メンタルをいい状態に保つには何をすればいいか。心療内科医の鈴木裕介さんは「うつになりやすい性格に『メランコリー親和型性格』というものがあるが、これは学校だったら『優等生』で、職場だったら『デキる人』の性格そのものだ。
このような性格の人がダウンしないための対策を4つ挙げる」という――。
※本稿は、鈴木裕介『「心のHPがゼロになりそう」なときに読む本』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「生きづらさ」を感じやすい人
自分のことを正確に理解するためには、どうしたらいいのでしょうか。
正確に理解するのが難しいものを、それでもきちんと理解しようと思った時、とても役に立つのが「枠組み」です。
古今東西の賢人たちが、人間の行動や心理パターンを研究して提唱した様々な枠組みは、多くの事例を基にした分類ですから、客観性があります。自分を正確に理解するという非常に困難な作業の大きなヒントになるでしょう。
また、枠組みに当てはめて類型化ができるということは、同じようなパターンで苦しんでいる人が多いということでもあります。
つまり、それは「その苦しみを克服しようとした多くの先人たちの知恵を存分に使える」ということです。独力で一から考えるよりもずっとラクで、的確な攻略法を考えやすくなるんですよね。
ここでは、賢人たちの知恵を参考に、「生きづらさを感じている人が当てはまりやすいタイプ」について、代表的なものを二つほど挙げます。
タイプ①うつになりやすい「真面目な英雄」タイプ

タイプ②“心の間合い”における「近接型・遠隔型」タイプ
上に挙げた二つは、僕が実際に患者さんに説明した時に、「当てはまる!」「私のことです!」と言ってもらうことが特に多いなと感じたものであり、自己理解の役に立ちやすいものになるかと思います。
ちなみにここで言う「タイプ」とは、人の「思考の特性や行動パターン」に関するものですが、生涯変わらないわけではありません。

また、「タイプ」で分類することの本来の意図は、「誰かを型に無理やり当てはめて判断する」ことではありません(それはとても暴力的な行為です)。
あくまでも自分をより深く理解するツールとして、当てはまる部分があるなら、今後の改善のために参考にしよう、というのが本筋だと思います。
■学校の「優等生」、職場の「デキる人」は要注意
【メランコリー親和型性格】

うつになりやすい「真面目な英雄」タイプ
本稿では、一つ目の「うつになりやすい『真面目な英雄』タイプ」を紹介していきます。
「うつになりやすい性格があるよ」と言われたら、あなたはどんなことを考えるでしょうか。
その傾向については、古くから様々な専門家が提唱しているのですが、その中でも有名なのが「メランコリー親和型性格」というものです。
メランコリーは「憂うつ」という意味ですので、「憂うつに馴染み深い性格」という、そのままの意味になります。
実際は、どんな性格の人でもうつになるので、この性格に当てはまるかどうかは決定的な問題ではないのですが、「自己理解を深める」という観点でとても有用な考え方なので、紹介します。
「メランコリー親和型性格」とは、ドイツの精神医学者フーベルトゥス・テレンバッハが提唱した概念で、次のような特徴があります。
▼ルールや秩序を守る

▼几帳面である

▼自分の仕事に対する責任感が非常に強い

▼完璧主義である

▼他者を重んじる

▼親切・律儀・誠実である

▼衝突や摩擦を避けるために、自ら折れることができる
これって、学校だったら「優等生」ですし、職場だったら「デキる人」の性格そのものですよね。こうした性格は、組織活動においてはまさに模範的で、非常に高い評価を得やすい性格傾向であると言えるでしょう。
メランコリー親和型性格のベースには、「秩序志向性」という特徴があります。「自分で決めたルール・規範を、しっかりと守ろうとする」性質のことで、これはよい評価を得たり、質の高い仕事をしたりするうえでは非常にプラスに働きます。

■「優秀な人」ほど陥りがちなトラップとは
その一方で、厳しい「自分ルール」の中にはまりすぎるために、気持ちの切り替えができなかったり、プライベートにも仕事を持ち込んでしまったり、未完了の業務があると気になってリラックスができないといった弱点もあるのです。
ストレスマネジメントの観点からは、次のようなマイナス面があります。
▼秩序を重んじるあまり変化に弱い

