「台湾有事」に関する高市首相の国会答弁への中国の猛反発が続く。中国は国連憲章の「敵国条項」にも言及し、自らの主張の正当性を国際社会に訴える情報戦を展開している。
「歴史カード」で対日攻撃強化
中国はたびたび日本の軍国主義など過去の歴史を取り上げ、激しい対日批判を繰り広げている。中国の国連代表部がグテーレス国連事務総長に出した書簡では高市首相の台湾有事に関する発言について「日本は1945年の敗戦以来、初めて台湾問題に関し武力介入の野心を見せた」とし、「これは第2次大戦後の国際秩序を著しく損なうもので、日本は第2次大戦の敗戦国として歴史の罪を深く反省すべきだ」と非難。習近平国家主席がトランプ米大統領と電話会談した際にも、同主席は「中国への台湾復帰は戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」と訴えた。
中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」(英語版)も専門家らの意見を引用しながら「日本は第2次大戦の侵略の歴史に対する反省が欠如している」と主張、日本が「戦後の国際秩序と国際法の基本的原則に公然と挑戦している」と糾弾するなど、中国は「歴史カード」も使って日本への攻撃を一段とエスカレートさせる構えだ。
在日中国大使館が日本に警告
現在の日中対立の発端は「高市発言」のはずだが、「中国はかつての日本の軍国主義の問題にすり替えようとしている」と日本の中国問題専門家は言う。
在日中国大使館は国連の「敵国条項」を理由に中国が日本に対する武力行使が可能であると警告を発した。この「敵国条項」とは1945年の国連創設のメンバー国である米国、英国、フランス、中国(当時は中華民国)およびロシア(当時はソ連)の5カ国は第2次世界大戦で敗れた旧枢軸国が戦後の国際秩序に反するような行動に出た場合、安全保障理事国の許可がなくとも武力行使ができるとみなされる国連憲章の規定だ。もう少し詳しく説明すると、国連憲章で「敵国条項」に触れているのは「旧敵国に対する措置は安保理の許可が不要」解釈される第53条1項。第77条1項(C)では信託統治が敵国から分離される地域に置かれると明記。さらに107条では第2次大戦の戦勝国が敵国を占領することなどを国連が事実上認める旨述べている。正確にはこれらすべてが「敵国条項」となるが、日中関係で最も重要なのは53条1項であることは言うまでもない。
「敵国条項」死文化は国際的常識
国連憲章を研究している専門家はこの条項について、日本が中国にとって都合の悪い動きに出れば、中国は独自の判断で日本に対し武力行使できると解釈され得ると指摘する。少なくとも、中国はそう主張しているという。
だが「敵国条項」は今や死文化し、意味を持たないというのが国連のみならず、国際的常識となっていると言っていい。日本の外務省は「敵国条項」は時代遅れで死文化したとして何度もその削除を要求してきた。
中国が国連舞台に情報戦展開
死文化したとはいえ、なお中国が「敵国条項」を持ち出すのは国連憲章から正式に削除されていないからだ。正式に削除するには国連憲章の改正が不可欠。そのためには総会を構成する国の3分の2の多数で採択され、かつ、安保理の5常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准されなければならない。とりわけ、中国が安保理常任理事国であることを考えれば憲章改正のハードルは極めて高いと言わざるを得ない。中国としても「敵国条項」が死文化していることは百も承知だろう。
それでも、中国が「敵国条項」に意図的に言及する狙いは何か。中国の国連大使がグテーレス事務総長にあてた書簡を国連総会の正式文書として全加盟国に配布すると述べた点が注目される。中国専門家の間では、高市発言を台湾問題に関する自分たちの主張の正当性を国際社会に訴える絶好の材料ととらえ、国連を舞台に情報戦を展開しようとしているとみる意見が有力。国連本部の高官も「中国は国連の権威を巧みに利用し、国際社会における日本の地位を低下させようとしているのだろう」と推測する。











