やりがいのある仕事をするにはどうすればいいか。プロ司会者で作家の鹿島しのぶさんは「『会社にやらされている仕事はつまらない』とグチる人にやりがいのある仕事なんて回ってこない。
どんな仕事でも丁寧に心をこめてすることが大切で、そうすることで大きな仕事に結ぶつくことがある」という――。
※本稿は、鹿島しのぶ『ワンランク上のおとなの礼儀』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■たとえ小さな仕事でも、それが大きな仕事に結びつく
「一日中礼儀正しく朗らかな気持ちで仕事をすれば、一日中腹を立てて仕事をしたときよりも、夜寝るときの疲労がずっと少ない。疲れるのは仕事のせいではない、心の持ちようが悪いのである」
そう教えているのは、米国の作家であり、世界的大ベストセラー『人を動かす』の著者であるデール・カーネギーですが、言葉を換えれば、どんな仕事でも丁寧に、心をこめてやることの大切さを教えているのだと思います。
よく、「会社にやらされている仕事はつまらない」とグチる人がいます。そして、「自分はこんなつまらない仕事をするためにこの会社に入ったわけではない」と言葉を続けます。
でも、そんなことを考えている人にはやりがいのある仕事なんて回ってこないし、おそらく成功することもないでしょう。
「この世に雑用なんてない。雑にやった仕事が雑用になる」という言葉がありますが、どんな仕事でも丁寧に心をこめてするべきです。
たとえ小さな仕事でも、それが大きな仕事に結びつくことだってあるのです。好きな仕事や実績を追い求めるだけではなく、まわり道も大切です。
小さなことにも手を抜かないで一生懸命やっていく姿を見せてこそ、周囲の人は信頼してくれるのです。
「礼儀正しさ」にも、それはつながることだと思います。
■あまり合理的に考えすぎないことが大切
人気タレントの木村拓哉さんが、「仕事は手を抜くほうがずっと疲れる」ということをいっていたのを耳にしたことがありますが、まさにカーネギーのいうように「疲れるのは仕事のせいではない、心の持ちようが悪いからである」ということだと思います。
政治家の野田聖子さんは、じつは政治家になる前に帝国ホテルに入社して働いていました。
野田さんは、それこそ、客室のトイレ掃除からはじめて、やっとフロントに立たせてもらえるようになったと自らの体験を話しています。
小さなことから一歩ずつというのは、仕事を覚え、ステップアップするには欠かせない作業です。
何かというと、すぐに近道を探して、ショートカットで行こうとする人もいますが、段階を踏みながら、挫折を知ったり失敗をしたりを積み重ねてこそ、強くなれるし、成長することもできるのです。
あまり合理的に考えすぎないことが大切です。何事も実績がなかったらできません。「なんでこんな仕事をしなきゃいけないんだ」などとうじうじ思い、腹を立てているうちに、大事な時間はどんどん失われてしまいます。
■人との距離を縮める「六つの心得」
相手の名前を意識して呼ぶことは、間違いなく人との距離を縮めることにつながります。
私は、たとえば、学校で学生たちに教えているときなどには、「みなさん」と語りかけるより、「○○さん」と名前を呼んで語りかけるようにしていました。そのほうが、こちらに意識をきちんと向けてもらえるからです。

あるいは私自身、司会者としてお客様と向かい合ったときなど、「司会者さん」と呼ばれるよりも、「鹿島さん」と呼んでもらったほうが、「ちゃんと信頼されているな」と感じます。そうした例は誰もが体験したことがあるはずです。
このことについて、前に挙げたデール・カーネギーは、次の六つの心得を守れば、礼儀正しさの習慣を身につけることができるとしています。
①相手の話には熱心に耳を傾ける。

