中国アジア発展協会の李春日氏はこのほど、8月末に北朝鮮の平壌(ピョンヤン)を訪問した際の見聞録を発表した。李氏は、北朝鮮では大きな変化が発生しているとして、スマートフォン決済や自家用車の浸透や普及、高級レストランの繁盛ぶりなどを紹介した。

李氏の文章はかなり長篇なので、主要部分を再構成してご紹介する。なお、中国では「北朝鮮」の呼称は用いられず「朝鮮」の名が使われるが、本稿では日本人読者の慣れを考えて「北朝鮮」と記した。

自家用車解禁などで大きく変わる交通事情

北朝鮮の民生の変化は私の想像を超えており、大きな衝撃を受けた。いくつかの新しい変化には思わず驚嘆の声を上げてしまったほどだ。

北朝鮮では2025年1月に、自動車の個人使用を認め、関連規則をまとめた「自家用車法」が制定された。同年2月には私有車の販売が開始され、8月までの約半年間で2000台以上が販売されたという。自家用車は1世帯当たり1台のみが購入可能で、直系家族以外への自家用車貸与は禁止されており、商業目的や他人への有償サービス提供にも使用してはならない。

平壌を訪れた際には、自家用車用黄色のナンバープレートを付けた車両が走っているのを実際に見た。以前の北朝鮮における「自家用車」とは、国際大会で金メダルを獲得した国家代表選手や労働模範、英雄模範など特別な貢献をした者に与えられる「国からの贈り物」であり、総数でも約400台程度だった。現在の北朝鮮の自家用車は、個人が購入する真の意味での自家用車だ。

総じて言えば、自家用車の解禁は一連の関連産業の勃興をもたらした。すなわち、自家用車専売店を皮切りに、運転教育機関、公証所、保険機関、ガソリンスタンド、駐車場、洗車場、修理工場、検査場、部品、車両管理機関(違反監督と料金徴収を含む)、交通安全部門などの関連産業および管理機関が次々と活況を見せている。

拡大する格差問題、国家は是正の試み

自家用車の価格は一般的に1万3000ドル(約200万円)前後だ。大部分は中国製の自動車で、電気自動車(EV)もある。

電動自転車はそれ以外の用途にも使われ、販売量は増加し続けており、全国では年間2万台ほど販売されたという。地下鉄やバスの車両にも多くの新型車両が導入されており、交通移動の問題は大きく改善されつつある。すべての高速道路の出入口には料金所が設置されており、道路状況の改善も間近に迫っている。

かつての北朝鮮では私有財産の所有が大幅に制限されていた。人々の生活状況は比較的平等で、顕著な貧富の差は存在しなかった。これこそが北朝鮮社会が強調する貧富の差や身分の上下がない社会主義の原則だった。しかし今日では、北朝鮮人の生活格差がますます鮮明になってきた。平壌で新居を割り当てられた人と割り当てられなかった人との間には大きな差がある。

平壌市民と地方住民との生活格差はさらに大きい。北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)総書記は、24年1月都市と農村の格差を縮小するために、全国を対象に「20×10地方発展」を始動した。毎年20の郡を改造し、10年以内に200の郡を改造完了するという壮大なプロジェクトだ。

広がるスマホ利用、若者はSNSを多用

北朝鮮ではここ2年ほどの間に、スマートフォンで利用する通信やメッセージ用SNSの「金達萊(キムダレ)」の機能が次々に追加されている。「金達萊」は4Gサービスであり、音声通話、文字、画像の送信が可能だが、現時点では動画の送信はできない。

特に若者は「金達萊」で連絡を取り合っており、高齢者は追いつけないでいる。

さらにスマートフォン決済も日常的に行われるようになった。国家はすべての支払い行為に「電子財布」の使用を義務付けている。高齢者は物品購入時にやや不慣れだが、「電子財布」を使わない場合、受取側が通報することができる。以前は外貨で支払う際に釣り銭のやり取りが非常に面倒で、釣り銭がないとガムなどで代用され、支払う側と受け取る側の間で不快なやり取りが発生することもあったが、電子マネーの使用によりこれらの問題はすべて解消された。ただし、不慣れのために戸惑う高齢者はいる。

増加する「驚きの価格」の高級店、主に北朝鮮人が利用

かつて、北朝鮮の高級商業施設と言えば大成(テソン)百貨店しかなかったが、今回の訪朝では、さらに高級な商業施設が次々に開業していることが分かった。店舗、レストラン、カフェ、子供向け遊園地、プール、ジムを備えていたり、ホテルを併設している施設もある。

商品価格はまさに「仰天もの」で、各商品の価格は中国と比べておおむね3~7倍ほど高い。中国製のシャツ1枚が178ドル(約2万7000円)、新型の超薄型ファーウェイ10インチノートパソコンが2300ドル(約35万円)だ。国際的な制裁の影響で、これらの物品の需要があるにもかかわらず、電化製品などは非正規ルートでしか入手できないため、価格の上昇は必然的な現象だと思われる。驚くべきことに、かなりの数の北朝鮮人がこれらの品物を購入している。

レストランはさらに驚きで、内装が高級であるだけでなく、料理の種類も豊富で、中華料理、西洋料理、日本料理、北朝鮮料理などすべてそろっている。

価格は非常に高額だ。最も印象に残ったのは楽浪愛国金剛苑という焼肉店で、黒毛牛肉10グラムが40ドル(約6000円)だった。さらに驚いたことは北朝鮮人が食事をしていたことで、外国人客はほとんど見られなかった。外国人観光客がまだ北朝鮮に自由に旅行できないためだ。
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自立自強の道歩北朝鮮、状況変われば中国経済との密接化も

今回の訪問で、躍動する北朝鮮、前進する北朝鮮、時代とともに進む北朝鮮、日進月歩の北朝鮮を目にした。現存する困難や他国に比べて遅れている生活状況を認める勇気を持ちながらも、後れを取ることを甘受せず、果敢に追いかけ、自立自強の興国の道を困難ながらも一歩一歩進んでいる。北朝鮮の明日はより素晴らしくなると信じない理由はない。

個人としては中朝関係の未来について楽観的な見方を持っている。中朝の伝統的な友好の基盤は堅固であり,友好協力の範囲は非常に広く、特に経済協力の分野では中国の要素が欠かせない。北朝鮮が掲げる自立自強の経済発展路線と、対外経済の活性化とは矛盾せず、北朝鮮の対外経済に関する法律はかなり整備されており、実行可能性も高い。大局が改善されさえすれば、中国のからの投資、技術協力、原材料の供給が北朝鮮経済の追い風になることは疑いない。(翻訳・編集/如月隼人)

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