January 7, 2023, Kawasaki, Japan - All Blacks star player Richie Mounga (C) poses for photo with Toshiba Brave Lupus Tokyo players and a mascot as he will join the team after the Rugby World Cup this year after the Japan Rugby League One match against Shizuoka BlueRevs in Kawasaki, suburban Tokyo on Saturday, January 7, 2023. Brave Lupus defeated BlueRevs 29-16. (Photo by Yoshio Tsunoda/AFLO)

アーディ・サベア、リッチー・モウンガ、ボーデン・バレット、ファフ・デクラーク、チェスリン・コルビ、サム・ケイン……。ラグビー界の世界最高峰の大物選手たちがプレーするジャパンラグビーリーグワン。

今年行われたラグビーワールドカップ・フランス大会決勝で激戦を繰り広げた南アフリカとニュージーランドの登録選手のうち、じつに14人が今季リーグワンでプレーする。そんな中、世界の移籍市場に大きな影響を与えているのがニュージーランドにおける「サバティカル」という仕組みだ。この仕組みが日本のラグビー界にどのような影響を与え、また、彼ら海外トップ選手が日本ラグビー界の強化という観点において果たす役割とは?

(文=向風見也、写真=つのだよしお/アフロ)

近年その流れに拍車がかかる世界各国の大物の来日

世界で評判が広がっている。

2022年1月発足のジャパンラグビーリーグワンには、世界各国の大物が相次ぎ参戦。海外選手が国外に移る際は欧州諸国のチームが好まれていたが、最近では日本のクラブも主要な選択肢となってきている。前身のトップリーグ時代から強豪国のトップ選手がフィールドを彩っており、近年、その流れに拍車がかかる。

2019年のラグビーワールドカップ日本大会に出た選手がこの国の治安、暮らしに好印象を覚えたり、実際にトップリーグやリーグワンに挑んだ選手が自国でよい印象を話したりした積み重ねが、昨今の状況を招いている。

「(来日の理由の)一つは、この国の美しさがある。すごく便利なのは、飛行機で直接来られること。毎年、より多くの選手が日本でプレーをしたいと興味を持っています。以前来ていた選手が帰国した時、日本で過ごしたリーグがどれだけよかったかを伝えているのだと思います」

こう語るのは、リッチー・モウンガ。ニュージーランド代表の司令塔で、今季から東芝ブレイブルーパス東京に入る。 2023年12月9日開幕のシーズンに向け、新外国人の情報は前年度の途中からリリースされてきた。

その一人が件のモウンガだった。

人を残すために一流の人材を呼ぶ。その原則に沿えば…

以前から在籍している選手を含めれば、今秋のワールドカップ・フランス大会の決勝で登録された南アフリカ代表、ニュージーランド代表の出場メンバー46人中14人が、リーグワンの舞台に立つ。

モウンガとともに注目される一人はチェスリン・コルビだ。身長172センチながら巨大な南アフリカ代表の正ウイング。このほど東京サントリーサンゴリアスに入団した。意気込みを聞かれ、過不足なく答えた。

「持っている知識を周りと共有できればうれしいですが、同時にリーグワンからも学ぶこともある。それも楽しみたい。まずは自分らしさを表現する。そして、チームの勝利に貢献できればと思います」

コルビが看破するように、各クラブが海外のトップを招くのはいいプレーをファンに披露するためだけではない。在籍する国内選手との化学変化を起こし、組織全体の底力をつけることも狙いだ。

サンゴリアスでは2011年度から足掛け6シーズン、ジョージ・スミスが軸をなした。オーストラリア代表111キャップ(代表戦出場数)のフランカーは、いずれも自身と似たポジションの若手の居残り練習に付き合い、クラブハウスで一緒にトレーニングの映像を見て、その時々の国内選手に持てる知見を伝えた。

誰が言ったか。「人を残すは一流」。スミスの薫陶を受けて日本代表に初選出された、もしくは久々に復帰した選手は複数いる。その最たる例の佐々木隆道は、他クラブへの移籍を経てコーチに転じた。母校の早稲田大学で後進を教える。

スミスが活躍していた時期、周りには招き入れたビッグネームの扱いに戸惑っているチームもあった。そのことに触れ、当時のサンゴリアスのスタッフは言った。

「××(チーム名)で〇〇(選手名)が自分勝手にしているようだけど、彼もウチに来たらそんなことはさせない」

人を残すために一流の人材を呼ぶ。その原則に沿えば、クラブは当該の選手と長期で契約したい。一昨季まで国内2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツでは、ロビー・ディーンズ ヘッドコーチが「長期でチームに思い入れを持ってやってくれる選手は大切」と話す。

もっともディーンズは、「ただ、必ずしもそういう(単年を拒む)わけではない」とも念を押す。その時々のチーム事情を鑑み、単年契約の選手を招くこともある。不成立となった2020年1月からのトップリーグでは、ニュージーランド代表のサム・ホワイトロックと単年契約を結んでいた。

日本語では休暇を意味する「サバティカル」

ホワイトロックは、「サバティカル」の選手だった。

ニュージーランドでは、自国でプレーする選手しか代表に選ばない。現役の代表選手が他国でプレーする時は、サバティカルという制度を使う。同国協会と契約する選手が1年間、海外でプレーできる仕組みのことだ。

日本語では休暇を意味するだけに、言葉の響きに再考の余地がありそうなこのサバティカル。ワールドカップイヤー直後とあって、今季の新加入選手にはサバティカルのニュージーランド代表選手が複数いる。

