がんを予防するには、どんな食習慣を心がけるべきか。医師の佐藤典宏さんは「オメガ3脂肪の血液中の濃度が高い人は、低い人に比べて、すべての種類のがんによる死亡リスクがおよそ10%低いことがわかっている。
さらにある調査によると、魚の缶詰の摂取が、大腸がんのリスクを下げることを示した」という――。
※本稿は、佐藤典宏『専門医がやっている「がん」にならない50の習慣』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■がんによる死亡リスクを下げるオメガ3脂肪酸の効果
昨今は日本人の魚ばなれがすすんでいるとのことですが、魚はがんのリスクを低下させる食べ物として知られています。
魚(とくに脂ののった青魚)には、オメガ3脂肪酸が含まれています。このオメガ3脂肪酸には、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、およびドコサペンタエン酸(DPA)があり、脂質異常症(中性脂肪やコレステロール値が高い状態)の予防や改善に効果的であることが分かっていますが、同時に慢性炎症を抑える作用や抗酸化作用があり、がんを予防する効果も報告されています。
2021年に『Nature Communications』という雑誌に報告された研究によると、オメガ3脂肪酸の血液中の濃度と死亡リスクとの関係を調査した前向き研究を総合的に解析した結果、オメガ3脂肪酸(とくにEPA、DHA、DPA)の血液中の濃度が高い人は、低い人に比べて、すべての種類のがんによる死亡リスクがおよそ10%低くなっていました。
この他にも、これらの海洋性オメガ3脂肪酸を多く摂取している人は、乳がん、肺がん、大腸がん、膵臓がんなど、様々ながんの発症リスクが、10~30%低下することが報告されています。
ただ、魚をさばいて料理するのは手間がかかりますよね。焼き魚も、匂いが充満するし、骨があって食べるのが面倒だから苦手という人もいると思います。
一方で、魚の缶詰はすぐに食べたり、手軽に料理に使ったりすることができるので、手の込んだ魚料理は食べない人でも利用しやすいです。私も魚の缶詰は好きで、オイルサーディンや、サバ缶・サンマ缶などを時々食べています。
■青魚の缶詰を週に1~2個食べると、大腸がんのリスク減
では、魚の缶詰を食べることで、実際にがんのリスクは低くなるのでしょうか?
2022年に『Nutrients』という雑誌に報告された論文によると、イタリアで行われた2つの大規模な研究をまとめて、2419人の大腸がんの患者と、4723人のがんではない入院患者を対象に、魚の缶詰の摂取量について、週に1個未満、1~2個、2個以上の3つに分類して大腸がんのリスクとの関係を調査しました。

もちろん、他の大腸がんのリスクに関連する因子がありますので、そういった因子の影響をできるだけ減らすために、性別、年齢、BMI、教育の程度、身体活動量、喫煙、アルコールの摂取、野菜やフルーツの摂取量、カロリーの摂取量、そして、新鮮な魚の摂取量などの複数の因子で調節したモデルにおいて解析しました。
その結果、魚の缶詰の摂取量が、週に1個未満のグループに比べて、1~2個のグループでは大腸がんのリスクが19%、さらに2個以上のグループでは34%も低下していました。
以上の結果から、魚の缶詰の摂取は、大腸がんのリスクを下げるといえます。
魚を調理するのが苦手な方は、積極的に魚の缶詰を利用しましょう。とくに、イワシやサバ、サンマを使った缶詰(水煮、蒲焼きなど)には海洋性オメガ3脂肪酸が多く含まれています。製品によって含有量が違いますので、成分表示を見てから購入することをおすすめします。
■きのこの摂取で免疫を活性化させる
きのこ類は、低カロリーで塩分も少ないため、なんとなく健康にいい食材というイメージがあるかもしれません。
じつはその他にも、きのこ類には強い抗酸化作用があることや、食物繊維の一つである「βグルカン」という成分やビタミンDが豊富に含まれていることが分かっています。そして、これらの栄養素は免疫を活性化するため、がんの予防につながると考えられています。
では、きのこをたくさん食べる人は、実際にがんになりにくいのでしょうか?
まず、2023年に『European Journal of Cancer Prevention』という雑誌に報告された論文によると、今までに報告された、きのこの摂取と胃がんのリスクとの関係についての観察研究をまとめた解析結果では、きのこを最も多く食べていたグループでは、胃がんのリスクがおよそ20%低下していました。
さらに、アジアの国々に限った解析では、がんのリスクが40%も低かったとのことで、アジアで食べられているきのこは他の地域のものよりもがん予防効果が高いのではないかと述べられています。
もう一つ、2021年に『Advances in Nutrition』という雑誌に報告された論文によると、これまでに報告されている観察研究を総合的に解析して、きのこの摂取量と色々な種類のがんの発症率との関連を調査した結果、きのこを最も多く食べていたグループでは、34%もがんのリスクが低下していました。

