テレビはもう“オワコン”なのか。元NHKアナウンサーでウェブ小論文塾代表の今道琢也さんは「さまざまなデータをみると、テレビは若者に相手にされていないことがわかる。
さらにその流れは中高年にも及んでいる」という――。(第1回)

※本稿は、今道琢也『テレビが終わる日』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

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■元テレビ局員が驚いた調査結果
まず、図表1の「全体」を見てください。放送局のコンテンツ・サービスに何らかの形で接触している人は、92%を占めます。「いずれにも接触なし」は8%です。テレビ放送からテレビ局のSNS公式アカウントにいたるまで、非常に広い範囲を対象としていますし、1週間にたった一度の接触でもカウントされるのですから、これくらい高い数値が出るのは当然ともいえます。
年代別に見てみると、どうなるでしょうか。その下の「年代別」の数字を見てください。13~19歳の19%、20代の27%が、「いずれにも接触なし」になっています。30代でも12%が「いずれにも接触なし」です。


「いずれにも接触なし」とは、1週間を通して一度たりとも、リアルタイムでテレビを見ない、録画再生でも見ない、インターネットの見逃し配信でも見ない、YouTube上のテレビ局配信の動画も見ない、Huluでテレビドラマも見ない、インターネット上のテレビ番組表も見ない、テレビ局のSNS公式アカウントも見ない……ということを意味しています。そのような人がティーンエイジャーの約2割、20代では3割弱もいるということに、正直言って驚かされます。
■絶対にテレビ局のコンテンツに近寄らない
もし私が、「いずれにも接触なし」の生活を送るとすれば、意識的にテレビ局のコンテンツを避けるようにしなければ無理でしょう。以前よりテレビを見なくなったとは言え、全く見ないわけではありません。意識的に避けないと、食事時に「うっかり」テレビをつけてしまったり、YouTube動画を見ているときに、「間違って」テレビ局配信の動画を見てしまったりする可能性があります。
「絶対にテレビ局のコンテンツに近寄らないようにしよう」と注意しながら1週間生活しないと、「いずれにも接触なし」のグループには入らないでしょう。
しかし、今の若者の2~3割が、ごく普通にそのような生活を送っているのです。私としては、この結果はかなりの衝撃でした。もっとも彼らにしてみれば、これはごく自然なことであり、「そんなことで驚いているから、テレビは時代に取り残されるのだ」と言われてしまうのかもしれません。
■若者から「相手にされていない」
10代より20代の方が、非接触率が高めに出ていますが、私の推測では、これは親元で暮らしているかいないかが関係していると思います。10代の多くは家族と同居していますから、自分ではテレビを積極的に見ようと思わなくても、食事の時に家族が見ているものを一緒に見る、ということがあり得ます。一方で、親元を離れて一人暮らしを始めた20代はそのようなこともなく、「いずれにも接触なし」の生活になる人が増えるのではないでしょうか。

リアルタイムの放送はもちろん、録画再生、ネットでの番組配信、テレビ番組表、テレビ局のSNS公式アカウントに至るまで、これだけ多彩にあるテレビ局のコンテンツに、1週間を通して一度も接触がないということは、少なくない数の若者が、テレビ局のコンテンツに「そっぽを向いている」ということです。
もっと踏み込んだ言い方をすれば、テレビは彼らに「相手にされていない」のです。「いずれにも接触なし」の割合は、年代が上がるにつれ減る傾向にあります。30代では12%、40代では9%です。高齢者層になると、ごく少数となり、60代では4%、70歳以上では3%しかいません。やはり、高齢者の強固な支持が、現在のテレビを支えていることが分かります。
■中高年でも広まる「完全なテレビ離れ」
ただ、「いずれにも接触なし」の割合は、全世代で上昇を続けています。図表2を見てください。これは、放送局の提供するコンテンツの「いずれにも接触なし」と答えた人の割合の推移を見たものです。
2014年の段階では、13~19歳で10%、20代でも15%にとどまっていたものが、2022年にはそれぞれ、19%、27%まで上昇しています。
また、30代以上の各年齢層でも、スピードは緩やかながら徐々に増えています。パーセンテージとしてはまだ大きくないものの、50代~70歳以上の年齢層では、「非接触率」が2倍から3倍になっていることが分かります。
テレビ局のコンテンツに一切触れない、「完全なテレビ離れ」が中高年の間でもじわじわと広がってきているのです。
先に、「テレビをリアルタイムで見る人が減ったとしても、ネット上での視聴に移行しただけではないか」という仮説も成り立ちうると指摘しました。しかし、この調査は、リアルタイム行為者率が減少したのと同じ時期に、テレビ局のコンテンツ・サービスに一切接触しない人が増えていることを示しています。
各年分の結果も調べましたが、コロナ禍で一時的に接触率が高まったことはあったものの、それ以降は下げ止まる気配がありません。
以上のことを踏まえれば、「テレビをリアルタイムで見る人が減ったとしても、ネット上での視聴に移行しただけではないか」とは、とても言えないようです。
■TVerすらまったく見ない
そもそも、2022年の「週間接触者率92%」という数値は、「国民の92%はテレビを見ている」という意味ではありません。1週間のうちにたった一度だけ、ネット上のテレビ番組表を見ただけでも、「週間接触者率」にカウントされます。「週間接触者率92%」とは、「1週間のうち、わずかでも放送局のコンテンツと接点がある人が92%いる」、という意味に過ぎません。
ですから、実際にリアルタイム放送や、インターネット上で「テレビ番組」を視聴する人は、92%よりもかなり低い数値になるはずです。「週間接触者率」は、このように極めて広い範囲を捕捉しているにもかかわらず、そこにさえ引っかからない人が、どの年代でも増え続けているのですから、テレビ離れは、確実に進んでいるといえます。
このままのスピードでいけば、10年後くらいには「非接触率」が、今の倍くらいになっている可能性もあります。20代では過半数に達しているかもしれません。

