1998年、長野五輪が開催された年に長野で生まれた丸山希が、初めてオリンピックを強く意識したのは、女子ジャンプが採用された2014年のソチ五輪だった。2021年10月の転倒で左膝を負傷し、北京五輪の代表入りを逃したが、同大会をテレビで見て「楽しんで飛びたい」との想いが芽生えた。
(構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=REX/アフロ)
男子の中で育んだ「負けず嫌い」。基礎体力が礎に
――小さい頃から男子の中で練習を重ねてきたことが今に生きていると思うことはありますか?
丸山:負けず嫌いになれたのは、みんなのおかげかなと思います。「女子だから」とかではなく、寮生活もみんなと一緒で、朝練の後に罰ゲームでランニングがあったのですが、「車に負けちゃいけない」とか、今考えるとすごく理不尽で(笑)。それでも一生懸命やっていたのは、大学生のみんなには負けたくない気持ちが強かったからで、みんなのおかげで負けたくない気持ちが育まれたのかなと思います。
――自分の性格を分析すると「負けず嫌い」ですか?
丸山:そうですね。飽き性でもあるので、次から次に向上心を持ってやるからこそ、ジャンプの飛び方など、ひらめきが出てくるのかなと思います。
――他のスポーツに関心が向くことはなかったですか?
丸山:ないです。運動神経があまり良くないので、スキージャンプ以外のことをやると、「なんでそんなのもできないんだ?」と(北野建設スキー部の)作山(憲斗)コーチからはよく言われます。
――中学までコンバインド(スキージャンプとクロスカントリースキー の 2種目を合計して順位を競う競技)をやっていたことは、今にどう生きていますか?
丸山:中学校、高校、大学までレースには出ていましたが、1月から3月まである長いシーズンを戦い抜く上では、子どもの時に培った基礎体力が大事だったと実感します。今はシーズン中、そんなに走れないですから。小中学生の時は(クロスカントリーが)そんなに好きではなかったですが、やらせてもらっていたことが今に生きているので、感謝しかないです。
――(板の長さはBMI基準で決まるため)板が1cm長いだけで失格になる厳しい競技ですが、体重はどのようにコントロールしていますか?
丸山:体重は、増えることも減ることもないです。体重計には朝晩乗るので、その日の生活でどうにかできる許容範囲で生活するようにしています。生野菜など、自分の体調が崩れやすい食べ物を理解して、試合前は控えるようにしています。
坐禅と呼吸。「吐き切る」ことで心をリセット
――どんな舞台でも、プレッシャーは感じないタイプですか?
丸山:はい。世界選手権でも、緊張した試合は記憶にないです。ただ、2023年のプラニツァ(スロベニア)の世界選手権では、全部のジャンプで更衣室にブーツを忘れてしまって、トレーナーさんが走って持ってきてくれました。
――メンタルバランスが重要な競技ですが、スタート時にいい精神状態でいるために取り入れていることはありますか?
丸山:何年か前から坐禅を取り入れて、落ち着かない時は息を吐くようにしています。いったん、自分の中の空気を吐き切ることで、次が吸えるようになるので。落ち着けているかどうかはわかりませんが、ずっと続けてきたので、習慣として取り入れています。結果的に今ジャンプの状態もいいので、結びついている部分があるのかなと思います。
――坐禅はいつから取り入れたのですか?
丸山:最初は(2022年の)北京五輪が終わってから、ケガのリハビリ中でした。作山コーチのご友人のお寺でやっていて、チーム(北野建設)で取り入れたのがきっかけです。胡座が組めなかったので、最初は椅子に座っていました。今年は夏の期間に3回ぐらい、2~3カ月に一回は行きました。動かないようにして何も意識せず、無の状態でいるようにしています。
――そうすることで、無になれる感覚がありますか?
丸山:ジャンプを飛ぶ前に呼吸を吐き切ると、周りを何も意識せずに飛べるので、それはすごく生きていると思います。ニカ・プレブツ選手が飛んで会場が沸いた時に意識してしまい、「その時点で気持ちが負けているな」と思ってしまう時は、息を吐き出したりもします。
ソチ五輪で芽生えた舞台への憧れ
――最初にオリンピックを夢見るようになったきっかけは何でしたか?
丸山:2014年のソチ五輪で女子ジャンプ(ノーマルヒル)が正式採用されて、ナショナルチームで「ソチに向けて頑張るぞ!」とメディア公開日にやっていたのを覚えています。その時は「オリンピックって?」という感じだったのですが、実際に自分がやっている競技のトップ選手たちが向かう姿勢を見て、「私もここを目指したい」と思うようになりました。その時に葛西紀明さんがメダル(銀)を取ったので、「自分も輝かしい舞台を目指したい!」と思うきっかけになりました。
――オリンピックで印象に残る大会は?
