションが一気に上がります。
アンケートではこのような回答が多数を占めました。
自分がいない場でほめられていたと知ったときが一番嬉しい。
2.予想外の「プチご褒美」
「ご褒美」というと臨時ボーナスやお祝いの会食を想像するかもしれませんが、意外とよろこばれるのは、「小さなサプライズ」です。
たとえば、プロジェクト完了後に、本人の好みをリサーチして用意したスイーツやコーヒーをそっとデスクに置いておく。さらに、「いつも頑張ってくれてありがとう。息抜きにどうぞ」とメモを添えるだけで、「そこまで気にかけてくれていたんだ」と感動を呼びます。
予想外のタイミングで、さりげなく労をねぎらう心遣いがメンバーに高く評価され、アンケートでは、このような声が多数寄せられました。
大きな賞与よりも、その場でストレスを和らげるちょっとした気遣いのほうが心に残る。
■メンバー同士でも意外とお互いの特技を知らない
3.メンバーの「知られざる武勇伝」を引き出す
チームメンバー同士でも、互いの過去の成果や特技をじつは知らないものです。
そこでリーダーが「○○さんは前職でこういう大きな成果を挙げていたんだよ」と、周囲に語ってみてください。あるいは社内SNSで、「実は○○さんは学生時代にこんなコンテストで入賞していたらしい」と紹介すると、思わぬところで本人のステータスが一気に高まります。
自慢になりそうで本人が言いづらい「いいところ」を他人に伝えるのは、非常に強力な認め方です。アンケートでは、このような声が寄せられました。
社内であまり知られていなかった得意分野や過去の経験を、上司がみんなに共有してくれた。気恥ずかしかったけど、すごく嬉しかった。
■小さな工夫がチームの生産性を高めるきっかけに
いずれのパターンも共通しているのは、「想定外」をうまく活かして、メンバーにポジティブなサプライズを与えている点です。
決して大きな労力を割かなくても、受け手側には大きなインパクトとよろこびを与えられる必殺技のようなコミュニケーションです。
あなたも、今日から1つだけでいいので、試してみてください。
直接言葉を伝えるほめ言葉ももちろん大事です。
しかしたまには、間接的な方法や意外性を交え、メンバーの心を「ドキッ」と揺さぶってみましょう。
その小さな工夫と「メンバーを思うリーダーの気持ち」がメンバーに届けば、チームの結束や生産性をぐっと高める大きなきっかけになるはずです。
焦らず、楽しみながら、あなた流の「認め方」を育ててみてください。
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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)