テレビ局の提供するコンテンツ・サービスに一切触れない人が、20代の過半数もいるとしたら、テレビ業界にとっては本当に深刻な事態です。いずれ、若い世代ではテレビを見る人がほとんどいなくなるのかもしれません。この調査結果を見て危機感を抱かないテレビ関係者は、いないのではないでしょうか。
■そもそも家にテレビがない
さらに、「究極のテレビ離れ」といってよい現象が、静かに進行しています。「テレビそのものを持たない人」が増えているのです。私の周りにも、「そもそもテレビを持っていない」という人がいます。これは、テレビ局にとってさらなる打撃となるはずです。
内閣府の「消費動向調査」では、耐久消費財の普及・保有率を調べており、その中に「カラーテレビ」の項目があります。これを見ると、テレビを保有している世帯がどれくらいの割合いるのかが分かります。
まず単身世帯ですが、テレビの普及率が落ちていることが分かります。2010年当時は96.9%と、ほぼ全世帯に普及していたのですが、2024年には85.2%と、10ポイント以上も低下しています。なお、2014年に一旦8割台に落ちて、その後9割台に復活していますが、これは調査対象が「テレビ」から、「薄型テレビ」に変更されたことによる影響と考えられます。

テレビを持っていない人は、とりわけ若年層で増えています。「単身世帯29歳以下」を見てください。テレビの普及率は、2010年には92.5%でしたが、2024年には74.5%にまで落ち込んでいます。4人に1人はテレビを持っていないのです。
■もう「一人暮らしの必需品」ではない
私が高校を卒業した当時は、一人暮らしを始めるとまずテレビを買ったものです。同じ時期に一人暮らしを始めた同級生も、「テレビがあったから、一人暮らしの寂しさから救われた」と話す人が多くいました。当時、それくらいテレビは必需品だったのです。しかし今、若者の一人暮らしにテレビは不要になりつつあるようです。
一方で、2人以上の世帯のテレビの普及率は、2024年時点でも、96%を維持しています。以前と比べて若干の減少はありますが、なお高率です。これを見て「なんだ、一人暮らしの時はテレビを持たないかもしれないが、所帯を持てば結局買うんじゃないか。それなら心配はいらない」と考えるテレビ関係者がいるとしたら、それは、甘いと言えます。
日本の生涯未婚率は上昇を続けており、一人暮らし世帯の割合もまた増え続けているからです。
「日本の世帯数の将来推計」(国立社会保障・人口問題研究所)によれば、単身世帯の割合は2020年の時点で38.0%と、2000年に比べ10ポイント以上、上昇しています。今後も単身世帯の割合は上昇を続け、2050年には44.3%になると見込まれています。半数近くが単身世帯になるのです。
■ビジネスモデルが崩れつつある
以上のことから、次のような図式が見えてきます。
・「一人暮らしの人がテレビを持たなくなっている」+「一人暮らしの人の割合が増え続けている」=「今後も、テレビを持たない人は増え続ける」
テレビを産業として見たときの強みは、ほぼ全世帯に普及し、電源を入れればいつでも自社製品(番組)を消費してもらえるという点にありました。消費者が自宅に居ながらにして、毎日、自社製品(番組)を消費してくれ、その媒体となるテレビは消費者の方から進んで買い求めてくれたのです。これは、非常に有利なビジネス形態でした。
それが、消費者がテレビを持たなくなりつつあるのですから、このビジネスモデルは崩れつつあることを意味します。
最近では、テレビ放送が映らない、チューナーレスのテレビをネット動画視聴用などに購入する人も増えていると聞きます。テレビ「受像機」そのものが、家庭から消え始めているのです。
テレビがなくとも、スマホで見逃し配信アプリなどを使って、「テレビ番組」を見ることはできます。しかし、家の中心にあったはずのテレビが消えてしまうと、テレビの「存在感」、テレビへの「興味・関心」は薄れていくでしょう。結果として、テレビ視聴へのモチベーションが低下することは否めません。

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今道 琢也(いまみち・たくや)

「ウェブ小論文塾」代表

1999年京都大学文学部卒(国語国文学専修)、NHK入局。アナウンサーとして15年間勤務後独立し、文章指導専門塾「ウェブ小論文塾」を開講。『落とされない小論文』など著書多数。

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(「ウェブ小論文塾」代表 今道 琢也)
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