②相手の話に口をはさまない。

③初対面の人の名前はすぐ覚えて、できるだけ使う。

④もし相手の言い分が間違っていても、そっけなくやりこめるのはよくない。

⑤自分のほうが偉いといった態度を見せない。

⑥自分の考えが間違っていれば、素直に謝る。
私も、まさにそのとおりだと思います。特に、この六つの心得のなかでも、③の「初対面の人の名前はすぐ覚えて、できるだけ使う」は、相手との距離を縮めるために最初にできる容易な手段だと考えています。
名前で呼ばれると、たいていの人は相手が自分に関心を寄せていると本能的に感じて、より敏感に反応します。

名前を呼ばれることで、次に続く言葉が不特定多数の人に向けられたものではなく、ほかならぬ自分に向けられたものだとはっきり認識するからです。そして、相手の言葉にしっかり耳を傾けようとします。それが人との距離を縮める第一歩です。
カーネギーは、そうして相手との距離を縮めることを前提にしたうえで、「①相手の話には熱心に耳を傾ける」「②相手の話に口をはさまない」などの心得を挙げているのです。
まずは、相手の名前を意識して呼んで、距離を一歩縮めましょう。そのうえで、カーネギーがいうように、相手の話には熱心に耳を傾け、相手の話に口をはさまないようにします。
それは、相手との距離をより縮めるためのテクニックです。言葉を換えれば、「人の話をきちんと聞く」ということです。
■人の話をしっかり聞くにはエネルギーが必要
さらに「④もし相手の言い分が間違っていても、そっけなくやりこめるのはよくない」「⑤自分のほうが偉いといった態度を見せない」「⑥自分の考えが間違っていれば、素直に謝る」と続く心得は、「人の話をきちんと聞く」ための補完的なテクニックといえるでしょう。せっかく縮まった相手との距離を遠ざけるようなことは避けましょう、というわけです。
このカーネギーの心得を多くの人が参考にしているのは、それだけ多くの人が人との距離を縮めるのに腐心しているということの証しですし、逆にいえば、人の話をきちんと聞けていない人が多いからにほかなりません。
長年一緒に過ごしてきた夫婦や仲のいい恋人同士でも、「聞いてる、聞いてない」で、ケンカになることがよくあります。

無視しているわけではなく、なんとなく聞いているけれど、「うんうん」と生返事をするばかりで、じつは聞いていることが頭に入ってきていない。
その結果、「どうせまた聞いていないんでしょ」となる……。人の話をしっかり聞くには、それだけ相手を意識し、集中しなければならず、エネルギーが必要だということです。
■話を聞き逃されると「バカにしている」と誤解される
また、人間は自分のいったことははっきり覚えていますが、人からいわれたことは忘れがちです。
人が一生懸命しゃべるときは、相手にわかってほしいという気持ちが強く働いていますから、その内容も鮮明に覚えていますが、聞くほうは関心のないことに対しては、つい聞き逃してしまいます。両者の間には必ずギャップがあるのです。
このことを認識しておかないと、「あ、この人は自分のことを嫌っている」とか「バカにしている」と誤解されることにもなりかねません。
それを防ぐためにも、まずは相手の名前を覚え、意識して呼びかけるようにしなければなりません。
そうすることで、相手は自分のことをどう思っているかを判断しますし、こちらも相手の名前を口にすることで、「さあ、これから話すことはあなたに対してなんですよ」ということをはっきり意識し、しっかり相手に向き合うためのスイッチを入れることができるのです。

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鹿島 しのぶ(かしま・しのぶ)

プロ司会者、作家

白百合女子大学文学部英語英文学科卒業後、会社員を経てプロの司会者として活動を開始。(株)総合会話術仟言流の代表を務め、ブライダルプランナーの役割も兼ね備えたプロ司会者の育成にも力を注いでいる。また、2017年まで駿台トラベル&ホテル専門学校ブライダル学科長を務め、ブライダル関連、接遇会話、ビジネスマナーの授業を担当した。
「また会いたい」と思われる人』『「品がいい」と言われる人』『99%人に好かれる「礼儀正しい人」』(以上、三笠書房)など著書多数。

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(プロ司会者、作家 鹿島 しのぶ)
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