今、最も求められている能力は何か。ライティング・コーチのソン・スッキ氏は「世界的に注目されているのは文章力が高い人材だ。
文章力が高い人は判断力に長けているとみなされ、消費者の心をつかむテキストを作ることもできるからだ」という――。
※本稿は、ソン・スッキ『ハーバードの人生を変えるライティング』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■今求められているのは文章力の高い人材
パンデミックにより、私たちの社会はより深刻なVUCA(Volatility:刻一刻と変わりつづけ、Uncertainty:不確実で、Complexity:複雑で、Ambiguity:あいまいな)の状態に陥った。絶えず新しい環境を築く必要のあるニューノーマル時代では、どんな人が注目されるのだろうか。
ベンチャー起業家のジェームズ・フリードによると、注目されているのは「作家」だそうだ。なぜなら、出社とリモートワークが合わさったハイブリッドワークにおいては社員同士のコミュニケーションが組織の生産性を左右するため、コミュニケーション力に長けた「作家」が重宝されるという。
フリードは、文章力はどんな職種においても競争力になるので、社員にライティングを教えるよりも作家を雇ったほうがよほど有益だと強調する。文章力が高い人は意見がしっかりしていて、共感力がありつつも不要なものを省く判断力にも長けているため、職場や組織で歓迎されるという。
さらに、「作家」は企画やマーケティング分野において重宝される。シンプルで正確な報道資料や商品紹介を書けば、消費者の心をつかんでよく売れるからだ。デジタルマーケティングの専門家、マーク・シェパードも次のように述べている。
「もし私が企業の採用担当者なら、センスある作家を選ぶだろう」
■ますます高まる「テキスト」の価値
「作家」は韓国の採用市場でもすでに注目を浴びている。
ハンファ証券は文章力が高い人を採用し、顧客向けの報告書の修正を任せている。年々、採用市場で自己PRの比重が大きくなっているのもそれが理由だ。昇進試験でエッセイを書かせたり、SNS経由で人材を発掘したりするのも、文章力が高い人を採用するためだ。
パンデミックで加速したオンライン化は、作家の世界といっても過言ではない。オンライン上で宣伝する製品やサービスには充実した中身が欠かせないが、その中身の初案はテキスト、つまり文章でつくられる。デジタル時代における競争力は文章力だ。
文章を書くことは生計を立てる手段であり、食べていくためには誰もが作家になる必要があるのだ。
■コミュニケーションの基盤がテキストになった
日常がパンデミック以前に戻れないのと同じように、仕事のやり方も大きく変わった。いや、働き方はもう重要ではないのかもしれない。重要なのは、任された仕事に求められる結果を出すことで、そこに割かれる時間や労力ではないから。そこでカギとなるのが、効率的に成果を出すコミュニケーションだ。
今は多くの企業が決裁文書に代わって数行のメッセージで報告を行う。
長い文章は読まれず、フィードバックを得られないまま埋もれてしまう。ハイブリッド時代のコミュニケーションはオンライン中心で、オンラインでのコミュニケーションはテキストが基盤となっている。
■この世の文章は2種類に分けられる
どんな環境でも成功する人は必ず文章力がある。相手から思いどおりの反応を引き出すので、プロフェッショナルな働きをするのだ。文章力があるからといって全員がプロフェッショナルなわけではないが、そういう人は決まってうまい文章を書く。ライティングは彼らの生活にかかわる問題だからだ。
「プロのように書く」というのは、「文章に働いてもらう」ことを意味する。書類、インターネット掲示板、ショートメールなど、文章の長さに関係なく読み手に影響を与えたのなら、その文章は働いたことになる。
一方で、文章を書いたのに読み手を動かすことができなかったのなら、それは仕事をだめにしたのも同然だ。決定権をもつ上司に影響を与え、行動に移させるライティングが、プロフェッショナル・ライティングだ。熾烈なコミュニケーション合戦における必殺武器である。
プロフェッショナル・ライティングは、情報コンテンツを生み出すツールだ。
このツールを自分のものにすれば、仕事で必要な企画書や報告書、広告のコピーなどの公的な情報コンテンツづくり、SNSや本の執筆などの私的な情報コンテンツづくりにも磨きがかかる。
つまり、この世の文章は「仕事ができる文章」と「仕事ができない文章」の2種類に分けることができる。プロは「仕事ができる文章」を書き、期待どおりの結果を出す。なにより、彼らはいとも簡単に文章を書いてみせる。作文力は、これからのあなたにとって代替不可能な能力、NFT(Non-Fungible Talent)を象徴する。
■ハーバード大学がライティングを教える理由
業務遂行に必要不可欠な要素をミッションクリティカルという。たとえば、オンラインショッピングモールの通信システムがそれにあたる。ミッションクリティカルがきちんと作用しなかったり壊れたりすると、業務に致命的な影響を与え、組織に大きな災いをもたらしかねない。
パンデミックで経験したように、私たちには前代未聞の状況下でも問題を解決し、成果を出す力が求められるが、そのような論理的な思考力は、論理的な文章を書くことで鍛えられる。
ハーバード大学がロジカル・ライティングを教えてきた150年間、アメリカをはじめとする世界にどんな困難が訪れ、どんなふうに揺さぶられ、どう変化してきたのか、私たちはよく知っている。ハーバード大学は、どんな状況でもリーダーに必要なロジカル・シンキングを習得するためにライティングを教えている。ハーバード大学よりも有名になったミネルバ大学は、まだこの世にない職業にも適応する人材を育てるため、学生の思考力を鍛えている。
ロジカルに考え、コミュニケーションし、問題を解決する能力は、ただ文章を書くだけでは学べない。ロジカル・ライティングを通じて思考力という財産を築く必要があるのだ。
■読む、考える、書くの中で最上位のスキルは?
読む、考える、書くという知的領域において、ロジカル・ライティングは最上位のスキルだ。論理的な文章が書けるようになれば、論理的な思考力が育ち、自然と読むのもうまくなる。つまり、論理的に書くことはメタスキルなのだ。メタスキルとは、ほかのスキルを拡張し、活性化するマスター級のスキルをいう。
体系的に仕事を処理し、すばやく要点を伝え、コミュニケーションし、問題を解決するロジカル・シンキングは、その人の文章に裏づけられる。どんな仕事でも結果を出す人は、仕事の技能だけではなく、コミュニケーション方法や自己管理のノウハウで自分の能力をアピールする。ロジカルな文章を書けば、すぐに仕事ができる人として認めてもらえるだろう。

----------

ソン・スッキ
ライティング・コーチ

大韓民国を代表するライティング・コーチ。ソン・スッキ作文センター、アイデアウイルス代表。1965年生まれ。
稼げるライティングソリューションを提供し、企業と個人のマーケティングコンサルティングを担う。慶熙大学校にて国語国文を専攻し、卒業後は、放送局、広告代理店、新聞社、雑誌社、女性向けポータルサイト、出版社などで経験を積む。執筆活動歴35年、ライティング指導歴20年。『魅力ある単語、魅惑の文章』『書き写しの奇跡』など、韓国で多数の著書を上梓し、『150年ハーバード式ライティングの秘密』(いずれも日本未邦訳)は10万部を超えるベストセラーになっている。

----------

(ライティング・コーチ ソン・スッキ)
編集部おすすめ