2025年6月8日、シンガポールメディア・聯合早報は中国と米国がそれぞれレアアースと半導体を強みとした「煙なき戦争」を起こしているとする記事を掲載した。
記事は、米中間の貿易摩擦が相互関税の掛け合いから戦略物資の覇権争いへと移行しつつあり、中国はレアアースの圧倒的な供給力を、米国は先端半導体技術の支配力を互いの「アキレス腱」として利用する緊迫した構図が展開されていると紹介した。
そして、中国が支配的立場にあるレアアースについて、採掘や加工の分野で中国が圧倒的なシェアを持っており、「工業のビタミン」と呼ばれるレアアースが半導体や電気自動車(EV)、軍事分野で必要不可欠な材料であることから、その輸出規制を戦略的な対米交渉の「切り札」として十分に利用していると説明。中国側がレアアースを資源として、さらには交渉カードとしていかに重要視しているかが分かる象徴的な言葉として、トウ小平氏の「中東には石油がある、中国にはレアアースがある」という言葉を挙げた。
一方、半導体技術で優位に立つ米国は、中国のハイテク産業、特に人工知能(AI)の成長を阻止するための半導体輸出規制強化に乗り出していると解説。その影響を特に受けた企業の一つがファーウェイ(華為技術)であり、中国側は米国の措置を「発展権の剥奪」として強く反発していると伝えた。
その上で、特にレアアースを巡る対立状況について分析。5月にジュネーブでの交渉で期限付きの関税引き下げ合意がなされた矢先、トランプ米大統領が中国によるレアアースの輸出合意不履行を非難し、中国側は「米国が虚偽情報を流している」と逆非難を展開したことを挙げ、レアアースの輸出管理を巡る米中間の認識のずれが対立の根深さを浮き彫りにしたと伝えた。
また、中国がレアアース輸出を規制しても、第三国を経由した「産地ロンダリング」の可能性が指摘されており、米中のどちらがより多くの「味方」を獲得できるかがレアアースを巡る戦いの鍵を握るともみられていることを紹介した。
記事は、中国のレアアース支配が依然として揺るぎない状況で、米国は中国産レアアースからの依存脱却を目指して同盟国とのサプライチェーン強化を目指しているとする一方、レアアースの採掘・加工には高度な技術と莫大なコスト、政府主導の長期的な産業政策が必要で、中国の政府主導型産業構造と比較すると、米国が自給自足のサプライチェーンを構築するには少なくとも10年かかるとの厳しい見方も出ていることを伝えた。
そして、米中両国の対立は戦略物資を巡る国家間の深い対立であり、両国の動きは世界的なサプライチェーンの再編を促すとともに、世界的な経済の安定にも大きな影響を与えていると指摘。今後も、テクノロジーと資源を巡る大国間の駆け引きは続き、世界経済の地政学的バランスを左右する主要な焦点であり続けるだろうと評した。(編集・翻訳/川尻)