相手にいい印象を与え、好かれる人は何をしているか。プロ司会者で作家の鹿島しのぶさんは「メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手が世界中の人々から称賛を浴びていることの一つに挨拶がある。
※本稿は、鹿島しのぶ『ワンランク上のおとなの礼儀』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■こんな「小さなこと」で印象は決まる
世界的大ベストセラー『7つの習慣』などの著書で知られるスティーブン・R・コヴィーは、こういっています。
「小さな心遣いと礼儀は、とても大切である。人間関係において、小さなことは大きなことである」
と。また、『幸福論』で知られるカール・ヒルティも、
「人間の真の誠実は、たとえば礼儀正しさと同じように、小さなことに対するその人の態度に表れる」
と述べています。
コヴィーは1932年生まれのアメリカの作家・経営コンサルタント、かたやヒルティは1833年生まれのスイスの法学者です。
時代や国は違えど、世界の人々に影響を与えた著書のある二人が、同じように礼儀の大切さに言及しているのは興味深いところですが、「ちょっとしたことでも礼儀正しくあれ」という、この教えは、万国共通、誰にも必要なものだといえるでしょう。
たしかに、人と人との関係を振り返ってみると、じつは“ちょっとしたこと”の上に成り立っているものです。
たとえば、会ったときにちょっと頭を下げたり、微笑みを浮かべたりするなど、何気ないしぐさを積み重ねていくなかで、いつの間にかお互いを大切に感じたり、必要な存在だと思うようになっていくものです。
■何度も繰り返し礼儀正しく接し続けることの効果
心理学に「単純接触効果」というものがあります。1968年に、アメリカの心理学者、ロバート・ザイアンスが発表した理論で、「繰り返し接すると、意識しないうちに相手に対する好意度や印象が高まる効果がある」としています。
また、「ミラーリング効果」という理論もあります。こちらはニューヨーク大学のターニャ・チャートランド博士が、1999年に行なった実験をもとに発表したもので、相手のしぐさや言動を鏡のように真似をすることにより、相手に好意や親近感を抱かせることができるとしています。
これらの理論は、そのまま礼儀正しさにもあてはまるような気がします。
つまり、何度も繰り返し礼儀正しく接し続けていれば、確実に相手にいい印象を与え、好意を持ってもらえるというわけです。
たとえば、小さな頼みごとでも、しっかりと頭を下げる。それはちょっとしたことだけれど、そんな礼儀正しさを常に繰り返す――。それが礼儀正しい人になり、まわりから好かれ、信頼される人になるための基本なのだといえるでしょう。
■「感謝」は、最も美しい礼儀作法
「感謝の気持ちを表すことは、最も美しい礼儀作法である」
これは、フランスの哲学者、ジャック・マリタンの言葉です。
世の中には、何かうまくいかなかったときに、やたらと運の悪さを嘆いたり、他人のせいにしたりする人がいますが、自らの失敗を人のせいにするほど失礼なことはないと思います。
どんな人も自分一人で生きているわけではありません。
必ず人の協力があってこそ生きていられます。
メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手も、どんなときも感謝の気持ちを忘れない、礼儀正しいふるまいで世界中の人々から称賛を浴びています。
大谷選手は、メジャーリーグにて三度のMVPを獲得し、二度の本塁打王に輝き、史上初の50本塁打50盗塁を達成するなど、数々の記録を打ち立て、史上最高の野球選手の一人といわれているスーパースターです。
こんなに活躍しているにもかかわらず、偉ぶることなく、誰に対しても変わらず礼儀正しく接している姿には感銘を受けますし、そういう大人でありたいと尊敬の念を抱くばかりです。
大谷選手が称賛されていることの一つに挨拶があります。
彼は、審判や相手チームの監督にも必ず挨拶をします。また、メジャーリーグにおいても先輩であるイチロー選手やダルビッシュ選手の姿を見つけると、すぐに駆け寄り、必ず帽子をとって挨拶する姿は映像を通して、度々伝えられました。
■支えてくれた人、協力してくれた人の顔を浮かべる
そして、目上の人だけではなく、バットボーイにも丁寧に接することが話題になりました。フォアボールで出塁する際には、毎回、バットとバッティンググローブをバットボーイに手渡して、必ず感謝の気持ちを伝えるというのです。
通常、選手は、フォアボールで出塁する際、バットはその場に置いたり、雑に投げてしまうこともあるそうです。
そんななかで大谷選手に手渡しされたり、感謝の気持ちを伝えられたりしたら、バットボーイのモチベーションも上がることでしょう。
大谷選手は、自分が好きな野球ができているのは、周りにいるあらゆる人のおかげであることを肝に銘じ、日々行動しているのだと思います。そんな崇高な思いを常に抱いているからこそ、誰からも愛され応援され、それをパワーに変えて、前人未到の記録を打ち立てることができるのではないでしょうか。
当然のごとく、一般社会でも、何か協力してくれた人、支えてくれた人には感謝を伝えることが大切です。
