野村総研未来創発センターフェローの梅屋真一郎氏が「人口減少社会を生きる=2100年の日本のための『プランB』」と題して日本記者クラブで記者会見し、少子化対策について「人口減少に伴う諸課題を人口維持によって解決する『プランA』の実現は極めて困難」と指摘。「人口に左右されない社会づくり『プランB』を目指すべきだ」と提言した。
「プランB」の具体的な内容として、「全世代型プラス5歳社会の実現」「自律分散型インフラによる社会インフラ変革」という二つの指標に言及し、それらの達成が「人手不足や社会インフラの維持といった将来的な地方の課題解決につながるカギとなる」と強調。「国際的にも日本が人口減少に伴う課題先進国として、存在感を示すことができる」と述べた。
2100年の人口、約5000万人に激減
国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の2024年の出生数は72万988人。出生率(合計特殊出生率)は1.15まで低下した。2100年には人口が約5000万人に激減し、65歳以上の高齢者比率も高止まると懸念されている。
梅屋氏によると、急激な人口減少によって次の3点が大きな課題となる。
1.高齢化比率が上昇し、社会保険負担が増大するとともに、労働力不足が一層強まる。
2.地方において、社会インフラやサービスの維持コスト増大に伴い維持困難となり、住民の流出や地方消滅が加速度的に進む。
3.市場や社会が「果てしない縮小と撤退」を強いられることで選択の幅が狭められ、国際的な地位が低下する。
「人口戦略会議」(三村明夫議長)はこのほど、2100年を視野に入れた長期の人口戦略などを取りまとめた提言書「人口ビジョン2100-安定的で、成長力のある『8000万人国家』へ-」を公開した。提言書では、人口減少と歯止めのかからない少子化の流れに危機感を示すとともに、三つの基本的課題として「国民の意識の共有」「若者、特に女性の最重視」「世代間の継承・連帯と『共同養育社会』づくり」の3点を提示。2100年に「8000万人国家」を目指すとし、そのために2060年までに出生率を2.07まで引き上げることを提言している。
梅屋氏は「人口ビジョン2100」には下のような疑問点があるという。
日本社会の維持のための責任のすべてを「出産可能な女性」に負わせているのではないか。
少子化が止まらなかった場合にこの国をどのように維持・成長させるかが不明確ではないか。
アジアの急速な少子化、より深刻に
米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)の予測では世界全体で急速に少子化が進む。1950年に4.7だった世界の出生率は2017年に2.4に低下した。2100年には195カ国中、出生率が人口置換水準を上回るのはアフリカサハラ以南6カ国だけになる。
主要国の出生率は2100年に向けて低下し、いずれも1.5を下回る水準となる。出生率も減少し、中国、インド、ASEANなどのアジア諸国の減少が著しい。
梅屋氏は「日本の少子化は世界に先駆けて進んでいるが、日本だけが特異的に少子化しているわけではない。他のアジア周辺国の急速な少子化の方がより深刻であり、低所得国でも少子化が進むため将来的には世界全体で移民自体が抑制・禁止され、外国人が日本に来ない可能性がある」と指摘した。
このため「日本だけが少子化を克服して出生増を達成することは難しく、特に地方においては急激な人口の縮小・希薄化のリスクが大きい」と警鐘を鳴らした。
4大都市圏と地方部の人口集積格差が拡大、インフラ持続は不可能
野村総研の試算では、4大都市圏と地方部では人口集積の差が広がり続け、地方の人口密度の低下は社会インフラの持続性にも大きく影響する。この結果、社会インフラの維持が大きな課題になり、ハード面の社会インフラコストは官民合わせて約30兆円に達するという。
梅屋氏は「世界全体の少子化を踏まえると、少子化対策で人口を維持し課題を解決する『プランA』の実現は極めて困難」と指摘。「持続可能な社会の実現に向けた『プランB』を目指すべきである」と訴えた。
梅屋氏提唱の「プランB」の概要
1.全世代型+5歳社会、実現を
人口減少と高齢化で、間もなく1人の現役世代で1人の高齢者を支える「肩車型社会」=超高扶養負担社会が到来し、担い手不足と負担増につながると恐れられてきたが、就業をあと5年延長すれば2100年までの負担度合は現状水準を維持できる。
公的年金に関しても、就業延長に伴う受給開始時期の繰り下げを選択することにより、所得代替率水準を維持することは可能。平均寿命もあと何年生きるかを示す平均余命も延伸。現在65市の人は男女ともにあと20年以上存命できる。
2.自律分散型インフラにより、人口に依存しない地方づくり推進を
関東、関西、中京、福岡の4大都市圏は従来型社会インフラを維持・ストック適正化。それ以外の地方部はインフラストック適正化と自律分散型インフラ(技術革新により人口規模に応じた伸縮性に富んだ仕組み)でインフラコストの変動費化が可能となる。既に大半が社会実装済みで、高い生活水準の維持とインフラコストの変動費化につながり、人口に依存しない地方をつくることができる。
自律分散型のインフラ関連の好事例は上下水道。WOTA社(東京都中央区)などのコンパクトな水循環技術により上下水道処理施設や配管などのインフラが不要となり、地域に水インフラを提供できる。長期にわたり持続可能なコンパクトシティーをつくることも可能になる。例えば再生エネルギー基地(日本全体で数千万トン規模のカーボンクレジット組成も)や高付加価値観光コンテンツ作りも可能になる。海外富裕層に人気の古民家や里山を活用することもできる。
3.日本は「課題解決先進国」として経験と対策の伝授を
中国、インド、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどアジア諸国の推計人口ピラミッドは2100年には少子化と高齢化が進み、日本と酷似する。課題先進国として日本の経験と打開策を伝授することができる。日本がこれら諸国と共有する場をつくって情報を伝えることが重要。ASEANやTPPの場や民間同士で、高圧的ではなく、経験や課題解決策を伝えることが重要。地域の平和と経済発展にも寄与する。
記者会見の最後に梅屋氏が示した揮毫は『未来はもっとよく変えることができる。それは人の行動次第。』。「人口減少の課題は山ほどあるが、打つ手はある。2050年ごろから社会は変わり明るくなる。変革への意思があれば未来を変えることが可能だ。2100年を、私たちの子どもや孫たちは迎えることができる。











