実用英語技能検定(英検)は大学入試でどのように役立つのか。河合塾で英語講師を務める守屋佑真さんは「いまや英検は、早めに受けておける一般入試科目という側面がある。
英検対策は大学入試の対策としても有効だ」という――。
■英検には「従来型」と「S-CBT」の試験形式がある
英検は「民間英語資格試験」ということになりますが、民間英語資格試験には他にTEAP、GTEC、TOEFL、IELTS、TOEIC、ケンブリッジ英検なども含まれます。ここで各試験の特徴について全てを説明するのは字数が足りませんが、英検の特性と「なぜ大学入試で幅広く使えるのが英検なのか」を理解していただくためにも簡単に説明しておきます(図表1をご参照ください)。
では、英検です。英検はご存じの通り級ごとに難易度が分かれています。各級で合否判定があり、合否は英検CSEスコア(※)によって判断されます。大学によっては取得級ではなくこのCSEスコアで入試利用する際の基準を設定しているところもあります(※後述)。
※Common Scale for English:大雑把にいうとCEFRを数値化したもの。CEFRがレベル帯による“枠”での判定基準なので、それをさらに細かくスコア化できるCSEは役立つ指標となる。0~4000までの幅で評価し、英検1級満点でもCSEスコアでは3400までの評価しかされない。
このCSEスコアは大学入試に英検を利用する際に意識するべきポイントがあるので、もう少し詳しく説明します。英検には従来型〔※試験会場での筆記による受験形式。
年3回実施。1次試験(Re/Wr/Lis)・2次試験(Sp)の区別がある〕とS-CBT(※試験会場でコンピュータで受験する形式。原則として毎週土日実施。Spまでの試験を1日で行う)の2つの形式の試験があります。
従来型が「1次合格→2次受験」という過程を経てCSEスコアが確定する(※仮に1次不合格である場合にはSp分を合算したCSEスコアにならない)のに対して、S-CBTでは不合格でもCSEスコアはSpの評価までを含むためCSEスコアは高くなる傾向があります。つまり、CSEスコアでの入試利用基準を大学側が出している場合には、S-CBTを利用する方が理にかなっているわけです。この点は意外にもあまり理解されていないのでこれを機に知っておいていただきたいと思います。
■「英検一強」の状態になっている背景
試験内容という観点から以上の民間英語資格試験に英検も含めて言及すると、まずTOEICは社会人向けの試験内容になっており、他の試験とは想定受験者が異なると言えます。残りの試験のうち日本の英語学習者を強く想定しているのは英検・TEAP・GTECです。そうした違いはIELTS・TOEFL iBT・ケンブリッジ英検のWr/Lis/Spの出題の仕方などに表れています。
こうした違いを「難度」という観点にまとめるのはあまり適切ではありません。IELTS・TOEFL iBT・ケンブリッジ英検などの試験が“見かけ上難しそう”だとしても、準備して受ければ、受験結果は英検などの結果と似通ったものになるというのが現場での印象です(そうでなくてはならないのですが)。

