中国指導部は一部の国内企業による激しい値下げが過度な競争をあおり、経済を害しているとして、こうした「内巻」現象を防止するための取り組みを開始したとロイター通信が報じた。デフレを定着させてしまい、中国経済を安定させるのを妨げるとの懸念が高まっているためだ。

ロイター通信によると、「内巻」という言葉は2020年にインターネット上で流行し始め、当初は伝統的な成功指標を追い求める過度の競争や、しばしば自滅につながる行動を表現するのに若者が使っていた。

英語の「内巻(involution)」は「内側に巻き込む」という意味のラテン語に由来する。1960年代に米文化人類学者のクリフォード・ギアーツ氏がインドネシア・ジャワの農業研究に関連して普及させた言葉で、複雑さや労力が増しているにもかかわらず経済・文化が停滞している状態を指す。

最近の中国において「内巻」は過度の競争がもたらす消耗的で、しばしば無益、時に自滅的な苦闘を広く意味する略語となった。この概念は現在、中国が不動産主導型成長から、世界の製造業の3分の1を占める産業複合体に軸足を移したこととも結びついている。この転換は資源投入を増加させる一方で収益が伴っていない。底辺への競争だ。

中国のSNSでは「他国では政府が反競争的行為を防ぐために介入するが、ここ(中国)では競争を抑制するために介入する」というジョークが繰り返される。

問題は競争のレベルが限界に達し、収益が減少するだけでなく経済の安定を脅かしている点にある。中国政府はデフレ圧力の高まりに対応し、過剰生産能力、過度な競争、過酷な価格競争への対策を決断せざるを得なくなっている。

ロイター通信は「過度の競争により、電気自動車(EV)、太陽光パネル、リチウム電池、鉄鋼、セメント、食品配達など複数分野で企業の利益率が縮小している」と報道。世界最大の自動車市場である中国では23年、比亜迪(BYD)や米テスラを含む数十のEVブランド間で激しい価格競争が勃発し、中国当局は今年5月、EV業界に絶え間ない値下げを停止するよう命じた。

中国の太陽光発電産業も「反内巻」運動の渦中にある。天合光能(トリナ・ソーラー)の高紀凡(ガオ・ジーファン)会長が指摘したように、多大な過剰生産能力と価格競争の結果、製造バリューチェーンにおける損失が昨年400億ドル(現レートで約5兆8800億円)に達したからだ。

相変わらず政策変更に翻弄(ほんろう)されている産業もある。食品配送分野ではアリババ、京東集団(JDドットコム)、美団といったテック大手が補助金主導の「即時配送」市場のシェア争いに数十億ドルを投じている。1時間以内に配送するこのサービスは急成長しており、各社は中国の電子商取引(EC)市場全体の将来にとって不可欠な市場になるとみて賭けに出ている。(編集/日向)

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