株式投資を長期で続けていれば必ず直面する暴落に一喜一憂しないためにはどうすればいいのか。『年に471万円が入ってくる「鉄壁配当」 後悔ゼロの“早期リタイア計画”』(KADOKAWA)を出した長期株式投資さんは「恐怖心で投資をやめてしまうのはもったいない。
不安になったとき、私は7つのデータ・名言を心の拠り所にしている」という――。
■株式の長期リターンは他を寄せ付けない
投資を続けていると、株価暴落などの厳しい局面に直面する時期が必ず訪れます。これは例外なく、全員がそのような状況を経験することになるでしょう。そして、そのような状況においては、恐怖心から投資をやめてしまう個人投資家が後を絶たないのが現実です。
そこで、この記事では、不安になったときに読み返すことで冷静さを取り戻し、投資を続ける活力が得られる内容を「心の拠り所」として紹介していきます。
「心の拠り所」① 長期なら株式一択
「心の拠り所」①は、ジェレミー・シーゲル、ジェレミー・シュワルツ著『株式投資 第6版』で紹介されている「実質トータルリターン指数」です。図表1の通り、株式の長期的なリターンは圧倒的で、他のアセットクラスを寄せ付けません。
※編集部注:外部配信先ではハイパーリンクや図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際はPRESIDENT Online内でご確認ください。
1801年~2021年において、株式の年率リターンは6.9%、長期債が3.6%、短期債が2.5%、ゴールドは0.6%、現金(米ドル)はインフレの影響を受けてマイナス1.4%です。紆余曲折はあっても、株式への長期投資は確かに成果を上げてきたのです。自信を持って実践していきましょう。

■投資は長ければ長いほどリターンのバラツキが減る
「心の拠り所」② 15年以上の長期投資なら負けはない
「心の拠り所」②は、バートン・マルキール著『ウォール街のランダム・ウォーカー〈原著第13版〉』から「株式投資の投資期間と年平均リターンの散らばり方(1950年~2020年)」についてです。
図表2から読み取れることは、株式への投資は、1年単位の短い期間でリターンを評価すると、かなりのバラツキがあること。しかし、長期で保有するとそのバラツキは小さくなっていくという事実です。
投資期間が1年間であれば、平均して10%程度の高いリターンが期待できるものの、悪いときにはマイナス37%、良いときにはプラス52.6%となり、その振れ幅はかなり大きくなっています。保有期間を5年とすれば、リターンの振れ幅はマイナス2.4%からプラス28.6%までと小さくなりました。保有期間を10年とするとマイナス1.4%からプラス20.1%までです。
この時点では、まだマイナスとなっている可能性が残されています。仮に10年間株式を保有できたとしても、結果的にマイナスになるというシナリオも想定しておかなければならないことを示唆しています。
ところが、株式を15年以上保有すると、振れ幅がプラス4.2%からプラス18.9%の間に収まり、最悪のパターンを想定してもリターンはプラスとなっているのです。平均的なリターンは10%程度、リターンが最悪の場合でも4.2%、最もリターンが高くなるケースでは18.9%となります。
平均して年10%のリターンが期待でき、最悪でもプラスになっている。長期投資の恩恵を確実に受けるためには、「15年以上保有する」ということが1つの基準となりそうです。

■リターンの高い日を逃さないためには
「心の拠り所」③ 株式を持ち続けることが大切
「心の拠り所」③は、チャールズ・エリス著『敗者のゲーム[原著第8版]』から、株式を持ち続けることの重要性についてです。
図表3では、1980年~2016年における最も上昇したベスト10日(検証期間全体の0.1%未満)を逃すだけでリターンの平均水準が11.4%から9.2%へと低下することを示しています。わずか10日を逃しただけでリターンが2.2%も低下しているのは、衝撃的としかいいようがありません。
図表4は、ベストの数年を逃した場合の、長期累積資産額への悪影響を示したものです。株式のリターンが高い年に保有していなかった場合、投資のパフォーマンスが大幅に低下することが見て取れます。
どの日に株価が上昇するかを、事前に知る術はありません。したがってリターンの高い日を逃さないためには、株式を持ち続けるしか方法がないのです。短期的な株価の動きに右往左往するのではなく、どっしりと構えて長期保有することがリターンの向上につながることを覚えておきましょう。
■ヘルスケア、生活必需品は歴史的にリターンが高い
「心の拠り所」④ リターンの高いセクターとは?
「心の拠り所」④は、その①でも紹介した『株式投資 第6版』から「S&P500のセクター別の構成比率とリターン」についてです。
図表5では、1957年~2021年の期間において、各セクターとS&P500とを比較した場合のリターンの差(超過リターン)を示しています。
この表から確認できることは、歴史的にリターンが高かったセクターはヘルスケア(機器メーカー、ヘルスケア・プロバイダー、製薬、バイオテクノロジー)や生活必需品(食品、タバコ、パーソナル用品、小売、ハイパーマーケット)などであるということです。
どの銘柄へ投資しようか悩んでいるときには、過去にリターンが高かったヘルスケアや生活必需品セクターの銘柄から検討してみるなど、投資判断の拠り所の1つとなってくれるのではないでしょうか。

■株価は振り子、必ず戻る
「心の拠り所」⑤ 下がった株は上がる
「心の拠り所」⑤は、ハワード・マークス著『市場サイクルを極める』から市場の変動についてです。
図表6は、市場サイクルが適正な価格帯(本質的価値)を中心にして、割高になったり、割安になったりすること、時間の経過とともに本質的価値はゆるやかに上昇していくことを示しています。平たくいえば、株価は上がったり下がったりしながら、長期的にはゆるやかに上昇するということです。
その動きはさながら振り子のようであり、ハワード・マークス氏はその著書『投資で一番大切な20の教え』の中で次のように表現しています。
投資の世界でも、市場は

