ベトナム華字メディアの越南中文網は、海外で生活するベトナム人労働者が、生活と実家への送金による経済面の苦境のために心を病む例が多いと紹介する記事を発表した。実例として紹介したのは台湾で働くベトナム人だが、ベトナム人が最も多く就労する外国は日本という。

クオンさんは30歳の時に故郷のベトナムのタイグエン省を離れ、台湾に行き工場労働者になった。クオンさんは妻に「数年働けば、金を貯めて新しい家を建てられるし、子供をしっかり学校に通わせられる」と約束した。だが現実は、想像よりもはるかに厳しかった。

毎日早朝5時に起床して、込み合う通勤用バスに押し込まれる。深夜になってようやく宿舎に戻る。給料はまずまずだが、家賃、食費、薬代など各種の細々とした出費が収入のほぼすべてを飲み込んでしまう。残ったわずかな金は実家に送る。細かく計算することを毎月繰り返す。少しでも送金が少ないと妻子が困窮に陥るのではないかと恐れている。

最初は「あと少し辛抱すればよくなる」と自分に言い聞かせていた。しかし次第に、家からかかってくる電話の内容は金銭絡みのものばかりになっていった。出国労働の仲介手数料の返済、子供の学費、老いた母親の薬代、豪雨の後の家の修繕費――。

クオンさんは家族に疲れを訴えることもできず、自分がもう持ちこたえられそうにないとも言い出せない。
日本などでのベトナム人労働者、重圧に苦しみ心は荒れ果て―ベトナムメディア

経済面の圧力は振り払うことのできない悪夢となった。毎晩、数字の渦に驚き目覚める。怒りっぽくなり、友人を避け、家に電話をすることさえ怖れるようになった。食事は投げやりになり、日増しに痩せ細った。「自分は無用の存在だ」という気持ちに満たされ、しばしば消極的な考えが浮かぶ。

クオンさんはベトナム首都のハノイにあるフォンドン総合病院(東方総合病院)のオンライン問診を受けることにした。臨床心理を専門とする同病院のホアン・クオック・ラン医師は数回の問診を経て、クオンさんが不安障害と抑鬱(よくうつ)症を患っていると診断し、薬物治療と心理カウンセリングの併用が必要と説明した。

ホアン医師は以前にも、ドイツで働き同様の状態に陥った32歳のベトナム人を診察したことがある。ホアン医師は、海外労働者は「財務枯渇症候群」とでも名付けることができる症状の高リスク群と説明した。心理面や生活面での圧力が絡み合うことでストレス状態が続き、最終的に抑鬱へと発展するという。

国際労働機関(ILO)によれば、移民労働者が不安や抑鬱を患うリスクは現地出身の労働者より顕著に高い。

長期にわたり経済面の重圧にさらされ、かつ心理的サポートを欠いている場合にその傾向が特に強い。

2024年の統計によれば、15万8000人以上のベトナム人が海外で就労しており、行き先として最も多いのは日本だ。一般的な月収は約18万円で、通年の海外送金は累計35-40億ドル(5500億-6200億円)に達すると推定される。日本行きは「富を急速に蓄積するための黄金ルート」と見なされているという。(翻訳・編集/如月隼人)

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