#医療 #研究開発 #開発秘話

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父からの電話で始まった大学とのバイオ共同研究

マイテックは、私、長谷川裕起と父の二人でスタートしたベンチャー企業です。この開発秘話は1本の電話から突然始まりました。当時私は20歳で、東京の大学で建築学を専攻している二回生でした。
突然父から電話がかかってきたのを覚えています。「裕起、これからはバイオや」と、言い出したら聞かない性格で、何でもやらないと気が済まない父からの電話でした。

私が「でも、お父さんが建築材料の開発をしているから、建築学部に進めって言ってたやん」と答えると、父は「これからはバイオの時代や」と言うのです。そして、「学校を休んで帰ってこい」とのことでした。この時は深く考えずに、この選択が自分の人生や価値観を大きく変えるとは思っていませんでした。

このストーリーでは、私が父と共に研究、開発した「プロテオ®バイオチップ」について、検査方法として確立するまでに乗り越えてきた数々の挑戦や奮闘、これから目指すさらなる発展についてお話します。


大学を休学して未知なるバイオ研究への挑戦

私と父は正反対の性格で、さきほども書きましたが、父は一度言ったら聞かない性格でした。私は反抗期らしい反抗期を迎えることもなく育ってきたので、ここは大人しく帰ることにしたのです。

実家に帰るとすぐ、父は私を知り合いである大学教授のもとへ連れて行きました。父はすでにその大学との共同研究を決めていたようで、「お前はこれから研究員や」と勝手に決めてしまいました。私が「大学院生と一緒に研究するなんて無理やって」と反論すると、父の「お前は飛び級や」の一言で大学との共同研究が始まってしまったのです。事前の説明では学生寮に住めると聞いて安心していましたが、実際は大学の規定上不可能だったらしく、仕方なくコピー室に置いてあるソファに毛布一枚で寝泊まりする生活が始まりました。学生の方たち(実際は年上なので先輩と呼んでいました)と同じ時間に実験すると気を遣うので、実験は主に夜中に行い、学生たちが全員帰った後にこっそりコピー室に戻り寝て、朝になったら学生たちが使うコピー機の音で起きるという生活を繰り返すようになりました。
この大学は山の上に立っていたので息抜きにどこかへ行くこともできず、とにかく自分はロボットだと言い聞かせて働いていました。ロボットなので辛くない。そう考えるしかなかったのです。

大学との共同研究は成果のないまま終了、親子の力で発見へ

2007年、私たちは大学との共同研究でナノ構造体の作成技術に取り組みました。当時、ナノテクノロジーが大きな注目を集めている中、父は銀錯体から銀ナノ粒子を分散させる技術を開発していましたが、大学との共同研究では成果のないまま終了してしまいました。このままでは終われないと、私たちは実家の空き部屋を研究室にして新たにスタートしました。そんな中、大学での実験中に銅合金に金属錯体が付着し、黒く変色する現象を思い出しました。
すると父は、「これは何か大きな発見があるぞ」とこの現象に興奮し、私たちはこの現象を再現する条件を探る日々を送ることになりました。しばらくそのような日々が続くと、特定の条件下で黒く変化する新しい物質が生成されていることを発見しました。この現象を詳しく調べるため、私たちは兵庫県の工業試験場に通い電子顕微鏡を利用して様々な撮影を行いました。その結果、三次元に自己配列した構造体が形成されていることが確認され、それを「量子結晶」と名付けました。さらにこの「量子結晶」の研究を進める中で、「過酸化銀メソ結晶」という新しい物質も発見されました。この発見のきっかけは、父が読んだ技術文献に銀粒子を強アルカリで処理すると表面が変化することが記載されていました。
私たちはこの方法を試みたところ、量子結晶の表面が変化し、非常に興味深い結果を得ることができたのです。しかし、工業試験場での作業はとても費用がかかるので、私たちは費用を抑えるために2時間以内に実験を終えようと、いつも猛スピードで撮影し、急いで帰るのが日課でした。そうした苦労もあってか、新しい結晶の表面には非常に多くの酸素が存在することが明らかになり、それが過酸化銀であることが確認されました。これらの新規物質は、その後パイオニア発明として認められ、世界約30カ国で特許を取得することに成功したのです。

・新規物質「量子結晶」

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・新規物質「過酸化銀メソ結晶」

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姫路と東京を往復し実験に勤しむ日々、イノベーションの実現を願って

「量子結晶」と「過酸化銀メソ結晶」この二つの新規物質を表面に固定化したバイオチップで、ヒトの血液からがん関連のマーカーを検出できないかと考え、検査装置メーカーにお願いしてデモ装置を用いたテストを行う日々が続きました。これらの結果から私たちが開発したバイオチップの有用性が徐々に証明されていきました。

そして2011年2月、私たちは神戸の産業医療都市に研究所を開設しました。
十分な経費をかけるだけの資金はありませんでしたので、他所から古い実験器具を譲ってもらったり、実験台などは近くのIKEAで購入した組立家具を使って自作しました。これらの家具は今も研究室で活躍しています。このような手作りの研究室からバイオチップの臨床試験が始まったのです。