丸山:夏のパリ五輪では、柔道の阿部詩選手の姿が印象に残っています。夢がこんなに一瞬で終わってしまうんだ……と思いましたが、その点はスキージャンプも似ているので、すごく心を打たれたシーンでした。スキージャンプでは、私は(2018年の)平昌五輪までは遠征メンバーに入っていなかったので、海外の選手はテレビでしか見ていなかったのですが、(2022年の)北京五輪では、いつものワールドカップと違ってみんなの表情が硬いのをテレビで見て「オリンピックってそんなに違うんだ」と感じました。だからこそ「楽しんで飛びたい」という強い気持ちが生まれたんだと思います。
――オリンピックで他の競技を見て刺激を受けることはありますか?
丸山:バレーボールはよく見ます。小さい頃に姉が「バレーボールをやりたい」と言った時に、父と母から「希も一緒にやりなさい」と連れて行ってもらってやっていたので、他のスポーツに比べて見る機会は多いと思います。ジャンプは個人競技ですが、チームで動きますし、チームワークも大事になるので、その点は特によく見ています。
――本番で集中するために、オフで大事にしている気持ちの整え方は?
丸山:私は趣味がなく、作山コーチにも「趣味を作れ」と散々言われていたので、昨年初めて遠征にゲーム機を持っていったのですが、全然ハマらなくて(笑)。最初の1カ月で、もう終わってもいいかな、と思ったのですが、やっていたからこそリレハンメルで勝ったので、頑張ってはみたのですが……。
初五輪で目指す金メダル。「誰かのきっかけになれたら」
――オリンピック開幕が近づきましたが、気持ちの昂りは?
丸山:(メディアも含めて)皆さんがオリンピックに向けて意識してくれるので、必然的に楽しみな感覚は高まっています。日本は男子チームも今、すごく勢いがあるので、「混合団体に出たいな」という気持ちはすごく強いです。でも、ノーマルヒルの個人戦の結果で団体戦のメンバーが決まるので、まず自分のジャンプをしなければ出場するチャンスをつかめません。ただ、あれだけみんなの調子が上がっていると「自分も出たい!」という気持ちが強くなっています。
――今大会は、女子もラージヒルが正式採用されます。そこに対する思いは?
丸山:私はノーマルヒルよりラージヒルのほうが得意なので、個人戦はラージヒルを楽しみにしていますが、どちらも私にとっては初めてなので、どちらも自分のジャンプができればなと思います。
――金メダルを現実にするために、一番大事なポイントは何だと思いますか?
丸山:自分のジャンプに集中することしかないと思います。それができれば、結果もついてくると思います。
――ワールドカップは蔵王(1/20-21)、札幌(1/24-25)と続きますが、国内でどんな準備をして2月のミラノ五輪に臨みたいですか?
丸山:まずは技術面を、慣れた蔵王と札幌で100%に近づけて臨みたいです。特に蔵王はクロスロイド(助走路が緩やかな曲線を描く)で、まったく同じではないですがイタリアの台もクロスロイドなので、そこで合わせられたらと思っています。
――オリンピックの舞台でのジャンプを通じて、次の世代にどんなメッセージを伝えたいですか?
丸山:ニカ・プレブツ選手も若い(20歳)ですし、これ以上若い選手が出てくると脅威です(笑)。ただ、スキージャンプ競技が発展していく上では大事なことだと思うので、誰かが私のジャンプをきっかけに始めてくれたら、すごくうれしいです。応援してくださる人に感謝して飛ぶことを大切にしつつ、競技を始めるきっかけになってくれたら、さらにうれしいことだと思います。
【連載前編】丸山希、ミラノ五輪に向けた現在地。スキージャンプW杯開幕3連勝を支えた“足裏”と助走の変化
<了>
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[PROFILE]
丸山希(まるやま・のぞみ)
1998年6月2日生まれ、長野県出身。ノルディックスキー・ジャンプ選手。北野建設所属。小学校4年生から本格的に競技を始め、2017年に明治大学へ進学。2018年にサマーグランプリ初出場を果たし、ロシア・チャイコフスキーで行われた男女混合団体で優勝して国際大会初の表彰台に立った。2018/19シーズンからワールドカップに本格参戦し、2019年世界選手権で初出場(個人17位、団体6位)。



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