
13日に行われた明治安田J1リーグ第29節、横浜F・マリノスは川崎フロンターレに0-3で敗れ、公式戦4連敗を喫した。
ブラジリアントリオが夏に退団し、新たな顔ぶれとなったF・マリノス。
今回は問題の焦点をビルドアップに当てる。確かに川崎フロンターレ戦でのPKのきっかけとなった喜田拓也のロストのような判断力の悪さや先制点のきっかけとなった角田涼太朗のパスのようなボールスピードの遅さなど今季ビルドアップが上手くいかない理由は多くある。
ただ根本的な理由として、ポジションバランスの悪さがあがる。今のF・マリノスが攻撃の起点としているのは、今夏にジュビロ磐田から獲得したジョルディ・クルークス。彼の質の高いキックからのチャンスを狙うのが、ここ最近の展開である。
「戦術クルークス」の問題点が浮き彫りに
この試合のF・マリノスは、右サイドのクルークスにボールをつけた時に、ボランチ2枚がスライドして寄って行くことが多かった。植中朝日もボールを受けに行ったり、クルークスに近い位置で背後を取る動きをするため、右サイドに多くの人数をかけている状態になっており、クルークスを起点とした攻撃を展開しようとしていた。
ただ、川崎の組織力の高いプレスによって後ろにボールが押し下げられ、逆サイドに逃げてからビルドアップを試みた時、ボランチが右に寄っている分、左センターバックの角田は出しどころを見つけることに苦労している印象を受けた。
左サイドバックの鈴木冬一がタッチラインに張り付くのではなく比較的中央でボールを引き出す動きを見せていたものの、そこから展開する相手が同じサイドにいるウイングの井上健太しかいないためなかなか展開できず。
結局ボールを下げて後ろで持たされる、という形が多く、逆サイドにかける人数が少ないことから攻撃が続かない、いわゆるアンバランスな状態になっている。
8月23日に行われたJ1第27節のFC町田ゼルビア戦の時も同様であった。
しかし、川崎戦は三浦颯太がマンマークでクルークスに対応していたため、なかなか思うような形でボールを受けることができなかったことで、問題が浮き彫りになってしまった形だ。
2022年の「アタッキングフットボール」と比較すると
大島秀夫監督が就任して以降、再び「アタッキングフットボール」が戻ってきたという声が上がっていたので、2022年にF・マリノスが優勝した年のビルドアップと比べてみる。
この時のF・マリノスにはブラジリアントリオに加え、攻守の面で貢献できるレオ・セアラや、右足でのクロスが持ち味の水沼宏太、サイドバックながら果敢な攻撃参加で点数も取れる小池龍太、出場機会は減っていたがゲームメイクの面で違いを作れるマルコス・ジュニオールなど錚々たる面々が並んでいたが、比べてみてもネームバリューにそこまでの差はない。
違いとして挙がるのが、最終ラインの位置である。ハーフウェーラインを越えてセンターバックがビルドアップをしていた2022年のF・マリノスに対し、今季のF・マリノスは比較的自陣のボックス近くでのパス回しが目立つ。
確かにラインを上げすぎると、カットされた際にカウンターに転じられ、失点のリスクが高まる。昨季はハイラインでのビルドアップによるミスからカウンターで失点というケースが非常に多かった。
今季最初に就任したスティーブ・ホーランド監督はその点を課題とし、基準とするラインを低めに設定し、ビルドアップもそこまでラインを上げずに行っていた。
ただ、その分ミスがあると一点大ピンチになる。川崎戦の先制点が典型的な例である。今季のF・マリノスは細かなミスが非常に多い。

優勝時のF・マリノスの大きな特徴というと「走るサッカー」である。多くの選手がピッチを縦横無尽に動き回ってパス回しを展開し、相手の守備ラインをかき乱してチャンスを作るサッカーをしていたのが当時のF・マリノスだった。
トップのレオ・セアラがサイドに流れ、そのクロスボールにサイドバックが合わせるという場面も珍しくはなかった。走る分、前述したポジションバランスの面でも問題が起きることは極めて少なく、常に選手が動いているためバランスが取れていた。
守備時も、奪われてからカウンターになった時、常に5人は全速力で守備に戻る。カウンターのリスクが高いこの戦術を採れていたのはこういう選手たちの守備と攻撃のスイッチが切り替わりやすい点にあった。
川崎戦を見ても、2失点目のきっかけとなったカウンターに戻ってくる選手は少なく、結果的にPKを与え退場者を出してしまった。
大事なのは「プレーを難しくしすぎないこと」
現状があまり良くはないのは確かであるが、現在のF・マリノスのメンバーを見ても、優勝時のサッカーは実現不可能ではない。実現のためには大前提、無駄なミスを減らすべきである。
ショートパスにしてもロングパスにしても、ズレが頻繁に起こっているのが現状。質が良ければ大チャンスを作れたという場面が多々あったことから、質の向上が鍵となる。
次に、ウイングに制限をかけすぎないことがポイントとなる。

ウイングがサイドに張り付くばかりであると、ボールがそこへ到達した時に展開の選択肢が限られてしまう。ある程度の自由をウイングに与えることができれば、流動的な攻撃の実現ができるはずだ。
そして、プレーを難しくしすぎないことが残りの試合で一番気をつけるべき点である。
今季はなかなかパス回しにテンポが出ない。ワンタッチやツータッチで叩くより1人がボールを持つ時間が少々長くなり、自分たちでプレーを難しくしてしまっている印象だ。
比較的リズムをつけ、簡単なプレーで前に運ぶ力がF・マリノスには備わっている。上手く活かすことができれば状況も少しずつ好転してくるはずだ。
残り試合数は9。次節は20日(土)、ホームでアビスパ福岡と対戦する。初の降格を避けるための一手が出るのかどうかに注目だ。