中国の第15回全国運動会では、開会式前の11月2日に行われた聖火リレーで、完全自律型ロボットの夸父(クアフー)がランナーを務めたことでも注目された。中国の全国運動会は日本の国民スポーツ大会(旧称:国民体育大会)と同様に、国内最大のスポーツ競技大会だが、夸父の登場は「技術とスポーツが結合」などと評された。

夸父は深セン市民センター前で人のランナーから1.6キログラムの聖火のたいまつを受け取り、リモコン操作なし、伴走者なしで蓮花山公園までの区間を走り、人のランナーにたいまつを渡した。夸父は自らの状態や周辺の状況をセンサーで感知し、通信とクラウドコンピューティングにより遠隔のコンピューターで演算処理を行い、戻ってきた情報に基づき作動する。

「具身知能(身体的機能と連動したAI)」によるロボットに高度な性能を持たせるには、クラウドコンピューティングがとりわけ有効だ。というのは、ロボット本体で作動のために必要な膨大な演算を行うのでは、演算や記憶のために大容量の装置が必要なので、消費電力の問題解決やスリムな筐体設計が困難になるからだ。また、通信による知識取得に依存できないために事前に広範な知識ベースを内蔵する必要があり、運用の柔軟性も低下する。

そして、クラウドコンピューティングを活用するには、大容量かつ低遅延で信頼性が高い通信が不可欠であり、その実現手段として5G-Aは有効かつ事実上不可欠と考えられている。5G-Aとは5G(第5世代移動通信システム)をさらに進化させた通信技術で、速度、容量、低遅延性、信頼性が大きく向上し、6Gへの橋渡しとなる方式だ。夸父も5G-Aの通信技術を利用した。そして、人型ロボットが聖火リレーで単独で完走したのは世界で初めてだった。

夸父が利用した5G−Aネットワークの運営者は中国移動(チャイナモバイル)であり、同社は対象全区間にわたり、安定して高速で中断しない5G-A通信を提供した。刻々変化する現場の状況にも対応した通信は非常に安定し、高速で、低遅延だった。この通信環境が、ロボットの動きの制御、高画質映像の送受信、遠隔からの監視をすべて同時に行えるよう支えた。

聖火リレーのネットワーク提供者として、中国移動(チャイナモバイル)は全行程にわたり安定・高速・連続的な5G−Aネットワークカバレッジを提供し、シーンに応じた高安定性・高速率・低遅延の5G−Aネットワーク体験を実現した。これにより、ロボットの動作制御、高精細映像の伝送、遠隔監視の完全な同期が確保された。

そして華為技術(ファーウェイ)は多くの5G-A関連の技術を提供し、通信事業者のネットワークの品質の向上を支援してきた。例えば、すべての周波数帯に対応したM-MIMO(多アンテナ技術)により、AIとのやり取りや電波が混雑した場所での大容量通信のニーズに対応できるようにした。また、高い周波数帯と低い周波数帯を組み合わせたアンテナ設計によって、端末周辺の電波状況に応じて電波帯域を臨機応変に使うことで、端末側では最大で5Gbpsの高速通信ができるようになった。

ロボット聖火ランナー登場、背後に中国移動やファーウェイの5G−A技術―中国メディア

さらに、広い帯域幅を一体化して扱える技術によって、100Mbps以上の通信速度を安定して提供できる基盤ネットワークが改めて構築された。このような通信環境は、AIが活用される新しいタイプのサービス、例えば人型や四足歩行のロボット、ネット接続したスマートカー、高画質のライブ配信などにおいて、大量のデータをリアルタイムで送信しながら、通信の安定性と低遅延を同時に確保するための基盤だ。

中国全国の5G−Aプラン契約者数はすでに4500万人を超え、中国移動は330以上の都市で世界最大規模の5G−A商用展開を実現している。3つの異なる周波数帯を同時扱える3CC基地局が5万カ所、比較的簡便に設置できるレッドキャップ基地局(機能縮小型5G基地局)では60万カ所が稼働しており、すべての県レベル行政区で5G-Aの利用が可能な場所が出現した。また、深セン市民センター、宝安国際空港、深南大道などの重点エリアでは、どこにいても5G−Aが使えるように整備された。今後は5G−A開通の効果が大きいと判断できる場所から順次、カバー拡大の作業が進められる。

また、具身知能の関連業務で端末・エッジサーバー・クラウドの3層協調を利用できれば、状況に応じて演算タスクを下層に分散させることで、リアルタイム性や安定性、拡張性をより高い次元で実現できる。

最近発表された5G−A具身知能び電力網への応用のデモンストレーションでは、ロボットが単独で電力施設の巡回点検を実行した。高電圧に近い危険な環境や高温といった人の労働に不向きな条件下で、ロボットはリアルタイムの温度測定や計器データの読み取り、電力キャビネットのスイッチ操作などの作業を遂行する。現在、南方電網の具身知能ロボットはフル充電後の巡回点検の場合、人の作業に比べて効率が84%向上したという。(翻訳・編集/如月隼人)

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