ただ、この“見かけ上難しそう”であるかどうかが学習者の学習に対する姿勢に影響を与えることは多々ありますので、その意味で日本人の学習者である場合には英検・TEAP・GTECに「学びやすさ」や「受けやすさ」という点で優位性があると言えます。そして、学習教材(書籍の充実度などを含めた情報の量)という点では英検がTEAP・GTECを圧倒しています。
これら全ての事情が現在の「英検一強」の状態に繋がっているわけです。
■「英語科目に代替」と「一般入試に加算」の2タイプ
そもそも民間英語資格試験と大学入試(一般入試)の結びつきが強くなったのは、国公立大学一次(共通テスト)の英語の科目にこうした資格試験を代用するという入試改革案からです。この案は様々な議論を経て実現されませんでしたが、それまで主に一部の私立大学を中心に活用されていた民間英語資格が、英語4技能(読む・聞く・話す・書く)を入試で問う流れの中で国公立大学も含めた多くの大学で活用されるようになりました。現在では多くの大学が民間英語資格試験をなんらかのかたちで組み込んだ入試方式を持っています。では、英検は大学の一般入試では具体的にどのように使われているのでしょうか。今回は日東駒専やGMARCHの場合を解説します。
英検を利用するタイプの入試には大きく分けて“英語科目に代替させるもの”と“一般入試の得点に加算するもの”がありますが、両方を合わせると日東駒専・GMARCHともに、非常に多くの大学が英検を含めた民間資格試験を入試に組み込んでいます。最新の情報については各大学の情報をご参照いただきたいですが、英検のみに絞っていくつか例を挙げてみましょう。
■CSE総合スコアを得点換算してくれる
まずは日東駒専から。日大の経済学部A個別方式では2級以上のCSE総合スコアで得点換算してくれます。
CSEスコア1980以上で英語の得点を80点、2142以上で90点、2304以上で100点(満点)に換算してくれ、仮に当日試験の方が得点が高かった場合にはそちらを優先してくれます。ちなみにCSE1980は英検2級合格となるスコア、CSE2304は準1級合格となるスコアです。
実際には各級の合否は不問なので、例えば英検準1級を受けて不合格であっても90点の得点換算を受けられる可能性があるのですが、端的に言うと「2級なら80点、準1級なら満点」ということになります。この試験方式での合格者最低点が例年、300点中160点前後(3科目各100点)と言えば2級を持っているとかなり有利だということがご理解いただけるのではないでしょうか。
■「前もって英検を取っておく」ことがアドバンテージになる
駒澤大学も同様の入試方式を置いており、CSE1950以上(つまり英検2級以上)で75点の得点に換算してくれます。またこちらの大学も、仮に当日試験で75点以上をとった場合にはそちらを得点としてくれるため英検2級があることで75点は確保されるという仕組みになっています。
GMARCHも少し見てみましょう。明治大学の全学部統一入試では2級合格かつCSE1980で80点(満点の0.8倍換算 ※学部によって満点が異なるため)、2級合格かつCSE2088で90点(満点の0.9倍換算)、そして準1級合格ならば英語の得点を満点で換算してくれます。例えば商学部は英語が200点、国語が150点、地歴公民/数学(※1科目選択)が100点の計450点満点です。2024年度の合格最低点が304点だということを考えると200点を英検準1級であらかじめ付与されていることはかなり大きなアドバンテージになります。
他にも、青山学院大学では文学部英米文学科D方式と総合文化政策学部A方式で英検などの民間英語資格が受験資格として求められています。また国際政治経済学部B方式では英検などの資格で加点をしてくれます。
加点の程度は大雑把に言うと英検1級で+15点、準1級で+10点、2級で+5点と少ないように思えますが、この試験方式では試験科目が論述・総合問題の1科目(100点)のみですので、そのインパクトは決して小さくはありません。
■日東駒専なら英検2級、GMARCHならば準1級
このように日東駒専やGMARCHの受験で英検は得点換算・加点のかたちだけでなく、“万が一のときの保険”として機能したり、受験機会を増やしたりして、合格可能性を高めてくれるのです。大まかには「日東駒専なら英検2級、GMARCHならば準1級」をとっておく必要がありますが、その価値は十分にあると言えます。英検を使って総合型選抜などの早期大学入試のチャンスを広げるといったことは昔からよく知られていましたが、いまや英検は「早めに受けておける一般入試科目」という側面があるのです。
では、我が子にはとにかく英検対策だけをさせておけば大学受験は安泰かというともちろんそうではありません。しかも最近の中高生はとにかく“忙しい”。たとえば高校生は、大学入試の受験科目が増加しただけでなく、思考力・判断力・表現力を育もうとするカリキュラムによって「短期集中」ではなく中・長期的に粘り強く取り組むことが求められ、早期大学入試に向けて学校成績もおろそかにできません(最近の早期大学入試はこれまでよりもいっそう学校成績を重視する傾向があります)。学校も大学受験も資格試験も全方位的に頑張らなくてはならないのが今の中高生たちの状況なのです。
■「学校の英語」も「受“検”の英語」も「受験の英語」も同じ英語
こうした状況にある中高生に私はいつも「『学校の英語』も『受“検”の英語』も『受験の英語』も同じ英語」だと伝えています。今求められているのはこれら3つをバラバラではなく、“一筆書き”でとらえる学習計画です。
例えば「中学の時に英語にやや苦手意識を持っていたがなんとなく暗記で乗り切ってしまい、高校でも中位の成績から伸び悩むAさん」の場合、私ならば学校の先生の指導方針を探りつつも本人に英検を受けるよう勧めます。英検は「外部の“ものさし”」です。
学校内で成績が伸び悩むときには外側に評価軸を設けることでまずは自信をつけてあげるわけです。こうして「受検の英語」からの自信が「学校の英語」の学習への前向きな姿勢を生みます。そこから「自信があるから進んで勉強する。進んで勉強するから成績が伸びる。成績が伸びるから自信がつく……」という好循環を目指します。
また英検は「語彙(ごい)」を重視する試験です。順調に級を上げていくと2級で高校3年間分の語彙を、準1級で難関大学受験レベルの語彙を、“先取り”して学習できることになります。さらに共通テストのリスニング試験の音声の読み上げ速度は「英検2級よりやや早く準1級よりもやや遅い」くらいですので英検合格のために鍛えた聴解力も先々で役立つことにもなるわけです。
■英検は履歴書に残る「資格」でもある
こうした“共通項”を意識することで「受検の英語」と「受験の英語」をつなぐことができます。一方、英検では明示的に英文法の知識を問われることが少ないため、昨今の中高の英語カリキュラムと相まって英文法学習が不十分になりやすい点は指摘しておきます。文法学習が足りないと4技能全てで課題が生じやすくなりますから、英文法は意識的に取り組んでおいてほしいと思います。このように考えていくことで英検対策が本当の意味で大学受験対策になるのです。