■がんの増殖や転移を阻止するきのこの種類
また、きのこの摂取量が多いほど、がん全体のリスクが低くなっていたとのことで、量に依存したがんのリスク低下がみられました。がんの種類別には、とくに乳がんのリスクが低下していたということです。
以上の結果から、きのこ類には、がんを予防する効果、とくに胃がんや乳がんを予防する効果があるということが分かりました。
ちなみに、きのこには、しいたけ、エリンギ、えのきたけ、まいたけ、しめじ、なめこなど色々な種類がありますが、どれがベストなのでしょうか?
細胞や動物実験のレベルですが、しいたけの成分であるレンチナン(βグルカンの一種)や、まいたけの成分であるD-フラクションという物質が様々ながんの増殖や転移を阻止することが分かっています。とはいえ、先ほどの研究ではきのこの種類別の解析はありませんでしたので、どのきのこでもよいといえます。
きのこの種類によっておいしい食べ方がありますので、それぞれの味を楽しみながら、身近な食材としてぜひ取り入れてみてください。
■控えたい「悪い油」と積極的に摂取したい「良い油」
皆さんは、揚げ物や炒め物にはどんな油を使っていますか?
体にとって、脂質(油)は必須の栄養素ですが、控えたい「悪い油」と積極的に摂取したい「良い油」があります。
悪い油には、ラードやバターなどの飽和脂肪酸、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸があります。
一方、良い油には、オメガ3脂肪酸のフィッシュオイル(青魚に含まれるEPA、DHAなど)、亜麻の種子から抽出されるアマニ油、エゴマの種子から抽出されるエゴマ油と、オメガ9脂肪酸のオリーブオイルがあります。
日本では、主にサラダ油、コーン油やごま油などを調理に使うことが多いと思います。しかし、最近では健康志向が高まり、オリーブオイルを使う人が増えているようです。
オリーブオイルは、健康長寿食として知られている「地中海食」の中心的な食材で、古くから健康にいいことが指摘されています。

オリーブオイル(とくにエキストラ・バージン・オリーブオイル)の成分であるビタミンEやポリフェノール(フェノール酸)には、強力な抗酸化作用や抗炎症作用があり、心血管疾患や肥満症などの生活習慣病だけでなく、がんの予防にも有効であると考えられています。
オリーブオイルには時折ピリッとした辛みや独特の苦みが感じられますが、これはポリフェノールによるものです。
また、オリーブオイルの主成分であるオレイン酸には、大腸がんの成長を遅らせる作用があると報告されていますし、エキストラ・バージン・オリーブオイルから抽出された「オレオカンタール」という成分が、がん細胞を選択的に死に導く(他の正常細胞には影響しない)という報告があり、その抗がん効果についても注目されています。
■オリーブオイルを最も多く摂取する人はがん全体のリスクが31%低下
では、実際に、オリーブオイルを多く摂取するとがんのリスクが低下するのでしょうか?
4000人以上の心血管疾患のリスクが高い女性を、オリーブオイル群、ナッツ群、対照群(低脂肪食)の3群に分け、心血管疾患の発症および死亡率を検討したスペインでの試験データを用いた解析では、オリーブオイル群では、乳がんの発症リスクが68%も低下していました。
また、オリーブオイルの摂取と様々ながんのリスクについての過去の研究を集めて、総合的に解析した研究によると、オリーブオイルを最も多く摂取する人では、がん全体のリスクが31%低下していたということです。
がんの種類別では、乳がんが33%低下、消化管がんが23%低下、咽頭・喉頭がんが26%低下、尿路がん(腎臓・尿管・膀胱がん)が54%低下という結果でした。
さらに、最近の報告では、オリーブオイルはがんの予防だけでなく、認知症の予防にも有効であることが明らかになってきました。
以上の結果から、揚げ物や炒め物に使う油に関しては、できるだけオリーブオイルを使うことをおすすめします。
もちろん、サラダやトーストなどに生のオリーブオイルをかけるのもよいでしょう。種類によって辛みと苦みが異なるので、用途に合わせて好みのものを見つけてみてください。

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佐藤 典宏(さとう・のりひろ)

がん専門医、医学博士、帝京大学福岡医療技術学部教授

福岡県生まれ。九州大学医学部卒。
2001年から米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部に留学し、多くの研究論文を発表。1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。がんに関する情報を提供するため、YouTube「がん情報チャンネル・外科医 佐藤のりひろ」を開設、登録者12万人(2023年10月時点)。2023年4月、がん患者さんの悩みや質問に個別に答える「がん相談サロン」をスタート。著書に『がんにも勝てる長生きスープ』(主婦と生活社)、『手術件数1000超 専門医が教える がんが治る人 治らない人』(あさ出版)、『専門医が教える最強のがん克服大全 エビデンスに基づく新しい対処法64』(KADOKAWA)などがある。

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(がん専門医、医学博士、帝京大学福岡医療技術学部教授 佐藤 典宏)
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