4月初旬、17歳4ヶ月という世界音楽史上でも最年少の若さでアメリカ、イギリスをはじめ、デビュー・アルバム『When We All Fall Asleep Where Do We Go』を10数カ国で初登場1位にした女の子がいることを皆さんはご存知だろうか。彼女の名はビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。
1.全世界的に「口コミ」で話題が広がる
ビリー・アイリッシュこと、ビリー・アイリッシュ・パイレート・ベアード・オコンネルは2001年12月18日にロサンゼルスで生まれた。かの「9/11」の時には、まだ母親のお腹の中にいたわけで、そこからして彼女がいかに若いかお分かりだろう。そんなビリーの人気に火がつくことになったのは、常に「口コミ」の存在だったことは見逃してはならない。彼女が歌うキッカケになったのは、4歳上の兄、フィニアスが自分のバンド用に作っていた曲“Ocean Eyes”をビリーに歌わせたことだった。まだビリーが14歳の時だ。この曲はSoundCloudに挙げられると評判が評判を呼び、アメリカの大メジャー、インタースコープとあれよあれよと言う間に契約することになったのだ。その後、レーベルは彼女をアイドル的に売り出すこともなく、大きな宣伝もせず、育成も兼ねてシングル楽曲を年に数曲ポツポツと出し続ける方針で行くことになったが、その都度、ビリーの存在は「すごい天才少女がいる」とジワジワと、しかも世界的に広がることとなった。
2.サブスクと歌詞検索サイトで火がついた
今の時代、「口コミ」というのがどういう形で広がるかとなるとやはり「ネット」が大きな意味を持つのだが、音楽でそれが最も端的に反映されるのがサブスクのチャートだ。SpotifyをはじめとしたサブスクがCDやダウンロードに取って替わると、ユーザー数が圧倒的に多いキッズに人気が高いアーティストやサウンドが音楽マーケットを独占。その感覚が「世界共通プラットフォーム」という、サブスク特有の特徴を持って、国際的に共有される傾向が強くなっている。そこではドレイクやアリアナ・グランデ、テイラー・スウィフト、エド・シーランといった、最近の10代に人気のR&B/ヒップホップ、ポップが大いに幅を利かせているのだが、昨年の後半くらいから、その中に異例な名前が混じることになった。それがビリー・アイリッシュ。

3.表向きには前向きとは言えないダークさで共感を得た
その「歌詞への共感」だが、かなりダークな、人によっては目を背けたくなる現実を歌った曲が多いのも彼女の特徴だ。2017年の時点で、自殺のテーマをほのめかす“Bellyache”、さらに、ネトフリックスのドラマで一人の少女が自殺を遂げるまでを描いた『13の理由」に近い世代のR&Bシンガー、カリードとのバラード“Lovely”などが使われ、その影響もあり彼女の存在は、徐々に徐々に、心に影を持つ女の子を中心に広がっていった。Billie Eilish - BellyacheBillie Eilish - lovely(with Khalid)いみじくも時代は、テイラー・スウィフトやビヨンセ、アリアナ・グランデと言った、肯定的な強さを主張する女性の歌が全盛の時代。そこに「心の日陰」を求めるキッズに入り込みやすいものが見出せなくなりつつもあった。ビリーの大きな影響源一つであるラナ・デル・レイの大人っぽい世界には若すぎる。かと言って、その昔、そうした悩めるキッズの等身大の拠り所になっていたエモ、さらに昔に遡ってニルヴァーナのようなロックはとうの過去。キッズたちには「今の自分たちに近い誰か」の存在が必要だったのだろう。そんなビリーへの需要は昨年の後半、デビュー・アルバムからの先行シングル“You Should See Me In A Crown““When The Party’s Over”の2曲のMVで強まることになった。
4.不思議なサウンドの組み合わせ
そんなビリーだが、ファンの間でダークで時に猟奇的な要素が好まれつつも、ビリー本人に別段ゴス要素が強いわけではないのも、彼女の存在を非常にユニークにしている。彼女のサウンドの基盤をなしているのは、ヒップホップ調の、かなり太めに録音した太いベース音。これは彼女が最も影響を受けたアーティストとしてしばし名前を挙げる地元LAのカリスマ・ラッパー、タイラー・ザ・クリエイターの影響が大きい。彼女のファッションのトレードマークになっているフードについた大きめのパーカにもヒップホップからの影響は大きい。だが、その一方で、ウィスパー・ヴォイスと、それを多重録音した厚いヴォーカル・ハーモニー、そしてピアノやストリングスという、かなりトラディショナルでシックなセンスも併せ持っている。この辺りの影響は、ビリーが10代前半から影響を受けているラナ・デル・レイからのものだろう。ただ、結果論ではあるが、ビリーの場合、ラナのレトロ・テイストを重低音の浮遊感や猟奇性とブレンドさせているため、むしろ90sのイギリスのトリッポホップ系アーティスト、ポーティスヘッドあたりをかなりポップにわかりやすくしたような感じにもなっている。いずれにせよ、そのサウンドには、現在のシーンで確立された「誰か」に似せたものでは全くなく、ビリー自身の音楽趣味の中で培ったものを自然と表現しているだけに過ぎない。

5.曲を作っているのは自分と、4歳年上の兄だけ
そして、これこそが実は最も衝撃的な事実なのだが、1~4のことを成し遂げてきたのが、まだやっと17歳のビリー本人と、4つ上のこれまた弱冠21歳の兄、楽曲の共作及びプロデュースを手がけるフィニアスという、たった二人の兄妹コンビによるものだった、ということ。その年齢にして、背後に仕掛け人的なプロデューサーがおらず、すべて自前なのだ!まず、そもそもポップ・ミュージックの歴史において「兄妹によるコンビ」なるものをほとんど聞かない。ロック史において「兄妹」なら、ザ・キンクスやオアシスなどの暦がありはするが、兄妹で思い出すとすればせいぜいカーペンターズくらいで、彼らとて外部ソングライターの歌を歌っていた存在だ。そんな兄妹コンビで、兄が裏方に回って妹を支える、という見せ方も、兄のフェミニスティックな姿勢が垣間見え、この時代らしい、かなりの新鮮さがある。
Billie Eilish - bad guyxannyBillie Eilish - wish you were gay(Audio)
全世界で大旋風を巻き起こしたビリーの現象的なデビュー・アルバムは、こうした過程を経て生まれてきたものだ。
WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?

Release
2019.03.29
Tracklist
01 !!!!!!!02 bad guy03 xanny04 you should see me in a crown05 all the good girls go to hell06 wish you were gay07 when the party’s over08 809 my strange addiction10 bury a friend11 ilomilo12 listen before i go13 i love you14 goodbye
Billie Eilish
Text by 沢田太陽
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