●陶酔感と沈滞感の間を

●好材料への歓喜と悪材料に対する強迫観念の間を

●そして、過大評価と過小評価の間を

振り子のように揺れ動いている。
景気後退局面や突発的な暴落などで株価が下がり続けると、不安にさいなまれてしまうかもしれません。しかし、市場にはサイクルがあり、株価は振り子のように揺れ動いているのです。下がった株はいずれ上昇に転じる、そのことを知っておくだけで解消される不安も少なくないでしょう。
■期待されていない割安な銘柄のほうがリターンは高い
「心の拠り所」⑥ 割安であることは常に重要
「心の拠り所」⑥は、ジェレミー・シーゲル著『株式投資の未来』から「成長の罠」についてです。
成長の罠について、『株式投資の未来』では以下のように書かれています。
成長の罠にはまった投資家は、革新をもたらし、経済成長を牽引する企業や業界に、過大な対価を支払う。ひたすら成長率を追い求め、話題の銘柄を買い漁り、胸踊る最新技術を探し回って、なるべく成長率の高い国へと資金を振り向ける。
こうした投資アプローチは、低い投資リターン収益率しかもたらさない。それどころか長期的なデータをみるかぎり、過去に際立った運パフォーマンス用成績を達成してきた銘柄は、斜陽業界や低成長国に属しているケースが多い。
また、次のようにも書かれています。
新興企業や新興業界のリターンは、全体に冴えないどころか、数十年前に創設された老舗企業を、たいていの場合、下回っている。
かいつまんでいえば、マーケットから期待されて割高になっている銘柄よりも、期待されておらず割安になっている銘柄のほうが、その後のリターンが高くなるということです。
■株価の上昇率だけでは計れないもの
具体的な事例で確認していきましょう。
図表7をご覧ください。成長株の代名詞であったIBMと、オールドエコノミーだと考えられていたスタンダード・オイル(現在のエクソン・モービル)との比較表です。
上段の表(成長指標)において、成長率はどれもIBMがスタンダード・オイルを上回っており、成長性の観点からはIBMが優位となっています。ただし、この点だけを見てIBMへ投資すると成長の罠にはまることになります。
続いて、中段の表(バリュエーション指標)を見てみましょう。平均株価収益率(平均PER)はスタンダード・オイルがIBMの半分以下であり、配当利回りは2倍以上となっています。
バリュエーションの観点からはスタンダード・オイルのほうが割安ということですね。
最後に下段の表を見てみます。株価上昇率はIBMのほうが高いものの、配当を再投資した際のトータルリターンでは、スタンダード・オイルのパフォーマンスのほうが高かったという結果になっています。株価の上昇率だけでは、投資のパフォーマンスを測ることはできず、割安で配当利回りの高い株を買うことの重要性が読み取れます。
■リターンは割安な銘柄がもたらしてくれる
「心の拠り所」⑦ 投資家リターンの基本原則
「心の拠り所」⑦は、ジェレミー・シーゲル著『株式投資の未来』から投資家リターンの基本原則についてです。
シーゲル教授は次のように書いています。
成長期待が高い銘柄は株価も高くなり、高い株価は将来のリターンを押し下げる。逆に、成長期待が低い銘柄は株価が極端に下がり、成長率は低くてもきわめて良好なリターンをもたらすことがある。投資家リターンの基本原則とは次のとおりだ。株式の長期的なリターンは増益率そのものではなく、実際の増益率と投資家の期待との格差で決まる。投資家が卓越したリターンを手にするのは、実際の増益率が期待を上回ったときだけだ。増益率そのものが高いか低いかは関係ない。

この内容をものすごくシンプルにまとめるならば、人気のない(=PERが低い)銘柄へ投資することが大切だと説いています。株式投資を続けているとさまざまな情報を目にし、投資方針について迷うこともあるでしょう。
そんなときには、人気のない(すなわちPERが低い)銘柄は割安に買える、人気のある(すなわちPERが高い)銘柄は割高で買うことになる、そしてリターンをもたらしてくれるのは割安な銘柄を買うことだと思い出すようにしましょう。
この「投資家リターンの基本原則」を定期的に思い起こすことで、長期的にブレない投資が実現できるでしょう。
以上のように、株式投資には「勝てる」鉄則があります。一時的な暴落に一喜一憂せず、冷静さを保ち続けるためには、「理論を学ぶ」ことが大切なのです。

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長期株式投資(ちょうきかぶしきとうし)

個人投資家

1977年、熊本県生まれ。2004年から株式投資を始める。2009年、ポートフォリオを大型配当株メインにスイッチ。以降は「どのような相場でも安定的に配当を受け取るには?」を日々模索し、安定的に資産を増やす。2022年の税引き後の手取り配当額は、282万5128円と過去最高を更新し、運用資産1億円を突破。近年は、19年間の投資生活で磨いた技術やノウハウをTwitterやブログにて発信。2023年3月、長年勤めた会社を早期退職し、オンラインサロンを開設。「途中で挫折することがないよう、焦らずゆっくりと」をモットーに投資教育をライフワークとする。著書に『オートモードで月に18.5万円が入ってくる「高配当」株投資』(KADOKAWA刊)など。

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(個人投資家 長期株式投資)
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