おそらく、結果がうまくいったら、ホッとして気が回らないのだと思います。でも、そこに、日頃から謙虚な姿勢や感謝の気持ちを持っているかどうかが表れてしまいます。
どうしてうまくいったのかを考えることができたら、支えてくれた人、協力してくれた人の顔も浮かんでくることでしょう。自分だけの力では、できることは限られているのだと心に強く刻んでおくことです。
支えてくれた人、協力してくれた人をけっして忘れてはいけません。うまくいったときはもちろん、うまくいかなかったときもです。
その人たちがどれだけ時間を割いてくれたか。労力をかけてくれたか。どのような気持ちでいてくれたか。そこまで想像力を働かせて、感謝することです。
感謝を伝える手段なんてなんでもいいのです。
■自分のほうから断ち切らない限り縁は続いていく
たとえば会社を辞めることになったときも、「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、しっかり筋を通してきれいなかたちで辞めるべきでしょう。それが礼儀であり、大人として、社会人として果たすべき義理です。
それを面倒くさがって、おかしな辞め方をすると、そこで人間関係は完全に切れてしまいますし、何かあったときでも助けようとは思ってもらえないでしょう。
よく、「会社を辞めれば、そこでの人間関係は終わりだ」という人がいますが、それは間違いです。たとえ違う会社で働くことになっても、社会人としての関係がなくなるわけではありません。自分のほうから断ち切らない限り縁は続いていきますし、助け合う場面はいくらでも出てくるでしょう。
また、辞めたあとのほうが、損得勘定抜きの関係も築けます。そうした人間関係の広がりのなかで、お互いに成長できる関係も築けますし、新たな可能性が生まれてくることだって少なくないでしょう。
一人の社会人として関係を続けていくか、それともそこで断ち切ってしまうかによって、その後の人生が大きく変わることになるかもしれないのです。
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鹿島 しのぶ(かしま・しのぶ)
プロ司会者、作家
白百合女子大学文学部英語英文学科卒業後、会社員を経てプロの司会者として活動を開始。
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(プロ司会者、作家 鹿島 しのぶ)
審判や相手チームの監督、イチロー選手やダルビッシュ選手だけでなく、バットボーイにも丁寧に接することが話題になった」という――。
※本稿は、鹿島しのぶ『ワンランク上のおとなの礼儀』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■こんな「小さなこと」で印象は決まる
世界的大ベストセラー『7つの習慣』などの著書で知られるスティーブン・R・コヴィーは、こういっています。
「小さな心遣いと礼儀は、とても大切である。人間関係において、小さなことは大きなことである」
と。また、『幸福論』で知られるカール・ヒルティも、
「人間の真の誠実は、たとえば礼儀正しさと同じように、小さなことに対するその人の態度に表れる」
と述べています。
コヴィーは1932年生まれのアメリカの作家・経営コンサルタント、かたやヒルティは1833年生まれのスイスの法学者です。
時代や国は違えど、世界の人々に影響を与えた著書のある二人が、同じように礼儀の大切さに言及しているのは興味深いところですが、「ちょっとしたことでも礼儀正しくあれ」という、この教えは、万国共通、誰にも必要なものだといえるでしょう。
たしかに、人と人との関係を振り返ってみると、じつは“ちょっとしたこと”の上に成り立っているものです。
たとえば、会ったときにちょっと頭を下げたり、微笑みを浮かべたりするなど、何気ないしぐさを積み重ねていくなかで、いつの間にかお互いを大切に感じたり、必要な存在だと思うようになっていくものです。
■何度も繰り返し礼儀正しく接し続けることの効果
心理学に「単純接触効果」というものがあります。1968年に、アメリカの心理学者、ロバート・ザイアンスが発表した理論で、「繰り返し接すると、意識しないうちに相手に対する好意度や印象が高まる効果がある」としています。
また、「ミラーリング効果」という理論もあります。こちらはニューヨーク大学のターニャ・チャートランド博士が、1999年に行なった実験をもとに発表したもので、相手のしぐさや言動を鏡のように真似をすることにより、相手に好意や親近感を抱かせることができるとしています。
これらの理論は、そのまま礼儀正しさにもあてはまるような気がします。
つまり、何度も繰り返し礼儀正しく接し続けていれば、確実に相手にいい印象を与え、好意を持ってもらえるというわけです。
たとえば、小さな頼みごとでも、しっかりと頭を下げる。それはちょっとしたことだけれど、そんな礼儀正しさを常に繰り返す――。それが礼儀正しい人になり、まわりから好かれ、信頼される人になるための基本なのだといえるでしょう。
■「感謝」は、最も美しい礼儀作法
「感謝の気持ちを表すことは、最も美しい礼儀作法である」
これは、フランスの哲学者、ジャック・マリタンの言葉です。
世の中には、何かうまくいかなかったときに、やたらと運の悪さを嘆いたり、他人のせいにしたりする人がいますが、自らの失敗を人のせいにするほど失礼なことはないと思います。
