清華大学大学院博士課程に在籍中で、これまで長年にわたり政府系シンクタンクや経営コンサルタントなどの仕事をしてきた、台湾出身のマーク・リン氏はこのほど、中国大陸で「死了麼(死んだのか)」という名のアプリがヒットしたことを切り口に、中国では「孤独経済」の拡大が進行中と解説する文章を台湾メディアの換日線などを通じて発表した。以下は、その主要部分を再構成した文章だ。
「死了麼」に複雑な要素は何もない。ユーザーが毎日、手動でアプリを確認したことを入力するだけだ。入力が48時間にわたり何もなければ、アプリは指定された緊急連絡先に、自動でメールを送信する。実用性が低く、原始的でもあり、一方で荒唐無稽さが漂うこのアプリは、発表後わずか数日で口コミを通して大量の有料ユーザーを獲得し、アップル社が運営するアップ・ストア(App Store)の有料ソフトランキングの第1位も獲得した。この現象を単なる「好奇心」や「アクセス数稼ぎ」として理解するならば、それが映し出している社会の現実を過小評価することになりかねない。
筆者は、「死了麼」がユーザーの心に触れたのは、死そのものへの恐怖ではなく、「もし自分が消えたら、誰かが気づいてくれるだろうか」という問いに対する深い不安であると考える。「死了麼」アプリが引き起こした波紋は、当然ながら中国の監視当局の関心も引いている。このアプリ自体があとどれくらい「生きられる」のか。それは時間が証明するのを待つほかない(「死了麼」および同様のアプリは1月15日までに、オンラインストアから削除されたと報じられた)。
「死了麼」の爆発的ヒットは、技術的な突破口によるものではなく、制度と生活の間のグレーゾーンに的確に入り込んだことによる。多くの若者が金銭を投じてまで「死了麼」を入手したのは、社会はまだ直視していないが、個人がすでに感知しているリスク、すなわち都市の独居生活における「不可視性」を補ったからだ。
中国の都市部にすむ若者は転職の多さ、希薄な人間関係、離れて住む家族のサポートが得られないことなどの現実に直面している。
結婚しなかった若者も、やがて高齢になる。その時に直面する問題は、医療や介護などについて、家族の支援を得られないことだ。中国当局は近年、「結婚と出産や育児、家庭の安定、人口構造の調整」の重要性を強調し続けている。その一方で、中央政府も地方政府もスマート介護、感情を認識できるAI、シルバー経済、付き添いサービスなどを積極的に発展させようとしている。
中国当局は孤独の問題が存在することについて見て見ぬふりをしつつ、同時にそれを制度としての対応が必要な社会構造の変化ではなく、産業のチャンスとして捉えているのだ。いわゆる「孤独経済」が産業アップグレードや技術革新としてパッケージ化できる限り、それは受け入れられ、さらには普及する。対照的に、もし誰かが高齢化や離散化社会における諸問題を直視し、政府に関連の改革を要求すれば、既存の価値観を揺るがすものとして、厳しく抑圧される可能性がある。
そして、中国は決して「孤独経済」の特例ではなく、むしろ拡大鏡のような存在だ。視点を東アジアに戻せば、日本、韓国、台湾は、超高齢社会や非婚化や少子化といったトレンドの挟み撃ちの中で、すでに同様のプロセスを経験している。
日本の「個食産業」や独居高齢者向けサービス、韓国のバーチャルコンパニオンや「感情サブスクリプション制」など、これら新産業の商機の共通点は、テクノロジーや消費の形で、社会的な繋がりの緩みに対応している点にある。台湾も例外ではない。単身世帯の割合が大幅に上昇し、晩婚や非婚が常態化し、独居世帯数が年々増加しているにもかかわらず、政策面ではいまだに、「個人」を核とした長期的な社会支援の設計が欠けている。中国の特殊性はただ、変化がより速く、規模がより大きく、より若い世代に集中している点にある。
この角度から見れば、「死了麼」の流行は、おそらく「中国限定」の社会的な奇聞ではなく、むしろ日本、韓国、台湾、さらには東アジアの多くの国々の社会構造的な変化と、それに伴う経済財務、医療介護、心理的サポートなど各方面にわたる人々が突き付けられた課題を写す鏡のようなものと言えるだろう。
真に考えるべきことは、将来の安心感が制度による保障ではなく、市場化されたサービスからより多く得られるようになることを、すでに暗黙のうちに認めてしまっているのではないか、ということだ。リスクが個人化、商品化されるとき、社会は無意識のうちに一歩後退しているのではないだろうか。
「孤独」がノックをして警告してくれることはない。それは常に、知らず知らずのうちに日常生活に入り込んでくる。おそらくある日、自分が「少なくとも誰かが私の生存を知っている」というサービスに対価を支払ってもよいと感じたとき、「孤独」がすでに静かにやって来ていると気づくことになる。(翻訳・編集/如月隼人)











