世界的な半導体生産大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、新たに生産を開始する2ナノメートルチップ(以下、2nmチップ)をアップルに優先して供給する見通しだ。このことでアップルの競合他社が苦境に陥る可能性がある。
台湾メディアの経済日報の19日付報道によると、アップルはTSMCに対する2nmチップの予約比率を、従来TSMCの生産能力の約50%からさらに引き上げた。TSMCは2nmチップの量産を9月末までにも開始する予定だ。
アップルの2nmチップの大量確保の動きは、競合他社に対する優位性を維持するためだ。アップルはTSMCにとって最大の顧客であり、2024年はTSMCに、売上高の22%に相当する194億ドル(約2兆9000億円)をもたらした。アップルはこの膨大な調達規模により、TSMCに対して供給能力の配分での強力な交渉力を保っている。
クアルコムとメディアテックも26年末に初の2nmチップを利用する製品を投入する計画だが、アップルによる供給力の独占戦略は、これらの競合他社を供給不足の苦境に陥らせる可能性がある。
TSMCは宝山工場の2nmチップの初期段階での生産能力をすべてアップルに割り当てており、TSMCの他の顧客は高雄工場に依存することになる。この地理的な分業は、TSMCの生産体制におけるアップルの優先的地位を示している。アップルは26年に2nmチップを用いる新製品を4種類投入する計画と報じられている。アップルはこのことで、モバイルプロセッサー分野における技術面での優位性をさらに強化する見通しだ。
TSMCの初代3nmプロセス(N3B)が量産された際にも、アップルは先行者優位を確保し、競合他社は追いつくまでに丸一年を要した。
SMCはアップルによる大規模な注文と他の顧客からの生産能力への要求に対応するために2nmチップの生産能力を積極的に拡張している。これまでの推定によるとTSMCは26年に、2nmチップ用ウエハーの月産能力を10万枚にまで引き上げる計画だ。
また、TSMCのアリゾナ工場が本格稼働することで、28年には同社のウエハー月産能力が20万枚に達する見込みだ。この生産能力拡張計画は、アップルなどの大口顧客の需要に応えると同時に、顧客の多様性を維持してバランスを取ることを目的としている。すなわち、TSMCには、世界最大の半導体受託製造企業として最大の顧客であるアップルの需要を満たす一方で、特定顧客への過度な依存を避け、他の重要なパートナーとの関係を損なわないようにする必要があるとの認識があると考えられる。(翻訳・編集/如月隼人)