中国が自衛隊制服組トップの統合幕僚長を務め、現在は台湾の行政院(内閣)政務顧問に就く岩崎茂氏(72)に制裁を科す、と発表した。台湾側は「他国国民へ国境を越えた押さえつけや干渉」などと反発。

高市早苗首相の「台湾有事」をめぐる発言で関係が険悪化している日中間の新たな火種になりそうだ。

岩崎氏は1975年に防衛大を卒業して航空自衛隊に入隊。職種は戦闘機のパイロットだった。その後、2010年12月に第31代航空幕僚長、12年1月には第4代 統合幕僚長にそれぞれ就任。14年まで沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化を機に中国側が高めた軍事的緊張に制服組トップとして対処した。今年3月、行政院政策顧問になった。

その時点で中国側は表立って反応していなかったが、国営新華社通信などによると、外交部は15日、「公然と『台湾独立』勢力と結託し、中国の主権と領土の一体性に重大な損害を与えた」などとして、岩崎氏に対し入国禁止や中国国内の団体や個人との交流、取引禁止などの制裁を科す、と発表した。「反外国制裁法」に基づく措置で、即日実施した。

外交部の郭嘉昆報道官は記者会見で「(政務顧問就任に対し)何度も日本側に強く抗議した」と説明。しかし、岩崎氏は悔い改めるどころか、台湾側と結託して中国を挑発したことから、「懲罰を加えた」と主張した。中国は9月にも中国出身の石平参院議員(日本維新の会)が「台湾や釣魚島、歴史問題などで誤った言論を拡散し、公然と靖国神社を参拝した」として、同様の制裁を科した。

台湾・中央通信社によると、外交部の蕭光偉報道官は15日、報道資料を通じ「中華民国台湾と中華人民共和国が互いに隷属しないことは国際社会が普遍的に理解している客観的現状だ」と指摘。

岩崎氏について「地域の安全保障と平和に関して長年尽力し、個人の専門性による関与は国際慣習に合致している上に、いかなる他国への内政干渉にも当たらない」と反論した。

木原稔官房長官も15日の記者会見で、「中国側が自らと異なる立場や考え方を威圧するかのような、一方的措置を日本国民に対して取ることは遺憾」だと述べ、制裁を問題視した。

日本の元軍人が台湾に協力するのは初めてではない。中華民国の蔣介石総統の要請により、1949年から69年まで旧日本軍将校を中心とする軍事顧問団が「白団(パイダン)」と名乗って秘密裏に支援。台湾軍に旧日本軍式の教育訓練を行い、戦術論や戦略論を指導したことがある。(編集/日向)

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