トランプ米大統領は10月25日に韓国の釜山(プサン)で中国の習近平国家主席と会談した際に、米国と中国を「G2」と表現した。主要先進7カ国グループがG7と呼ばれることになぞらえて、自国と中国は世界で最も大きな影響力を持つ2国と表明したことになる。

香港メディアの亜洲週刊は21日、G2の言い方は表面上は中国が自国と対等な地位にあることを認めるものだが、実際にはトランプ米大統領の考え方には「裏」があるとして、中国はG2という魅惑ある考え方を受け入れるべきでないとする論説を発表した。

トランプ大統領は、2026年には米中指導者の相互訪問を実現したいとの考えを示し、「G2会議は両国にとって偉大なものであり、永遠の平和と成功をもたらすだろう」と述べた。

「G2」という考え方は新しいものではない。09年には英国人歴史学者のニーアル・ファーガソンが「チャイナメリカ」の概念を提起し、米中の経済は相互依存しており、両国が共同で世界を主導すべきだとの考えを示した。この構想はオバマ大統領の時代に、米中の上層部の対話の中でほのかに現れたが、米国の対中抑制政策によって現実のものにはならなかった。

トランプ大統領のG2の提案は、表面上は中国の台頭をはっきりと認めるものだが、実際には戦略調整の産物だ。すなわち、米国はロシアとウクライナ戦争の膠着と中東情勢の動揺によって、世界における「多面作戦」の難しさを再認識したからこその発想だ。

まず、トランプ大統領の戦略は「中国を取り込みロシアを制する」で、ロシアの地政学的影響力を削ぎ、同時にEUを孤立させて、世界を主導する米国の発言権を確保しようとするものだ。

さらに注目すべきは、米国が「台湾問題は中米が戦争するに値しない」との考えを示し始め、中国に貿易や地政学での協力を引き出すために台海緊張の緩和を試みていることだ。米国のこの姿勢は中国にとってチャンスであると同時に罠(わな)でもある。というのは、中国の真の目標は米国と戦争をすることではなく、国民の満足感を高めることだからだ。

中国は16年が開始年である第15次5カ年計画に、30年までに全国の1人当たりGDPを2万5000ドル(約390万円)にすることを明記する予定だ。

この金額は、現在の米国の1人当たりGDPの約9万ドル(約1400万円)の約30%だ。さらにこの数字は、中国が年平均約5%の経済成長を維持し、都市と農村の格差や、30年に3億8000万人に達すると予測される高齢化の危機、環境汚染とカーボンニュートラルへの圧力といった内部課題を解決する必要があることを意味する。

これらの目標は、G2という空虚な栄誉よりもはるかに実際的だ。中国のこれまでの成功事例としては、20年までに8億人を絶対的貧困から脱却させた貧困撲滅や、高速鉄道総延長が世界の70%の4万5000キロに達した高速鉄道網の建設がある。これらは、中国にとって内部統治の着実な推進こそが国力向上の根本であることを証明している。

中国は近年、科学技術と国内統治において飛躍的な進歩を遂げた。過去5、6年で中国は多くの分野で飛躍を実現し、分野によっては米国を超えた。このことが、トランプ大統領が「中国と協力」に舵を転じる要因になった。

また、中国の軍事現代化は日進月歩だ。中国海軍の電磁カタパルトを備えた空母の「福建」は、中国がトップクラスの海軍強国に躍進したことを示している。中国のJ-20戦闘機のシステム作戦能力は、無人機と人工知能(AI)指揮システムを組み合わせ、デジタルシミュレーションによる対抗戦で優位を示した。25年5月に発生したインドとパキスタンの空戦では、パキスタン側が中国のシステム戦法を用いてフランス製でインドの最新鋭戦闘機であるラファールを撃墜して、米国を驚愕させた。

中国はAIの応用で世界をリードしている。24年にはAI関連の市場規模が1000億ドル(約16兆円)を超え、世界の20%を占めた。中国のAIは経済と国内統治に深く融合している。これに比べ、米国はAIの基礎研究では先行しているが、応用の普及では大きく後れを取っている。

中国はさらに、世界の70%のレアアース供給を掌握している。これらの重要鉱物は半導体、電気自動車、軍事装備の製造に不可欠だ。米国は国内供給網の再建を試みているが、短期的には中国を代替することは難しい。

中国はまた、米国大豆の最大の買い手であり、24年の輸入実績は約150億ドル(約2兆3000億円)だった。中国は貿易交渉での切り札を握っていることになる。

中国は虚栄によってG2の概念を受け入れれば、「早すぎる世界の指導責任」を負わせられる可能性がある。国際社会での米国の覇権は、全世界に800カ所ある米軍基地と、国際決済の60%を占める米ドルに依存している。中国には150カ国が参加して投資総額が1兆3000億ドル(約200兆円)の「一帯一路」があるが、人民元の国際化では世界決済の3.17%にすぎず、ドルを代替する力には遠く及ばない。

トランプ大統領のG2の提唱は「糖衣をまとった弾丸」であり「褒め殺し」の作戦だ。すなわち中国の地位を高めることで資源を分散させ、内部改革への集中力を削ぐよう誘導するものだ。中国はその策略に乗らぬよう、冷静な認識を保たねばならない。(翻訳・編集/如月隼人)

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