米国のシンクタンクであるシカゴグローバル事務評議会と人権問題を扱う非営利組織のカーターセンターは18日付で、2024年4月25日から6月16日にかけて中国大陸部の住民を対象に行った電話による世論調査の結果についてのリポートを発表した。調査では、中国大陸部住民の91%が「台湾は中国の友と見なす」と回答した。

一方で、他国人に対する評価は低く、例えば日本については81%が、米国については83%が「敵対的」と回答した。なお、同調査が実施された時期には、日中関係が比較的良好だった。

調査実務を実行したのはシカゴ大学系の国際的な世論調査機関であるNORCで、乱数方式で選んだ電話番号に基づいて中国語話者による聞き取りを実施した。対象は中国大陸部の住民で、教育水準、年齢層、居住地を横断して中国人口全体を統計的に妥当な形で推定できるように設計された。

中国の近隣国を中心に名を挙げて中国に対する姿勢を尋ねたところ、回答者の多くが中国にとって近隣諸国は敵対的と回答した。「敵対的」と回答した人は、インドの場合は62%、フィリピンでは61%、韓国では63%で、特に高かったのは日本に対しての81%と米国に対しての83%だった。しかし台湾については91%が「友」と見なすことが分かった。

一方で、台湾政権について「中国の友」と見なしている人は44%にとどまった。台湾人に対する評価と台湾当局に対する評価は大きく異なったが、リポートは、「台湾の頼清徳総統は、台湾の主権を重視する民主進歩党の出身であり、中国政府が『分離主義者』と規定した政治家」であることを考えれば、中国大陸部住民の台湾当局に対する評価は驚くほど高いとの見方を示した。

リポートは、中国の大衆の台湾に対する暖かい見方は、中国政府による台湾統一に関してナショナリズムの共鳴を呼び起こそうとする取り組みが、大衆に容易には伝わっていない可能性があることを示唆していると評した。

リポートはまた、中国の大衆の台湾に対する「暖かい」見方が、中国の指導部の台湾政策に強い影響力を与えているとの見方を示した。そのためには中国の大衆が台湾に対して「冷たい見方」を持っていたら、どのような事態になるかを想像すればよいという。

すなわち中国の民衆が台湾に対して、「日本や米国と同じくらい否定的な見方をしており、武力行使による台湾統一を強く支持し、潜在的なコストを懸念していない」としたらどうなるかを考えてみる。そうなれば、中国の指導者は台湾問題を軍事的に開始せよという、民衆からの「突き上げ」を受ける可能性すらあり、そこまでいかなくても、中国の指導者は台湾に対しての軍事力の行使について「フリーハンド」になってしまう。

リポートはさらに、中国の大衆が「自国は強大だ」と考えていることが、台湾の武力統一を志向しない、もう一つの理由との見方を示した。まず回答者の97%が全体として世界の中でも強い国と考えており、95%は5年以内にその地位を確固たるものにするとの見方を示した。また、57%は、台湾をめぐる米国との軍事衝突が、中国にとっての「主要な脅威」と回答した。

一方で、「中国は軍事面で米国より強い」と回答した人は31%で、「同等だ」は39%、「米国よりも弱い」は29%だった。中国の指導者であれ、一般大衆であれ、今後は中国の実力が米国を上回っていくと考えるならば、台湾問題に絡んで現在、あるいは近い将来に米国と軍事衝突を起こすことは、「ばくち」ということになる。

リポートは、中国大陸と台湾で軍事衝突が発生した場合には、米国と太平洋地域の米国の同盟国に拡大する可能性があり、その場合にはあらゆる側が大きな損害を受けると指摘した。そして中国にとっては、米国とその同盟国によって厳しい経済制裁を課され中国と国際市場を結ぶ重要な航路が大きな混乱に陥る可能性があると指摘。その場合には、中国人の家計に及ぶ経済面の影響は深刻なものになり、政府への信頼だけでなく、中国指導部にとっての極めて重要な因子である社会の安定にも影響が及ぶ可能性があると主張した。

米中関係については回答者の61%が「適切な場合には友好的な協力、場合によっては米国のパワーの制限を模索するバランスの取れたアプローチを追求すべき」と回答した。また、「中国政府にとって最も重要なことは、世界の貿易や技術におけるリーダーシップ以上に、世界の平和と安全において積極的な役割を果たすこと」との現実的な考えを示す人が大多数だった。

リポートは、「中国の大衆は経済についての自国の未来には高い期待を抱いている。この傾向は、中国の指導層とって、台湾をめぐる衝突を回避して、代わりに明らかにそれを期待している大衆のために経済成長と繁栄を提供し続けることに精力を集中させる動機になるはずだ」と主張した。

リポートは、現実には「中国の大衆は現状におおむね満足しており、中台間の相違を解決するための燃えるような緊急性ある兆候を示しておらず、代替案よりも非暴力的な解決を好む傾向にある」ことを調査結果は示していると評した。(翻訳・編集/如月隼人)

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