筆頭格は、コベルコ神戸スティーラーズに加わるアーディ・サベアだ。トヨタヴェルブリッツに加入のボーデン・バレットは、2020年度(2021年シーズン)のトップリーグでサンゴリアスのジャージィを着て以来、2度目のサバティカル利用だ。

シーズン直前には、昨季王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイがニュージーランド代表で引退予定だったデイン・コールズと単年でサインした。かねて在籍していた南アフリカ代表のマルコム・マークスが、ワールドカップ中のケガで長期離脱。

マークスと同じフッカーのトップ級を探した結果、コールズと手を結んだ。

「日本人の活躍の場を増やす観点」サバティカルのデメリット

サバティカルがスター選手の来日を促したり、突然の欠員補充を可能にしたりしているのは確かだ。ただし現場の声からは、サバティカルのデメリットも浮かび上がる。

リコーブラックラムズ東京の西辻勤ゼネラルマネージャーは、人を集める以前に、集まった人を育てやすい文化をつくるのが先だと訴える。

オンライン大学を運営するビジネス・ブレイクスルーと提携し、まずは競技に取り組む姿勢、目指すチームカラーを定義化。海外代表の経験者へも、文化の体現者であるよう求める。

だから、実質、約半年の居住となるサバティカルの利用者は、「どんなにいい選手でもとるつもりはないです」と西辻。ブラックラムズは、直近のワールドカップに出た選手はわずか1人。最上位のディビジョン1の12チーム中2番目に少ない。

それでも前年度の7位からの上昇に手応えがあると西辻は言う。補強と育成のバランスについて考えを明かす。

「日本人、大学生たちの活躍の場を増やす観点も持つべきだと感じます。一流選手が近くにいたら彼らに学ぶこともあると思うんですが、それが半年だったら僕らが学ぶ間もなく彼らは帰っていって、勝ってもその人のおかげとなったら、チームには何も残らない。

僕らは自分たちのカルチャー、スタンスを持ちたいです」

「サンゴリアスは、長くコミットしてもらう選手に来てもらう」

かねてサバティカルの活用に慎重だった指導者の一人に、サンゴリアスの田中澄憲監督がいる。ちょうどスティーラーズにサベアが、ヴェルブリッツにバレットがそれぞれサバティカル扱いで入るとわかった今年2月の時点で、こう述べている。

「サンゴリアスは、長くコミットしてもらう選手に来てもらうべきチームです。何かを残してもらうトップ選手が、本来、欲しい選手だと思う。ボーディ(バレット)、ダミアン(・マッケンジー/21年度=2022シーズンに在籍)が(短期で)来ていましたが、(今後は)基本的に、そういったことは望んでいないです」

国内の優秀な選手が集まり切磋琢磨する環境、外国人にグラウンド内外での献身を求める風土こそ、サンゴリアスのよさだと訴えていた。

このほどサンゴリアスにはコルビの他、ウェールズ代表のガレス・アンスコム、ニュージーランド代表のサム・ケインも入った。

ケインはサバティカルにあたる。元オーストラリア代表で2017年からプレーするショーン・マクマーンがケガで登録されないことを受け、同じフォワード第3列の一線級に白羽の矢が立ったのだ。

路線変更の理由は――。昨季のサンゴリアスでは海外代表歴のあるカテゴリCの選手がほとんどケガで長期離脱していたこと、今回の決定に多くの関係者が関わっていたことをにじませながら、田中が説く。

「去年の反省もあると思います。結果的にカテCが(実質的に)1人しかいなかった。代わりに若い選手が出たのはよかったけど、ワールドクラスの選手は若手のよくなっている選手とは違う

市場は変わり続け、各クラブは最適解を模索し続ける

サバティカルについて議論をしているのは、日本側だけではない。

国内組しか代表に入れないというニュージーランドのシステムは、同国内でも議論の的となっている。

1シーズン限りで日本を去るのが決まっているケインは、「ニュージーランドラグビー協会の判断に口を出すべきではないかもしれません」「(常連組が代表を離れることで)国内に残る若手へチャンスを与える意図があるのも理解しています」としつつ、こう続ける。

「南アフリカ代表には、リーグワンを経て国際舞台に戻った選手がいいプレーをした実績がある。まずは我々のような選手が日本でいいパフォーマンスをし、本国に戻った時に自分のラグビーがよくなったことを証明する。協会の判断も変わってくると思います」

ブレイブルーパスは、前述のモウンガやシャノン・フリゼルというニュージーランド代表戦士たちと複数年契約を締結。その期間中、2人はニュージーランド代表のジャージィは着られない。

入団後の取材でモウンガは「東芝にフォーカスしたいという気持ちになっています。オールブラックスは国をまたいだ向こうのことだと考えます。(次回のワールドカップ出場は)考えていない」と話していたが、クラブの関係者はこう見る。

「本人が口に出すことはないが、自分のような立場の選手(不動の司令塔)が動くことで、ニュージーランド協会の考えを改めさせる意志があるのではないか」

事実、モウンガは、昨季に一時来日した際にはより突っ込んだ発言をしていた。

「ニュージーランドも他国に合わせて順応すべきだと思っています。でないと、いい選手がもっと早いタイミングで離れて国を代表することができなくなる」

市場は変わり続け、各クラブは最適なマッチングを模索し続ける。

オフ・ザ・ピッチの体制を含めた組織力と個々のポテンシャルとの掛け算こそが、チーム力の値となる。その普遍に則り継続されるリーグワンは、これからどんな物語を紡ぐだろうか。

<了>

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