どんな人も自分一人で生きているわけではありません。
必ず人の協力があってこそ生きていられます。
メジャーリーグで活躍している大谷翔平選手も、どんなときも感謝の気持ちを忘れない、礼儀正しいふるまいで世界中の人々から称賛を浴びています。
大谷選手は、メジャーリーグにて三度のMVPを獲得し、二度の本塁打王に輝き、史上初の50本塁打50盗塁を達成するなど、数々の記録を打ち立て、史上最高の野球選手の一人といわれているスーパースターです。
こんなに活躍しているにもかかわらず、偉ぶることなく、誰に対しても変わらず礼儀正しく接している姿には感銘を受けますし、そういう大人でありたいと尊敬の念を抱くばかりです。
大谷選手が称賛されていることの一つに挨拶があります。
彼は、審判や相手チームの監督にも必ず挨拶をします。また、メジャーリーグにおいても先輩であるイチロー選手やダルビッシュ選手の姿を見つけると、すぐに駆け寄り、必ず帽子をとって挨拶する姿は映像を通して、度々伝えられました。
■支えてくれた人、協力してくれた人の顔を浮かべる
そして、目上の人だけではなく、バットボーイにも丁寧に接することが話題になりました。フォアボールで出塁する際には、毎回、バットとバッティンググローブをバットボーイに手渡して、必ず感謝の気持ちを伝えるというのです。
通常、選手は、フォアボールで出塁する際、バットはその場に置いたり、雑に投げてしまうこともあるそうです。
そんななかで大谷選手に手渡しされたり、感謝の気持ちを伝えられたりしたら、バットボーイのモチベーションも上がることでしょう。
大谷選手は、自分が好きな野球ができているのは、周りにいるあらゆる人のおかげであることを肝に銘じ、日々行動しているのだと思います。そんな崇高な思いを常に抱いているからこそ、誰からも愛され応援され、それをパワーに変えて、前人未到の記録を打ち立てることができるのではないでしょうか。
当然のごとく、一般社会でも、何か協力してくれた人、支えてくれた人には感謝を伝えることが大切です。
でも、それをないがしろにする人がけっこう多いようです。
おそらく、結果がうまくいったら、ホッとして気が回らないのだと思います。でも、そこに、日頃から謙虚な姿勢や感謝の気持ちを持っているかどうかが表れてしまいます。
どうしてうまくいったのかを考えることができたら、支えてくれた人、協力してくれた人の顔も浮かんでくることでしょう。自分だけの力では、できることは限られているのだと心に強く刻んでおくことです。
支えてくれた人、協力してくれた人をけっして忘れてはいけません。うまくいったときはもちろん、うまくいかなかったときもです。
その人たちがどれだけ時間を割いてくれたか。労力をかけてくれたか。どのような気持ちでいてくれたか。そこまで想像力を働かせて、感謝することです。
感謝を伝える手段なんてなんでもいいのです。
電話一本でもいいし、メールでもいいし、LINEでもいいと思います。そうすると、相手もまた、自然に何かしてあげようという気持ちになって、いろいろなことがうまくいくようになります。
■自分のほうから断ち切らない限り縁は続いていく
たとえば会社を辞めることになったときも、「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、しっかり筋を通してきれいなかたちで辞めるべきでしょう。それが礼儀であり、大人として、社会人として果たすべき義理です。
それを面倒くさがって、おかしな辞め方をすると、そこで人間関係は完全に切れてしまいますし、何かあったときでも助けようとは思ってもらえないでしょう。
よく、「会社を辞めれば、そこでの人間関係は終わりだ」という人がいますが、それは間違いです。たとえ違う会社で働くことになっても、社会人としての関係がなくなるわけではありません。自分のほうから断ち切らない限り縁は続いていきますし、助け合う場面はいくらでも出てくるでしょう。
また、辞めたあとのほうが、損得勘定抜きの関係も築けます。そうした人間関係の広がりのなかで、お互いに成長できる関係も築けますし、新たな可能性が生まれてくることだって少なくないでしょう。
一人の社会人として関係を続けていくか、それともそこで断ち切ってしまうかによって、その後の人生が大きく変わることになるかもしれないのです。
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鹿島 しのぶ(かしま・しのぶ)
プロ司会者、作家
白百合女子大学文学部英語英文学科卒業後、会社員を経てプロの司会者として活動を開始。
(株)総合会話術仟言流の代表を務め、ブライダルプランナーの役割も兼ね備えたプロ司会者の育成にも力を注いでいる。また、2017年まで駿台トラベル&ホテル専門学校ブライダル学科長を務め、ブライダル関連、接遇会話、ビジネスマナーの授業を担当した。『「また会いたい」と思われる人』『「品がいい」と言われる人』『99%人に好かれる「礼儀正しい人」』(以上、三笠書房)など著書多数。
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(プロ司会者、作家 鹿島 しのぶ)
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