2025年11月20日、台湾メディア・中国時報は、台湾有事は日米両国にとっては「有事」ではなく、台湾だけが本当の「有事」になるとする、台湾の有識者が寄稿した評論記事を掲載した。

評論記事を寄稿したのは、台湾・世新大学管理学院の江岷欽(ジアン・ミンチン)院長。

江氏はまず、地縁経済学とグローバル取引主義が支配する国際政治において、大国は利益で行動し、小国は生死を賭けると論じた上で「台湾有事、すなわち美日有事」という認識は台湾自身の集団的な「慰め」にすぎず、「台湾有事、実は台湾だけ有事」という残酷な国際政治の現実から目を背けるものなのだと指摘した。

そして、ロシア・ウクライナ戦争の現状が「国際政治の素顔」だとし、ウクライナがこれほど欧米から声援を受けていながら、開戦から4年が経っても米国や北大西洋条約機構(NATO)は一向に兵士を参戦させていないという現実に言及。その上で、米トランプ政権が台湾に対して高い関税やTSMCの米国移転、「少なくとも3000億ドル(約47兆円)」の投資を要求していること、台湾が米国から購入した武器の引き渡しが遅れていることに触れ、米国は台湾を「同盟関係」ではなく、「交換可能な駒」としか見なしていないのだと論じた。

また、日本についても「台湾は日本を感情的な拠り所と考えているが、日本はこれまで台湾に安全保障上の約束をしたことがない」と指摘。日本が漁業権では台湾に全く譲歩せず、農産物市場も解放せず、貿易でも寛容さを見せないとした。さらに、高市早苗首相が「存立危機事態」と台湾問題を関連づけて中国を激怒させた件についても、石破茂前首相が「歴代日本政府は日本の有事に等しいとは明言していない」と述べ、日本の有識者からも「政策上の発言ではない」という見方が出ており、「日本の台湾支持は、結局のところ大部分は『言うことはできても実際はやらない、できることは言えることよりもはるかに少ない』だ。その時が来たら、日本は日本のために戦い、台湾のために滅びることはないのだ」と評している。

江氏は、台湾にとって戦争は「試練」ではなく「終末」であり、戦争が起きた際に血を流し、代償を払うのは永遠に台湾人だけだと断言。この現実を踏まえて「ロマン主義」を捨て、自前の抑止力を構築する、台湾を地域のサプライチェーンや安全保障体制に深く組み込んで「世界が台湾なしでは成り立たない」にする、中国本土との冷静な対話の機会を維持するという現実主義へと転換するよう提言した。(編集・翻訳/川尻)

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