▼融通がききにくい

▼人に頼れない

▼うまく手を抜けない

▼他人の評価を気にしすぎる
こうした人たちは、得てして他人に悩みを打ち明けたり、助けを求めたりすることがすごく苦手だったりします。
むしろ、優秀であるからこそ、大抵の困難を独力で解決できてしまったがために、他人に本気でヘルプを求めたことが今まで一度もない、というケースも少なくありません。
そのため、自分のキャパシティを大きく超えた業務ストレスが襲いかかってきたとしても、他人からの評価が気になって、自分自身の心身を休めることを後回しにして限界まで頑張ってしまう。そして、心身の限界が訪れ、うつを発症するといったパターンが非常に多いのです。
もともと周囲からの信頼の度合いが高いゆえに、組織の面倒事がこうした人にまとめてのしかかりやすいという側面もあります。そして、断るのが苦手なので、ますますキャパシティオーバーになりやすいという危険性があるのです。
これまで学業も仕事も順調だった人が、初めて挫折して休職を余儀なくされる「優等生のファーストキャリアでの適応障害」はこのパターンが多いですね。
他人の期待に応えることが喜びで、その期待をエンジンにどこまでもハイスピードで走り続けてしまうハイスペックな人、いますよね。僕はこれを「ブレーキのないスーパーカー状態」と呼んでいます。
どんなにしんどくても、フェンス(体調を崩す、休職を余儀なくされるなど)にぶつからないと、止まれないのです。

■自分に“ブレーキ”をかける「四つのポイント」
このような性格の人がダウンしないための対策を、四つ挙げたいと思います。
①自分はストレス耐性が高いわけではないと自覚する
まず何より重要なのが、「ストレス耐性が高いわけではない」と自覚すること。理解することで自分に起こり得る変化が予測でき、対処法を掴みやすくなるので、それだけで予防効果は大きく高まります。
②相手が求める成果物のレベル感を確認しておく
このタイプの人は、書類を提出するにしても「自分の中の100点=完璧」を目指してしまいがちです。でも、相手がそれと同じレベルの完成度を常に求めているかどうかはわかりません。
ですから、まず先に「レポートの原案ですが、ひとまずA4に5枚くらいでいいですか?」「スライド10枚くらいでしょうか?」というように、相手が求める成果物のレベル感を先に聞いておきましょう。期待に沿う成果にしたければ、そこに少しだけ加点するということを心がければ、評価が下がることはありません。
③「しょぼい頼みごと」で助けてもらう練習をする
究極的には、どんなに大きな困難があっても、信頼できる誰かに助けを求めることができれば、潰れることはそうそうありません。
助けを求めることを「援助希求」と言いますが、これは生きていくうえでかなり必要度の高いスキルです。
「頼る」というのは、どこまで頼るか、どのタイミングで頼るかといったバランス感覚を必要とする高度なスキルでもあるので、習熟していくためにはそれなりに練習が必要です。まずは、信頼できる人に「小さい頼みごと」をすることで、「ヘルプ慣れ」をしていくのがいいと思います。
④他人の期待のみをエンジンとする運転をやめる
そして一番大切なポイントが、「ブレーキのないスーパーカー」に、自分の意思で「ブレーキ」を搭載(とうさい)することです。

自分の体力や気力をしっかり把握(はあく)し、「厳しいな」と思ったら、相手からの評価が下がることを恐れずに「ちょっと無理です」「今日はそれはできません」と伝える勇気と強さを持つこともまた、高度な技術。
それができないと、何度事故を起こしても「壁にぶつからないと止まれない」という状態が繰り返されてしまいます。
■罪悪感や危機感こそ心理的なケアの対象
ここまで読んで、「そう言われても難しいよ」と思った人もいるかもしれません。「性格」というと、どうしても「変えられないもの」という印象を受けてしまいがちです。
しかし、生まれつきというよりは、どちらかというと逆境に適応するために身につけた他者本位の認知や行動パターンによるものが大きいと考えています。考え方や行動パターンは、「自分がいつもそのパターンに入っている」ということに気づくことさえできれば、意図的に、少しずつやり方を変えていくことは十分に可能です。
というのも、メランコリー親和型っぽい行動特性をとる方の多くに、「誰かをケアする必要があった」といった環境的背景が存在する人が少なくないからです。
特に子どもの時に、父母の仲をとりもったり、不機嫌をなだめる役割や、つらそうな親をケアする役割を持つ必要があった人にとって、「自分の都合よりも他者のケアをすること」が自らの生存戦略になっていた、ということがありえます。
そうした場合、他人のケアを頑張っていないことでの罪悪感や危機感が生じてしまうことは、決して珍しいことではありません。
そうしたパターンそのものが、心理的なケアの対象であるということも付け加えておきたいと思います。

----------

鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)

内科医・心療内科医・産業医

2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。
2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。

----------

(内科医・心療内科医・産業医 鈴木 裕介)
編集部おすすめ