こうして英検の大学受験における有用性ばかり見てくると忘れてしまいますが、英検は“資格”です。英検をとることは履歴書に残る資格を取ることでもあるのです。学習用教材が豊富で、何度もチャレンジすることができ、徐々に無理なく難度を上げていける英検は高校生にとって「取得しやすい資格」です。とれるうちに資格をとっておくことは大学受験にとどまらず様々な面で子どものこれからの選択肢を増やすことになります。
「英語は当たり前」と当たり前に言われるようになった今だからこそ、当たり前に“英検”を学校生活に組み込んでいく意識を持っていただけたらと思います。

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守屋 佑真(もりや・ゆうま)

河合塾・河合塾マナビス英語科講師

早稲田大学法学部卒業。高校2年次に米国Moses Brown Schoolに1年間留学。中学生から難関国公立・難関私大などの受験学年トップ層まで幅広く授業を担当し、大学受験対策のほか、英検・GTEC・TEAPなど英語の民間資格試験対策にも精通した人気講師。保育士でもあり、全年齢を対象とした英語教育に関わり、英語教育全体を一筆書きに考察することを目指している。X(旧Twitter)(@yumamoriya)ではそうした情報とともにお酒や料理の話など全然関係ないことも発信している。『英検ムビスタ 守屋のたった5時間で英検3級 総合対策』(Gakken)、『高2で始める大学入試 1日10分で差がつく英文法』(旺文社)、『中学入試 英語授業の実況中継』『これならわかる ライティング授業の実況中継』(以上語学春秋社)、『GTEC 2週間でスピーキング・ライティングの力が面白いほど身につく本』『CD付 イラストで直感的にわかる 小学英語ワークブック小学生のうちから学んでおきたい英文法が身につく』(以上KADOKAWA)など著書多数。

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(河合塾・河合塾マナビス英語科講師 守屋 佑真)
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