この当時は、打ち合わせや臨床試験のために車での移動が一番多かった時期でした。それまで毎日のように喧嘩をしていましたが、家と違って狭い車内には逃げ場がなく、この時期が体力的にも精神的にも一番しんどかったと思います。特に、姫路の自宅から東京へは、経費削減のため高速道路を使わず、夕方から移動を始めて約16時間かけて下道で運転していきました。
車には母が用意した弁当やお茶を積み込み、たまには激安スーパーの190円弁当を食べました。私たちの研究は公的補助金などの支援もなく、全て自己資金で行われていたため、どのようにして経費を節約するか常に考えていました。

臨床試験中も、東京の大学病院までの長距離を下道で移動しており、途中にある富士山の裾野の「道の駅ふじおやま」は、我が家では「ホテルおやま」と呼んでいました。この場所は私たちにとって貴重な仮眠の場所でした。目覚めた後は歯磨きや洗顔の身支度を済ませ、東京の大学病院に向けて出発し、到着後直ぐに実験をするのです。長時間の運転による寝不足と疲労で、作業中はしばしばフラフラになりながらも、これらの確認試験を通じて、数回の実験で目覚ましい成果を上げることができました。それぞれの実験が終わるごとに、バイオチップの機能性と有効性が明らかになりました。

・プロテオ®バイオチップ

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・自家蛍光の画像

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研究の末に確立したがん検査方法、予想を超え国際的な話題へ

研究室ができたことで、徐々に家に帰ることがなくなり、実験は真夜中まで続きました。疲れるとそのままソファで寝て、起きたらすぐに実験を再開するようになりました。最終的には、ビニール製のエアマットを床に置き、完全に寝泊まりする生活へと変わりました。

そんな時、父から嬉しい知らせが電話で届きました。2015年6月17日、がん検出バイオチップの成功という見出しで、地元神戸新聞の一面を飾っていたのです。地元で話題になるだろうと期待していたものが、予想をはるかに超え、朝9時を過ぎると父の電話が鳴り止まなくなりました。朝日放送、フジテレビ、日本テレビを始め、多数の民放や海外メディアからも取材の申し込みがありました。地方新聞の記事がどうして海外まで伝わったのかと不思議に思っていたところ、家族からYahooニュースのトップ記事になっていることを知らされました。その後、メディアからの取材が半年間続きました。

多くの医療機関からの問い合わせが相次いだものの、実用化は翌年の2016年7月に予定されていました。実用化を開始した後、徐々に取り扱う医療機関が増え、2019年9月には、大阪国際がんセンターでの臨床試験の成果を基に、「健常者、良性腫瘍、悪性腫瘍」を正確に識別する検査方法が新たに確立しました。

・神戸新聞記事

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・Yahooニュース記事

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社会が変わる中でも挑戦したコロナ検査の実用化

2020年1月、リキッドバイオプシーの普及を目指していた矢先に新型コロナウイルスが発生し、社会は大きく変わりました。外出自粛が常態化し、医療機関への受診者数も減少した結果、実用化されていたプロテオ®がんリスク検査の利用も大幅に減少しました。しかし、この困難な時期に、私たちはマイテックのバイオチップを使用した新型コロナウイルス検査の実用化に向けて挑戦を開始しました。琉球大学病院で新型コロナウイルス患者を対象にした臨床試験を行い、新型コロナウイルスを「2分で可視化検出」する検査を完成させました。2021年3月、琉球大学の50周年記念会館でプレス発表を行い、私たちの成果が広く認知され、新しい検査方法が注目を集めました。

・記者発表の風景

国内外の医療機関・メディアが注目する新たながん検出方法、昼夜問わず没頭し親子で挑んだ「プロテオ®バイオチップ」の開発秘話


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・技術の説明動画

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精度の高い検査の実現、がんで亡くなる人のいない世界を目指して未来へ踏み出していく

プロテオ®検査は、「ブラインド追跡型臨床試験」によってその効果が証明されており、一般検診と比較してがん発見率が15倍、人間ドックと比較して4倍高いことが確認されています。さらに、会員制人間ドックと比較しても同等またはそれ以上の精度を実現し、プロテオ®検査の特異度は93.1%に達し、高い信頼性と過剰診断の最小化を可能にしています。この検査の正答率は87.4%で、会員制人間ドックの平均正答率84.2%を上回っています。マイテックでは、「がんで亡くなる人のいない世界を目指して」という理念のもと、プロテオ®バイオチップを用いた疾病の早期発見に注力しており、未病の段階や予防可能な病状を早期に特定することで、個々の健康を大きく向上させ、医療コストの削減を目指しています。

私自身、最終的に大学に戻ることはできませんでしたが、父と共に挑んだバイオ研究の道で多くの困難を乗り越え、数々の発見と成功を遂げました。これらの苦労や挑戦が、結果的に私の運命をより良い方向へ導いたと感じています。今振り返れば、あの一本の電話が私の人生をどれほど豊かにしたかを実感しています。科学の進歩に伴い、私たちが開発した「プロテオ®バイオチップ」が今後も多くの人々の健康に寄与することを願っており、父と始めたこのベンチャーには新たな仲間や支援者も加わり、私たちは未来へ向けて大きな一歩を踏み出しています。

マイテックホームページ  https://jpn-mytech.co.jp/

・がん予防チャンネル

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